兄妹3 okita x kagura 2015年06月03日 兄妹2のつづき 「あの………これのこと、だよね?」 おどおどしながら家の奥から出てきたのは花江。どこにでもいるごく普通の、6歳くらいの少女である。 その手には、沖田が今日半日をかけて探していた御守りがあった。 神楽は沖田へ一瞥すると、沖田は頷いた。 小さな手にもすっぽりと収まるほど小さなそれは、ところどころ糸がほつれている。「御」や「守」の文字は一部汚れて見えにくくなっている。それほどには肌身離さず持ち歩かれていた物だという年月の経過を物語っていた。 花江の家の玄関先には神楽と沖田が並んで立っていた。二人の背後には沖田が川から救出したパグが、不思議そうに三人を眺めている。 神楽は沖田から花江へと視線を戻すと、花江へ静かに歩み寄った。そして、小さな花江と同じ目線になるようその場でしゃがんだ。「花江、なんでこれ盗んだアルか?」 まっすぐ花江を見据えて問いかける神楽。その声は、少しいつもより大人びているように思える。 沖田はそんな神楽をもの珍しそうに、黙って見下ろしていた。「ぬ、ぬすむつもりなんてなかったの。…ただ、今日一日だけ……かしてほしかったの……」 花江は目をきょろきょろとさせてそう言った。「どうしてアル?そんな御守り何に使うネ?」「……お兄ちゃんがね、今日、大切なしけんがあるの」「試験?」「うん……お兄ちゃん、ずっと勉強がんばってて。わたしや、お父さんお母さんのためにも、がんばるんだって。約束するよって言ってくれて。だから、合格しますようにって。おねがいしたかったの」「お前の兄ちゃん、もしかして今日が受験だったアルか?」「……うん」 神楽は知っていた。花江には2つほど離れた兄がいることを。 見た目はガリ勉の子供そのもの。神楽とも顔見知りで、なにかと神楽の世間知らずさに対し、知識を矛にバカにしてくるような、神楽に言わせれば生意気なクソガキだった。……でも本当は、妹思いで優しい兄。勉強して、エリートコースが約束される有名寺子屋へ進学することを目指し、日々机に向かい頑張っている。それも神楽は知っている。 花江はそんな兄の背中を見て、今日の入学試験で兄が合格しますようにと、神様に祈ろうとしたのだ。 隣で二人の会話を聞いていた沖田は、なんとなく事情を察した。 いたずら目的ならぶっ飛ばしてやろうかとも思っていたが。目をうるうるとさせ神楽と話す花江を見て、沖田は問い詰める気にはなれなかった。「……いいよ、もう。返してくれんならそれでいい」 沖田が手のひらを差し出すと、花江は沖田に歩み寄り、遠慮がちに手を伸ばした。そして、御守りをそっと返すと、黙ったままペコリと頭を下げた。「んじゃ帰るぞチャイナ」 向こうへ歩き出そうとしていた沖田だったが。神楽はその場を動かない。「待つアル!」「なんだよ」 神楽は花江の片腕をサッとつかんでいた。 家の中へ戻りかけていた花江は、えっ?と驚いたような目で神楽を見た。「花江、……ちゃんとこいつに、ごめんなさいするネ!」 神楽がぴしゃりと放った言葉に、花江だけでなく沖田も驚いた。「え、…そ、その……だって、」 何か言い訳でもしそうな花江に、それをさせまいと神楽は両手を花江の肩の上にパンと乗せた。花江はきゅんと目をつむる。今か今かと怒られることに怯えている様子だった。 神楽は鋭くも、優しい声色で花江に言う。「お前が兄ちゃんのこと、応援する気持ちはよくわかるアル。……でもネ、こいつがあの小さな御守りを、今日どんだけ探し回ったか、わかってるアルか?」「……おい、もうその辺にしとけチャイナ。別に俺は返してもらえりゃ」「よくないネ!こういうとこはちゃんとしなきゃだめアル!」 花江に手をかけてしゃがんだまま、沖田をキッと睨む。 もう知らね…と思った沖田は、それ以上口を挟まなかった。 神楽はまた花江に向き直った。「悪いことしたときはちゃんと謝らなくちゃだめアル」「だって…」「だっては禁止!」 花江は泣きそうな顔で、でも……と、続けた。「……お兄ちゃんがんばってるのに。毎日だんだん、お兄ちゃんの元気がなくなっていって、不安そうで……。それで、わたし、心配で。その……おまわりさんのポケットからたまたま見えて、それで……えっと、その……」 花江はきっとなんとなくわかってる。自分がいけないことをしたということ。でも、怒られるのがいやで。自分がやったことを正当化したくて。出てくるべき言葉が出てこないのだと。 神楽はもう一押しするつもりで、花江に言った。「花江…、あの御守りはね、こいつの姉ちゃんがこいつにあげた、大事な物アル。……もし花江が、兄ちゃんからもらった大切なかんざしを、勝手にとられて使われたら、どんな気持ちアルか?」「……イヤだ、そんなの」「じゃぁ、こいつの気持ちもわかるアルね?」「……うん」 神楽の言葉に、花江は頷いた。それを見ると、神楽は立ち上がった。そして、とぼとぼと再び沖田へ向かって歩く花江を心で応援した。「………あの。ごめんなさい。かってにおまもりとって。……ごめんなさい」 正面から素直に謝られることに慣れてない沖田は、えっと……と、視線を泳がせた。涙混じりの目をまっすぐ向けられ謝られ、どう返せばいいのかわからないし見ていられなかった。 戸惑う沖田に代わり、神楽がポンと、花江の頭に手を乗せた。「よしよし、よくできました!」 花江ちゃんだけに、花まるあげちゃうネ! そう言いながら花江の頭をわしゃわしゃと撫でる神楽。花江は振り返り、神楽に抱きつき、もう一度、ごめんなさい…と小さくつぶやいた。「大丈夫だヨ花江!お前の兄ちゃんにはお前がついてるネ。御守りなんかなくたって、きっと大丈夫アル!約束は守ってくれるアル!」 涙目で頷く花江と、優しく受け止める神楽。 二人を見て、沖田は瞬きし。唇をそっと噛み、うつむいた。 沖田はどうしても……どうしても、思い出さずにはいられない。今は亡き大切な人のこと。この世で一番、大切だった人のこと…… 頑として謝ろうとしない自分を、怒鳴るわけでもなく、手をあげるわけでもない。まっすぐ、優しい口調で、諭してくれる人だった。「悪いことしたときは、ちゃんとごめんなさいって謝らなきゃダメよ?総ちゃん」「えらいね総ちゃん、よくできました!」。そう言って頭を撫でてくれる人。 しかられたときは悲しくて隠れてわんわん泣いた。逆に頭を撫でて褒められたときは、とびはねたくなるくらい嬉しかった。 そんな少し昔の光景を、思い出してしまった。 ……どうしてだろう、性格も雰囲気も、人柄は全く真逆なのに。 沖田はこの世で一番大好きだった姉の姿と、 目の前の神楽の姿とを、 そっと重ねていた。 [3回]PR