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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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心取引

取引がしたい陸奥と、取引とか考えない坂本の話です。
※坂陸奥初心者です
※土佐弁の不正確さはご了承ください








「ちくとええがか、商売の知識んことでおまんに聞きたいことあるき」
「ん、別に構わんが、なんじゃ?陸奥は勉強熱心じゃのう……アッハッハ!」


 テーブルの上に並びゆう食事目の前に会話する、こいつとわし。
 二人きりで食事とることはそう珍しゅうない。他の隊員が大方食事済ますまでの間、仕事に専念せんといかんき。そんときはたいてい、こいつと二人で遅めの食事をとらざるをえんのじゃ。

 わしは、こいつの何考えゆうかわからん瞳が、ちくと苦手じゃ。
 ……いや、何も考えちょらんのかもしらんが。とにかく、苦手じゃ。
 食事中、向かいに座るこいつのグラサンの隙間からちくと見えるその瞳が、まっすぐ見れんき。
 わしはこいつと目ぇ合わせん。皿の上の肉でもぎりぎり切りながら、前々から聞いてみたかったこと聞いてみた。


「おまんは、いくらで売れる思うが」
「何がじゃ?」
「わしの体じゃ」
「体のう…………そりゃぁオナゴと言やオッパイがボインでお尻が……………って!?ん??おお?!?!」


 ナイフとフォークを宙に浮かせたまま黙りよるきに、もう一度問うてやる。


「わしの体、いくらじゃ?」


 ブッシャァァアーーー!!!


 盛大にゲロる、とゆうより、口にしたてのもん噴射しよる。
 リアクション遅すぎじゃ。めんどくさい。
 こいつの船酔いからのリバースには存分に付き合わされちゅうき、わしの反射神経は慣れゆう。
 やき、被害は大きくはないけんど。盾にしたせいで吐しゃ物まみれになっちゅうこの日除け傘のクリーニング代は、あとできっちり弁償してもらわないかんぜよ。


「きゅきゅきゅ、急にどうしたが陸奥!?え!?何!?なんか変なもんでも食うたがか??」
「変なもん撒き散らしとんはおまんじゃボケが」


 布巾で口拭いながら、え?ええーっ??と、長寿アニメの□スオのイントネーションで声裏返しよる。リアクションが激しい上、声デカいき、まっことウザい。
 今さら何じゃ。ついさっき離陸した星でいつも通り女遊びしちょったおまんが。体の値段がどうこうの話題、そないびっくりすることもなか。

 ……けんど一応、わしのこと、オナゴとして見てくれるがか。
 坂本はふざけた口調とリアクションを一度改め、ナイフとフォークも皿に置き、わしに面と向かって言う。


「言っとくけんど、わしはそんな商売はしちょらんき。それはおまんが一番ようわかりゆうやか」
「ああ。別に商品になる気は無か」
「ほなら、なしてそないなこと聞く?」


 食事も終わっちょったき、わしは背もたれに体預け、坂本の顔を見ちょった。目線はうまいこと外して見ちゅう。
 相変わらずボサボサッとした頭ぜよ。もじゃもじゃにサングラスかけて、不思議そうにわしを見ゆうきに。こいつは何もわからんようじゃ。

 まぁハナから期待はしちょらん。
 わしの気持ちがこいつに勝手に見透かされゆうとしたら、それはそれで癪ぜよ。


「……おまんあん時言うたじゃか。おまんが船ごと、奴隷ごと、買うたんじゃと。つまり、わしもおまんに買われたゆうことやか」
「はぁ、まぁ……たしかに言うたぜよ。けんど、それが値段どうこうと何に関係あるが?」
「わしは………おまんがわしにくれた対価に、見合いゆうがか?ちゃんと吊り合いゆうがか?……それが気になっちゅうだけのことぜよ」


 人身売買っちゅうんは、男ならそれは労働力、女ならそれは……。
 そうゆう事情は幼い頃からとうに知っちょった。
 おまんは、わしや元奴隷だった皆を、男女で分けることはせんかった。皆等しく労働力として買い取ったき。それでなんの不満も無かった。


 けんど、不満はないが、不安はある。
 わしが、わしだけが、
 ……おまんに染まっちゅうことぜよ。


 一番分かり易いんは口癖じゃ。
 わしはもともと一人称は「わし」やのうて「私」じゃ。語尾も、イントネーションも、おまんのせいで歪み染まっちゅうき。
 口癖だけやない。商売人としての思考も、知識も、おまん譲りじゃ。


