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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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ヤキモチ2

神楽がヤキモチをやくお話、その2。








 じりりじりりと。視線はぶつかり見えない火花が散る。間合いを取り、互いに隙を伺うが気を抜くことはない。と、神楽が踏み出して正面から足蹴りしようと飛び上がった。両足先をまっすぐ沖田の急所へ向け、矢を射るかのごとく接近する。
 しかしそれをなんなくかわし次の攻撃の態勢に入った沖田。神楽は着地しつつ首を捻らせその瞳を睨んだ。沖田は淡々とした顔で神楽を見下げていた。


「バーカてめーのキックなんざ軌道が手に取るよーにわかるって」
「そうゆう油断に足元救われるネ!!隙ありッ!!」


 神楽が次の攻撃へ移行しようと片足を伸ばした瞬間、


 プルルルルル


 二人の空間に間の抜けた着信音が鳴り響いた。
 神楽は攻撃をやめるつもりはない。しゃがんだ態勢のまま沖田の足首に回し蹴りをくらわせようとした。しかし、ひょぃとかわされ、そのまま土足でふくらはぎを踏みつけられ停止させられた。


「痛ッ……こんのッ!!」


 神楽は腕でパンチしようと上体を起こしたが……。立っていた沖田は片手でポケットを探り。そしてもう片方の手のひらを神楽の方へ向けていた。


「悪ィちょっと」


 沖田はそう言い、ピッと通話ボタンを押した。神楽はパンチしようとした腕を、渋々と引っ込めた。


「はい。…………あー土方さん?」


 電話相手の名前を聞き。神楽はしばらく足を踏まれたままの態勢で固められたかのように、じっとしていた。沖田もまた、神楽の足を踏みつけたままの態勢で通話を続けている。


「…………え?こないだのやつですかィ?そいつァちゃんと報告書出したでしょう…………ええ…………たしか3ページ目に書いてやすよ…………公務執行妨害及び傷害の観念的競合で間違いねェです、だいたいその件については………」


 神楽はじーーーっと。劣位な態勢のまま沖田を睨み続けている。何やら難しい話をしているようで。神楽には内容がさっぱりわからない。ただ、仕事の話をしているだろうことは雰囲気で伝わってくる。
 そういうときはいつも、喧嘩を停戦してあげるというのが暗黙のルールとして二人の間に存在していた。特に口約束を交わしたわけではないが。最低限仕事モードに水はささないのだと互いに気遣う気持ちは持ち合わせている。もっとも、万事屋はほぼ開店休業状態のため。大抵仕事モードが発動するのは沖田の方、気遣うのは神楽の方である。
 いつもは簡易な通話だけで終了する。あるいは沖田が最初からベンチに腰掛け何か分厚い書類を読んでいたような場合、神楽はハナから近づかない。
 だが、今日は喧嘩最中のモードチェンジにも関わらずやたらと長い。神楽は携帯を耳に当てて話し続ける沖田に「早よ終われ!」と眼差しでじりじりと念を送っていたのだが。一向に念能力が通ずる気配はなかった。


「…………はァ。……まぁ確かにそうですけど?その点はこないだ法改正されたばかりでしょう。俺ァただそれに合わせただけで………………あーはい、そーゆう説も確かにありやすが。通説と条文改正を照らし合わせれば……………」


 神楽はじーーーっと。今度は沖田の足元を見つめる。そこに何があるわけでもない。ただ、沖田のズボンの裾を眺めている。そう、ほとんどいつもだが。沖田は神楽と喧嘩するとき真選組の真っ黒な制服を着ている。暑苦しいと思う反面、幾分かビシッと引き締まって見える服装。
 引き締まって見えるというのは本当に見た目だけで。沖田がここにいるということは、大体仕事をサボっているということが多い。サボっているとわかるや否や、神楽は攻撃を仕掛ける。それが二人が出会したときのいつもだった。けれどたまにこうして、仕事モードに復帰されてしまうと、神楽はなんだかおいてけぼりを食らったようで。複雑な気持ちになってしまう。


「まだ終わらないアルか……」


神楽の呟きにも構わずに沖田は土方と電話越しに話し続けていた。


「こないだの事例もきちんと検討しやしたが。あれとそれとでは細かな事情が違うんでさァ。事例の射程には入りやせんよ?もう少しちゃんと見てくだせェ……………へ?ザキが追跡調査?…………そうですかィ……………まァ最低限要件該当性は満たしてんで。こっちとしては……………」


 神楽はついに、痺れを切らして反発することにした。


「あぁもう待ってらんねッ!!」


 そう叫ぶと、片手に握っていた傘を沖田に向けて勢いよく降り下ろした。今度こそ隙あり!と仕掛けてみたが。沖田は神楽の方へ一瞥することすらなく、鞘に収めたままの刀で傘を受け止め容易く攻撃を防いだ。


