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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

髪結い

※銀さん失踪から2年くらいたった頃の話








「こっちだ早くしろ」


 足を負傷した私は片足を引きずりながら、目の前のやつに手を引かれ、草影を低く駆け抜けていた。
 ようやく辿り着いた先は自然にできた洞穴。少し入口の分かりにくい場所。そこに身を潜め、追っ手をやり過ごす。私とこいつの久方の再会は、何とも忙しないものだった。


「行ったか……」


 こいつは岩の壁に背中を預けて座り込み、入口へと首を捻って外の様子を伺っていた。
その右隣、洞窟の奥側に座っていた私は、荒い呼吸を整えつつ、そんな沖田のことをまじまじと見ていた。
 随分髪の長さが伸びたようで。服装も昔はこんなじゃなかった。先程手を掴まれ引っ張られたとき、一瞬誰だかわからなかった。敵に捕まってしまったかと観念しかけたのだけれど。なぜか。手首を掴み続けられる感触でこいつだとわかった。言葉ではうまく説明できない感覚だった。
 しばらくすると、沖田は私に振り返った。


「ここなら安心して隠れられ…………痛ったっ!」


 渾身のデコピンを食らわすと、前髪ごと額を押さえて軽く悶えていた。


「てめー……人がせっかく助けてやったってェのに」
「お前の方こそ何してるのよ!誰が助けてくれって頼んだわけ!?」


 久しぶりに会ったって。挨拶も何もないしいきなりお互い喧嘩腰。
 私たちを取り巻く世界は随分と変わってしまったけれど。こんな些細なやりとりは、2年前と何も変わっちゃいなかった。


「てめー……えらく変わったもんだな?」
「何がよ?」
「何そのキメェしゃべり方。アルアル言ってた似非チャイナ語はどこ行った?」
「……そういえば。前はそんな口調だったわね」


 随分と昔のことのように感じるけれど。月日は流れてしまった。些細な事も、実は気づかないうちに随分と変わってたのかもしれない。
 例えば、こいつの長い髪もそうだ。サラサラと真っ直ぐで色素が薄いのは変わらないのに。肩下まで伸びたというだけで酷く印象が変わるものだ。私と同じくらいか、それより少し短いくらいだろうか。


「……とにかく、余計なこと頼んでもないのにしないで!お前に貸し作るのだけはごめんなんだから!」
「じゃァ俺に助けられんで済むようさっさと逃げりゃよかったろ?何ボサッとして怪我なんかしてんだよクソアマが」
「……それは、ちょっと気を抜いてただけ。いつもなら私はこんなヘマしない!」


 あの場所で目にしたものに、動揺して。複雑な気持ちに混乱していたから。敵の存在に気づくのに、完全に遅れてしまった。

 不意に足を鉄砲で打たれて、あの場で倒れてしまった。気づくとふくらはぎから流血している。見た目ほど痛くはない。けれど、足がブラブラして力が入らず歩けなかった。
 相手は複数人。取り囲まれてリンチ直前の空気だった。だけど、残った片足と両腕はなんなく使えたから。別に、私一人で蹴散らせる。そう思っていた私は、私の背後で足音を殺し近づいてきてた敵一人を、こいつが抜刀して斬り伏せるまで、気づけなかった。自分が窮地に立たされていたことを知ったときには、既に手を乱暴に引かれ、林を一目散に駆け抜けていた。
 情けないけどこいつの言う通り。私はヘマしてしまった。
 定春と一緒なら、もっと違っていたのかと思う。けど、スナックお登勢に預けていた。今日は一緒じゃない。一人が良かったから。

 今の私、足からけっこう血が出ているんだけど。その首に巻いてる長いスカーフとか使って止血してくれるような優しさは微塵も感じさせない。完全放置だ。
 ……ま、同じような怪我したかつての私にモタモタすんな走れと命令してたくらいだから。そんな優しさ端から期待してないけれど。
 こいつは優しさどころか。死んだような目をしながら、私にため息混じりで文句を垂れた。


「てめーも知ってんだろィ。白詛に感染してる疑いある江戸の連中を、片っ端から消しにかかってる野蛮集団がいることくらい。こんな世の中で気ィ抜いてたもクソもねーだろう。死ね」
「だったら、お前の方こそ復職して江戸のために働いてよ?肝っ心なときホント役に立たない警察なんだから。お前が死ね」
「もう警察でもなんでもねェ。ただの人斬り浪士だよ」


