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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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赤ん坊

生まれてきてくれてありがとう。








「こちら神楽アル。ターゲット捕獲しましたアル!ドーゾ」
「よし、でかしたぞ神楽!すぐに目的地へ連行しろ、ドーゾ」
「神楽ちゃん、真選組の屯所までそこからだと近いよね?一人で大丈夫?ドーゾ?」
「平気アル!二人も後からちゃんと来てネー!ドーゾ」


 夜の時間帯。万事屋の仕事の真っ最中である神楽は、大きな虫取り網を片手に、電話でやりとりをしていた。その網の中には、虫ではなく………隊服姿の沖田が、胡座をかいて路上に座り込んでいた。
 神楽が話を終えてピッと通話を切ると、おーい……と死んだような目で沖田は神楽に問い掛けた。


「何も平気じゃねーんだけど。何これ?俺カブトムシじゃなくて人間なんだけど。もちっと繊細に扱ってくれねーか?ドーゾ?」
「お前なんかカブトムシ以下のチンピラチワワアル。だから大人しく私についてくればよろしいアル。ドーゾ」
「いや、チワワはカブトムシよか上だと思うぜ?ドーゾ?」


 勝ち誇った顔の神楽は、網を引き上げて折り畳み、小さく収納した。沖田はまだその場に座り込んだまま、動かなかった。


「ターゲットを見つけて連れ帰るまでが今日の私たちの仕事アル」


 そう言って、立ち上がらせようと、神楽は沖田の腕を掴み、上へ引っ張りあげた。力につられて沖田はその場で立ち上がろうとする。しかし、


「痛っ……」


 完全に立ち上がることができず、その場に立て膝をついてしまった。
 神楽はすぐに異変に気づいた。


「お前、足怪我してるアルか?」
「……大したことねーよ」


 沖田の動きをもつれさせた原因は、その右足にあった。夜の暗さに紛れて神楽は今まで気づかなかったが。その足首の辺り……ズボンの裾口は濃い赤色が滲み、すでに変色して固まっていた。それは時間の経過を物語っている。
 その変色の範囲が予想外に広いことに神楽は少し驚きつつも、沖田のすぐそばにしゃがみこみ、自身のポケットをまさぐった。


「ちょっと待つアル、……じっとしとけヨ?」


 神楽はごそごそと、ズボンのポケットから四角い小さな木の箱を取り出した。木製だが、木目調の柄がほぼ確認できないほど。100均にありそうなシール・石・リボンなどで、やたらめったらデコられている。

 それは、……救急セットの箱だった。

 大きめのポケットならすっぽり入る。持ち運びに便利なサイズの箱。神楽はその蓋を開け、消毒液の入った小瓶・白布などを手際よく取り出していた。
 沖田の足首の裾をめくると、スカーフで大雑把な止血がなされていた。そういえば沖田の首にスカーフが無いと。神楽はそこで初めて気がついた。


「もうちょっとちゃんと処置しろヨお前。しょーがないやつアル」
「てめーなんでそんな箱持ち歩いてん……痛ッ…」
「周りが傷の絶えないバカばっかだからな。これくらいの女子力ないと万事屋は務まらないアル」
「女子力なのかそいつは?なんかおもちゃの救急セットみたいになってっけどってああ染みるシミるってッ!」
「黙って我慢しろボケ!」


 神楽はスカーフをほどくと、沖田の足首辺りに深めの傷口を見つけた。沖田の抗議も無視して血の拭き取りや消毒を行い。ガーゼや包帯でとりあえず小さな応急措置を施し終えた。パンッ!と包帯の上から傷口を叩けば沖田ははぅッ!とその場で悶えた。


「……てめー覚えてろよクソガキが」
「看病者に対する態度アルかそれ?」
「大きなお世話だバカ」
「私はお前をバカ共のとこまで連れ帰らなきゃならないアル。歩いてもらわなくちゃ困る」


