月2 okita x kagura 2015年06月26日 月のつづきです。※171105 本文少し修正しました下品沖田に注意。ツキがあるのかないのかわからない。 「……お前どーしたアルか?もしかして酒に飲まれたアルか?」 つんつんと体をつついても返事がない。ただの屍のようだと思った。 端から見れば、私たちはひょっとしたら、座ってデートしているカップルのように見えてしまうかもしれない。しかし、事はそんな和やかな状況ではなかった。 今宵の月は満月。 誰もいない道路の真ん中で。顔を赤らめて倒れている男がいるのを発見した。 それがこいつだと初めからわかっていたなら、私は決して近づかなかった。暗闇に紛れていたから、黒っぽい服を着てることしかわからなかった。近寄って、顔を覗きこんで、そこで初めて沖田なんだとわかった。 マダオにしては若くって、捨て猫にしては可愛くない。 ぼろ雑巾みたいになったクソサドが、ぐでんと道の真ん中に寝転がっていた。 そんなところにいては通行の邪魔。 こいつは車に轢かれても全く構わないけど、しょっぴかれてしまう運転手がかわいそうだ。 警察のくせに相変わらずチンピラと大差ない。とりあえず、スカーフごと襟首掴んで、ズルズルと道の端に引っ張ってきた。 もしかしてどこかチンピラにやられたのかと、土泥で汚れた体を見回し、手のひらでペシペシと叩きつつ確認してやった。上着を着ていない隊服。上のシャツからベストから下のズボンまで。特にケガをして血が出ている様子はなかった。 私がパシパシと身体検査してあげてるその間にも、こいつは全く微動だにしなかった。端から見ると、私の方が怪しい人物に疑われかねない。困った。 そして今に至る。 こいつからアルコールのニオイがプンとする。オヴェ……ってなりそうなのはなんとかこらえて。ひとまず、こいつが手に持ってるビールの空カンを取り上げようとした。 すると………今までだんまりを決め込んでいた沖田が、虚ろな声をあげた。「……なぁ、テメーも飲む、これ?」 酔っぱらいポリ公は顔をうつむけたまま、 片手からカンを離さなかった。 未成年に酒を勧める不良警察。 というか、そもそも、こいつは今ここにいるのが私だとすら気づいてないかもしれない。「お前も未成年だろ。ほんとチンピラアルナ」 私の声を聞いて、今度はなぜかケラケラ笑い出す。すこぶる面倒くさい。「バーカ、十八でも選挙に行けるし、……ヒック、パチ屋も行けんだぜ。……二十と大して違わねぇよバーカ」「少なくともお前はただのチンピラアル。お酒飲んでいい精神年齢じゃないネ」 しかも今日のこいつは、いつになく見た目も汚らしいし、クツクツとした笑い方が最高に気持ち悪い。もう最悪だ。……やっぱり、夜更かしなんてするもんじゃなかったヨ! だいたい、なんで私がいつも夜のお散歩するときにこいつに出会ってしまうんだろう? しかも今回は前回と違って真面目さの欠片すらない。余計たちが悪い。 あれから1ヶ月ぐらい、私は毎日早寝早起きして。割りと規則正しい生活を送っていたのにな……。なんで今日に限って、銀ちゃん仕事でいないし久しぶりに夜更かししちゃおうワッホイとか考えちゃったんだろう。後悔しかない。「……お前、ちゃんと屯所に帰れるアルか? 私そこまでは付き合いきれんアルヨ?」 目の前のそいつは、顔を赤らめてぐったりしてる。例えるなら、ぐでたまがピッタリだった。 あまりにもぐだっているから、このまま放置するのも気が引ける。かといって送り届けてやろうなんて気も起こらない。どうしたもんだろう……そう考えていたときだ。 ふいに、私の片腕に全身を擦り寄せるように、ぎゅっと握って寄り掛かってきた。「………オイ!?」「………」 私はよりによってこの日ノースリーブのチャイナ服を着ていたから最悪だった。 振り払おうと抵抗するも。こいつの二本の腕にガッチリ掴まれていて動かせない。 私が本気を出せば、向かいの建物までぶっぱなせるのだけど。なんか、ふにゃふにゃしてあまりにも頼りない様子だから。ぐでたまの黄身が飛び散りそうな感じがしてできない。 仕方がないから、口で抵抗する。「何やってるアル!離せ!死ネ!」「ちょっとぐれぇいいだろィ。なぁ?」「ああもう!ベタベタすんなヨ気分悪い!」 するとこいつは、はぁー…………と長いため息をうっとりとついた。そのまま私の肩に頭を乗せてきて、動かない。 だからもう!酒臭いアル!