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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

キセキをください

※過去に雨の中のネジヒナ企画に参加させていただいたときのものです。(言葉遣いところどころ修正)
思いっきり原作に不忠実。夫婦設定です。
そのため苦手な方はご注意を。

(15/10/20 加筆修正)













「ねぇ、一緒に迎えに行かない?」


 日向家の屋敷。今朝からずっと雨模様。
 窓の外はどんよりした雲に覆われ、そこから涙のように舞い落ちてくる粒の音が辺りで鳴り響いている。

 和式の部屋の壁には、逆さにつるされた手作りのてるてるぼうず。
 その口は、への字を作っていた。


「母上一人で行けばいいじゃん」


 そう言ってイスに座りながら、足をプラプラとさせている少女。
 少女はてるてるぼうずと同じ顔をしている。
 母上と呼ばれたその人は、はぁ……と呆れたようなため息をひとつ。
 少女の前に歩み寄ると、目線を合わせるようにその場でしゃがみこんだ。


「まだ怒ってるの? ケンカしたのももう1週間も前のことなのに」
「怒っては、ないけど……」
「そろそろ仲直りしなくちゃダメだよ?」
「だって、父上ったらさ………」


 少女がいつものグチグチ文句を言いかけた時、その言葉を待たずしてひょいっと少女の体は持ち上げられた。
 少女は特に抵抗もしない。
 母親は少女を担いだまま、そそくさと玄関口まで運ぶ。その小さな足に長ぐつを履かせ、傘を持たせ、ついでにそこに逆さにつるされていたてるてるぼうずも元の状態に戻した。


「よし、出発よ!」


 母親の明るい声とともに、家の引き戸はカチャンと鍵をかけられたのだった。





 空は今が昼なのか夕方なのかもよくわからないほど、厚い雲で覆われている。
 水たまりだらけの道を、傘をさして歩く二人。

 向かう先は木ノ葉の里の中心地、
 里でも一際目立つ大きな建物の方を目指し、二人は歩いていた。


「ヒカリだってほんとは仲直りしたいでしょう?」


 ヒカリと呼ばれた少女は、すっと歩みを止める。親譲りの透き通った白い瞳の先を、地に落としていた。
 ヒカリにつられて、母親のヒナタもそこに立ち止まって振り返った。

 ヒナタはにこりと笑い、さっき家出る時に抵抗しなかったものね?と、意地を張るヒカリに優しく話しかけた。
 ヒカリは下を向いたまま相変わらず、への字口をしていた。


「どうせさ、父上はまだ怒ってるよ」
「そうかなぁ……1週間の任務のあとだし、たぶん忘れてるんじゃないかな」
「覚えてるもんっ!!絶対そーゆーとこ、忘れない人だからあの人!!」


 なげやりな言葉を放つヒカリを、まぁまぁとなだめるヒナタ。
 二人はまた歩き始めた。
 前を歩くヒナタに、ヒカリは唇を尖らせて言う。


「父上は私のこと絶対嫌いだよ」
「どうしてそう思うの?」
「だって……私才能もないし」


 今毎日通っているアカデミーでの成績だって。運動会の駆けっこ競走だって。
 いつも下から数えて数番目の位置。
 あの有名な日向家に生まれた子供だって、期待されていたのに。
 両親はそろって優秀な忍者なのに。


 私だけ落ちこぼれ、だから………


「父上は私のこと……嫌ってると思う!」


 そんな思いを母親にぶつけた。
 ヒカリの胸中のやりきれなさと悔しさを、受け止めてくれそうな人は、目の前のその人しかしない。

 ヒナタは振り返り、またにこりと笑いかけた。


「そうかしら……。お父さんはそんなことヒカリに言ったことある?」
「ない、けど。……でも見てたらわかるもん!」


 いつも怒ったような顔をしている父上。
 いつも何が不満なんだろうと考えて、それはきっと自分が原因なのかもしれないと。考え始めたのはここ最近になってからだ。

 上忍として連日の任務にあたる。
 宗家分家の隔たりも随分薄れてきた日向家、そこの生粋の天才忍者として、重要な役職に就いている。
 そのため、彼が家にいることはほとんどなかった。

 ほんのたまに家で休養をとることがある。
 しかしそのときはそのときで、娘の修業相手や勉学の教師などに成り変わり、忙しく過ごす。

 ヒカリはそれを少し煩わしく思ってしまうこともしばしば。
 修行を怠るなだの、文武両道を目指せだの。
 少しゴロゴロとしているだけですぐに鉄拳ならぬ柔拳が飛んでくる。

