うさぎにメロン2 okita x kagura 2015年08月09日 うさぎにメロンのつづきです。 「……………へぇー」 斜め下を見やると、相変わらず体を動かさねーバカがいる。スカーフの下にある口元が、今なんかもごもごしてた気ィする。 つっこむのもアホらしーんで。扇子畳んでポケットにしまいつつ。そのままデカ犬との会話をたしなんだ。「そんだけ慕ってんなら、このバカに傘ぐらい持ってきてやったらどーなんだ?そんくらい犬でも気ぃ利かせられるだろィ」「うーんとねー、それが僕にはできないんだワン。あとねー、神楽ちゃんはバカじゃないよぉ?お前の方がバカだよぉ?ワンッ!(裏声)」 ふわああとあくびをして眠る態勢に入ったデカ犬。声色と内容と態度がいろいろ噛み合ってねーよ。 毛並みをふわふわ撫でてやりつつ、さらに会話を続けた。「できねーってなんだよ?てめーの口に傘咥えて走ってくりゃ済む話だろ?」「それがねー……、神楽ちゃんね、銀さんと新八くんとケンカしちゃったんだワン。それで万事屋飛び出しちまったワン!わた……神楽ちゃんの傘は僕の入れない小さい部屋の奥に置きっぱだったから、取りに行けなかったんだワン!たぶん(裏声)」「たぶんって何?……つーかケンカしたんかい。珍しィな」「そうでもないワンよ!わりとしょっちゅーケンカしちゃうワン!でも……あんな大声で怒鳴って出てきちゃったのは初めてだったワン……(裏声)」 いい加減犬介すんがダルくなったから、スカーフをひょぃっと摘まんで取り上げた。 その下の顔は未だに目ェ閉じてる。相変わらず微動だにしない。「……なんでケンカしたんだ?理由は?」 俺の問いかけに。だって……と。生ける屍は口をパクパクさせ話し始めた。「あの二人、神楽ちゃんのいない間に、部屋にとっといてたメロン、勝手に食べてたワン!(地声)」「……何?そんだけ?」「そんだけアル」「しょーもねぇーー!!」 思わず足で死体もどきを蹴っ飛ばした。 うごっ!!って呻いて。俺の膝の上にあった足ごとひっくり返って地面に倒れた。だがすぐそのあと、犬に体を預ける形でのっそり上半身を起こしたバカ飼い主。 首をブルブル振って、俺をキッと睨んできやがる。 ようやく復活したか。俺にへなちょこな連続パンチをかましながらワンワンと歯向かってきた。「お前!!病人に蹴り入れるか普通!?これでもあれだからな!私マジで日光キツくて死にそーになってたアルからな!?」「そのまま死んでくりゃよかったんじゃねーの?死後の世界で一生メロン食えるぜ?今すぐ逝ってこいよ俺が見届けてやらァ」「バカ野郎ッ!こんな可愛い定春一人残して死ねるかヨ!!つーかなんでお前がここにいるネ??お前が先逝ってこいこのボケッ!!」「俺ァとっとと仕事に行ってこいしたかったんでィ。それをわざわざ?ここ留まって介抱してやったってーのに何そのクソしょーもねー理由?マジで死んでくれねーかお前?」「ンだとぉ!?お前メロンのありがたみがわからないアルか!?さっすが税金泥棒アル金銭感覚がイカれてるネ!!」「旦那たちが食ったって話なんだろ?ならまた旦那にメロン買ってもらやいい話じゃねーか」「銀ちゃんの財布の紐の固さナメんなヨ!?それに、あれは依頼主から届いたお中元だったアル……!あんなものめったにウチに存在しないアル!!なのに、それをあの二人ヌケヌケと……許さ……な……うぅッ?!」 こいつのパンチすべて手のひらで受け止めつつ会話してたとき。不意にチャイナの体がゆらりと横へ崩れるみてーに揺れた。デカ犬と反対方向へ上半身が倒れてく。 その体をとっさに片腕で受け止め、よっと反対側に倒し返してやった。するとデカ犬の腹がこいつの体をもふんとキャッチした。 うぅ……とぐったり項垂れ、チャイナは白い毛並みに体重を預けたまんま倒れこみ。また動かなくなっちまった。