「…………え?今の声ですかィ?たぶんどっかのメス豚の声拾っただけでさァ。で、だから俺が言いてェのは……………」


 そして何事もなく平然と通話していた。


「こいつッ……!!」


 神楽が悪態をついたのとほぼ同時。沖田がひょっと顔を上げ。刀を持っていた手を振り上げ自身の頭をわしゃわしゃ掻いていた。


「ああクッソわっかりやした!俺が今から戻って確認すりゃァいいんでしょう?死ねクソが………………いえ何も。土方さん今どこにいるんでィ?…………はーいすぐ行きやすから待っててくだせェ。じゃ」


 ピッと軽快な音が十数分ぶりに鳴り。沖田の通話は終了した。
 沖田は携帯をズボンにしまいつつ、神楽のふくらはぎから足を上げると。そのまま何も言わずに公園の出口へ向かい歩き始めた。ずっと待っていた神楽は溜まっていた不満をぶちまける。お前ッ!!と大声でその後ろ姿を呼び止めると。沖田は何?と面倒そうに振り返った。


「待てどこ行く気だコラァ!!」
「行くもクソも。帰んだよ屯所に」
「私から逃げるつもりアルか!?まだ決着はついて」
「ついたついた俺の勝ち」
「勝手抜かしてんじゃねーぞボケェ!!」


 神楽は口で暴言を吐きつつも。沖田へ銃口を向けようとはしない。ただ傘の柄を握りしめ、沖田を睨み怒鳴り続けていた。仕事である以上引き止めるつもりはないのだ。
 沖田は神楽の気遣いを感じとり、内心ほんのひとつまみ程度の感謝はしつつも。これからの予定にうんざりしながら神楽を突き放す。


「悪ィがてめーに構ってる暇はねェの。こちとら社会人なんでな」
「わ、私だって万事屋で働いてるアル。社会人アル……ナメんなヨ!!」


 神楽の怒号を後ろに聞きながら。沖田はスタスタとその場をあとにした。
 神楽は追って来ない。そのことにハァ……と安堵のため息をつきつつ。沖田はやや早足で屯所へ向かっていた。


「ったく報告書の修正くれェてめーがテキトーにやれっつーの………つーかミスじゃねーし俺合ってっし。マジでいっぺん扇風機に顔面突っ込んで死ねよ土方……」


 土方からの先刻の電話は報告書の訂正を求めるものだった。しかし沖田としては訂正するような内容を書いたつもりはなく、事件内容すべてに気を配り抜かりなく提出したつもりであった。内容解釈の違いからか、土方の理解を得ることはできず。結局戻って説明を強いられることとなった沖田。こと書類等事務的な面に関し、過去の偽造がバレて以降沖田に対する監視の目は厳しい。それもわかった上で沖田としては手間隙かけて提出した書類であった。にもかかわらず修正。実に面倒かつ扇風機殺人に走りたくなるような用件だった。

 と、沖田がイライラしながら歩いていると再びポケットからプルルルと甲高い着信音が鳴り響いた。乱暴に携帯を手に取り沖田は通話ボタンを押した。


「はいもう今向かってんでいちいちかけてこなくて」
「おいコラまだ決着ついてないアルッ!!」
「………アル?」


 電話口の向こうから聞こえてきた声は、憎き上司の低い声ではなく、まるで今の沖田と同じようなイライラに満ちた少女の高音声だった。
 耳から受話器を離して通話画面を確認すると、それは見知らぬ番号からだった。土方からの着信ならば「土方十死郎」と表示されるはず。改めて沖田はため息をついた。


「……なんでてめー番号知ってんだよ」
「何言ってるアルか!私がケータイ持ってたときお前教えてくれただろ?」
「けどありゃ持ち主に返したっつってたろ?つーかじゃァこれどっからかけてきてんの?」
「公衆電話アル。10円返せっ」
「てめーが勝手にかけてきて無心すんな」


 沖田は面倒だった。神楽がまさか電話をかけてくるとは思わないし。随分前に伝えた電話番号を覚えているとは夢にも思わない。
 今日もそうであったように、沖田と神楽はたまに二人だけで一緒にいることはある。けれどそれは息抜き兼喧嘩遊び程度の相手でしかないし。それは神楽も同じだと沖田は思っていた。
 けれどここ最近、何かと神楽の方から突っ掛かってくる頻度が多い気がしている。そのくせ沖田が仕事モードに入ったとわかるやそれを阻害したりせずにじっとする。喧嘩相手にしては物分かりが良すぎるのだ。
 もしかしてあいつ俺のこと好きなんじゃねーのうっぜェ……と沖田は思う反面、なぜだか放っておく気にもなれない。言葉だけを文字に起こせばただの暴言でしかない。しかしどこか寂しそうで甘えたガキみたいな声を電話口から垂れ流してくる。そんな声、万事屋では常日頃垂れ流してるのかもしれないが。沖田に向けてくるようになったのはごく最近になってからだ。いつだったかの水族館がどーだこーだのときも似たようなものを感じた。
 いったいあいつの保護者共は何をやっているのか。育児放棄すんなと一度問い詰めてやりたいと沖田は思っている。しかし今は兎にも角にも屯所へ戻ることが最優先だ。土方に己の間違いを認めさせ土下座させ憂さを晴らしたい。そのためにはとっとと電話を切らなければ。そう思い、沖田は神楽にやや冷たく切り出した。