 そんで、……異性意識する思考も。
 十四のわしは全く知らんかった。
 おまんをそばで見てくうち、初めて知ったぜよ。


 ま、さすがにおまんとは違うて、わしは程度わきまえゆうが。
 むしろ、おまんと正反対じゃ。これまでまだ一度も、気持ちオープンにしたこと無か。
 わしの感情をどう伝えればええがか、どううまく伝えれるがか、わしは全然わかっちょらんのじゃ。


「坂本、おまんは………わしをいくらの対価で買っちょったがか?」


 おまんは暗く広い海の上を、たった一人で転がっとった。
 わしは、おまんを拾ったぜよ。
 けんど、おまんは今も昔も変わらん。
 デカくてゴツゴツして粗っぽい、品の無い石ころじゃ。
 川の上流から下流まで流し転がしたところで、おまんのイビツな形は変わりよらん。びくともせんのじゃ。

 他方でわしも昔、千鳥という名の暗く汚い土壌に、たった一人でころっと転がっとった。
 それを拾ったんはおまんぜよ。
 わしは随分角がとれちゅう。
 おまんがゴロゴロとぶつかりながら、わしを綺麗に磨いてくれたきに。
 磨いて、つるつると丸い石ころにしたんはおまんじゃ。

 けんど、おまんは、なんも変わりよらん。
 角が取れん。バカはバカのまま。出会った頃のおまんと、なんも変わらん。


 形が変わったんは、わしの心だけぜよ。


 悔しいき。
 おまんは、わしの心を買いよった。そんくせ、体は決して買わんのじゃ。
 勝手に分割して、心だけを買っていきよった。
 こんなん……対価吊り合っちゅうがか?


「なーんやそがなこと! 陸奥、心配せんでも、おまんの対価なら十分もろとるぜよ。むしろお釣りがこじゃんとある。こんだけ快援隊の規模が膨らみゆうんも、おまんのお蔭じゃ。
 わしはおまんがそばにいて、良かった思っちょる」


 けんどなぁ、陸奥、と。
 こいつはニカッと笑いゆう。初めて出会ったときとおんなじツラじゃ。


「おまんの体なんぞ、いくらの値を提示されようと、わしは欲しゅうないぜよ。そんなもんは買わんき」


 ふーごちそーさまぁ!と、手ぇ合わす。ごちそうはさっき吐いて目の前に残骸出しちょったくせよう言うぜよ。

 食うてもない食事の残骸に、ごちそうさまと手ぇ合わす。
 そんなおまんは、やはりふざけちょる。


「わしの体には、価値がないゆうことか?」
「んなこたぁ言っとらんき。なんじゃ……おまん、そんなに価値付けとうがか?」


 ガッと、テーブルを土足で踏み越えて、いつの間にか胸倉掴みゆうことに気づいたんはそんときじゃ。
 こいつやない、わしがこいつの胸倉掴んどる。思うより体が勝手に動きよった。
 拳銃でもない。拳でもない。ただ胸倉掴んで睨みゆうだけ。いつものわしに比較すればまっこと大人しい方ぜよ。

 けんど、もっと大人しいのは無抵抗のこいつじゃ。それがどうもしっくりこん。
 相変わらずヘラヘラしゆう。体の値段がどうこう言う下世話なわしの話にもキレたりせん。おまんは、まっこと変わっちゅうやつやき。


 そんなおまんに、惹かれゆうが。


 黙ったまんま、わしの苦手なその瞳をまっすぐわしの目に刺してきゆう。
 その目が、胸の奥から感情突き上げてくるきに。たまらんのじゃ。

 昔のわしはこげなこと、無かったはず。
 いったいいつからじゃ。胸の奥ずきんずきん軋みよる。気づけばいつの間にか、まともにその目を見れんなっちょった。

 その瞳、苦手ぜよ。
 惚れてしまうきに。
 胸倉掴む手もちくと震える。この心内を悟られんようセーブすんので神経精一杯。耐えきれんで、しまいには手ぇ離すしかなか。
 わしが離れると、襟元整えながら、いつもの呑気な調子で言いよる。


「わしには、おまんに値札は付けれんのう………。まぁ最近よう言うじゃろ?その笑顔、スマイル、プライスレスぜよ」
「わしがいつおまんにスマイル見せたき」
「あ……。んー………んじゃ、その女らしさの欠片もないしかめっ面プライスレぐわはぁ!!!」