 ヒカリがまだ幼い頃は、野原へ出掛けたり高い高いをしたり。もっと遊んでくれていた。
 もっと、父上と一緒に遊んでいたかったのに……。

 幼い自覚はある。けれど、ヒカリはどうしても不満だった。


「私も、父上のこと、嫌い」


 だから、思わずそうつぶやいてしまった。

 雨の音に紛れてこぼされた言葉。
 ヒナタはきちんと聞いていた。


「そんなこと聞いたらお父さん悲しんじゃうわ」
「父上も私のこと嫌いだし、大丈夫!」


 ヒナタは父親と違い、わがままを言うヒカリをちっとも怒らない。悲観しない。
 それどころか先程からずっと、娘の反抗をクスクスと笑いながら見守っている。

 ヒカリは不思議に思う。
 どうして母上はそんなに笑っていられるんだろう。

 ひょっとしたら、こんな人だからこそ、あんなムズかしい人のお嫁さんが務まるのかもしれないな、とも思っていた。


「あのね、ヒカリ……」


 ヒカリの前を歩きながら、ヒナタはつぶやいた。


「お父さんは本当は、すごく不器用なの」


 それはヒカリの耳にもちゃんと届く。
 ヒカリは首をブンブンと振った。


「そんなの嘘! なんでも任務はこなせるし、表彰されてるし、アカデミーのみんなだってお父さん¨は¨すごい人だって言ってくるもん! 器用な人に決まってるっ!!」


 投げやりにヒカリは言い返す。

 ヒカリは悔しいけど、ほんとに悔しいけど。
 自分の父親はすごく立派な人だと知ってる。そこは否定できない。
 だからこそ、そんな父親と距離をとりたくなってしまうのだ。


「ううん。たしかにすごい人ではあるけど。不器用な人なの。………自分の気持ちを伝えるのが下手っぴな人よ」


 あの人のことはなんでもわかる、そんな風だった。

 実際に、ヒナタは彼の一番の理解者だ。
 そのことはヒカリも知っている。


「……本当?母上」
「ええ。昔からそう。だから……私とお父さんも、ずっと避け合っていた時期もあった」


 初めて出会った時は、数少ない同年代のお友達で、ほんとに仲良しだったのに。
 事件をきっかけに、大きくすれ違ってしまった。
 そこからは口もきけない状態が続いた。

 本当はお互いにずっと仲直りがしたかったのに。
 素直に気持ちを伝えることが難しすぎて。怯えてしまっていたの。

 ……そうだ、ちょうど私もお父さんも、ヒカリぐらいの歳の頃かな。

 少しだけ寂しそうに話しながら歩いていく後ろ姿に、ヒカリは黙ってついて行った。


「でも、きちんと仲直りして、分かり合える時がきたの。……七代目が、私たちを繋ぐ手助けをしてくれた」
「七代目………火影様?」


 ヒカリが尋ねると、そうよ、と。ヒナタは少し恥ずかしそうに頷く。そして話を続けた。


「ちゃんと向き合って、お話をしたの。お互い、今までのこと、きちんと謝って。それから………いっぱいお話をしたの。
 そしたらびっくりした。こんなに繊細な感情持ってる人だったんだって。知って。想いを伝えてくれて、嬉しくって………」


 だからヒカリ、と。
 ヒナタは振り返り、少し後ろを歩いていたヒカリの小さな手と、自分の手とを繋いだ。


「あなたも、お父さんに、素直な気持ちを伝えてあげてね?」


 寂しいなら寂しいって、言えばいい。
 嫌いなら嫌いって、ぶつければいい。
 ヒカリの言うことならきっと全部受け止めてくれるから。


 傘を閉じながら立ち止まったヒナタの目を、ヒカリはうるうるとさせながらまっすぐ見上げていた。
 口を真一文字に結んで、黙ったまま、ヒナタの言葉に頷いたヒカリ。
 ヒナタは、その頭を撫でながらまた笑いかけた。

 雨はすでに止んでいた。
 雲間から少しずつ明かりが射し込み始めている。


「ヒカリは、お父さん似だね」


 自分の気持ちを表現するのが、とっても苦手なのね。








「久しぶりだな、ヒナタ」
「ナルトくん、ご苦労様です」


 ひらりと羽織を翻したナルトの右手。血の通った温かいその手とヒナタの右手で、笑顔の握手を交わす。
 本物の火影を目の前に、ヒカリは人見知りを発動し、ヒナタの背中にちょこんと隠れたまま見上げていた。


「ネジならもうすぐ報告終えて戻ってくんだろうから、ここらで待っといてくれるか」
「こちらで待っていて大丈夫?」
「ヘーキヘーキ、あんだけザザ降りん中じゃどうせ誰も来ないってばよ!」
「ありがとうナルトくん」


