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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

おばちゃんの勘

※沖田神楽間のやりとりはありません。そして知らないおばちゃんが出てきます。








「すいやせーん、豆腐ハンバーグ定食で」
「はいよ、すぐできるからね」


 午後三時ジャスト。屯所の中にある広い食堂も、時計の針が三を示すような今頃にはガラリとしている。
 カウンターに肘をかけ、お盆を持って並んでいるのは一番隊隊長もとい沖田。並んでいると言っても、待っている人間などその場に一人もいない。そしてこのような時間帯であるがゆえ、厨房の中も年配の女性一人だけであった。
 この後の仕事の予定を脳内で反芻しつつ、手持ち無沙汰の沖田はふと、セルフサービスの棚に並べられた調味料に手を伸ばす。約一名の中毒者がいるせいかマヨネーズだけはいつも必ず満タンで準備されている。しかし、沖田が若干使おうと思っていたその調味料は空であった。


「おばちゃーん、七味切れてまさァ」
「あらそうー?じゃぁ新しいの出すからちょっと待ってねぇ」


 先程から姿が見えず、明るく軽快な声だけが厨房の奥から食堂内に響いてくる。聞き慣れたその声に沖田はフッと笑うと、七味の小瓶を指でいじりなからしばし待っていた。
 程なくしてカウンターへやってきたのは、白い割烹着で頭に白三角巾を巻いた、ややふくよかな女性だった。
 彼女は真選組結成後、この食堂ができた当初から隊士に食事を提供してきたベテラン従業員である。ニコニコとしながら定食の器を次々に沖田のお盆の上に乗せていく。そして満タンの七味唐辛子も添えた。


「はい、新しいの」
「サンキュ」
「サンキュじゃなくてありがとうがいいわ」
「どっちでも一緒じゃねぇですかィ」
「年配にはありがとうの方が伝わるのよ。はい、これで全部ね」
「どーも……あざっす」


 口うるさいなぁと呆れつつ、沖田は盆を持ち運ぶ。ガラガラでどこにでも座れるテーブル席の真ん中を悠々と陣取った。
 木製の椅子に腰を落とすと、テーブルの上にある割り箸を取り、無言で食べ始めようとする。が、ふと気づく。コップに水を入れるのを忘れていた。これもセルフサービス。沖田が再び椅子から立ち上がろうとしたとき、後ろから手が伸びてきた。


「はい、どうぞ」
「ああ、すいやせん」


 先程の女性が水のすでに入ったコップを沖田の盆の横にコトリと置いた。しかし女性の手にはもうひとつのコップが。それを手にしたまま、よっこいしょ、と沖田の席の斜め前に腰掛けた。
 沖田は驚くこともなく、いつものペースで定食に箸を付け始めた。


「いただきやーす」


 食事前の挨拶もしておかないと。口うるさく言われるのはかなわない。沖田はややわざとらしく挨拶してから、第一口目を口の中に運んだ。
 女性は、あのさぁ沖田くん…と、いつもの調子で小言をもらそうとする。


「なんスか。いただきますは言いましたよ?」
「そうじゃないよ。沖田くんさ、毎日こんな変な時間にばっかりごはん食べてちゃダメじゃない。いつか体壊すよ?」
「ちゃんと一日三食はとってるんで。そんくらいで壊れるほど柔じゃねぇですよ」


 沖田はハンバーグに手をつけつつ、小さくそれを箸で切ると口に運び咀嚼する。これをややゆっくり繰り返していた。
 女性は水を一口飲むと、でもさ……と続けた。


「ほんとに毎日この時間に来るじゃない?お勤めの日は多少仕方ないのかもしれないけど。せめて非番の日とかにはまともな時間に食べに来たらどうだい?」
「そりゃあれですよ。俺はわざとこの時間狙って来てんです」
「あら、どうして?」
「大した理由じゃねぇです。野郎共でごった返す時間帯を避けたいってだけでさァ」


