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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

非日常

戦場に行く直前の沖田と、見送る神楽の話です。









「一番隊の沖田隊長は?」


 隊士の一人が声を発する。
 その間にもあちらこちらへとどたばた駆け回る隊士たち。
 屯所の中は臨界体制であった。


「姿が見当たりません、どこにも」
「これから戦さだってのに、隊長こんなときにまでフラフラして…いったいどこへ…」
「あと数十分後に出陣だぞ、どうする?」


 隊士数名が慌てるなか、向こうから早足で歩いてきたのは、沖田ではなく土方だった。


「おいお前ら、最終確認の時間だ、各自持ち場につけ」
「副長、沖田隊長が…」
「あいつァあとから来る」
「え?」「しかし…」
「いいからほっといてやれ」


 先程チャイナ服姿の少女とすれ違った土方は、隊士らにそれだけを言い残し、間を潜り抜けて集合場へと向かった。
 隊士たちは頭に疑問符を浮かべつつも、そのまま各自の集合場所へと散った。





*****


「なんだよ話って。旦那からなんか頼まれたか」


 過激派連合との戦争を前にざわめくかぶき町の様子を当然銀時も知っているはずだ。
 今回の戦争については万事屋に全面協力を得ている。武器の調達や人員の確保など役回りは重要。
 そこの看板娘がわざわざ屯所までやってくるということは、なにか不具合でもあったかと。

 屯所の畳一間に向かい合うは、普段歪み合っている沖田と神楽。
 沖田はすでにいつでも出陣できる体制を整えており、装備は完璧であった。
 一方の神楽は、チャイナ服の裾をきゅっと掴みながら、沖田の目をまっすぐ見つめていた。


「私、お前のこと、好きアル」

「………は?」


 沖田は瞬く間に拍子抜けした。
 腰に据えている刀の柄に視線をそらして間抜けになってしまった表情を整えつつも。あくまで平然とした出で立ちのまま問い掛けた。


「なんだ、てめーついに頭イカれちまったか」
「真剣ネ。ずっと前から好きだった」
「いや、イカれてんのはずっと前からだなうん。加えてさらにドでかい岩にでも頭ぶつけたか?」
「お前と一緒にいるとき、私いつも楽しかったアル」

「あーそれともあれか、もしくは隕石にでも頭ぶつけたとか?
 もしくは、……嫌がらせか」

「………まぁ、だいたいそんな感じヨ」


 神楽はそう言いながらも、真剣な面持ちのまま動かなかった。
 決して冗談を言っている素振りではないと沖田も悟っていた。
 だが、この状況において嬉しいもクソもなかった。
 女から好意を持たれることはたびたびあった。しかし、ここまでこいつ殺してやろうかと思える告白は初めて。


 なぜ、今言うのか。それを。


「……言っとくけどさ、今から出陣式なんだわ、これでも」
「ンなこと知ってるアル」
「実は俺も前から………みたいなこと言う気はさらさらねェぜ。どこぞの少女漫画じゃあるめぇし」
「言っとくけど、私もお前が好きだからってこれからどうしろと言う気はさらさらないアルヨ。付き合ってデートするならもっと紳士的かつハートフルな男がいいネ。もしくは銀ちゃんと新八とパピーを足して三で割ったような男がいいアル」
「いや何それ想像できねーよどんなやつ?てめェは月に帰って兎のオスとでも宜しくしてろ」


 売り言葉買い言葉を交わしつつも、神楽の真意が分かりかねる。沖田は頭を掻いた。決して照れからくるものではない。
 こいつは俺に何を期待している? わからない。嫌がらせにしてはちょっと体張りすぎだろう。

 いっそのこと冗談だと言ってくれれば、殴ってとっとと土方たちのところへ戻れるのだが。
 しかし、「好き」という言葉を否定する気はないらしい。


「私はネ、お前のことを好きになっちゃったアル。ほんとは一生言う気なかったんだけどな……」
「じゃぁなんで今…………今に限ってンなこと言うんでィ。一生黙っとけっての」