 先程から普通に会話を交わしている火影と母親を、不思議そうに見つめるヒカリ。
 ヒカリの視線に気づき、ナルトはヒカリにもニッと笑いかけた。


「ヒカリもせっかくここまで来たんだしな。早く戻るようあいつに言ってくるわ」


 じゃぁな、と笑顔で言い残し、ナルトは部屋を出ていった。
 部屋は広々としている。一見して高価そうなソファと机が鎮座し、周囲には里にまつわる巻物や資料がずらりと並んだ棚に収納されている。
 そんな厳かな、火影用の応接間に残されたヒナタとヒカリは、行儀よく並んで座り、父親が戻ってくるのを待っていた。




「……母上はさ、」


 ヒカリはもじもじとしながら口を開いた。


「あら?前にも言ったでしょう?私と火影様はアカデミーからの同期生で」
「いや、じゃなくて。たしかにタメ語にびっくりしたけど、そうじゃなくって………」


 ヒカリはじっと、決意したようにまっすぐヒナタの目を見た。


「父上のどんなところが好きで結婚したの??」


 突拍子もないことを聞かれて、ヒナタは少しだけ目を丸くする。
 しかし動揺するわけでもなく、ヒカリの方を改めて向く。眉をきりっとさせ、真面目な顔でヒナタは答えた。


「全部」


 ぱちぱち……ヒカリは思わず瞬きしてしまう。


「……母上、さすがにそれはテキトーすぎませんか?」
「ううん、真面目に答えてるわ」
「普通は、ここのこういうところが好きで……とか、」
「そういうのは特に無いけれど」
「え?無いの??父上が聞いたら泣いちゃうよ!」
「あらら。そんな泣き虫な人だったかな……?」


 フフッとお互い顔を見合せて笑った。

 わかっている。
 本当に、母親はあの人の全部が好きだなんてことを、ヒカリはちゃんとわかっている。
 あの日の出来事があってから、ヒカリは、母から父への想いを知っている………



 ヒカリは何度も何度も怒られたことがある。それは日頃の行いであったり、修行のことであったり様々。専ら父親からは叱られることの多いヒカリ。
 しかし、母親には、たった1度だけしか叱られたことがない。
 にこにこと笑っている。どんなことでも優しく励ましてくれたり慰めてくれるのはいつもヒナタだった。


 たった一回だけ叱られたような出来事があった。
 その日のことを、まだヒカリは鮮明に覚えている。
 それはまだヒカリがアカデミーにも通っていなかった頃、
 幼いヒカリが高い高いをしてもらい、父親に遊んでもらっている時だった。

 床に下ろされたヒカリはふと、父親の額の包帯の隙間から、刺青のようなものが見えて気になった。


「それはなに?」
「……これか?」


 見せてとお願いするヒカリに、なんの躊躇もなく見せてあげる父親。
 その額には、バッテンを複雑にしたような模様が刻み込まれていた。
 父親は困ったような顔をしつつもヒカリに笑いかけていた。

 それを見て、へんなのー!と大笑いしていた幼いヒカリは、そこに込められた複雑な経緯をまだ知らなかった。


「ちちうえ!わたし、そのマークのいみをしってるよ!」


 いつかの歴史書で読んだ知識を披露すれば、父親に誉めてもらえるかなと。単純にそう思っただけだった。
 ヒカリには何も悪気がなかった。


「×××××っていういみでね、てことはちちうえのみぶんは………」


 ペシッ!!!





 一瞬、何が起こったのかわからず、ヒカリはおそるおそる顔を上げる。
 頬がヒリヒリと痛い。手のひらで押さえながら、ヒカリは目を丸くした。


 そこには、血相を変えた母親がいた。


 ヒカリをひっぱたいたであろう手を、自分で見つめ、驚いたように荒く呼吸するヒナタ。
 あまりにも唐突な出来事に、ヒカリは驚いて、動くことも声を出して歯向かうこともできなかった。


 気づいた時には、泣きながら謝る母親を、父親が優しくなだめていたのだった。

 ヒナタはただただ、ごめんなさい……と。
 その言葉はヒカリに対してと。父親に対してと。二つの意味がこめられていたものだったと。
 知ったのは、ヒカリが徐々に日向一族のことを知っていってからだった。


 呪印は死ぬまで消えない。


 こんなに近くて、こんなに遠い関係であった二人の間に生まれてきた子供。
 その存在は本当に奇跡だと、一族の誰もが言った。
 ヒカリの生まれない別の世界が、あったかもしれない。
 自分がここにいることは、奇跡なのだ。ヒカリ自身、そんなことをきちんと自覚している。