 沖田は、あーめんどくせぇー…とため息をついた。自由に言うことを聞かない右足を、恨めしそうにじっと見ていた。



 先刻、沖田は一人での任務を終えたところであった。その帰路に攘夷浪士がたった一人で、沖田の意表を突こうと影に潜んでいた。しかし彼の気配をすでに察していた沖田は、急所を的確に斬り返り血ひとつ残さずなぎ倒した。これから帰所する旨の連絡ついでに報告を入れようとした矢先、隙をつかれてしまったのだ。
 気絶したのだと思っていたその浪士が、倒れた体制のまま沖田の右足首をグサリと刀で斬りかかってきた。不意討ちに沖田はひるんだが、それ以上の攻撃に出られる前に、とっさに倒れた体へ突き刺した。その位置は心臓付近。浪士は、ピクリとも動かなくなった。ヤバい殺してしまったかもしれない。沖田に巡った思考は、沖田を急に冷静にさせた。

 ……いざとなれば。本来生け捕りすべき相手すら、躊躇なく殺せてしまう。改めて、そんな自己の手を、しばらくじっと見ていた。
 けれど、どうしようもなかった。
 すぐそこにいる、死にかけ人間に、憐れみの感情すら抱けない。

 取り急ぎ専用の夜間病院へ連絡した。その先の段取りはすべて病院側へ任せることとして、沖田はその場をあとにしたのだった。
 たとえ浪士が生きていたとしても、話を聞き出すのは明日にしよう。もう今日は仕事したくない。どうなろうと、知らん。……気分は最悪だった。

 右足に負った傷が思うより深く痛み続けていた。沖田は片足を引きずりながらでしかその先の道を歩けなかった。しばらくの間、道の塀を伝いながら、休み休み左片足だけで歩いていた。……そんなところに突然、頭上から虫取り網が降ってきたのだった。
 あっけなく沖田は捕まった。しかしそれは、沖田の目の端がニヤニヤと笑みを浮かべた神楽の顔を捕らえたからであって。浪士ではないとわかった上であった。……要するに避けるのが面倒だっただけである。



 沖田は、こんな傷を負った姿を誰にも見られたくなかった。神楽はもちろん、屯所の者たちにも。だから、パッと見わからない程度に血が乾いてから帰ろうかと。ゆっくり屯所へ向かい、時間を浪費していたかったのだ。
そこで、屯所へと急かす神楽の言葉に、抵抗した。


「……自力であんま歩けねェんだ。帰りたくない」
「はぁ…?赤ん坊じゃあるまいし駄々こねてんじゃねーぞコラ!」


 神楽は呆れながらも。仕事だと思うと仕方がなかった。そこで、ペシペシッ、と。仕方なさそうに。神楽は自らの左肩を叩く素振りを沖田に見せた。


「何?肩痛いの?」
「死ねヨ!察しろバカちんが!」


 このバカには口で言わなきゃ伝わらないのか。神楽はそう思ったが。なんとなく気恥ずかしいので。沖田のそばまでもう少しだけ歩み寄り、もう一度だけ同じ動作をした。ジェスチャーをここまでやればわかるだろう。


「……あ。もしかして。肩車してくれんの?」
「んなわけあるかい!!もうあんなん懲りごりネ!……肩貸してやるから立てっつってんだヨ。さっさしろ」


 神楽は観念して意図を言葉で伝えた。沖田はああ、と納得した。だが、首を横に振って、神楽の肩には捕まらなかった。


「片足で歩くのも疲れたからやだ」
「お前ガキみたいな文句言うなヨ。ちっとも可愛くないアル」
「もうしんどいんでさァ。どーしても連れ帰りてーならおんぶしろおんぶ!」


 冗談混じりの口調に反し、頑としてそこから動かない沖田。神楽は、首をブンブンブンと横に振った。


「嫌アル!お前に触れる面積は極力少なくしたい派アル」
「嫌だ、俺もう足疲れたからここから一ミリたりとも動きたくない派でィ」
「こいつッ!!デパートのおもちゃ売り場のチビッ子でももう少し融通きくアル!!」
「お前これ仕事で来たんだろ?だったらやれよそんくらい夜兎のくせに」
「夜兎関係ねーヨ!ああうっぜぇなーもうッ!!」


 神楽は怒りに任せて渾身の力で、沖田の体をフンッ!と担ぎ上げた。


「ぎゃ!ちょっと!」


 戸惑う沖田の体は、すっぽりと神楽の背中に収まった。


「よし、これで文句ないアルな?」
「……ねぇ、これ何?」
「お前が所望したおんぶしてやってんだヨ。ありがたく思うヨロシ」
「いやおんぶっつーか。向きおかしいんだけど。接する面積少なくってか背中だけしか接してねーんだけど何これ?こういう準備体操?てか痛たた足痛い……」