 真選組専用で他に利用者がいないとはいえ、午後零時前後は腹を空かせた隊士たちであふれるこの食堂。
 午後一時を過ぎればちらほらと空席もできるが、今度はご飯時に勤務していた隊士がちらほらとやってくるためそこそこ賑わう。
 そんなピークの時間帯には、厨房も複数人がスタンバイしている。そのため手際よく料理が流れていく。しかしその従業員たちは皆だいたい午後三時前には休憩に入ってしまうのである。

 いつも午後三時頃にひょっこりやってくる沖田。
 午後三時頃にシフトが固定されているこの女性。
 二人は必然的に話す機会が多かった。毎回ではないが、この女性はときたまこうして、沖田の斜め向かいに座り他愛のない話をするのである。


「近藤さんなんか、最近必ず誰かしら引き連れてここへ来るわよ。そんでいつもガハハハ笑って食べてる。なんかあんたとは正反対だねぇ」
「そりゃ近藤さんですから。正反対に決まってますよ。俺は一人で黙々と食いたい派なんです」
「流行りのぼっち飯かい?まぁそれも悪かないけど。……でもたまには人と食事するのもいいもんだよ」
「……まぁ、そうですねィ。あんたとこうやって話してるのも悪かねぇです」
「あら、よかった。鬱陶しがられてなくって」


 フフフと笑う女性。目尻にシワを作りくしゃりとしたその笑顔に、和まされるような思いもする。見た目や年齢は似ても似つかないものだが、どこか姉と一緒にごはんを食べていたときのような、懐かしい感じもしていた。
 そして何より、ここで食べる米も味噌も豆腐ハンバーグも、旨かった。
 これらを自分のペースで時にはゆっくり、時にはさっさと口に運んで味わう時間。少しだけ仕事から解放されると共に胃袋が満たされていく感覚が、沖田は心地よかった。それは束の間の休息であった。


「そうですね……俺ァたぶん、飯の時に仕事の話すんのが嫌な性格なんです。あんたなら別に仕事がどうだこうだなんて話さなくていいんで、気が楽なのかもしれやせん」
「そりゃお役に立てて良かったわ。けどそれはお互い様かもね。……食堂なんて子育てが終わった同性同世代の者ばかりでねぇ。息も詰まっちゃうし。たまにはこうして、異性の若い世代の子と話したくなるもんさ」
「おっと。食われないうちに俺は退散しようかねィ」
「何言ってんだい。あんたみたいなガキに発情するほどおばさんは元気じゃないよ」
「なら安心しやした」


 冗談を交えつつ、沖田はまた少しずつ箸をつけ口に運ぶ。七味も少し使用し、皿・茶碗のほぼ半分がなくなっている状態だった。
 女性は少しだけ沖田の箸の進み具合を気にかけつつも、話を続けた。


「……あんたは私の息子よりもさらにもう一回り若いくらいかね。肌も綺麗だし。若いっての羨ましい限りよ」
「言っときますけど、これでも中味は無駄に年くってますよ」
「ハハ、そりゃ言えてる。さっきから私は仕事疲れのおじさんと話してるような気分だわ」
「周りが年上ばっかりでしたから。背伸びしてねぇとやってられなかったんです」
「ま、あんた年下の友達なんていなさそうだしね」
「作る機会もありゃしやせんよ」


 沖田は箸を皿の端に置いていた。まだ皿の中味は半分ほど残ったまま片付いていなかった。
 それをちらりと見て、女性は沖田に尋ねた。


「……じゃああんた、年下の好きな子でもできたかい?」


 その言葉に、え?と少しだけ、けれど明らかに沖田は表情を変えた。
 女性は図星だね?と面白がるように沖田をまっすぐ見た。その目は先程までとは違い少しだけクリクリとしていた。


