靴擦れ okita x kagura 2015年08月29日 靴擦れした神楽と一緒にいた沖田の話。 「おい、靴擦れしてんぞ」「ぬ?……うおお!」 こいつに指摘されて立ち止まった。すると、私の左足首から赤色の血がポタポタと垂れ、地面に一連の模様を描き出していたことに気づいた。それをぎょっとした目で引き気味に見ている周囲の通行者複数人と、呆れた顔をして見下げてくるクソサド野郎。私はその場で立ち止まった。「全然気づかなかったヨー」「血ィぽたぽた垂らしながら歩いてんじゃねーやグロテスクな」「何アル。女の子が下半身から血ィぽたぽたしてるときはもちっと繊細に指摘してほしいアル」「その誤解を生む言い方はやめろ」 そう言いながら暑苦しい制服のポケットをごそごそ。あった……と小さな箱を取り出してその中から1枚の絆創膏を取り出し見せてきた。「うわッ何アルかその女子力!?」「てめーもちったァ俺を見習え」 そう言って二三歩近づいてきたので私は両手のひらを見せつけつつ首をブンブン振った。「こんなもん唾つけときゃ治るネ!要らないアル!」「足に唾つけるもんじゃねーよ汚ねェな」 そう言って私の手をぐいっと引っぱって道の端にまで寄せた。「ほらそこ座れ」 素直に従う私に特に気も留めず、持っていた白色のハンカチをひょぃと取り出すとそれで軽く止血しつつ血を拭ってくれた。「汚れちゃうアル、それ」「いいよ捨てるから」「捨てんのかヨもったいない」「んじゃやるよこんなもんいくらでも持ってるし」「……要らないアル」 三角座りする私の目の前で屈んで、私の左足首を軽く持ち上げて淡々と処置を施す。たらんと下に垂れた前髪で表情はほとんど見えないけれど、私はそこからあえて視線を外していた。 今になって、季節が終わっちゃうからと新しく下ろしたサンダルを履いてきてしまったことを後悔している。可愛いし、涼しいし。嬉しくてぴょんぴょんぐるぐるしていたのがいけなかったのかな。女として一生の不覚だった。「しっかし可愛げねーよなお前」「何がアル」「女が靴擦れしたら普通、キャー痛ーい☆っつってほざくだろ。んでバカな男共コキつかって帰路につくわけだ」「声マネやめろヨキメェから。……あと夜兎はそんな柔じゃないアル」「柔じゃねーなら靴擦れぐらい自分で気づいて治せ」「気づかないくらい痛くも痒くもないアルヨ」 じゃぁ言わせてほしいけど。それでいけばお前はバカな男じゃないか。何も望んでない私に身を屈めて手当てするお前は、私をおぶって万事屋まで帰ってくれるというのか? なんで、そんなにきちんと手当てしてくれる? 何のためらいもなく、段取りよく絆創膏をピタリと傷口に貼ってくれていた。「……何アルお前」「あ?」「今日は優しいアルな」「元からだけどそれが?」「キモいアル」「はい出来た、ほら立て」 そう言って立ち上がったこいつに引っ張られて私は立ち上がった。相変わらず足首は痛くも痒くもないのだけれど。別の意味で今じんじんとしている。「ほんと、別に良かったのに……」 地面に俯いてた私に、何でィと呑気な声をあげて言う。「素直にありがとでいいだろ?」 私は手当てしてもらいたてのその足でゴスッと黒い制服の足を蹴ってやった。痛って!と軽くケンケンするクソサド。調子に乗るとそうなんだぞコラッ!足の骨折れない程度には手加減してやったんだから感謝しろヨと思う。 私は実は今、胸がどきどきしている。 こないだ銀ちゃんとテレビ見てたとき流れてた映画のCMを思い出していたから。男の人が、女の人の足にいっぱいキスをしていた。なんでか銀ちゃんはピッピッパッと慌ててチャンネルを変えていたけれど。その男女の姿が以前から印象深くて頭にこびりついていた。 そして、今さっきの私とこいつの位置関係が、その映像とぴったりしていたから。内心ひっくり返りそうにドキドキとしていた私は一体どうしてしまったのだろう。足首に触れられる感覚や、前髪の隙間から覗いていた伏し目がちのこいつに、どうして、キスされるところを想像しなけりゃいかんかったのだろう。「………ねぇ」 私はもう、全然大丈夫だと言わんばかりにしっかりと両の足で立ちつつ、クソサドの肘の裏辺りをつんと引っ張った。 クソサドは振り返らない。振り返ってくれないし、靴擦れした私をおんぶしてくれるわけでもない。「……ありがと」 私にはこれが精一杯の愛情表現だ。それでいい。足にキスなんてもっての他だ。心臓がいくつあっても足りやしない。「……ふーん」 そう言いながら振り返ったこいつの表情を見て、すごく激しく後悔した。 人を全力で馬鹿にしたツラで見下げられていたから!「んじゃ、倍返ししてもらわねーとな?」「は!?調子こいてんじゃねーぞコラ!!」 指の甲で鼻の下を軽く擦りながら、クソサドはヘッと笑った。心なしか顔が少し赤い気がするのは、さっきのCM映像のフィルターが入ってるせいかもしれない。ドキドキとかはもういい。とにかくその顔をイラッとしながら睨んでいた、すると、「……俺が傷ついちまったとき、手当てしてくれるか?」 そんなことを、表情にも似つかず落ち着いた声色で、言ってきた。 お前が傷つくことなんてあるのか?とも思ったけれど……ああそうか、Sは打たれ弱いんだったかな。「……わかったアル。絆創膏、持ち歩いといてやるネ」 私がそう言うと、にんまりと悪ガキのように笑って、鞘に入ったままの刀を構えた。私は私で、ニヤリとしながら傘をまっすぐ突きつけた。「はっ、要らねーやい!!」「んじゃ言うなやクソガキャァー!!」 こうして私たちは、いつもの決闘を再開した。 [7回]PR