拠り所2 okita x kagura 2018年05月08日 後半にいくほどあれなので苦手な方はお気をつけください。R15 めいっぱいお湯を貯めた湯船。 ぬくぬくと浸かっていたそこから立ち上がって、私はそっと浴室をあとにした。 まだ沖田(あいつ)が寝てるかもしれない。そう思うと、あまり音を立てないように、心持ちゆっくりとした動作になった。 脱衣室にある鏡は、湯気でふわりと曇ってよく見えなくなっていた。 静かな温風で髪を乾かしつつ、鏡面にドライヤーをちょっとあててみた。………すると、曇りが取れた。そして自分の裸の姿が映った。 ……ちょっと面食らう。 見慣れたはずの身体なのに、どこか気恥ずかしくなるのは、昨夜の情景を思い起こしてしまうから………。 意味もなく胸を手と腕で隠した。 あいつに、こんなふうに見えてたのか……。なんて。そんなことを考えると、死ぬほど恥ずかしい気持ちになった。 江戸から少しだけ離れた郊外。 この場所に位置する真選組の潜伏地は、しばらくの間、あいつの独壇場になっていた。 六畳一間、とは言えそんなに古めかしいわけでもなく、きちんとしたマンションの一室だった。少なくとも万事屋のお風呂よりは広い。 人の税金でいいとこに住みやがって……とも思いつつ。公務員でもない私がこっそり行き来させてもらってるから、何も言わないことにする。 たぶんほんとはダメなんだと思う。トシに見つかったら、悪・即・斬だと思う………。 ちょっと身震いした。 お風呂あがったら、着替えて支度しよ。他の人の目にとまらないうちに、とっとこ早めに退散しよ………。 もう、昨夜が3度目だったことに、ふと気づく。 3度目なのに、私たちは初回から大して進歩していない。 私のことを見てくる視線、夜が明けても、脳裏から離れず忘れられない。 私は腕で顔を覆ったり、そっぽ向いたり、あるいはあいつの体を正面からしっかり抱きすくめてみたり。 とにかくできるだけ顔を見ないようにするけれど、それでも忘れられない、泣いてしまいそうなあの表情。 あいつはそんな顔をしながらも、私の感覚を紐解こうと懸命に身体を使う。そして、似つかわしくない気弱な声で、名前を呼んで、私のことを乞う。「………ん、ぅ……………っ………」 気持ちを抑えきれずに漏らされる、文字にもなりきれないその声色に、私はいつも翻弄されていた。 私は成す術なく、あいつの呼吸と股に絡まれ、されるがまま従うだけ。 ……正直最中の事は、あんまり覚えてない。思い出すと泡を吹いてしまう程に恥ずか死にたくなるから、いつも思い出さないようにしてる。 なのに、私の腹部の内側はまだじんじんと疼いてる。 「快感」なんてものはまだイマイチよくわからないのに。あいつがいつも気持ち良さそうに呻く声が、気持ち良かった………。 なんだかなー。 私とあいつとの関係は、もう、ただの喧嘩仲間じゃなくなってしまった。 じゃぁ、いったい、何の関係なんだろう………。 もやもやを結局整理できないまま、私は髪を乾かし終えたあと、上下の下着とキャミソールを手際よく身に纏った。 別に勝負してない下着は、今更鏡で見るとなかなかにお子様な形・柄だった。 ………これ、考えた方がいいのかな。まぁいいや。 とりあえずバスタオルを肩から羽織って、脱衣室をあとにした。 扉を開けた瞬間にひゅんと空気が冷えて、身震いする。 部屋はそんなに綺麗でもないし、かといって汚くもない、ごく普通。少しひんやりとした畳に踏み入った。 ………部屋の真ん中には、ボーッと動かずにテレビを見ている背中があった。 布団の上で胡座をかいて、私と反対側を向いて座ってる。らしくなく、ちょっと猫背。 浴室を出たときに花野アナの声が聞こえていたから、あぁあいつ起きてテレビ見てるんだろうなぁとは思ってたけど。ビンゴだった。「おはよ」 小さく声を掛けると、そいつはこちらを見ずにテレビの方を向いたまま「おぅ」とだけ短く返してきた。 半裸のまま、S字柄のパンツだけ履いてる姿。いわゆるパンイチ。 風邪引くぞ、とでも言おうとしたら、その手に缶のお酒が握られているのが見えた。風邪以前にちょっとたしなめるつもりで言った。「お前……朝っぱらから酒アルカ」 その背中は私の声に振り向かないまま、缶を持っている手を少しだけ上にあげて、ふりふりと私に見えるように缶を振った。りんごの絵柄が見えたから、たぶん、りんごの甘い缶チューハイだ。「大したことねーよ。