「いきなり何ですかィ」
「あんた最近食事の量減っただろ。脂っこいもんも食べないし。ほら、こんな豆腐でできた肉すら残しちまうようになって……」


 別にお残しは許しまへんとは言わないけど?と、女性は水をまた口に含みつつ言った。
 女性の言葉を聞いて慌ててまた箸をとった沖田。ムッとした顔で皿の上へ視線を落とす。だがやはり、箸はそれ以上進まなかった。箸の先を皿に着地させつつ、ため息がこぼれた。


「すいやせん、最近残してばっかで」
「いいよ。そこはどこぞの忍者アニメのおばさんみたいなこた言わないさ。
 ……けど、最近のあんた見てるとお残しよりもその原因が知りたくってねぇ」


 再び箸を置いた沖田はばつが悪そうな顔をしていた。


「……なんでィ、たったそんくらいのことで原因もなにも」
「おばさんの長年養われた目をなめちゃダメだよ。体調不良や夏バテなんかじゃない。今のあんたは、食欲以外のもので胸が一杯な証拠さ」


 沖田は自身の食事の変化について多少自覚していた。腹の虫は確実に鳴る。だが、どうも前ほどの食欲が沸き上がらないのだ。
 体調管理について某上司からとやかく言われるのは癪なので、一日三回に分けきっちり摂取はしている。ただ、その一回分の量がここ数週間で明らかに減っていた。
 これでも普段の見廻りやら内勤やらの楽な公務は全く問題なくこなせる。しかし、いつ舞い込むかわからない、抜刀を伴う仕事が入るとき、こんな体で大丈夫なのだろうか。そんな不安は、ここ最近の沖田の最たる懸念事項であった。

 別に体の具合が悪いわけでもない。少し胸が詰まるような思いがする。それだけだ。
 だが、この女性いわく、¨好きな子¨ができたせいでお前はそうなのだという。

 沖田には心当たりが…………ないわけではなかった。
 だからこそ、驚いてしまった。


「な、それでどうなんだい?」


 それでも、女性の言葉に手放しで同意する気持ちにはなれずにいた。


「……年下の知り合いはたしかにいやす。けど、別に好きだのなんだのじゃねぇです」


 そう言っている今ですら、その顔を思い浮かべるだけで。また胸詰まりがした。まだ皿に残るハンバーグを入れ込む余裕は残っていなかった。
 そんな沖田を見て、そっか……と笑いまじりのため息をついた女性。


「素直じゃないねぇあんたも。けどこれだから男の子ってのは。お母さん可愛がりたくなっちゃうんだよね」
「いつから俺のお袋になったんですか」
「そりゃ、ちょうど息子が結婚して私がここに勤め始めたときから、ここの人たちの母になったようなもんさ」
「左様で。そりゃあんたが寂しくて俺にあらぬ疑いかけてくんのも仕方ねぇですわ」
「で、知り合いのその子はあんたの将来の結婚相手かい?」
「おい人の話聞けよ」


 沖田と話しながらも立ち上がり、カウンターの方へ歩いていった女性。再び戻ってきた手には湯飲みと急須を乗せたお盆。そして沖田がなにも言わない間に、湯気のたつお茶を注ぎ、沖田の前へ差し出した。あざっすと沖田は小声で返しつつ、なおムスッとした顔のままであった。


「そんな怖い顔しなさんな」
「……あんたら女ってほんとそうゆう話好きだよな」
「否定はしないよ。女は年食ってもいつまでも女なのさ。自分が無理なら無理で、周りの人の惚れた腫れたを応援したくなっちまうもんさ」


 沖田は煎茶を口に含みつつ。はぁ……とため息をついた。
 胸が、胃が、ぐるぐるとする。大袈裟に飲み込んだ煎茶と入れ替わりに、ぽろりとこぼれるような声が口からもれた。