「超落ち着く」「落ち着かねぇヨこちとら!」「何?お乳つつかねぇかって?」「は??どうやったらそう聞こえるアルか!?」 沖田がにやりと口角を上げる。 そして、手を私の胸元へと伸ばす。ちょ!?マジでつついてこようとしてんのか?? 人差し指が伸びてきたので、全力で叩き落とした。パシッ、パシッ、と何度かつついてこようとする度に叩いて。それでもまだやめない。「いい加減に、しろッ!!」 最後は片手ごと全力で地面に叩きつけてやると、やっと大人しくなった。「………つつくもんも無ぇくせに」「ぶち殺したろカこいつ!!!」 パシーーーン!!! 渾身の平手打ちを食らわしてやった結果、つーっと口元から血の筋が流れてきた。 それでもまだ、私に寄り掛かった体勢から動こうとしない。 よっぽど重症だこれは、と。途方に暮れてしまう。 ……こいつははたして、本当に沖田という名の人間なのだろうか。もはやそこから疑問を持ち始めてしまう。 かつてこれほど酔っ払った状態こいつを見たことがない。だから、もはや本人なのかという疑問が湧いた。……けどそれやばくないアルカ?? まさか、警察の人間を装ったマジもんのチンピラじゃないアルカ?? おそるおそる、肩に寄りかかっているそのうつむいた顔を覗きこんだ。 薄い色素の前髪。サラリと少し掻き上げると、そこには、イラつくほどの端正な顔立ちがあった。 瞳を閉じてうつむいている。長い睫毛。綺麗に通った鼻筋。ただ、電灯の薄暗い光の下ですらわかるほど、頬や目元の辺りが赤ピンク色にじんわり染まっていた。 なんか、色っぽい……。 ふとよぎったその単語を、頭をブンブンと振って掻き消した。無いアル!そんなことあるわけ無い!! まあとりあえず、間違いなくバカでドSの沖田さんであることは確認できた。 私の動作に反応してか、バカなドSはうつむいたまま、片手の甲を自分の額にあてがって、ああ……と呟いた。「やべ、頭痛てぇ」「ほら言わんこっちゃないアル。未成年が酒飲むもんじゃ……」「なんか気持ち悪ィ」 たく。これじゃぁどっちが年上かわかりゃしない。 と、突然。沖田が顔をあげた。 その瞬間、視線が交わった。 ……当たり前といえば当たり前なんだけど。腕を掴まれた状態では、顔と顔の距離があまりにも近い。そのことに、この瞬間初めて気づいて、意識してしまった。 お酒のせいか、少し潤んだ瞳。その瞳と同じ色に染まる目元と耳元、頬、そして唇。確実に酒の臭いは嫌な臭いなのに………なのに、その唇に視線は奪われたまま外せなかった。 あれ。まずいヨ……この状況……。「なぁ、……聞いてもいい?」「何、アル…か……?」 伏し目をこちらに向けたままパチパチと瞬きされた。 ちゅーされる。これ。やばい。 私は瞼も瞳孔も開きっぱなしのまま、閉じれない。閉じた瞬間、やられる。そんな確信があったから。 なのに、「……ここでしょんべんしていい?」「………は?」 雰囲気もクソもない。 しょんべんだけに、クソではないか。……いや、そういう問題じゃない! 必死に素っ頓狂な声で叫んだ。「うぉおいおいマジかマジアルか!?」「あぁ無理……、ムリこれ漏れるマジで、漏れる漏れそう…」「わわわかったアルさてはまた演技だろ?私にはお見通しネ!」「あれ、ちょっと出た。…あ、ねぇ、それ頭のそれ、貸して…」「貸せるかボケェー!いやもういいって!お前そのボケもう通用しないから要らないって!」「あ…はぁ……ああ………もう……」「待てぇぃコルァァァア!!」 私はもう無我夢中の全速力で腕に掴まったこいつごとその場から駆け出した。そしてすぐ近くの公園に駆け込むとすぐさま公衆便所に沖田を全力でぶん投げた!「ぐへっ!」 腕が解放されるとともに、便所の奥から鈍い声が聞こえた。黄身がつぶれたか? 黄身が出てきたか?? もうままよままよ! 私は知らない。 ………するとほどなくして、体勢を建て直す音が。続けて、聞きたくもないのに、ちょろちょろろと水音が聞こえてきた。「………うっぷ、オヴェ……」 私はたまりかねて、土の上に全力で吐いてしまった。 とりあえず私のお陰で間に合ったのだ。 しばらくすると、トイレの奥からしょんべん以外の変な音も聞こえてきた。さっきまでの私とおんなじように、ゲロしてるんだろう。想像すると私もまた吐きたくなってくるから、あんまり考えないようにした。「……最っ低アル」 夜中にこんなことに巻き込まれるなんて。