ジュースみたいなもんでィ」「お前がジュースみたいなお酒、珍しいアル」 そうか?と。ここで初めて、私の方を振り返った。 まぶたが半分被さっている。まだ少し寝ぼけ眼。発芽米みたいな寝癖を左上に付けて。動きもゆっくりだらだらとしていた。 こいつはこんな感じで、事に及んだ次の日の朝はいつも、普段の装いからは考えられない程に無防備な姿をする。 眠たそうな声で、項垂れながらおどける。「呑んじゃダメ?」「別に。どうでもいいヨ」 呑んでれば?と素っ気なく返すと、なぜだかくすぐったそうに笑われた。こいつは既にほろ酔い状態かもしれない。 ………本人には、言わないけど。私はけっこう好きだった。こいつのこういう、くるくると変わる一面が。 とは言え、呆れてしまうのもまた事実。 こいつはちょいちょいと、私に手招きをした。導かれるままに歩み寄ると、ニッと悪ガキみたいな顔して笑われた。「これならお前でも呑めるって。ホラ」 まだ起きたてほやほやの、体温の残るその布団の上、こいつの隣に私は腰掛けた。こぶし1個分くらいの隣に三角座りをすると、お酒の缶を手渡そうとしてくるので、いやいや待てと拒否した。「まだお酒呑めないって言ってるダロ!」「だから、ジュースみたいなもんだって」「お前ホント不良警察アル」 チンピラ警察24時とはよく言われたものだ。楽しそうにキャッキャするなと言いたい。 ………そんなこいつは、チンピラ集団を率いるこいつは、 今世間の注目を浴びている最中だった。 連日テレビで報道されてるチンピラ集団の功績は、どうしたものか、非難の的となっている。 テロは最小限に食い止められたはずだった。 花野アナはずっと、マイク片手に昨日からの事件を報道していた。 一番隊隊長の沖田総悟が、江戸の郊外でテロを企てていた浪士の集団を、一網打尽にしたと。 ただ、……そこには負傷者が出ていた。 人数が過去例を見ないほど多い。近くにいて巻き込まれた一般人もいる。 それでも、被害は最小限なはずなのに………ニュースはどちらかと言えば真選組の活躍よりも、犠牲者に目を向けて報道している。 今いるこの部屋は、急遽宛がわれた隠れ家でもあった。 とても現状、こいつが江戸に戻り表立って仕事できる状況にないのだと………そう聞いていた。 ………ふと、すぐ隣の横顔を見つめた。 テレビの方を向いたまま、こちらを向かない。顔の表情はおどけて笑ってるけど、たぶん、目は笑っていない。そんな様子だった。「酔えねーよな。朝からこんなん見ちまって……」 テレビを見ながらポツリと呟いたその横顔は、また憂いを帯びていた。本当に、くるくると変わってしまう………。 「肝心の一番隊隊長はあれ以来姿を眩ましたまま謝罪のひとつも無しで………」などと連ねられた原稿はとても皮肉めいている。そんな言葉を耳にしながら、口に運んでるお酒は、本当に美味しいのだろうか。子供の私にはよくわからない。とりあえず、ピッとチャンネルを切った。「………、チャイナ?」 缶から口を離すその瞬間、その隙を、私は見計らっていた。 こいつの口元には、色素が薄くてわかりにくい口髭が、数日分くらい剃られていない様子で残っている。それを見つけて、思わず手を延ばして、指先で触れたくなってしまったから。欲のままに触れてみた。「………じょりじょりアル、ここ」 右へ左へ、鼻の下をいったりきたり撫でてみた。 すると、唇の上をなぜていたその指をとっさに捕まえられてしまう。その力は、先程までのゆるゆるした動きからは考えられない程、力強く握られた。「なっ………」「捕まえたっ」 正面から覗き込んでくる、ニヤリと笑うその悪そうな顔は、私のよく知るこいつの顔だった。 半裸のその身体がゆっくりと距離を縮めてくる。その胸元や腕の筋肉のつき具合が目について。どきりとした。 そうだ、こいつ男だったな……なんて、こんなタイミングで改めて思い知らされてしまう。「……ふ、服、着るヨロシ」 そう言って、空いてる方の手で投げやりに自分の肩からバスタオルを拭い取り、頭から被せてやった。沖田の半裸を隠すため。やや乱暴に投げるように被せた。 ………と、そこで、あっ!と気がついた。 自分が服をまだ着ていない、下着姿だったこと。忘れてた。 しまった逆効果アルっ! そう思った頃にはもう遅くて。沖田は両方の手で、私の手首と肩とを強く押さえ込むように、布団の上に押し倒してきていた。ぬあっ!と変な声が出た。 目の前に、天井。でも、天井が遠い。 その手前に、沖田が隔たっているから。 