「……ガキのとき、ぬいぐるみって持ってやしたか?」


 突然振られた話に、はて?と疑問符を頭に浮かべつつも、女性は答えた。


「そりゃ若いときはね。ウサギのモフモフとしたやつだったかな。毎日持ち歩いたり、ままごとで遊んだりしたもんさ」


 懐かしいねぇ…と、女性も自らの湯飲みを手にしつつ回想に耽っていた。
 沖田は片手で頬杖をつき、女性に正面から顔を覗かれないよう、顔と視線を横に向けたまま続けた。


「俺はただ、ぬいぐるみで遊んでるだけのつもりでした……」


 その横顔を、女性は黙ったまま見ていた。


「殴っても引っ張っても、壊れねぇ頑丈なもんでさァ。ときたま弄って遊んでやってたわけですよ。
 けどなんか、だんだんぬいぐるみを相手にしてねぇ時間を長く感じるようになって。放置してっけどあいつ今どうしてんのかって。ときたまふと考えちまうようになって。……なんか知らんが気づいたら、手放したくないと思うようになりやした。
 ……まぁ相変わらず殴って叩いてぞんざいに遊んでますけどね」


 いつになく心許ない声に、女性は内心少しだけ驚きつつも、


「……沖田くん、そりゃきっとぬいぐるみに遊ばれてるよ。
 あんたが遊んでるつもりでも。ぬいぐるみにとっちゃ、相手してあげてるって感じかもしれない」


 ああきっと、本物なんだろうな、と。女性は思った。だから、他の隊士からこんな話を聞いたときのように、からかってやる気にもなれなかった。


「否定しないですよ。
 ……最近夜な夜な思うんです。あいつ抱いたらめっちゃ気持ちぃんだろうなっつって……。
 なんかもう、そんなことまで考えちまうようになって。ンなアホなこと隊の野郎共には口が割けても言えやせんが。
 ……ほんと、自分でもどうしたらいいんか、わかんねぇです」


 絞り出すような声。
 頬をついていた片手の数本の指で顔半分を覆い、やや視線を落とす。その手で女性からその表情は見えなかった。
 それ以上言葉を続けなかった沖田。


「……私はそのぬいぐるみさんのこと知らないからさ、なんとも言ってあげられないけどね、」


 でもね、と。女性は笑顔で言う。


「気持ちは伝わると思うよ。あんたが何もしなくても。そんで、そんなあんたをわかった上で、また遊んでくれるさ」


 そう言い切る女性に、指の隙間からちらりと目をやる沖田。


「そんな都合のいいもんですかィ?」
「ぬいぐるみってそんなもんさ。おばちゃんの勘だよ」
「へへ、根拠ゼロじゃねぇか」


 沖田は手を下ろし再び前を向いた。そしてその手で箸をとった。


「なんか今あんたに話してちょっとだけスッとしやした。まだ入りそうッス」
「無理はせんでいいよ。残飯はまとめて肥料にするからね」


 この女性は口が固いことも沖田は知っていた。だからだろうか、自分の中でうまく言葉にまとまらないような渦巻く気持ちを、話してしまった。
 話したことで、なぜだか胸の詰まりが少し軽くなったように感じる。

 人に話したところで結局答えなんて見つかりやしない。けれど、様子見つつ、たぶんもうしばらくは、この気持ちとも付き合っていかなくてはならないのだろう。伝えたくなるときが来るのかはわからない。けれど残飯から肥料ができるかのごとく、ためてれば何か新しい気持ちでも見つかるかもしれない。

 それまでは、また遊んでやるし遊ばれてやるさ。
 考えていたら、食欲は少しだけ出てきた。


「……すんません、昼間っからこんな与太話してしまいやして」
「いいよ、ちょうど昼ドラの時間帯だしね」
「すんませんそこまでドロドロしちゃいねぇです」
「わかってるって」


 ま、頑張りなよ、と。肩を叩き、女性はカウンターの奥へと消えていった。
 さて、午後からの仕事……といってももう夕方近いが。明日全力でサボるためにも今日は頑張ろうか。
 そんなことを考えているといつの間にかメニューをすべて平らげていた。