 お登勢さんからいろいろ見知った面々のことは聞いていた。真選組はとっくに解散しマジもんのチンピラ集団になったと。特にこいつは単体で悪名を馳せてると聞いちゃいたけれど……。まさかこんなところで出会すなんて思ってもみなかった。


「人斬りがあんな墓地で何してたのよ。斬ってきた人間たちの弔いでもしに来たってわけ?」
「へっ、そいつァたぶんてめーがあそこにいた理由とおんなじだ。……墓ができちまったんだろう?団子持ってって供えてやろうと思ったのにさ。行き掛けにこのザマだ。団子結局供えれてねーや」


 そう言って。懐から小さな竹皮の包みを取り出して開いた。中には甘そうな蜜がたっぷりの串団子。そのひとつを手に取り、頬張り始めた。
 あとでお供えしに行けばいいのに。……まぁ差し詰め、お墓の前でも同じように見せつけながら食べるつもりだったんでしょう?ドSならやりかねない。


「お前も食う?」
「いらない」


 返事した瞬間、狙ったかのように私のお腹の虫が合唱した。
 プッと笑われた。そして2本目の串を私の目の前にちらつかせてきた。


「ほーらほら欲しいって言ってみ?」
「……うぅ……毒、入ってないでしょうね?」
「てめーで食うつもりのもんに毒なんて入れねェだろ普通?」


 小さな洞窟の中に、甘い蜜の匂いが広まっていた。私は団子串を無言で受けとると。はむッと一口で全部を頬張り食った。柔らかくてモチモチしてて旨い。こんなの食べたの久しぶりだった。

 今でもまだ。こんな甘いものを口にしていると。花に止まる蜜蜂のごとく、残飯に群がるGブリのごとく、……匂いに誘われひょっこりあいつが帰ってくるかもしれない。そんな気がしてしまう。
 立派な墓が建てられたって、関係ない。
 私の感覚の中で、あのバカは普通に生きている。


「お前は……誰からお墓のこと、聞いたアルか?」


 口にして。ハッとした。無意識のうちに。昔の言葉が出てきてしまった。一時でも、あの男に想いを馳せていたせいだ。
 だから私は、こんなところで見知った人に会いたくなかったのに。
 そういうときに限ってひょっこり出てくるのがこのドS野郎だ。私の言葉を聞いて、ハハッと小さく笑ってきた。


「あんたやっぱそっちの喋り方のが合ってるよ、バカっぽくて」
「うるさい!いいから私の質問に答えなさい!」


 おそらく情報を植え付けた犯人は、元副長のマヨネーズか。もしくは、今マヨネーズと交流のあるエリーか。そんなところだろう。この前道で偶然エリーに会ったけど。あいつすっかりお喋りになってたからな。そう考えていたのに。


「眼鏡……いや、新八くんから聞いたよ。旦那の墓が建ったってな」


 思いも寄らない人物の名前が飛び出したもんで。私は持ってた団子の串を指から滑らせてしまった。蜜の残りが、着流しの裾の模様を汚した。慌てて手で拭うと余計広がって最悪。血もついてしまったし。またお登勢さんに頼んで洗濯しなきゃ。
 いや……今は洗濯じゃなくて。詮索しなくちゃいけない。こいつがあいつと接触したって経緯を。


「なんでよ?なんであいつとお前が交流持ってるのよ?」
「あーれ?嫉妬ですかィお嬢さん?」


 嫉妬って何?どっちに対しても嫉妬なんてしないわよ。
 こいつは2本目の団子を手にとった。私の食べた串と合わせて計3本。竹皮の包みは残り蜜だけになった。


「嫉妬じゃない。けど、私はあいつに全然会ってないし。お前に会うのも久方振りなのに。お前らに何の接点があるっていうの?」
「接点っつったら。お前のことか旦那のことくらいなもんだろィ。ちと考えりゃわかるはずだぜ?」
「だから…ッ!私と、……銀ちゃんとが、なんだって言うのよ!?」


 こそこそ二人で話してるなんて。男らしくない!卑怯者共ッ!
 私は、お墓を建てた本人であるお登勢さんから聞いて知った。けどそれは、お登勢さんが新八に話したあとだった。あいつは……私に一言も声掛けてくれなかった。一緒にお墓に行こうとも。生きてるだろうから大丈夫だよ、とも。
 なのになんで……こんなやつに話してるのよ??