 沖田は、背面を神楽に預ける形でおぶられていた。背中合わせの、いわゆる担ぎ合いの体制だった。両腕をがっちりと組んで支える神楽は、普通のおんぶよりも上半身をやや下にかがめている。その姿勢のまま、ノッシノッシと歩き始めた。


「お前が歩かなくて済むようにしてやってるネ。感謝しろコラ!」
「いやこれさ、お前も相当な負担じゃねーの?これで屯所まで行く気か?」
「こ、これしきの事なんともないアル。いい筋トレアル!へでもないネ!」
「俺これ嫌だ。体しんどいし前見えねーしなんか一瞬で振り落とされそーでやだ」
「だぁぁあもうッ!わがままアルなぁクソが!」


 しばらくそのままの姿勢で前進していた神楽だったが、無理な体制で足腰が少しキツい上、歩きにくかった。
 そのため、片腕を解放したかと思えば、乱暴に沖田の体を宙へひっくり返した。
 ひょぃッ!くるりッ!
 そして、ストンッと。ようやく、正常のおんぶ体制に落ち着いたのだった。


「てめー…怪我人をなんだと思ってやがる」
「文句言うなら自分で歩けクソが」
「あっそ。これでてめーは仕事失敗で報酬無しだな。ざまァ」
「マジでうっぜーんですけどお前!!屯所着いたら足首掴んでブンブン振り回しの刑に処すからな?覚悟するネ!」
「あーそれだけは勘弁」


 そんな文句のやりとりを流しながら、神楽は沖田を背負ってすでに歩き始めていた。


「……ま、礼は言うぜ。こんなヘマしたときに限って徒歩勤務だったんでな。こいつァ楽して帰れるわ……」


 沖田はそう言って、疲れたように、神楽の首元に顔をうずめた。先程からの会話は、ただでさえとても至近距離でなされている。腕二本が神楽の首元を両側から囲い、体の前面が神楽の背面にピッタリとくっついている。そして、その両足も開脚した状態で神楽の腕っぷしにしっかり支えられていた。
 首元に息が吹きかかる感覚に、神楽はいい加減鳥肌が立っていた。


「……あのさぁ、お前。顔をもちっと上げといてくれないアルか?キモいから」


 沖田はずるずると頭を上げた。そんなところで、大して距離の近さに違いは出なかった。


「あ、じゃぁ俺からも言わせてもらうが。俺が女におぶられてる姿とかマジでドン引きされっから。極力人通りのないとこを通って帰りたまえ」
「ぶち殺したろかテメェ!!……決めたネ。あえて遠回りしてやるネ。そんでスクランブル交差点で行ったり来たり反復横飛びったりしてやるヨ!」
「スクランブルなのはてめーの頭だバカ。んなことしてみろィ、俺共々てめーも恥かくからな?相討ちだからな?」


 ひとしきりの罵倒し合いに、お互い多少喉が乾いてきていた。
 ……ああもうマジでいろいろ疲れた、ダリぃー。
 沖田はそう言ってまた神楽の肩に頭をすべて預けようとした。が、ブルンッと揺すらされたので。仕方なくまた首をあげ、前を向いていた。
 沖田の鼻先を、神楽の桃色の髪がかすめる。ふわっと漂ったシャンプーの匂いに。沖田は少し気を持っていかれた。


「……いい匂いすんな。パンテーンかこれ?」
「キんモッ!なんでわかんだヨお前!」
「いろいろ試してんでさァ。土方さん使って」
「自分じゃねーのかヨ!余計キモいアルヨそれ!」


 神楽は真剣にうざがっていた。けれど、放置してしまうと万事屋の貴重な収入が……。
 それに。今日だけはそういうわけにもいかなかった。

 沖田はいつもそうだ、と神楽は思う。ガキなんだか、大人なんだか、わからないときがある、と。
 ガキのくせに。いろんなものを背負ってるこの体。人間的な感情なんてどっかに置いてきてしまったような顔をいつもしているのに。背中から伝わる熱は、きちんと血が通っていて温かかった。不思議だ。
 そんなことを考えつつ。神楽は、よっ!と沖田の体を背負い直した。


