宇宙イチの。 okita x kagura 2018年11月03日 滑り込みー!!神楽ちゃんお誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。大好きです!!沖+神で。 ねぇ、と。休戦の合間に声を掛けられた。 刀の具合を確認していた俺は声のする方へ振り返る。ブランコに三角座りで腰掛けながらゆらゆらと揺れつつ頬杖をついているあいつは、こちらに背を向けている。なんとも言えないアンバランスな体勢の後ろ姿から、小さく呟くような声がする。「私は、生まれてきて、良かったアルか……」 唐突に尋ねられた質問は意外。今日も今日とていつもと全く変わらない決闘の休戦中にされるとは思わないタイプの質問だった。 丸まった背中で表情は見えない。声も、まるで腹を下したかのように急にしおらしい。 ……自分の存在意義について、俺なんかに聞いて何になる。「良かったに決まってるよ。生まれてきてくれてありがとう。」なんて、姫様や万事屋のメンツじゃあるめぇし。俺が同調するわけがないことは知ってるはずなのにな。 ……いや、だからこそ問うてきたのか。 真意は至って不明だが、考えてもわかりっこない。とりあえずテキトーにかわしておくに限る。「さぁな。今更後悔したって生まれてきちまったもんは仕方あるめぇよ」 今更母親の腹ン中に帰れるわけでもねぇし。不毛な話だ。 チャイナは相変わらずこちらを向かない。俺はひとまず刃毀れ等の確認をやめて刀を鞘へ閉まった。「………後悔っていうカ、なんだろナ。何て言っていいかわかんないケド。時々、そんなこと思うヨ」 足を伸ばして宙に浮かせながら器用にバランスをとって座っているチャイナ。ゆらゆらと。何か、不安か不満かを抱えているんだろうことは明白だが、わざわざ質問の理由を問うつもりもない。こいつもそんなことを俺から問われることを望んじゃいねぇだろう。 言わんとするところは、ぼんやりとだがわからんではない。 俺は見えない表情に続けざまに言う。「ま、オメーはもう少し腹を割るべきだろうな」「は? 腹アルか」 ………帝王、切開? 腹の辺りに手を当てながらそう口走るので、とりあえず違うとだけ言っておく。俺の言葉の意味がわからない様子で、不思議そうに首をかしげている。 チャイナは無意識なんだろう。そもそも、腹の中を人に見せようとしない節が自分にあることに。 アンタの思考回路は単純そうに見えて、そこには他人が思いもしない回路が隠れていやがる。……時折、言動に驚かされることがあるのも、そのせいだ。 抱える悩みや不安は口に出さない。口にしない代わりに、そもそも自身の存在自体を疑問に思ってしまう。極端な話だとは思うが。「そもそも生まれてなければ、こんなことにはならなかったのに。こんな思いをせずに済んだのに。」なんてな。 なら、たまには腹割って話した方が多少なりともその無意味な回路を斬れるだろう。「腹ン中、真っ黒なのか、それとも何者にも染まらない白なのか、俺にはわからねぇが……。割って見せンのも悪かねぇんじゃねーの? たまにはな。」「………たぶん、綺麗なピンク色アル。リアルな話」「どうだか。斬って確認してやろうか?」「お前に斬られるくらいなら自分で斬って確認するネ」 意味はわからずとも憎まれ口は相変わらずなんだがな。 人の痛みには敏感で。そのくせ自分のそれには気づきもしない。あるいは気づかない素振りでやり過ごすのか。自分で自分の腹を斬ると言うのは、こいつにとってはあながち比喩でもないのかもしれない。「馬鹿だな、アンタ」「あ?」 アンタの不安に触れられる人間は早々いないだろうし。当然俺も手探りだ。こいつは何を秘めてるのか、何を心に抱えてるか。興味は尽きやしない。 要は、もう少し素直になれば、と思う。 ……人の事は言えねぇかもしれねぇが。「………オイ、なんで笑ってるネ」「いいや、別に」 こちらを振り返る怪訝そうな顔に、笑いたくなる。 チャイナ、ほんとイケ好かない、けど面白ぇ奴だ。 どこか、自分と似ているような気がして仕方がない。 チャイナの母親が、腹を痛め、この世に、こんなチャイナを送り出した。 広い宇宙の中で、こいつが地球に来なければ、江戸に来なければ、あるいは万事屋に住みこんでなけりゃ、俺は出会わなかった。……出会わずに済んだだろう。 もし、遠い星を、いや、同じ地球であっても別の地を、こいつが拠点としていたならば。こいつに出会えたはずの人間が、五万と居るだろうが。そいつらは、こいつに出会えなかった。出会わずに済んだ。 あるいは、別の時代、別の時間軸……………考えてみればとんでもない確率で、今こうしてここにチャイナがいる。近くにいてしょうもない話をし、腕試しにと剣を交える。 生まれてきて良かったかって? 笑わせんな。 オメーは生まれるべくして生まれて、ここにいる。それ以上でもそれ以下でもない。俺は不本意にも、出会わされちまった。こんな奴と。こんなふうに近くにいて………いられて…………「……アンタを生んだ母親には感謝しねぇとな」 地に視線を落としつつ、笑い混じりに言ってやる。 アンタがいなくても別に俺は普通に生きてただろうしノウノウと暮らしていた。ハナから出会わなけりゃ寂しいなりつまらないなりの感情が沸くこともなく、たぶん今よりも幾段穏やかに過ごしてただろう。わざわざ休暇日に刀引っ提げて公園に来ることもなかったろう。 たまたま巡り会って、退屈しない日々を送って………そんな今の環境が、この環境しか知らない俺にとってはかけがえがなかった。 ………ふと、顔をあげると。眉を潜めて嫌そうな顔をして俺を見てくる目があった。「突然どうしたアル、キモいアル」「まぁ要するに、潰しがいのあるクソ女が身近にいるのは悪かねぇってことだ」「………一応、『良かった』って、言ってくれてるアルか」 チャイナの頬がなんとなく緩んだ。 バーカ、と舌を出して返す。「オメーが居ようが居まいが、俺が宇宙で最強なことには変わりねぇよ」「ハッ。御託は私を倒してから言えヨ。まぁチワワはせいぜい宇宙最強のかぶき町女王のペットがいいとこアル」「せめて宇宙かかぶき町のどっちかにしろ」「じゃぁ宇宙ぅ!」「させるか!」 刀の柄に手を掛けた。うーんと伸びをしたチャイナも足元に置かれていた傘を手にする。そうしながら、眉をキリリとさせて笑みを浮かべている。私が最強アル! そう言って地面を蹴って向かってきた。 ああ、そうだ。オメーはそんなふうにバカ面で笑ってりゃいい。 誕生日、おめでとう。 心の中だけで伝えた。言葉に出さない代わりに、襲撃をかわしたその勢いのまま尻を蹴ってやると、伝わったのか伝わらなかったのか。振り向きざまにニッと笑いながら、仕返しの蹴りが飛んできた。 [5回]PR