布団に入ってみる悪夢の方がよっぽどまっしだ。 いや、これはすでに悪夢なのか。頬っぺたを捻ればいつもの部屋にトリップできるかもしれない。うーんと引っ張ってみた。が、ただ痛いだけだった。夢じゃない。最悪だ。「……おーい、もういいアルか?」 トイレのすぐそばにある木の下に座り込んで、沖田に呼び掛けた。私はもう憔悴しきっていた。 しかし、もうあとはこいつの無事を確認してさっさと別れて帰ればいいのだ。もうこれ以上の災難はさすがにないだろう。あとは上がっていくだけだ。 気を取り直して、もう一回呼び掛けようとしたとき、ちょうど中から人影が出てきた。「はぁ…、すっきりしや」「ちょ、ちょっと待てヨ!!お前!!」「はぁ?何?」「おんどりゃぁぁあ!!」 手で視界を覆いつつ全力で駆け寄り蹴っ飛ばした。 やつは下半身を全部露出させたまま、向こうの草蔭へ消え失せた。 な、何? 今の、何アルか!? あり得ねぇヨ!何考えてるネ!!? イタイケな十四の女の子になんつーもん見せつけてるアルか!! 思考回路はショート寸前とはまさにこのことだ。今すぐ帰りたいヨ!泣きたくなるようなムーンライトヨ!! ほどなくして、草蔭から呑気な声が聞こえてきた。「あ、いっけねぇ……吐いてたら履くの忘れてたわ」「お前自分のキャラ考えろヨ!マジでいい加減にしろヨ!!もう嫌アル!!」 そういう描写が許されんのはお前のとこのゴリラとかハンターの漫画のピエロとかだけだヨ!仮にもランキング上位だろしっかりしろヨ!! 姿の見えない草蔭から、ズボンをずるずると引き上げ、ベルトを閉めるカシャカシャとした音がする。 一瞬だった。でも、目を覆う前、見たくないブツを見てしまった。完全に見てしまった………。ぶらりと垂れ下が………あああ!!! もうこれで私は、今からうちに帰っても布団のなかでうなされるんだ。白昼もうなされるんだ。二三日はうなされるしまたリバースするかもしれない。死にたい!! 頭を抱えウンウン唸ってる私に、やつは空気を読まずに歩いて近づいてきた。「……悪かったなチャイナ。まだ酔いが残ってらァ……」 そう言い訳しようとするこいつ。顔を向けると、気づきたくないことにまた気づいてしまった。 今度は社会の窓が全開だった。「もう、お前、ちゃんと最後まで履けボケナス!」「……おおこいつァうっかり」 そう言って私の目の前で股間の辺りをごそごそする。こいつ……後ろ向くとかしろヨ!なんで堂々と突っ立ってんだヨ! しかもなかなか閉められずにいる。やつの手指がもたもたと動かない。酔ってるせいか。出してもまだ酔ってるのか? おぼつかない動作にイライラする。いい加減キレそうだ。「何やってるアルさっさとしろヨ!」「ん、なんかうまくいかねぇや。あれ?チャックどこいった」「チャックはどこにも行かないネ!!ああもう早やく閉めろヨもうちょっと貸せコラ!」「あっ!ちょっと………!」「ほらチャックこれ上げたらしまいだろ!!? 」 ほんとにじれったく鬱陶しいので、立ってるこいつの目の前で少し屈み、小さく見えていたチャックのタブをぐぎいぃっと思っくそ引っ張りあげて閉めてやった。 こいつは幼稚園児アルか!?酒飲むくせに??「あっ、ちょ、あんま弄くんないで。ん……あぁ……」「変な声出すなキモい死ねヨ」 チャックを閉めてやった手でそのまま渾身のアッパーをお見舞いした。 そしてすぐさま、私はポケットに忍ばせていたアルコールティッシュでごしごしと手をふいた。このときばかりは自分の女子力に自画自賛する。持っていて良かった。 ………地面に仰向けに倒れた沖田は、また吐きそうな顔と声をする。片手を口にあてがう動作をして、目をつむっていた。 もう……いい加減にしろヨ! なんかもう、私は神様にいじめられてるんじゃないかと思えてきて、泣きそうだった。「……何アルか、お前。吐くならもっかいあっち行ってくるヨロシ!」 我ながら泣きそうな弱々しい声だったと思う。 沖田は口を手で押さえたまま、首を少し横に傾け、その場を動かない。「って……オイ!聞いてるアルか?!」「ああ……もう大丈夫でィ」 吐き気が収まったのか。手を口から離す。 でも、沖田はまだその場から動かなかった。 私は、いやいやながらも、ここまで来て放置してしまうわけにもいかず。 寝そべった沖田のそばに近寄って、しゃがみこんだ。 当たり前だけれど、散々吐いたり痴態をさらしていた沖田は、暗がりでもわかるくらい、顔の血色が悪かった……。