「……案外重いアルな、お前」
「そうか?別に野郎の平均くれぇだろ?」
「……いやなんか、お前は頭の中身空っぽだろうからさ。もっと軽いかと思ってたアル」
「あほか。俺の脳内は副長の座奪うため日々精進してんでさァ。めっちゃ詰まってるぜ」


 お前と違ってな……と、沖田は神楽の頭を人差し指でツンツンと小突いていた。神楽は首をウンッ!!と嫌がるように振って払いのけた。


「詰まってんなら、ちゃんとしろヨお前」
「何が?」
「何怪我なんかしちゃってるネ。らしくないアル」


 神楽の言葉に、沖田は戸惑う。
 はぁー…そいつァ言い返せねーや、と。少しだけ弱気な声になったから。神楽はますます言ってやりたくなった。


「だいたい。あんなとこでグズってないで、赤ん坊はハイハイしてでも早くおうちに帰らなきゃダメアル。夜更かしは美容と発育の大敵アル」
「……赤ん坊扱いすんじゃねーよクソアマ」
「おぶられて今さら何アル。……それに、今日はお前主役なんだろ?しゃんとするネ!」


 神楽はふと夜空を仰いだ。星がキラリ、キラリときれいに輝いていて。夕空は西へととっくに消えてしまった後だった。万事屋を出立した時間から考えて、今は午後9時頃ってところだろうか。


「みんな、お前の帰りを待ってるアル」


 神楽が急に真面目な声になり。
 沖田は無表情のまま、目を瞬かせた。
 そしてその表情を変えないまま、神楽に尋ねた。


「……知ってんのか、お前。今日のこと」
「知ってるも何も。それで依頼されたのヨ私たちは。日付変わる前にお前見つけて、連れて帰ってきてくれって」
「……そうかィ。近藤さんの仕業か?」
「ゴリラも一応そうだけど。直接の依頼主はマヨラーアル」
「マジかよ?最悪!」
「もっとも、あいつらお前がこんな怪我してることは知らなさそうだったアル」
「そりゃそーだ。連絡してねーし」
「はぁ……お前に何があったか知んないケド。そんな斬り傷つけて帰ったらあいつらびっくりしちゃうアルな」
「びっくりっつーか。土方さんにどやされるわ絶対。めんどくせー……わざわざ万事屋に依頼するか普通?自分で探しに来いっての」
「マヨラーも忙しいのヨ、いろいろネ……」


 数時間前のことを神楽は思い出していた。

 神楽は銀時・新八と共に、真選組の屯所の前で依頼を受けていた。
 「なんで不良の赤ん坊、俺らがここへ連れ帰らせなきゃならねーわけ?つーかそんくらい、自分ら保護者で探せばいいじゃん?」
 そんな銀時の文句に、土方はわざとらしく用意された招待券(という名の食事券)3枚をペラペラちらつかせながら、言った。
 「あいつの誕生日だ。俺らは近藤さんの命によって会場準備があるんでな?こーゆうのは部外者に頼みてーって話だ……」
 「よし乗った」
 「早いです銀さん」
 新八がつっこみを入れると。土方はタバコを口に加えながら愚痴をこぼしていた。
 「あいつ昔からそうなんだ。誕生日に限って帰ってくんの遅ぇガキだ。どっかで油売ってんだろうが。……俺らが迎えに行っても嫌そうな顔しかしねぇだろうからな」
 そう話していたときの、少しだけ浮かべた心配そうな表情を、神楽はきちんと見ていた。





「赤ん坊は保護者を心配させちゃダメアルヨ」


 神楽が冗談混じりに言うと、こちとら仕事だ仕事!と沖田が少しおどけて投げやりに言葉を放った。
 そんなことは言われなくても神楽はわかっていた。痛々しい足の傷がその証だ。


「……こんな日に怪我させられるなんて。お前もツいてないアルな」


 神楽は穏やかなトーンで笑い混じりにそう言った。公僕は誕生日も公僕なんだな。人を斬って、斬られて。せっかく授かった温かい血を、垂れ流していく……。
 神楽は背後の人物の公僕っぷりに呆れていた。

