欲しいものは。 okita x kagura 2018年08月21日 素直じゃなくてわかりにくい。と思いきや。 「テメーは何かを欲しいと思ったこと、あるか?」「は?何アルカ急に」 サドが急に不機嫌そうにそう問い掛けるから、私は同じくらい不機嫌そうに返してみる。 別に今不機嫌なわけじゃないけど。 珍しくこいつの方から話し掛けてきたことに内心少し驚きはしている。「欲しいモンなんかありまくりヨ。乙女の悩みと物欲は尽きないアル」「んじゃ、それがどうしても手に入らないものだったら?」「……手に入れるアル」「いやだから、手に入らねぇンだって」「それでも頑張ってモノにするネ。人間やればできないことなんてないヨ、その気になればなんだって……」 頭ごなしに否定されるのは癪に障るから、頭ごなしに主張をぶつけてみた。 サドは頭を抱えるような仕草をしていた。呆れたとか、馬鹿げてるとか、そういう感情なのかどうなのか、よく見えない。 まるでわざと、私から視線をそらすように、おでこに手の甲を当てながら、目元を隠すように覆いながら、口を開いた。「………自分の意思だけじゃどうにも得られないモンもある。 力ずくでも手にできるなら、とっくにしてらァ」 きょとん、とする私に。サドは珍しく饒舌に語る。 よほど欲しいものがあるらしい。 詰まるところ、それを得るにはどうしたらいいかという相談だと思う。 わかりづらいことこの上ない。「何しゃべってンだろな、俺」 我にかえったように呟く。 相変わらず、変なところで不器用なやつ。「そんなに欲しいアルカ」「………そうだねィ」「だったらお前、それを欲しいって、まず口にすることから始めないといけないんじゃないアルカ」「………」 私が問いかけたとたんにしばし黙ったサドを見て、これはビンゴだと思った。「やっぱり。お前、欲しい物あっても誰にも言わなさそうだからナ」 副長の座以外は、と。付け加えて笑ってやると。サドは無意識だろうか、自分の胸に手を当てていた。心臓の音でも聞いてるのだろうか。そのまま押し黙っている。 何を考えてるのかは、わかりそうでやっぱりよくわからなかった。「……赤ン坊じゃあるまいし、欲しいって言わなきゃ、お前がそれを欲しいってことすら誰にも気づいてもらえないアル。欲しいって言ってれば、最初は遠くてもちょっとずつ近づいて、いつかは手に入れられそうなもんヨ」「じゃぁ、言えばいいのか」「だからさっきからそう言ってるネ」 サドは、意を決したように。重く閉ざしていた口を開いた。「じゃぁ、………欲しい」「………はい?」 何が?何を?、と、さっぱりわからず頭の回転がついていかずにいると、その隙に、傘を持っていない方の手の袖を遠慮がちに握られた。 不思議な感覚がしていた。 私にベタベタ触るな!とも言えないただならぬ雰囲気を感じとって、今度は私が押し黙ってしまう。すると、サドは私の赤色のチャイナ服の袖を掴んだまま、ただもう一度だけ、「……欲しい」と呟いた。心もとない遠慮がちな声だった。 オイちょっと待てヨこれ。何アルこれ。「………お前、チャイナ服のコスプレ趣味でもあるアルカ?」 袖口を摘ままれたまま、私はそう投げ掛けた。すると、サドはさっきまでとは打ってかわって即答する。「本気でそんな意味だと思ってる?」 鋭い指摘に、息を飲んだ。 あれ、なんでアル。さっきまで優位にいた私がなんで今度は試されてるアルカ………。「…………ま、いいや。時間かかったって、『人間やればできないことなんてない』だったよな」 サドは私の袖を離して、行ってしまった……。その瞬間、口角が少し上がっていたのが見えて、怯んでしまう。 その日以降、私はサドのことを意識し始めてしまったのは、言うまでもなく。してやられたりだった。 [4回]PR