追憶 kaneki x touka 2015年01月31日 あの…すみません、これください。え、はい、…プレゼント用です。 *****その日は、いい天気だった。マジかよお前、あのクソトーカとデートか!と、ニシキが数日前に言っていた言葉が何故かふとよぎったカネキ。思わずぶんぶん頭をふった。「なにやってんだよカネキ」トーカは電車のドアにもたれかかったままいつもの調子で言った。眼帯に私服、いつも通りのカネキは慌ててなんでもないよと返す。「ちょっと思い出したことがあって」「なんだ?用があるなら帰っていいぞ」「と、トーカちゃん…、今出発したばっかなのに…」たった数分前、二人はホームから電車に乗り込んだばかりだった。ガタガタと快速電車に揺られること数分。ふと、向こうに座っていた小学生くらいの男の子が、かっぷるだー!でーとだー!と二人を指差しながらはしゃいでいた。ムッとにらみ返したトーカ。こらやめなさいとたしなめた母親。男の子は静かになった。「私はあんたに¨デート¨なんて頼んだ覚えないんだけど」「デ、デートって…!今日はそうゆうわけでは…」「は?じゃぁ何?女子高生単独で誘っといてデートじゃないってなんなのナメてんの?」「ご……ごめん。じゃぁデートでいいよ」「じゃぁってなんだよこのクソカネキが」行きの電車で早々この調子。カネキは先が少し思いやられていた。そんなカネキを見て、クスッとしたくなる気持ちを隠していたのはトーカ。*****今日、電車の中は静かだった。昼時の、通勤通学ラッシュから外れた平日。トーカは一人でドアのそばに立っていた。いくら座る席がたくさん空いていても、外の景色を見ていたい気分だったから。あとで聞いた話だ。あのとき、月山との一件以来落ち込んでいたトーカを、気晴らしに連れ出してあげてほしいと、店長が頼んでいたそうだ。カネキらしいといえばカネキらしい。何も言わずに、出掛けようと誘ってくれた。今となっては、もう、あいつは……いや、考えすぎるのはやめよう。トーカはドアにもたれかかって、ただただ窓の外を眺めていた。あのとき、小さな男の子がからかってきた、あの瞬間、たしかに、あいつはいたんだ。私のすぐそばに。*****休日の昼時は家族連れやらカップルやらで多くの店が賑わっている。駅を降りて数分歩いた先のショッピング街。人ごみがすごくて二人ははぐれそうになっていた。「トーカちゃん、どこ?」「ここ」そっけなく返したトーカ。カネキが振り返ると、トーカは右から左へと流れる人ごみと共にそのまま左の通路へと流されそうになっていた。「やばい!トーカちゃんそっちじゃないこっち来て!」ポケットに入れられていたトーカの手。その手首をパシッと掴むと、カネキは前へ前へと人ごみを掻き分けて進んだ。「ちょ、引っ張んな!」手を繋いでいるとはお世辞にも言えない。乱暴というか、むしろ手と手を繋ぐことを遠慮した結果、そんな態様となった。四方との特訓で握力がついてきたのか、けっこう強い力で握られていて少し痛いくらいだった。けれど、トーカは振り払う気にもなれず。いつになく前進するカネキに身を任せそのままついていった。「ほら、ここだよ」人ごみを掻き分けた先にある小さなお店。カネキが指差す先には下調べ済みの大きな商品が、どんとショーウィンドウに展示されていた。「特大…限定生産版……」ぼそぼそとつぶやきながらショーウィンドウに張り付いてるトーカのことがなんだか面白くて、カネキはこっそり笑っていった。「おいなに笑ってんだよ」いや、こっそりになっていなかった。「な、中に入る?お店の人に言ったらさわらしてもらえるらしいよ!」ついでに記念撮影もできるらしい…とカネキがポスターを見ながら情報を付け加える前に、既にトーカは店の入り口をくぐっていた。*****今日、トーカがここへ来たのは数ヵ月ぶりだった。依子と遊びに来たこともあったが、受験生となった今、こんなところまで出掛けることもなかなかできなかった。平日の日中にしてはそこそこの人通り。それでもあのときに比べればとてもすいている。「…あった」店の形、ショーウィンドウは以前のまま。ただ、そこに飾られているぬいぐるみは、茶色のふわふわした大きな熊に変わっていた。「……誰か買っちゃったのかな」そこにはあのときたしかに、特大限定生産品のカチカチが居座っていたが。今はその面影もなかった。*****「はぁ?買ってくれないの?」「さ、さすがにちょっと…」覚悟はしてたけれどやっぱりぬいぐるみというものはサイズに比例してなかなかの値段だった。