 ……私だって。銀ちゃんのこと。ずっと想ってるのに。帰ってくるって、ずっと信じて待ってるのに。誰より考え続けてるのに。
 勝手に私の知らないところで、お墓の話が出回るなんて。耐えられないじゃない……。


「……何泣いてんだ」
「泣いてなんて、ない!」


 こんなやつの横で、涙が出てきてしまう私じゃなかったのに。やだ、こんなの。
 銀ちゃんのこと思い出すのは。一人でいるときと、お登勢さんと居るときとだけって決めてた。でないと頭の中が正常を保てないから。
 何回も何回も、最後の日のこと思い出して。何回も何回も泣いたのに。まだ涙が出てくる。
 いつになったら私は平気になるんだろう。
 いつになったら……私と新八は、笑って向き合えるんだろう。


「ハイハイ、そーゆうことにしといてやるよ」


 沖田の言うことに、耳も傾けないし。目だって合わせてやらない。
 泣き顔なんて見せたくないから。膝を折って、顔をうずめて。じっとしていた。

 ……しばらくの間が空く。

 隣でこいつが何してるのかなんてわからない。ただ、団子も食べ終わってるはずなのにじっと。喋りもしない。物音もしない。なんだろう。私は……沖田がずっとこっちを見てきてるような感じがしていた。余計顔上げづらいから。私もそのまま動かないでいる。

 すると、左から、声が聞こえた。


「そのぼんぼり、貸して」


 突然そんなことを言われた。
 穏やかな声と裏腹に。乱暴に。左側に付けていた髪飾りを外された。
 ピンで留める仕組みなのに、無理やり外そうとするもんだから。髪の毛が絡まって地肌をピンポイントで引っ張られて、地味に痛かった。


「あたたっ!何するのよ離せ!」


 ぼんぼりなんかどうすんのよ?うんこするってんならお断りよ!
 指で絡まった髪を取りつつ。半球が外された。


「なんだ、こいつで髪留めてたわけじゃねーのか」


 半球にピンが付いてるだけのその髪飾りを地面に置いて。今度はぼんぼりの中にしまってたシニヨンをほどこうとまた無理やり髪を弄られた。
 だから痛いって!!


「女の子の髪の毛に乱暴するなんてサイテー!!」


 涙もすっかり枯れて抗議したが。程なくして髪が半分だけほどかれた。元々髪は八割型おろしていて。残り二割をすくって両サイドのシニヨンにしていたから。髪全部が痛められたわけじゃないけど。それでも、ぼんぼりの中にあった髪の毛はチリチリと無惨な痕を残していた。


「こいつ、俺にくれねェか?」
「……何に使うのよ、そんなもの」
「何って。使い道はひとつだろィ」


 こいつは私から奪った一本の髪留めのゴムを唇に咥えて、おもむろに自分の髪をひとつに束ね始めた。
 昔に比べて随分と長く伸びていたのに。ざんばらに乱していた髪を、手櫛で後頭部へまとめる。そして、そのゴムを使ってひとつに結うと。私の方を見てニヤリとした。


「どうでィ?意外と似合ってるだろ」


 自身の頭を指さし評価を問うそいつに、とりあえず拳で殴るという天罰を与えてやった。


「痛っでェ!何しやがるてめー!」
「お前こそ人の髪留め勝手に使って何してんのよ!返せそれ!」


 私は怒っているのに。こいつはヘラヘラとして嫌なこったと答えてくる。ほんとに腹が立つ。


「どーせほとんど髪おろしてんだろィお前。だったら俺が有効活用してやろーって話だ」
「ふざけないでよ!片方だけぼんぼり付いてちゃバランスおかしいじゃない!」
「いーや。アシンメトリーも流行ってんだろ。存外その髪型も悪かねェよ」


 俺はちょうど欲しかったもんでねィ、と。結った髪を片手でユサユサ弄りながら私に笑いかける。


「髪伸びてきてて鬱陶しかったんでねィ。ちょうどいいや。ありがとな」
「……もう知らない。お前の髪に触れたゴムでもっかい髪結う気になれないわ!髪乱暴に扱うし!一生許さないんだから!」


 イライラしながら睨んで答えると。こいつはフッとにやけた笑みを消して。穏やかな笑みをしてみせた。


「そうかィ。ならまた泣きそうになったときゃ思い出せばいいさ。髪型アシンメトリーにされて腹立たしかったこと思い出して、涙引っ込めりゃいい」


 その言葉に。声色に。
 ……胸が打たれるような想いがした。

 こいつは。私が泣いていたのを知っていて。こんな茶番をする。
 ……こんな優しいやつじゃなかったのに。
やっぱり、世界はいろいろと変わってしまったのだと、そんな気がした。