「病人がジタバタすんなバカ」「うぅ……ちょっと気持ち悪くなってきたアル」 顔まだ赤いし、症状引いてねーくせに。大声で怒鳴り散らしてっからそうなんだよ。言わんこっちゃない。 片手で口抑えつつ、今にも吐きそーな顔してたもんだから。我慢すんな吐けと促せば。……いや、大丈夫アル、と。結局吐くには至らなかった。だが顔色がよろしくない。 暴れた際に転がった缶ジュースやら濡れタオルやらを、もう一度、首や脇に挟んでやった。 デカ犬がちょうどいい枕と支えになってっから。その態勢のままにじっとさせとくことにする。「で?どーすんだてめー。このまま傘も持たずに家出する気か?」 俺が聞くと、顔を赤くして目ェつぶったまんま。力なく首を振った。そんで、さっきまでの声量の3分の1くれぇの弱々しさで、答えてきた。「……そんなことしないアル。二人が迎えに来てくれんのを、待つアル」「なんでィ、自分から飛び出しといてお前ほんっと面倒くせーガキだな」「お前には関係ないだろッ……」 と。チャイナは地面に落ちていた俺のスカーフをひったくった。それを広げて頭上に乗せ、自ら日除けにする。 チャイナはまたおもむろに上半身起こして。ジャングルジムの近くにいたときみたく、三角座りで再び直った。「……待つってんならもっと場所考えな。こーゆう日陰に最初から座っときゃァ、そこまでの症状にはならんかったろ?」「言うけどこんな奥まったとこじゃ見つけてもらいにくいアル。それに……私、二人が来たらなんて言おうか考えてて。日陰探してる余裕無かったアル」「言うって何を?」「私……部屋の中しっちゃかめっちゃかにして出て来ちゃったアル。だから……そのなんというか……二人に言わなきゃいけないアル」 俺の脳内では容易にその光景を想像できた。 こいつは冷蔵庫なり台所の隅なり。本来あるべき場所にメロンがないとわかった途端、きっとブチキレたはず。「なんで黙って食べたアルかー!?」などとわめき散らすわ、冷蔵庫を中の食品ごとひっくり返すわ、星一徹もドン引きのちゃぶ台投げかますわ、挙げ句玄関先の扉も蹴散らし破壊して出てきちまった。とか。大方そんなとこだろうさ。 メロンひとつでそこまでぶち切れられるエネルギー持て余してるやつなんざ、この隣でくたばってるバカしかいるまい。「あのさ……お前一応旦那んとこに居候させてもらってる身だろ?食いモンぐれぇでいちいちキレてたんじゃ、旦那や新八くんの身が持たねーだろィ」「だって……だってメロンだったもん……食べたかったアル……」 顔を膝にうずめ。地面に人差し指でぐるぐると木ノ葉マークを描き続け。静かに駄々こねてるバカがいる。「だってもクソもねーよ。いいからさっさ仲直りしてこいや」「……無理アル。私なんて言ったらいいかわかんないアル」「なんて言うもクソもねーよ。ごめんなさいっつって素直に謝りゃ済む話だろ?」 投げやりに言ってやると。バッと顔あげて、こっちを睨んできた。 その顔はまだ赤い。まだ日にやられた熱が引いてねーんだろう。口尖らせて、頭にスカーフ被ったまんまタコみたいなツラしてるもんだから。なんか笑えた。こいつタコ焼きにしてやろーか。「それが言えたら苦労しないアル!」「はぁ……」 タコ焼きの額に手を当てがってやる。びっくりされたが無視だ。 すると額は見た目以上にまだ熱を持ってたもんだから驚いた。マジでタコ焼きだな。仕方ない。俺はこいつの股に挟んでたタオルをひったくった。それ持って立ち上がって。もっかい自販機と水飲み台のある方へ向かって歩いた。「お!おい何処行くんだヨ!」「いいからそのままじっとしとけ」 立ち去るとでも思ったのか。驚きながら俺についてこようとするこいつに、命令しその場に留まらせた。 水飲み場で再びタオル濡らして。あと自販機で冷たい缶を追加で二個購入。俺はダラダラと再び木の下へ戻った。「これ飲んでちぃとは頭冷やせ。