 沖田はすー……っと息を吸う。
 そして、苦い気持ちを噛み潰すように、嘘をついた。


「………俺はどうとも思ってねーよ、てめーのことなんざ」


 神楽にはわかっていた。
 沖田の声の弱さと、少し震える拳を見て。……それだけで十分真意を図れた。だてに長年ぶつかっちゃいない。


「……私はお前と違って、正直に言っときたかっただけアル。お前ごときに隠し事すんのに神経使うのはまっぴらだから」


 神楽は手持ちの傘を広げた。
 それはもうこれで帰るのだという合図だ。沖田は複雑な思いがした。


「……話はそんだけか。なら俺は隊に戻るぜィ。そろそろ土方さんが痺れ切らして刀構えてる頃だ」


 沖田は神楽に背を向けて歩き出そうとしていた。


「おぅ、とっとと行ってこいや。別に止めはしないネ」


 いってらっしゃい。そうわざとらしく手を振って、踵を返し、表へ出ていこうとする神楽。
 振り返る沖田。
 一歩ずつ遠ざかっていくその背中を見て、あれ?もしかしたらもう二度と会えないかもしれないのかと不意に悟った。
 なぜならたった今、間際の告白というもっとも典型的死亡フラグを立てられたからだ。
 いやいや冗談じゃない!今度は沖田が呼び止めた。


「おい待てチャイナ」


 傘で半分隠れていたその肩に手をかける。
 思ったより小さく感じるそれは、振り返ろうともしない。その表情ひとつ見せようとしない。


「何がしたかったんだよ結局……こんな時に。大した用事もねェくせにノコノコ屯所まで来やがって」


 そのとき急に、神楽の後ろ蹴りが飛んでくる。
 反射神経のいい沖田はなんなくそれを避ける。少し間合いをとりつつ一度掴んだ肩も離していた。


「私にベタベタしてくんなヨ気分悪い!!」


 はぁ?と呆れ果てる沖田。
 人に散々告っといて肩にすら触れるなとかどうかしてる。ますますわけがわからなかった。

 神楽は肩を振り払った代わりに、まっすぐに沖田の瞳を見つめた。その目に吸い込まれてしまうのではないかと怯えるように、視線をそらしてしまったのは沖田だった。


「さっきのは私からのチューイかんきアル」
「注意、喚起……?」
「いくら少年ジャンプだからってな、余裕ぶっこいてんじゃねーぞコラ。人気キャラ上位だからって調子こいてるアルか?」


 突然メタをしだした神楽に沖田は戸惑ったが、その疑問は神楽の言葉ですぐに解消された。


「 ……死なないとは、限らないアルヨ。お前」


 そんな寂しそうな声を聞いて、沖田は内心とても動揺していた。
 それ以上の言葉は続けずに、再び黙って沖田の目を見上げのぞきこんでくる。

 ……なんなんだ、いったい。なんでこいつに、俺の身の安否を心配されなきゃならねェんだ。

 沖田は無意識のうちに胸元に手を当てていた。心臓が動いている。


「安心しろィ。俺が死んだところで他の隊士がいる。近藤さんたちがいる。……死ぬつもりなんてねェが、万一のときもこの町は必ず護られる」
「……止めろヨお前、そういうセリフが一番危険だってわかんないアルか?このあほが!」
「あほはてめーだあほ。てめーのさっきからセリフが一番フラグ立ててんだぜ?」


 ああ、そっか。そーゆう嫌がらせだったのか。
 沖田は妙に納得した。
 散々フラグを立ててやるという嫌がらせ、
 そして、フラグを回避して生き戻って来いとの嫌がらせだ。
 二つの嫌がらせの意味を持つ「好き」の言葉。沖田の積年の想いを、言いたくても言えずにいた想いを、こうもあっさり嫌味として伝えられてしまった。
 ……そう思うと途端にうなだれたくなった。


「……チャイナには関係ねェだろィ。俺が死のうが生きようが。ほっとけってんだ」


 沖田がそう言うや否や、神楽から手をバシッと強く握られてしまった。
 馬鹿力ごとそのまま投げ飛ばされるのかと思いとっさに沖田は身構えたが、何もしてこない。どうも違うようだ。
 非日常の空間であるせいか、いつもほど神楽とテンポが合わず、沖田は困惑していた。


「ほらな、お前はそう思ってると思ってた。だからわざわざ、銀ちゃんと新八の監視潜り抜けて来てやったんだヨ」


 その意味を図りかねていた沖田に、神楽は思いっきり両腕を左右に広げ、そのまま正面から抱きついた!

