手を繋げ okita x kagura 2015年09月13日 手を繋ぐ二人。 そっと繋がれた手と手 お互いにその繋ぎ目を見とめない 触れる感覚に心がふわふわしている どちらから手を伸ばしたのかは曖昧でわからなかった。 ただ、なんとなく並んで立っていただけ。 夕暮れの帰り道の途中。人一人いない広い野原に二人が来てしまったのは、全力の駆けっこ競争の結末だった。ゼェゼェと呼吸をする。お互い何やってたんだろうと我に返りつつ、帰ろっか、と。町の方へ向かい歩き出した。「めっちゃ景色綺麗アル」「そうだな……」 丘の上からぼんやりと眺めていた夕日は、遠く海の向こうの水平線に沈もうとしている。キラキラと宝石のように反射する海面。一番星が顔を出し始める夕空。徐々に落ち着き冷えていく静かな空気。 包まれた空間は、二人の心を非日常へといざなう。 二人は立ち止まって、同じ方向、同じ景色に首を向けていた、 そのとき、 ひたり、と。 手の甲と甲が触れる。 手がぶつかったのだといちいち意識するほどの感覚ではなかった。手首に服の袖が擦れるのと同じくらい、有って無いような程度の感触だった。 その感触はやがて穏やかにマヒしていく。 手の甲と甲から、するりと滑り、小指と親指がほんのり絡まった。そこから、薬指、中指とすり抜け、静かに手のひらと手のひらが重なり合った。「ほんと、綺麗アル……」 その声に、手に触れる感覚に、 はっとしてしまったのは沖田の方だった。 気づいたときには、5本の指と5本の指とが軽く絡み合っていた。ぎゅっと握り合うわけではない。けれど指の間に指が挟まり、きちりと繋がっていた。「………」 沖田は言葉を紡ぐことができなかった。 心の奥が、とく、とく、と次第に鳴り始めている。 目をつむり、気づかれない程度にそっと深呼吸をした。 この感情を、隣に悟られるわけにはいかない。 遠くの綺麗な景色を目の前にしても、すぐそばで絡まる温度に気を持っていかれて仕方がなかった。 ごまかすように、景色を眺め続けていた。 すぐ眼下にある自分の手を、目にすることができない。隣にいるその人の表情を確認することもできなかった。 今、横を向いたら、 きっと、離れていってしまうから。 このまま少しでも長く、小さなその手に触れていたいと、 願わずにはいられなかった。 だから沖田は、黙っていた。 黙って手を繋いでいた。 あたたかくて手放したくない。 そう思っているのは………俺だけか? きっとそうなのかな。 沖田がそんな葛藤を頭の中で廻らせている間、 神楽はただただ、繋いだ手を離さないでいた。 隣にいる人が、緊張して少し震えているように思えた。指と指の隙間から、脈打つ鼓動がかすかに伝わる気がしていた。 臆病なやつだと思った。 人を殺めることを厭わないこの手が、人と繋がり続け体温を分け合うことに戸惑っている。 可愛らしい手。なんて可哀らしい手だろう。 神楽もまた同じように、目の前に広がる夕焼けで気持ちを紛らせていた。 自らの赤く染まる頬は夕日のせいだと、いつこちらを見られても言い訳できるように。まっすぐにオレンジの光源に顔を向けていた。「ほんと、綺麗アル……」 こぼした言葉に、隣から返事は返ってこなかった。けれど、別に良かった。 そっと呼吸する音が聞こえてきた。ちゃんとそこに居るのだと感じられたから。良かった。 繋がれたままの手と手、 まるで時間が止まったように、繋がったまま。 神楽は少し、指を動かしてみた。 そっと、相手の指の付根に指先をタッチするように、指の関節を折り曲げ握りしめる。 ピクッと振動したのが伝わってきた。 ああ、やっぱり。こいつは、緊張している。 私と同じだ。 神楽はやはり横を向けないでいた。 神楽の指の動きに、沖田はどうしようもなく密かに混乱していた。 指の隙間を埋められ、握られた手のひら。その手を握り返すこともできず、開いたまま固まっていた。「………チャイナ」 沖田がこぼした呼びかけに、初めて神楽は横を向いた。 視線は沖田の顔ではなく、繋いだ手と手に落とされていた。「離して」 小さく聞こえた声は、普段よりも弱々しくて消え入りそうだと神楽は思った。 でもひょっとしたら、本物の沖田は実はこっちなのかもしれない。 相変わらず神楽の方を見ようともしない沖田の手を見てそう思っていた。「私に命令するなヨ」 ピシッと言ってやった声は、字面に似合わず優しいトーンだった。だからますます、沖田はわからなくなっていた。 どうして、自分たちは今手を繋いでいるのか。 自分の行動に自分の頭がついていけない。そんなこと、許せなかった。だから、沖田は必死の想いで隣へ伝える。「離せっつってんだ……」 神楽は観念して、さっと手を離した。 離れた温度に、どろりと心が傷むようだ。 自分で言っておきながら。沖田はわからなかった。 手を離せと命令するのに、自分から手を離すことは、できなかったのだ。 離せと言うのに離したくないと願ってしまう自分の頭が、わからなくなっていた。「……私もう帰るネ。銀ちゃんが待ってるアル」 「銀ちゃんが」と、殊更強く聞こえた気がするのは、きっと訳のわからない自分の頭だけなのかもしれない。 首をサッと、横に向けたとき、そこにはもう神楽はいなかった。 こちらに背を向けて、手を振りながら歩き去っていく姿が向こうに見えるだけだった。「………なんでだよ」 沖田はその場に座り込んでしまった。 頭を抱えて小さくなっている。 なぜ、どうして、こんなに気持ちを揺さぶられてしまうのだろう。 ぐらぐらと崩れそうになる。 でも、崩れてしまう前に、あいつはそっと離れていく。離れてくれるのだ。 いっそのこと、崩れてしまえば楽だとは何度も思った。 けれどもう、嫌だった。 自分で制御できない程、気持ちを動かされてしまうのは、姉だけで十分だ。 もう、あんな思いはしたくないから。「……」 手を広げ、じっとその手のひらを眺めていた。 繋がっていたい。 けれど繋がれば繋がるほど、離れるとき苦しくなる。体をモガれそうになる。 なのに、可笑しな頭は願ってしまうんだ。 あたたかくて、愛しいあの手を 握り締めてしまいたい、と。 その気持ちを噛みしめ潰すように、手のひらで顔を覆っていた。 辺りはすっかり暗く染まってきている。姿を隠すように、沖田はまだそこに小さくうずくまっていた。 [7回]PR