いろんな意味で」 濡れタオルと一緒に、メロンソーダの入った2缶のうちひとつを見せてやった。するとこいつは一瞬目をパッと明るく見開いて、俺の手から勢いよくそれらをぶん取った。冷たい濡れタオルで顔を押さえた後、股の付け根を冷やす。そんで缶を飲もうと手をつけていた。 だが熱で鈍ったのか、どうも缶のタブがうまく開けられないらしい。パチンパチンと手こずってやがる。鈍くせェなもう。もどかしいんで、俺の方の缶と交換してやった。すでにタブは開けてたが、まだ口は付けちゃいなかった。 水を得た魚のごとく、チャイナはそれをゴクゴク一気飲みし始めた。途中炭酸にむせて、ゲホッと咳してら。「ゆっくり飲めアホ」 また吐きそうになんぞ、とたしなめてやると。珍しく俺に従いゆっくり飲み始めた。 俺は俺で、チャイナから受け取った方の缶を開けた。同じくメロンソーダだ。タブをシュパッといい音させ、飲み始める。めっちゃ冷たいし炭酸利いてる。甘い味もいい感じだ。真夏の暑さを軽減してくれる。 しばらくするとチャイナが、うん?と首をかしげ。缶のパッケージをまじまじ見つめていた。「……これってメロン入ってるアルか?」「入ってるわけねーだろ。130円で売ってんだぜ?」 なんだヨしょーもね!、と。ぶーっと膨れてますますタコみてーなツラをしていた。バカじゃねーの。また笑えてきた。 けど今度は顔の赤みがさっきより多少収まってるようで。多少安堵した。「ま、俺に言わせりゃこんな缶ジュースは本物のメロンソーダとは言えねーな。上にアイス乗ってねーとやっぱダメだわ」「ほんとお前らは贅沢アルな。これでも十分、うまいアル」 そう言いながら肩をすくめ、ピチャピチャゆっくり飲んでるこいつは。だいぶ体の調子を取り戻してきたらしい。ルンルンと体を小さく左右に揺らしてた。 こいつは自分の体のことすら忘れ。旦那らに何言おうかっつって考えてたんだろーか。真面目なんだかバカなんだかわかりゃしない。とっとと謝れば済む話じゃねーか。旦那も新八くんも、いつまでも突き離すようなネチっこい人間でもなかろうに。きっと今頃こいつのこと探してんだろどーせ。もう少しこいつが落ち着いたら、首輪でも引っかけて万事屋へ連行しようかね。ああそーしよ。 そんなことなどをぐるりぐるり考えてた。 すると、あのさ……と。こいつから俺に、静かに話しかけてきた。「お前さ、ゴリラとケンカしたことってあるアルか?」「ゴリラって……動物じゃなくて近藤さんの方?」「当たり前だろ。誰がお前と獣の戯れに興味あるネ!」 俺はいろいろ思い返してみたが、どうにも心当たりはなかった。俺には慕う気持ちがあるし。何より近藤さんは俺を基本甘やかしてくれてるもんだから。ケンカにならねーんだ。「近藤さんとはケンカしたことねーな。ブたれたことあっけど。別にケンカじゃねーしあれは」「じゃぁ、マヨネーズとは?」「土方さんとはケンカとかもはやそうゆうレベルじゃねーや。常にいつ殺せるか考えてっから。そいつはてめーも知ってんだろ?」「そういやそうアルな……」 あっという間にジュース全部を飲みきってたチャイナ。缶を両手で握ったまま、手持ち無沙汰に弄ってる。 冷めてェうちに有効活用しやがれ、と。その缶ひったくって首にペシッと当ててやった。ヒッ!とその冷たさに反応してたからちょっと面白かった。 俺の手ェ払いのけて、首に缶当てながら。こいつはまた聞いてきた。「じゃぁお前は、……あんまり普通のケンカとかしたことないアルか?仲直りのいい方法も、知らないアルか?」 なんだソイツが本題か。回りくでーやつだな。 まだ半分近く残ってた自分のメロンソーダ手にしたまま。俺は遠い日の記憶が思い返され。返事すんのに少々間が空いた。「そーだな……姉上とならケンカしたことあるな」 そう言うとこいつは目を丸くした。 [2回]PR