「あのさァ、わざわざ電話してくるなんざストーカーかてめーは?言ったろ今から屯所戻るって。仕事あるから今日はもう勝負は」
「だったら要らないアルか?これ!」
「要らない?何が?」
「忘れもんアルヨ」
「…………あ」


 沖田は通話をピッと切り、公園へUターンしようと振り向いた。すると、その必要は無いことに気づく。道の向こうから傘をさしつつ駆けてくる赤いチャイナ服姿を見つけた。沖田はその場で足を組んで仕方なさそうに立っていた。
 ほどなくして神楽が沖田の目の前に到着。息を切らすこともなくピタリと立ち止まると。手に持っていた物を沖田に突きつけるよう見せつけた。それは黒くシンプルな長財布。沖田がいつも持ち歩いているものだった。沖田は先刻公園にいたときに、神楽の分も含め二人分の缶ジュースを購入した。その際にベンチの上へ置き忘れていたものだった。


「はい。気ィつけるアル」
「悪ィな、マジで忘れてた」


 神楽から財布を素直に受けとると沖田はそれをポケットにしまった。勝ち誇った顔をしている神楽に、沖田は訝しげな目を向けた。


「中身抜いてねェだろーな?したら即刻御用だからな?」
「し、失礼な!そんなみみっちィことしないアル!」


 人の親切に対して疑うなんてサイテー!!と神楽がブーイングすると。あーはいはい悪かったからと再び素直に認める沖田。
 神楽はそんな沖田のことを、複雑な気持ちで見ていた。
 本当は帰ってほしくない。まだ暴れたりなくて。まだもう一缶くらいはジュースを奢ってほしくて。……たまには普通にお喋りだってしてみたい。どうしてこんな感情を抱いてしまうのか神楽自身もよくわからない。ただ、胸の奥がきゅーっと。まだこいつと遊んでいたいとわがままを絞り出したい気持ちになる。けれど、神楽は気持ちをぐっと胸の内に飲み込んだ。
 沖田はそんな神楽の感情に気づくこともなく。ただただ疑問を抱いていた。


「なんでィ。持ってきてくれんならわざわざ電話してこんでもいいのに」
「それは……その……」


 神楽はきゅっと顔をしかめて。言いにくそうに答えた。


「……電話、したかったアル」
「電話?」
「お前とマヨみたいに……電話、してみたかったアル」

「……へ、なんで?」

「……なんでも、ないアル」


 むすっとした顔を、沖田から背けた神楽。沖田は土方が電話相手ならあれだけ軽快に長く会話していたというのに。自分との間ではまともな言葉をろくに交わしやない。手足を伸ばして攻撃し合うことはあっても。会話らしき会話をまともにすることなどほとんどない。だから、沖田がいつも何を考えているか。何がしたいのか。何を欲していて。……何が好きなのか。神楽は何も知らない。そんな沖田との中途半端な謎の関係がなんとなく歯痒かった。
 沖田はまた寂しそうに拗ねる神楽を目の前に。参ったな……と頭を少し掻く。そしてご機嫌とりも兼ねるつもりで、神楽に言った。


「ようわからんが、話してェことがあんならまた今度聞いてやるから。だからいちいち電話してくんな」
「……ほんとアルか?」


神楽が驚き呆けた顔で沖田を見上げたので。なんでィそのツラは?と。沖田は呆れていた。


「わざわざ電話せんでも。またどーせ会うだろ?てめーとの決着まだついてねェんなら」
「うん……そうアル。……ついてないアル」
「だから電話してくんな。ややこしい」
「……わかったアル」


 あーなんか調子狂う……と沖田は困惑する。そもそもなんで今日はこんなに素直なのか。神楽にしては珍しい。


「今日お前どうしたの?なんか変。いや元から変だけど。輪を掛けて変になってら」


 沖田の問いに、神楽は答えなかった。財布を手渡したその手で鼻の下辺りを押さえ口元を隠す。沖田には知られたくない。今さっきの言葉が、どうしようもなく嬉しかった気持ちを。


「……別に何もないアル。早よ仕事行けヨ税金泥棒」
「はぁ……まァいいけど。財布ありがとな」


 沖田は神楽の肩をパンッと軽く叩き、そのまま神楽に背を向け去っていった。
 その場に残された神楽は。沖田の後ろ姿を見送っていた。先程沖田に変だと言われた。けれど、変であることくらい、言われなくても神楽自身でとっくに気づいている。この変な気持ちを、どうしてくれようか。わからない。神楽は困惑している。
 沖田ともっと長く一緒に過ごしていたいし。水族館なりなんなりどこかへ出掛けてみたいとも思う。喧嘩以外におしゃべりもしてみたいし。ジュースだけじゃなくてごはんも奢ってほしい。

 ……でも、どうしてそんなことを思うのだろう。





 神楽はふと、ひとつの言葉を思い出した。
 ああそうか。
 これがヤキモチというものなのかな、と。


「どーしよ……まさかのマヨにヤキモチアル」


 焼き餅にマヨネーズなんて。あり得ない。
 何か不思議な感覚に気づいてしまった神楽は、その場で顔を赤くしてうつむくことしかできなかった。




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