とりあえずカネキの今の所持金ではどうすることもできなかった。「ごめんね、トーカちゃん」「…いいよ、値段が値段だし。部屋の場所とるし」ショッピングモールを出てから、暑苦しい人ごみを避け、比較的すいている隣の駅まで、線路沿いの道を歩いていた。小石を蹴りながらの帰り道いつの間にか日は暮れ辺りはオレンジ色に染まっている。トーカはカネキに視線を合わせようとしない。「でも、…見てさわらせてもらえただけでも十分だったよ。 ありがとね」さわるというか、行き過ぎた愛情のあまり、特大カチカチを危うく抱きしめつぶすんじゃないかと心配になっていたことは内緒。そのせいで店員に二人して怒られ、記念写真は撮れなかったんだけど。でも、カネキは、喜んでもらえたなら良かったと思い、そう伝えた。カチカチを目の前にしたときのトーカは、どこにでもいる、かわいいもの好きの、普通の女の子。誰も彼女が喰種だなんて、気づかない。「トーカちゃん、かわいかったよ」別に何の気もなく、思ったままを言っただけだった。だけど、振り返ってギロッとカネキは睨まれた。それは普通の女の子の顔ではない。「何、それ」「いや、普通にそう思っただけで、変な意味は…」小石を蹴るのをやめて立ち止まったトーカ。小道の途中で音もなく風が穏やかに流れる。急に辺りが静まり返ったような感覚がした。「私ってさ…何なんだろ」「何って、トーカちゃんはトーカちゃんだよ」トーカはまた前を向いて歩き出した。そうじゃなくてさ、と、トーカ。「「綺麗」って言われた、その言葉がずっとひっかかってて 今あんたが言った言葉もそう。 どっちも、私とはかけ離れすぎてて…意味わかんないよ……」先程まで少しはしゃいでいたトーカだったが、やはり、あれ以来少し元気がなかった。カネキはなんとか元気づけられないかと、精一杯言葉を選びながら伝える。「トーカちゃん。トーカちゃんはたしかに、怖かったり、ちょっと乱暴だったりする面もあるけど…」そんな前置きを黙って聞くトーカ。カネキは続ける。「でも、トーカちゃんはまっすぐで。いろんなことに一生懸命で。あと、戦う姿はかっこいいし…。 だからね、綺麗もかわいいも。いろんな面があるトーカちゃんの、一部だと思う。かけ離れてなんていないよ」「……何よ、それ。なぐさめ?」だが、なかなかトーカは心を開いてくれない。あんたにそんなこと言われたら、本気で信じてしまいそうになる。だからそんなのやめてよ。そんな気持ちがトーカの中ではうずまいていた。「いや、なぐさめというか…。気を悪くしたなら謝るよ。ごめんね…」「……うん。最悪」「ご、ごめ」「ストラップ」「へ?」トーカは立ち止まってくるりと踵を返した。そして後ろからついてきていたカネキを見据えた。「あるいはキーホルダーで」「え、何?カチカチの?」「そ」「わ、わかった。探しとくよ」「絶対だからな」「う、うん。いつかプレゼントするね」正直カチカチのぬいぐるみが手に入らなかったことはそれほど気にしてなかった。ただ、後ろから何も言わずついてきてくれるカネキのことが。自分のためにと、手を引っ張ってくれたカネキのことが。嬉しかった。それだけで、嬉しかったんだ。*****今日、トーカは少し疲れていた。ふと目を開けると、視界が開けた。「……あ、やばっ」どうやらうたた寝をしていたようだ。気がついたら机上の時計は午後9時をさそうとしている。腕の下にある問題集は書きかけのまま。久しぶりにショッピング街まで遠出をしたから、今日一日の勉強ノルマがまだ達成できていない。これじゃまたニシキにバカにされる。そこまで思い至ると、あわてて上半身を起こして、机に向き直った。「あ、ニシキの予定……」勉強を教えてもらっている身としてはこちらからきちんと連絡をとらなければならない。そう思い傍らのスマホを手にしたとき、ジャララスマホと一緒にくっついてきたのはカチカチのキーホルダーで、そこには「合格」の二文字。「………クソカネキが」ここにはいない人物の名前を涙ごと喰い潰す。こんな形でプレゼントされるなんてあのときは思いもしなかった。喰種の皮膚というのは頑丈で、怪我もすぐ治癒するというのに。どうして、この痛みだけは消えてくれないんだろう。あのときのように、手を引いてほしかったのに。私を置いて行ってしまった。なんて、考えても仕方ないけど……勉強しなければいけないんだけど……ぬいぐるみなんていらないから。だから、戻ってきてよ、カネキ。 [0回]PR