「………お前、なんでそんなに酔い潰れたアルか?」 今更だけど、質問をしてみた。 別に興味があったわけじゃない。でも、原因が私の力で防げるものならば、二度とこんな最悪な事態が起こらないように対処ができるから聞いただけだった。 それを、こいつは何を勘違いしたのか………横に視線をそらしたまま私にきく。「チャイナ……俺のこと好きなのか」 私が心配してると、勘違いか。 天パしかり、つくづく酔った人間の思考回路は自分に都合よくなってしまうものなんだな。 呆れて私は答えた。「やめろヨ。そうゆう気色悪ィこと言ってるとまた私吐きそうアル」 実際、今指を口に突っ込んで気合いを入れれば、いつでもゲロれそうなくらい、胸くそ悪い気分だった。 するとまた、ケラケラと甲高く気持ち悪い笑い声をあげて言う。「俺ァ、チャイナのゲロ見たって平気だけど?」「ンなこと知るかヨ!こっちは平気じゃないアル」 ヘヘッと。そいつの笑いが急に収まった。 かと思いきや、急に静かな声で言う。「……なーんか、いっつもそうだな」「は?何がアル?」 こいつは、自力でゆっくりと上半身を起こす。おぼつかない動作で、少し時間をかけて、その場に胡座をかく形で、うつむいて座り込んだ。 表情はよく見えなかった。「………突き放されて、優しくされて。その繰り返しでィ」「何の、話アル?」 顔をあげたこいつ。仁王立ちしていた私。 今度は十分に距離をとって目と目が合った。 なのに、まただ。 視線を奪われた。それは言葉のせいだ。「ゲロも含めて、好きなんでィ。チャイナのこと……」 まっすぐと見上げた上目遣いで、そんなことを言われる。 低く耳に響く声。 穏やかな風が横切る感覚。 1ヶ月前のことが、ふとよぎった。 けれど私は、知らないフリを決め込む。 何も言わなかった。 沈黙に参ったのか、またこいつは、ヘラヘラ笑っていた。「お前全然振り向かねぇよな………俺こんな好きなのに」 にやにやと笑って。まだ口説き文句を垂れている。静かだけど上機嫌な声だった。 何が楽しいのか、私はわからない。「……早く酔いを醒ますネ。さもないとどたまぶち抜いて強制的に醒ましてやるアル」 私はもういい加減帰りたかった。勘弁してほしい。 だから、座りこんでるこいつの片腕を無理やり引っ張りあげて、公園の外に出ようとズルズル引きずった。「テメーがやってくれるってんなら、本望だよ。自分で冷まそうにも、どうにも………冷めねぇんだよ……ココが、苦しい」 私に引きずられながら。こいつは胃だか胸だか微妙な位置を掴んでぐりぐりとしている。 構わず私は引きずり歩き続けた。そして考えてた。ここからだと、うちと真選組んとことどっちの方が近かったっけ。うちは今銀ちゃんいないからなんか嫌だ。かといって、チンピラ警察の溜まり場にわざわざ行くのも嫌だ。 こうやって引きずってる間に、目ぇ醒めて自力で帰ってくれないかな。それが一番嬉しい。「なぁチャイナ……」「……」「今日の月も、綺麗だねィ………」「……!」 誰もいない道路の真ん中で立ち止まって、振り返ってこいつを見た。 くかー…と、嘘のように呑気な寝息をたてて寝ているこいつがいた。 もう、ため息しか出なかった。「……どーして、そうゆうこと言うアルか」 返事がないのはわかってるけど、質問をぶつけずにはいられなかった。 私は、知ってんだからな。 今時の情報化社会をなめちゃいけないアル! お前が、1ヶ月前に私に言ったこと。ググったんだから。 私はちゃんと、わかってるアル……。 はぁ…なんだかなぁ……。 お前の方こそ、いつも煮え切らない態度だ。 言葉のあやでごまかしたり。 酒でごまかしたり。「……なんで、素直に伝えてくれないアルか」 寝顔に尋ねてみた。 んんっ……と寝言か何かわからない言葉を漏らして。すやすやと子供みたいな寝息をたてているだけ。 私はまた前を向いて歩き始めた。 私はたとえ察していたって、 何もしないし。してやらない。 お前が私にちゃんと伝えてくれるまで。何もしないから。 お前の本心なんて、私は一生知れなくたって困らないし。どうでもいいんだからな。 「ツキがないアルな……私は」 こんなアホバカに惚れられるなんて。 ……仕方ない。栄養ドリンクよろしく水かお茶でも与えといてやるか。 そう思い、足先をコンビニへと向けた。 あどけない顔で眠るこいつを見てたら、 ちょっと笑えてきちゃったからネ。 [4回]PR