「しっかしこれ、首とか耳の辺りがスースーすんな。あんま慣れねーけど涼しィし。髪結いってのはいいもんだ」
「……ちょっとそれ、直させて」


 へっ?と少し驚いている沖田を、背中がこちらに向く形で座るよう促した。刺すつもりじゃねーだろうな?と変な勘繰りをされたからやんわり否定した。すると大人しく私に背中を向けたから。私はそのゴムをほどいて、髪を束ね直してやる。


「何してんだてめー」
「お前の結い方下手すぎ。髪弛んでるし、後れ髪が多すぎるし。私がちゃんと結ってやるからじっとしといてちょうだい」


 髪を手櫛で整えつつ。そう言ってやると。沖田は黙っていた。黙って私に身を……いや、髪を。預けていた。
 こいつの髪はほんとに憎たらしいほど綺麗だった。心の綺麗さを全て髪に捧げてしまったのではないかとさえ感じた。
 指がするりするりと通る。髪の量も多すぎず少なすぎず、そんなに上手くない私の手付きでも上手にまとまっていく。

 つと、後れ毛拾おうと首元のスカーフをずらしたとき、あまり見たことのなかったうなじが目に留まった。
 昔から襟足長めの髪型をしていたからか。日に当たっていないそこの肌はやけに白く、綺麗だと感じた。ここにも心の醜悪さの反動があるのかと、納得する。


「あーなんか、……髪触ってもらってっと気持ちィ。眠くなってくる」
「美容院じゃあるまいし、大袈裟な」


 この辺が弛みやすいから、と。一応説明しつつ。結い方を教えてやった。ちゃんと聞いてるのかは知らないけど。ふーんと生返事は返ってくる。

 結い終わった。何か誰かとキャラが被りそうな気もしたけれど知らない。ゴムがひとつしかないのだし仕方ない。
あれ?もう終わった?と聞いてくる沖田に、私は代金を請求したりはしない。


「今ので私からのお礼はおしまい。美容院代で恩は帳消しってことで、宜しくするわ」
「へーい……」


 ほんとに眠そうな声で返ってきたから。バンバンッと肩を叩いてやった。こんな洞窟で寝てどうするのよ!と。起こしてやると。あ!そういや…!と。叩かれた反動で何か思い出したような反応をした。


「俺が新八くんに会ったって話したけど。……別にそう頻繁に会うわけじゃねーし。こないだ墓のこと聞いたのも偶然道で会っただけだから。まァ安心しろィ」


 道、といっても。こんな今の江戸の街をフラフラ歩く人なんてそういない。きっと二人とも、同じチンピラでも取り締まってたんじゃないだろうか。

 こんな地球から出ていこうとしない侍たち。こいつらは頑固だ。頑固で馬鹿で。
けれど、そんな人間どもに周り固められて、染められてしまったのは。私も同じだ。

 背中を向けたままの、ひとつに結ったその長い髪を私はずっと弄ってた。サラサラと気持ちいい。こいつも別に抗議してこないから。遠慮なく、指にくるりくるりと絡めて弄っていた。


「ひとつ聞きてーんだが」
「何か?」
「てめーは夜兎なんだろう。必ずしも生まれ故郷じゃねーこの星に残って病死してって。それでもいいのか。……出ていくことだって出来るし誰もそれを責めたりできねーんだ。
 泣くほど辛ェってんなら尚更そうしたらどうなんだ?」


 私はこいつの髪を、抗議の意味も含めて、ちょっと強めにクイクイッと引っ張った。


「だから私は、泣いてなんて……」
「あーハイハイ、泣いてない泣いてない」
「それに!……私は、お前やあいつと一緒で。護りたい人たちがまだここにいる。会いたい人がこの地球にいる。だから……出ていきたくなんて、ないアル。ずっと……待ってるアル」


 言ってるそばからまた、涙が溢れてきて泣きそうになっていて。口癖も出てしまった。
ああもう、ほんとに自分で嫌になる……!

 強くならなくちゃいけないのに。
 いつだって胸張って。銀ちゃんにおかえりって言えるように。3人で万事屋をやれるように。
 私は、今は……歯ァ食い縛って、頑張らなきゃいけないのに……!