「ごちそうさんでした」


 沖田が返却カウンターへ食器を戻していると、あいよーと軽快な声が聞こえてきた。


「あ、沖田くんいつも言ってるけど。箸とスプーンは分けて返却箱に入れてね」
「へいへいわかってまさァ。たくそんくらいそっちで仕分けしろっつーの」
「聞こえてるよ」
「すいやせーん」


 作業を終えて、沖田は食堂をあとにする。


「じゃ、いってきまさ」
「いってらっしゃい」


 空になったすべての食器を見て、少し安堵しつつ、女性はその後ろ姿を見送ったのだった。





*****


「へぇ、転職ですかあの人?」
「なんでも親の介護に出なくちゃならねぇみたいでな。屯所よりも家から近い料理教室で働くことになったそうだ」


 沖田と近藤は二人で食堂にいた。
 周りの隊士もがやがやと昼食を各自とっている中で、二人は共にカツ丼定食を前に並んで腰掛けていた。
 マヨネーズ足りないんだけどぉぉお!と遠くから怒号が聞こえたような気もしたが。山崎をはじめ周囲にいた隊士にそこら辺は任せ、近藤と沖田は会話を続けていた。


「そうですかィ」
「なんだ、飯の相手がいなくなって寂しいか?総悟」
「いいですよあんなお節介のおばさん。いなくなって清々しやすよ」
「ほんっと素直じゃないなぁお前も」


 ガハハと笑う近藤。目の前をマヨネーズの攻撃が横切り複数の悲鳴が聞こえてきたような気もしたが、気にせずに近藤は話を続けた。


「いい人だったな彼女は。俺らは精神的にも胃袋的にも、これまで支えられてきたからな。いなくなって気づくもんだ。そういう周囲の人たちへの感謝。忘れちゃぁいかんな」
「そうスね…」


 でだな、総悟……、と。近藤は突然沖田に向き直った。はて?と総悟は疑問符を浮かべた。


「ぬいぐるみは大切に扱わなきゃいけねぇぞ、な?」


 近藤の言葉に、その上がった口角に、心底驚く。自身の顔が熱を帯びていく感覚が沖田にもわかった。
 おいおいマジかよと内心慌てる沖田の頭を、近藤はわしゃわしゃと撫でた。


「安心しろ、他のやつには言ってねぇよ」
「……どうだか」


 あのクソババアめ。内心悪態をつきつつ。顔から火が出そうなのを誤魔化すのに懸命で。頭の上に手を乗せられたままぷいっと顔を近藤からそらした。


「ちゃんとわきまえてるさ。彼女も俺も。わかってるからな、俺はオープンスケベだがお前はムッツリスケベだから配慮が必要なことくらい。だから安心しろ」
「安心できねぇですそれ」


 だが、あの日から少しだけ沖田は前に進めている。
 相変わらず気持ちを伝えることはできずにいる。たまたま出会えばぬいぐるみ相手に喧嘩の日々。そんな変わらない日常を送っている。
 だが、食事の量は回復し、今では午後零時前後に食堂へ来るようになった。
 たまにこうして、近藤と話しつつ、マヨネーズ犬ご飯に軽蔑の視線を向けつつ、あんパンを眺めつつ、
 ガヤガヤとした中で気を紛らすことを覚えてきた。

 何も苦しく考える必要なんてない。
 今まで通り、テキトーに過ごし、テキトーにやってれば、そのうち自分がどうしたいのかもわかってくるものなのだろう。
 あまり深く考えずにいようと。ざっくり考えられるようになっていた。