 沖田はため息をつきつつ、言い返した。


「てめーに会ったせいでさらにツいてねーよ」
「よく言うアル。自分からおぶれっつったくせに」


 神楽は銀時と土方が話をしていたとき、見ていた。二人の体の隙間から、屯所の中の様子がちらつき。何をしているのだろうと伺っていた。
 すると、照明の光が漏れている入口の隙間から、近藤や山崎をはじめ隊士たちがあちらこちらへと行き交っていた。神楽が見知った隊士もそうでない隊士も皆が。酒の入った大瓶やらデカイ鯛の舟盛りやらを担いで屯所へ運んでいく。わざわざ折り紙でカラフルな鎖を作り、これどの辺に付けますか?なんて声が飛び交う。そんな中の様子が見えていた。
 あまりの浮かれように、こいつらいい歳こいてガキかヨ!と思いつつも。まぁ、いい奴らだな……とも思っていたのだった。


「……いいアルな、お前。お前の周りにはあんなにたくさん、誕生日祝ってくれるバカ共がいるネ」


 神楽の言葉を聞いて。ふと沖田は、先刻の血にまみれた地面の景色を思い返していた。
 あの浪士……あの人間の誕生日は、いつだろうか。誰が誕生日を祝うのだろうか。
 ……そんなこと、知る由もないのに。考えていた。


「……別に誕生日なんて。大してめでたくもねーのに大袈裟なんでィ」


 微妙な声色の変化に、神楽は少し気づいていた。
 沖田は無意識のうちに再び、神楽の首元に顔をうずめてしまう。けれど神楽は、何もしなかった。


「近藤さんや姉上が祝われんのはわかんだ。けど……俺みたいな人間、一人生まれようが二人生まれようが、この世に何の価値もねーだろうさ。……今日だって無駄に人の命、かっさらっちまったかもしれねーし」


 まぁ…土方さんよりは価値あるけど、と。淡々と話した沖田に、神楽はおぶり直しつつ答えた。


「そんなことないアル」
「俺よりマヨネーズの方が有価値とでも?」
「そっちじゃねーヨ。お前の命に価値がないなんてこと、ないって話アル」


 例えば、霧江のように、私のように……と。そんな前置きを少し言いかけて。やっぱり余計なこと思い出させるのはやめようと。神楽は前置きの言葉を飲み込んだ。


「……お前が生まれてきて、ここに生きていてくれて。助けられる人もいるし。ありがとうって思う人も、きっといるヨ」


 神楽のゆっくりと話す言葉をすぐ後ろで聞いていて。
 沖田は、ああまたか……と。無意識的に、両の手をぎゅっと握りしめた。

 またこいつは、俺を励まそうとする。

 込み上げそうになる感情を、気づかれぬうちに引き下げるため。沖田は目をつぶった。バカみたいに、心の内側から安心を得ようと彷徨う自分がいる。
 そんなこと許されるはずもないのに。

 沖田の小さな動作を、神楽は気に留めないふりをする。そして言葉を続けていた。


「だから、今日は一応おめでたい日なんだヨ
 ちゃんとまた1年、しっかり生きるヨロシ」
「言われんでもわかってらァ……」


 また力なくちょっと弱気な声に戻ったから、神楽は思わず笑えた。景気づけに今度は大きめによっこいしょ!とおぶり直した。


「何笑ってんでィ……」
「お前って早死にしそうアルな!」
「死なねーよ。俺はしぶとい」
「よく言うアル。片足歩きするぐらいで疲れてちゃ、そのうちポックリ逝っちまいそうネ」


 沖田は決して神楽には言わない。
 憎まれ口を叩きつつ、ときたま急に優しい言葉をかけてくる神楽に、
 甘えてみたかっただけだなんて。

 片足歩きし続けたぐらいで、大して疲れてはいなかった。斬られた足はじくじくと痛むけれど。柳生家へ道場破りに行った際、神楽に蹴られたときのことを思えば。沖田にとってヘタリこむほどの大袈裟な怪我ではなかった。
 ただ。足を動かさずに運んでもらって。ボーッとする時間を、欲しかっただけ。誕生日くらい、人に甘えてみたかった。

 もしかしたらそんな自分の心情をも見透かした上で、おぶってくれているのだろうか。そんな考えが少しよぎった沖田だったが。さすがに考えすぎか……と。思い直す頃には。もうすでに屯所の近所の道にさしかかっていた。