背中の布団はいやに生温かった。……ついさっきまでこの男の身体が寝転んでいた証だった。 ……やだ、変な気持ちになる。「……いい匂いすんな、お前」 頭から私の投げたバスタオルを被ったまま、こいつが低く唸った。よだれでもこぼされそうな勢い。私は目を白黒とさせていた。 そりゃ、シャンプーや石鹸の匂いはいい匂いだけども………にしてもまさかこいつ、この朝イチからおっ始めようって気じゃなかろうか。いやまさか、そんなことは……。「はぁ………なぁ………今日お前も非番だったよな?」 あ、こいつヤル気満々だ。ヤバい。「ちょ、ちょっとたんま!たんまアル!」 私はあたふたしながら、唯一自由のきく片足の膝をめいっぱい折り曲げて、身体と身体の間にするりと滑り込ませる。膝を手の代わりにして、わりと全力で目の前の胸板を押し返した。 痛い痛い………なんて口走るその声は、全然痛そうじゃないしむしろ嬉しそうで若干腹が立つ。私を解放してくれる気配もなかった。「お前、ここに私居ることトシにバレたらどうする気ネ!? トシが悪・即・斬で」「そん時はそん時」「て、ていうか早めに帰らないと銀ちゃんにも怪しまれるし!! 新八も来て私がいないこと不自然に……」「ねぇ、お願いだからさ………」 私が捲し立てた言葉は、こいつの小声の「お願い」に掻き消された。 …………こいつがゆっくりと、股間を私のその上に乗せてくる。するともう、止める方法が、ない。 挟まれてた私の片足はするりと横へ抜けて宙に浮いたまま、行き場を無くした。結局、こいつの背中に巻きつくように着地するしかなかった………。「お願いだから、今はこうさせて」 ああもう、ままよままよ………。 足の付け根に布越しに当たる感触は、声と同様に深く熱を帯びていた。それに気をとられていた瞬間、上半身ごと引き寄せられた。 抵抗する暇もなく。「んっ………………」 そのまま、唇を紡ぐように重ねられた。 軽く、チュッと触れるだけのキス、かと思えば、もの足りなさそうに、もう一度唇を重ねてくる。また離れて、もう一度。柔らかい唇の感触が、その先貪りたいのを堪えるように、しおらしく、私の唇に付いては離れを繰り返す。 ………焦れったいナ。 そんな思考が過ったそのとき、一度離れて、表情が見えた。 消え入りそうな声で、唇と唇が触れ合う距離でもう一度お願いされた。「……他の男の名前、今は、ヤだ」 台詞はまるで子供のわがままみたいに拙いのに、囁くようなその声は、色っぽさを帯びている。 私のお腹の奥が、じくりと疼いて、腰が浮く。 先程から唇の隙間を舌先で焦れったくなぞられている。何度も小さく小さく。唇の狭間をなめてくる。 ああもう、いいヨもう………………そんな気分になって。隙間から少しだけ私の舌を覗かせてみた。 すると、それを待っていたと言わんばかりに、舌が奥まで捩じ込まれてきて、どろりと深いキスを埋めてきた。「あんっ………うぅ…………」 喉から変な声が出てしまう。そんなこともお構いなしに、口内を、2つの舌がまぜこぜに狭く絡まり合わっていく。互いの口の端から唾液が流れこぼれてもそのままに。 思考までトロとけてきた。「かぐら」 息継ぎの合間に名前を呼ばれると、伸びた口髭が私の口元をサワリと擦れる感触がした。リンゴの味とアルコールの味がしていた。 シャンプーのいい匂いもする。その奥から、隠しきれないほど、沖田総悟の匂いが混じって鼻孔を侵食する。 途中堪えきれなくてお互い何度も苦しく息継ぎをする。こいつが小さく呼吸するたびに漏れる、声になりきれない低い吐息の音が、またゆるゆると、私のお腹の内側を熱くさせた。 ああ、もうダメになりそ。 これが「気持ちいい」という感覚なのかな………。 わかんないけど……抵抗する気も失せてしまった。「………ねぇ…かぐら…………ずっと、こうしてたい…………」 すがるように抱き締めてくる腕の力は思いのほか弱いけど、蹴飛ばせない……。 こぼされる声は、さっきまでテレビに映っていた冷徹な目付きの隊長とは思えないほどに。熱くて、甘えたで、それでいて脆い。 このまま溶けて消えてしまいそうなほどだと感じた。 私は、パンチやキックのひとつも繰り出せずがされるがままで。これじゃまるで、私が酔わされてるみたいだった。 私の拠り所……。 もっと、欲しがってヨ………。 頭に浮かんだ、そんな恐ろしい字面は、この先を続けようとするこいつのぬめる舌に絡めとられて、どこかへ掻き消されてしまった。 [2回]PR