 ……父上と、仲直りがしたくなってきた。


 そう考えていたヒカリの耳に、カチャリ、と扉の開く音が聞こえてきた。








「父、上…………」


 扉の隙間から顔を覗かせたのは、ヒカリの父であり、ヒナタの夫である、ネジだった。
 火影の応接間、おそるおそる扉を開けるネジの姿を見て、ヒナタはくすくすと笑う。


「おい……なんでこんな部屋で待ってたんだ」
「七代目がどうぞと言うので」
「いやしかし、なんか俺が緊張するだろう…………里や国の重鎮でなきゃ入れない部屋だぞここは」
「よく言うわね、重鎮に近い身分のあなたが」


 白く透き通った、同じ瞳をもつ3人が1週間ぶりにそろった。
 まるまると見開くヒカリの目には、任務疲れで少しやつれながらもおどけているネジの姿が、ありありと映っていた。


「だいたい、ヒカリが来てくれてるなんて思わな……」





 トサッ


 ネジの言葉は、ありったけの力を込めて抱きついてきたヒカリによって中断された。


「…………ヒカリ?」


 突然抱きつかれたその感覚は、1週間の任務漬けで疲れていたネジの心と体をゆるゆると癒していく。
 ハハ……と呆れたように笑い、ネジはヒカリの頭を優しく撫でた。


「………おかえりっ!父上!!」


 土で汚れた父の服に顔を埋め、ヒカリは部屋いっぱいに響き渡るほど思いっきり叫んだ。
 いつになくなつくヒカリに、ネジは頭にハテナを浮かべながら、少し困ったようにヒナタの顔を見た。


「おかえりなさいネジ兄さん」


 いつもの笑顔がいっそうゆるんで笑っている。
 とりあえず動きづらいので離れてほしい……と言おうとしたが。自身に抱きつくヒカリが全く離れようとしない。
 1週間分の隙間をぎゅうぎゅう埋めようとぴったりくっついている。
 呆れながらも、温まる心に目を閉じつつ、ネジは優しく言った。


「………ただいま、ヒカリ、ヒナタ」








 木ノ葉の里の帰り道。雨はすっかりとあがっていた。
 真っ赤な夕焼け空の中を3人並んで歩く。真ん中にヒカリ。両端には、ネジの荷物を持つヒナタ。そして、ヒカリと手を繋いで歩くネジ。


「七代目には俺から言っておくから。もうあんな部屋にわざわざ通さんでいいぞと」
「残念……せっかくソファーがふわふわで気持ち良かったのになぁ」
「お前な………迎えはありがたいが、そういうのはわきまえて」
「じゃぁ、ネジ兄さんが頑張って出世して下さいね」
「そんなに座りたいのかあのソファーに?」


 ヒカリ越しに楽しそうに話す二人。
 ヒカリはくいくい、と。ネジの手を引っ張った。


「どうした?言っておくがヒカリは本来まだまだあそこに座れる身分じゃないからな、ちゃんと精進して勉学と忍術を……」


 くどくどと説教を始めようとするネジを、再び手で引っ張って制止する。


「父上、あのね……」
「何か?」


「……身分とか、関係なく。私は父上のことが大好きです!」


 ふと3人の影の動きが止まった。
 夕焼けの中に溶け込む色で頬を染めるヒカリ。ネジは心底驚いたという顔で、ヒカリを見ていた。


「えへへ!」


 なんだかこっ恥ずかしくなり、ヒカリは照れた顔のまま、ネジの手を振り払ってテケテケと前に向かって駆け出した。
 その場で固まったままのネジと、同じ顔で固まっているヒナタ。
 二人は顔を見合わせた。


「……いつ、教えた?ヒカリに」
「そんなまさか!教えてなんてないわ!」


 ネジは先程の瞬間、娘の姿と、昔の妻の姿とが、重なって見えてしまった。
 それもそのはず。昔妻から言われた台詞をそっくりそのまま、何年かの時を越えて、娘に言われたのだから。
 こんな奇跡があるというのか。


「父上ー!母上ー!うちまで競走しましょう!!」


 駆けっこ強くなったんだからね!!と少し遠くの道先で叫んでいるヒカリ。


「よーいドン!!」
「あ、ヒカリ待ってずるいわ」
「おい……俺は任務明けなんだが……」


 ネジの言葉はスルーされ、親子三人の競走が始まった。
 ネジはへとへとながらも走る。ヒナタに持たせたままだった荷物を奪い取り、ヒカリへと迫る。
 さりげない優しさを愛しく想いながら、ヒナタもまた二人の背中を追いかけた。


 雨上がりの水たまりを通過していく3人の姿。
 ぴちゃん、ぴちゃんと跳ねていくその軌跡は、たくさんの奇跡が重なりながら、これからも続いていく。

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