 え、何?ちょ、これも嫌がらせの一種?と、いい加減懲りてきていた沖田。それでも体は正直に、心臓の音がうるさく鳴り響いていた。

 ちゃんと、動いてる。生きている。
 神楽は沖田の胸元に片耳を押し当てながら、その音をしっかり確かめていた。


「てめー自分で言うくせに……ベタついてんじゃねーや……」


 今すぐ抱き締めてしまいたい気持ちを押さえ込みながら、沖田は口で抵抗する。ベタベタしてくるなというくせに、こちらには全く遠慮がない。


「お前が戦に出るのを引き止めないし、お前についてったりもしない。好きってだけで、私にはそんなことする権利ないアル。………ただ、」


 体を少し離し、渾身の切なそうな上目遣いで見上げられ、沖田はついに積もった糸が切れてしまった。
 少し屈みながら、黙ったままゆっくりしっかりと、小さな体を抱き締め返してあげた。柔らかくて温か気持ちいい。ぎゅぅっと埋め込まれるように、神楽の体は沖田の腕の中に収まっていた。神楽はその中でそっとつぶやいた。


「ちゃんと生きて帰って来いヨ。でないと、泣くからな、私……」


 「泣くから」という神楽の言葉が、沖田の頭の中に響き駆けめぐる。
 自分の死を泣いてくれる人が、こんなところにいる。
 夢にも思っていなかった。
 沖田は神楽の首元に顔をうずめながら、笑ってやった。


「へっ、愉快で涙が止まらなくなる……ってか。そいつァご苦労なこった」
「……そうアル。お前が消えればもう楽しくて笑いが止まんなくなるネ。涙腺崩壊してかわいいお顔も台無しになっちまうヨ。そん時はどうしてくれるアルか」
「鼻水やらゲロやらぶちまけてるやつに今さらかわいいお顔もクソもねーよ
 ……それにお前さ、」


 沖田はそーっと神楽から少し離れ、正面から向かい合った。


「とっくに台無しでィ」


 涙を目にいっぱい溜めながら睨んでくる神楽のことが、堪らなく愛しくなってしまった。
 目を細め、再び抱きすくめた。すると、涙か鼻水かわからない湿り気が胸元の隊服を染めた。
 敵わねーなァ………とぼんやり沖田は考える。
 身内も誰一人いなくなった今となっては、思う存分戦地に身を投げられると思ってたのに。


「んなこと言われちゃァ、自由に死ぬこともできねーっての」


 耳に聞こえてくる力ない悪態を刻みながら、神楽はしばし考えていた。
 このご時世、周囲が武器を調達し力をつけてきてる可能性はある。このご時世、単行本売り上げ回復を図ろうとマンネリ脱却のテコ入れが施される可能性はある。
 ……万が一ってことがあるかもしれないから。

 本当は沖田のこと全力で引き止めたい。なんなら援護だってしたいし、一緒に戦いたい。
 けれど、曲がりなりにも侍の沖田がそれを一番嫌がることは、よくわかってる。


 一歩引いて、泣いて待っててあげるんだから。
 感謝してほしいアル。


 神楽はおもむろに沖田の隊服の裾を掴み、全力で鼻水をかんだ。チーーーン!!と、鼻水が流れ出る音を豪快に立てた。
 そして待っていた。死ねだのアホだのゲロインだの、日常的ないつも通りの素っ気ないつっこみが返ってくるのを、待っていたのだった。

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