 あくまでわしを女扱いせんこいつに、もうわしは呆れたき。わしはこいつを人間扱いすんのやめゆう。
 胸倉解放した代わり、もじゃ頭を思いきりベコバコどついたるぜよ。


「痛ってて!!さっきから何ぜよ??今日のおまんいつもに輪をかけて不機嫌なりゆうが、なんかおうたか?」
「なんもねーぜよ、けんど、ただ……」


 このアホには言わな伝わらん。んなことはもう百も承知じゃ。
 やき、わしはあえて言ってこんかった。
 ずっと何もせんまま、何もならんまま。
 月日は流れちゅう。わしも、歳重ねてくばかり……。





「……生鮮品じゃ。価値の下落を気にすんのは、商売人の性やき」


 わしかて、不安はあるぜよ。

 花はいつか醜ぅ枯れる。
 食品はいつか腐って食えんくなる。

 もしおまんが許すんなら、おまんがちくとでもわしを女として見てくれゆうなら、
 早よ見て欲しい、綺麗なうちに。
 早よいだいて欲しい、味わえるうちに。

 おまんは知らんのじゃ。
 わしが毎晩、おまんのこと考えゆうこと。
 そのせいか最近寝不足じゃ。夜更かしは美容の大敵ぜよ……。


「生鮮品……のう……」


 アッハッハと笑うこともなく。珍しい。顎に手を当ててしばし静かに考えこむ姿に、わしは思わず息を呑む。

 そして、どついた後頭部をさすりながら、ゆらりと立ち上がる。
 立って並ぶと、そこそこ背ぇ高いわしよりも一回り背の高い。頭が軽いがか。図体がでかくて。わしが少しだけ見上げる体制になる。


「陸奥、おまんは生鮮品とは違ごうぜよ。価値は下がらん。悲観するこたぁなんもない……」


 坂本は商売人のくせ、背はデカいし図体はええ。腕の筋肉もそこそこ付いちゅう。それは、過去に攘夷戦争を越えた証しでもある。

 けんど、その腕っぷしに
 正面から体を包まれたんは、今が初めてじゃ。


「お、おい……」
「よしよしハグしたる」
「お、おちょくんのも大概に……」


 こいつに抱き締められゆう。顔が熱い。

 あまりにも突然やき、息、止めちゅう。
 ああ、いかん。
 頭がこんがらがってきよった。
 思考がうまく回らん……。

 目ぇきゅっとつぶって引き離そうとするけんど、離れん。こいつの腕が強い。けんど、それ以上に、わしの腕に、力が入らん。


「……か、株や通貨とも、おんなじじゃ。買い時は、いつまでも続かん」
「んなこたぁないぜよ。わしが保証するきに」
「……信用ならん担保じゃ。どこも買い手がつかんぜよ」


 わしがそう言いゆう間もこいつはずっと腕を離さん。
 苦しくて、埋もれてしまいたくて、
 上がりっぱなしの鼓動が、いい加減うるさぁなってきよった。

 ぬくい。体が火照らされてきよる。
 わしは、……おまんに、期待してしまう。


「アッハッハ!!おまんの担保に今のわしじゃぁ力不足よのう……。さーて飯も食うたし、保証人坂本辰馬の信用上げてくためにも、商売に勤しむとするぜよ!」


 けんど、おまんは。決してわしを買いとろうとはせんのじゃ。
 そーっと体を突き放して、わしの頭を優しく撫でる。そんだけじゃ。
 間近で一瞬視界をかすめた唇も、離れる。
 わしから離れてく。部屋から去ってく。


「坂本……おまんは……」
「おまんは立派なオナゴである以前に立派な人間ぜよ。……人の価値はなぁ、一生上がり続けるき」


 振り返る、その瞳は、
 わしが惚れちゅう瞳じゃ。


「わしは、おまんというオナゴやのうて。おまんという人間がまっこと好きじゃ」


 そう言い残し、扉が閉まった。
 わしはその場で膝から崩れちゅう。

 心臓がまだやかましい。
 今の言葉を思い返すだけで、胸が、耳の裏が、熱を含み始める。

 アホで女ったらしで図体ばかりでデカい、アホなやつじゃ。
 けんど、わしを、想うてくれる。
 傷つけんよう、壊さんよう。大事にしてくれちゅうことは、とっくに知っちゅうき。


 わしがかつて経験したことのない感情、おまんは与えてくれるばかりじゃ。


「おまんは、なかなか取引先になってくれんのう、坂本」


 おまんはあくまで保証人と言い張る。たしかにそれも嬉しいんじゃ。
 けんどいつか、取引先になってくれんか。
 わしは欲しゅうてたまらんのじゃ。
 体も心も、品を揃えて待ちゆうぜよ。


 おまんの心は、いつわしに売ってくれるがか?



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