 涙に、体力を奪われていくような気さえする。頭の中もフラフラする。
 だから、目の前にあるその背中に、おでこを預けて。じっとした。
 それで感じ取ってほしかった。今は振り向かないでほしいって。
 今の顔、お前には見られたくないから。
 綺麗な髪とうなじに、心の中でお願いする。

 沖田は私の行動を振り払うこともなく。ただ、楽しそうな声で言う。


「悪ィが。俺は相変わらずSなんでな。お前がもっと泣きそーになることを教えてやらァ」


 私の方へと振り向こうとしないまま。
 背中を貸してくれたまま。
 こいつはとんでもないことを言う。


「随分前に新八くんに頼まれたんだ。遠くからでもいい、お前のことを見護ってやってくれってな」


 新八……。

 浮かんだのは、新八の優しい笑顔だった。

 新八にはほんとに随分長い間会ってない。
喧嘩して、それっきり。
 もう私のことを、名前ですら呼んでくれないまま。出て行ってしまった。

 いつも入れ違いで。お登勢さんからの話と。あと前に一度だけ、遠くから見掛けたときの姿だけが、私の頭には残ってる。

 あいつも万事屋を始めたのだと聞いた。
 あいつも沖田ほどじゃないけど。髪が伸びていて。木刀で颯爽と敵を蹴散らしているのを見た。
 そして……私のこと嫌ってるくせに。私を護ってくれと。こんなやつに言ったのだと、知った。

 あいつはとっくに強くなっていた。


「図々しィよな?護りが必要ってんならてめーがやれって話だ。俺ァ丁重にお断りしといたからまァ安心しろ?」


 この沖田という男は。
 そんな憎まれ口を叩きながら。私の手を引いて、ここまで連れてきてくれた。
 そして私に今、背中を貸し続けてくれている。
 私の泣き顔を見ないでいてくれている。

 強いやつだ。昔から知ってる。
 私が影響を受けた侍の一人だ。


 なのに私は……銀ちゃんのこと思い出す度に、泣いてばかりで。
 むしろ昔より、弱くなっちゃったかもしれない。

 涙も、嗚咽も。全部飲み込んで。顔を手でごしごしと拭いた。
 しばらくじっとしてから……私は言った。


「……私、強くなりたいアル!もっと、大事な人たち護れるように……強くなりたいッ!」


 私の大きな声に。沖田が、ゆっくりと振り向いた。
 髪が翻って。背中がくるりと後ろへ回って、正面同士向き合う態勢になった。
 すると、袴の袖ごと片腕だけが伸びてきた。
 そのまま体を引き寄せて、私の頭を、片腕で優しく抱き締めてくれた。
 触れる髪先のくすぐったさに。胸元の体温の温かさに。私は驚く気持ちよりも。安心できる気持ちの方が勝っていた。


「よしよし、その気概があんならまァ、俺の護りなんて安っぽいもんも必要ねェだろう。」


 と。私の後頭部をわしゃわしゃっと撫でたあと。ぞんざいに突き放された。
 沖田はその場で立ち上がった、私に背を向けた。


「ま、今度からはもちっと背後に気ィつけな?どーせああいう悪党共も、自分らのやってることの無意味さにそのうち気づくだろィ。それまでの辛抱だ」


 振り返ったそのときの顔を、私は目に焼き付けた。
 竹串咥えて、ニッと笑う顔に。
 護られたんだ。私は。


「じゃーな。俺ァもう行くわ」
「……もう行くのか?」


 こいつは洞窟の出口へと向かう。
 私はその背中についていこうとして、やっぱりやめて立ち止まった。
 私がお礼の言葉なんて口にしようもんなら、こいつがそれを制止するのもまた私は知っている。


「達者で。もう昔みてェに公園でボーッとすることもできねーが。ま、気が向いたら顔出してやらァ」
「……生憎。私だって一人で万事屋始めたんだから。いろいろ忙しいの!ま、気が向いたら私も物見遊山に公園へ寄ってやるわ」


 私がまっすぐにそう返すと。黙って去っていった。
 長い髪が翻る。その後ろ姿は、ざんばら髪よりも様になっていて、綺麗だと思った。

 私の髪型も。右半分の気持ちは昔のまま。左半分の気持ちは、あいつにあげた。
 あいつら3人みたいに強くなっていくからと。
 この新しい髪型に誓ったの。
 存外似合っているでしょう?

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