「クソサド、」
「何だよ」


 神楽は立ち止まった。
 そして、沖田を突然背中からずり下ろした。着地に際して、負傷した足を刺激しないよう、丁寧に体を支えながら。
 何事かと疑問符を浮かべ、神楽の片方の肩を借りて沖田は立っていた。神楽はそちらへ振り返り、肩越しに、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「お誕生日、おめでとうアル」


 そう言って、パンッと沖田の空いていた手のひらにタッチした。そして沖田を放置し、前へと駆け出し去っていった。
 いきなり支えを失ってよろけた沖田は、道の横の塀に捕まった。そして、前方に小さく見える神楽の背中と、その奥からこちらへ駆けてくる人影を見つけた。


「おーい総悟ー!遅ぇぞお前ー!」


 近藤は神楽とすれ違いざまに、ありがとなチャイナ娘、と、ポンと軽く肩を叩き、沖田の方へと駆けていった。
 主役が来ねーと始まんねーぞ!!と背後から聞こえる近藤の大きな声をよそに。神楽はさらに前方へ向かって駆け出した。


「銀ちゃーん!新八ィー!」
「神楽ちゃんお疲れー!」
「よくやった神楽。これで報酬とタダ飯タダ酒はゲットだ!」
「やったネ!主役の分まで私が全部いただいちゃうネ!」
「お酒はダメだよ神楽ちゃん!」


 遠く前方に見える万事屋トリオの後ろ姿から、しばらく視線を外せなかった。呆けた顔で立ち尽くす沖田がいた。
 近藤は異変に気づき、片足で立ったままの沖田に尋ねた。


「お前どうしたんだ?……その手にあるやつ?」


 デコデコとおもちゃのようにデコられていた小さな木箱。Happy Birthday Dear Baby !! などと、油性マジックで小さく殴り書かれたリボンが巻かれ、飾られていた。
 去り際、片手に握らされたそれを、沖田は目にしていた。少し泣きそうな顔になりながら。

 今度から自分で手当てしろヨ!

 遠くからそんな声が頭に響いたような気がした。




(おわり)





(以下沖田について個人的なコメント。スルーokです)



遅くなりましたが沖田隊長お誕生日おめでとうございます!
あんまり余談を書くのは得意でないのですが。せっかくなので。沖田について私が思うことを書きます。

はっきり言って、神楽ちゃんがいなければ私は沖田のことをそんなに好きになれなかったんじゃないかなと思います。
もともと神楽ちゃんは大好きなキャラクターで。沖田も神楽ちゃんと絡んでるときだけは、子供っぽくなる感じがいいなーという程度で。ずっとアニメを見ていました。

それがどういうわけか。六角事件という私の中の沖田イメージを覆す事件があり。すっかり沖田と沖神が好きになりました。
沖田がミツバさんにだけ見せていた表情とか、弱さとか。そういうのを、少しずつ神楽ちゃんにも見せているような気がするのです。
沖田にとって一番大切な人は、きっと近藤さんと土方さんで。神楽にとっても一番大切な人は銀ちゃんと新八であって。お互い一番ではなくて。けれどその付かず離れずの感じに。私はとても惹かれます。二次創作の中で、ベッタリくっつくこともできれば、まるっきり疎遠な感じにもできる。柔軟なカップリングだなぁということで。二次創作しがいがある。
でも、やっぱり原作の感じの距離感が一番落ち着きます。罵倒し合うときのセリフ回し考えるのとかほんとに楽しいです。

沖田でなくおっかぐ語りになってしまいましたが。
沖田のそういう、打たれ弱い面を抱えながら、一本芯が通ってるところ。そしてドSを通り越した鬼畜さも含め。漫画のキャラクターとしてこんなに面白い人物はなかなかいないんじゃないかと思えます。
つい、人間的な部分を強調したくて。いつも弱々しくふわふわした沖田ばかり書いてしまいます。本当はもう少し男らしくて、神楽ちゃんに多少何されても動揺しない沖田が理想です。いつかそんな沖田を小説で書けるようになれればなと思います。そしてもう少し読みやすい文章が書けるようになりたいです。

何はともあれ、沖田隊長生まれてきてくれてありがとう!!

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

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