「総悟、今日の晩飯は久しぶりに外へ食いにいかんか?奢ってやるぞ」
「え……いいんですかィ」
「いいもなにもあるかよ。最近他のやつらと食うこと多くてお前の話もろくに聞いてやれんかったからな。まぁあとトシでも誘ってゆっくり飯食おうや。なんやかんやで俺も、お前らと飯食うときが一番落ち着くってもんだ」
「……ありがとうごぜぇやす」
「まぁてきとうにどっかの店探して語ろうぜ、お互いの恋の悩みについて!」
「すいやせん、ストーカーの悩みなら持ち合わせてねぇです」
「ストーカーじゃなくて俺のは純粋なる恋だっつー……ぐわはぁ!!」


 近藤のつっこみが途中で途絶える。近藤は気を失った。
 パイ投げならぬ土方スペシャル投げが近藤の顔面に命中したからだ。


「げ!しまった!!」


 予想外の的に当ててしまった土方に、沖田は箸を置き、立ち上がる。そしてほくそ笑んだ。


「あららーダメじゃねぇですか土方さん、副長が局長にスパーキングしちゃぁ」


 そう言い片手にはカツ丼が。
 周りも参戦し過激化するなか、程なくして食堂のおばちゃん軍団が登場。
 隊士全員が並んで正座させられ、食糧を無駄にするなと呆気なく粛正されたのは言うまでもなかった。





*****

 とある料理教室。その日は歌舞伎町の子供たちを無料で招待し、お菓子を作るというイベントが行われていた。教室の宣伝効果も兼ねられたこのイベントには、普段台所にもめったに立たない子供たちが一同に介して調理台と格闘していた。


「姉上も来たがってたよ。もう少し年齢が若ければなって」
「代わりに私がしっかり覚えて姉上にも教えてあげるネ!」


 新八と神楽は万事屋のタンスの奥から引っ張り出してきたお揃いのエプロンを身につけ、作業に取り組んでいた。
 二人はまな板と包丁、ボウルに泡立て器をそれぞれ手にし、分担作業を図っていた。

 しばらくすると、オーブンからお目当ての品が出てきた。それを満足そうに確認した二人は、最後の作業に取りかかろうと向き合う。


「お嬢ちゃん、なかなか独創的だね」


 後ろから声がして二人は振り返った。
 そこには、エプロンと三角巾を身につけたややふくよかな女性がニコニコとしていた。
 神楽はオーブントレーの右半分を指で指し示して言う。


「どうアルかこれ?私の傑作ヨ!」
「うん、ようできてるよ。このうさぎちゃん型とかもとってもかわいいねぇ」
「まぁ、一部うんこ型とか×××型とか意味わからんもん混じってますけどね」


 新八が丸や四角など定番の形をこしらえたのに対し、神楽のトレーには実にさまざまな形のものが並んでいる。
 二人はこれから仕上げとして、これらのクッキーにトッピングを飾ろうとしていたところであった。


「これは誰にあげるんだい?うんこ型だけど」


 女性が指し示したクッキーを見て、ハッとする神楽。そのクッキーだけは、他のものよりもずっと手のこんでいるものであることは、その形の複雑さや既に装飾されたトッピングから見てとれた。


「それ、銀さんもたぶん羨ましがると思うよ。うんこ型だけど」


 だってたくさん甘いもの乗ってるもん、と。新八は、まだ十分トッピングされていないもじゃもじゃ型のシンプルなクッキーを目にしながら言う。
 神楽はぷうっと膨れた。


「銀ちゃんのは今から砂糖大量に乗せてやるアル」


 ごまかすように再び作業を開始する神楽。


「そのうんこ型は、好きな子にでもあげるのかい?」


 へ?と、新八は驚く。
 新八は知っていたから。神楽が今日、何を目的にクッキーを作りに来たかを。
 それを見抜いたその女性に対し、さすが料理教室の先生だなぁと思っていた。


「フフッ、おばちゃんの勘だよ」


 目尻にシワを作りくしゃりとしたその笑顔は、神楽の頬をさらに赤くさせたのだった。


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