雨隠れ okita x kagura 2017年11月09日 秋の雨は冷たくて苦手です。 この季節に降り積もる雨は、肌に触れる度に冷たくてやってられない。 いっそ消えてしまえば楽なのに。 帰り道。屯所までまだまだ距離があるからと、雨宿りに選んだ場所は、オンボロのシャッターが閉まった店の軒下。そこには既に一人の先客がいて、それが小さくうずくまってるチャイナだとわかれば、俺の心は踊った。 いいオモチャ見つけた。これで雨宿りの退屈が凌げる。 何食わぬ顔で、俺は軒下に入り込んだ。「あーあ、降ってきやしたねィお嬢さん?」 茶化す俺の声を聞いて、チャイナはわかりやすくしかめっ面をした。「ゲッ………お前かヨ……」 「最悪アル」という言葉は口にせずとも顔に書いてある。予想通りの反応に、早速愉快な気分になった。 秋雨前線が停滞していると。ニュース番組の津々浦々が述べていた。 春や夏と違って、ただただ寒いこの季節の雨が、好きではない。 それはきっとチャイナも同じだろう。 もう既に冬の装いで、マフラーに手袋。暖かそうな格好はいささか羨ましかったが。別に凍える程の寒さでもない。 地べたで三角座りをするチャイナの横で、俺は突っ立ったままシャッターにもたれ掛かった。すると、ガシャガシャンと、シャッター特有の大袈裟な音が辺りに響く。 ………そのまま黙っていれば、雨音以外に何も聞こえない。寒いことさえ除けば、そこそこ心地いい空間だった。「お前、いつまで雨宿りするつもりアルか」 隣のチャイナが口を開いた。 顔を向けると、こちらをじとっと睨んでいる。ちょっとゾクゾクした。「………雨が収まって、そのまま歩いても大丈夫なくらいになったらじゃねーの?」「何ダヨ。私の真似するなヨ」「いや真似じゃなくて、普通だから。誰だってそうだろィ」 ほーらほら、早速突っかかってきた。 チャイナは、嫌々ながらも出て行こうとしない。察するに、雨でずぶ濡れになるのと、俺に悪絡みされるのとで、どっちが嫌かと天秤にかけた結果、まだ後者の方がまっしと判断したからこそ、そこに座り込んでいるんだろう。 そんな事実が………また俺の心をくすぶった。「……しばらく止みそうにねぇな」 このまま止まなければいいのに。 そんな願望を口にするほど、俺は素直じゃないし。そんな願望いくら唱えたところで叶いっこないことは重々承知していた。「……止まなきゃいいアルナ」 チャイナの口から、そんな意外な言葉が返ってきたので、少しだけ驚いた。 ん?と、チャイナは目をくりくりとさせて俺を見ていた。 ………どうしたんだろうか。なんだかいつもと違うような気がしている。「帰りたくねぇの?」「今日はナ」 なんで?と問うと、フフフッとチャイナは笑うだけで何も答えない。 何、まさか俺と一緒にいたいとでも? イカれた思考回路をしていることはわかるけれど、その引き金を引くのはいつもこいつだった。惑わされてばかりの俺が悪いのだが。……何なら、このままここで一晩明かしてしまいたいくらいだ。 ……それくらい、一緒に居たいのに。「今日は帰っても銀ちゃんがいないからナ。ちょっと寂しかったアル」 ああなんだ、そういうことか。妙に納得すると共に、内心ではわかりやすく落胆していた。 もちろん、そんな素振りは表には出さないけど。 調子を狂わされてばかり。 ……内心少し期待を寄せた己が、ひどく恥ずかしい。 チャイナはうーんと伸びをして、シャッターに体を預けた。背中でまたうるさい音が鳴り響く。 チャイナが俺の横でくつろいでるという、ただそれだけのことで、優越感に浸ってしまうのだが、きっと、チャイナなら誰に対してでも、こんなふうに心を開いて話すのだろう。体を伸ばしてくつろぐのだろう。 のびのびと横に佇んでいるようなチャイナに、俺はどう接していいのやら。結局未だに、チャイナを掴みきれずにいる。「………あんま男の横で寂しいとか言うもんじゃねーぜ」 自分でも違和感を感じるほどの、強がりな言葉が口をついて出た。 チャイナは、きょとんとした顔をした。「なんか、あれアルナ」「何」 そして、チャイナはにやりと笑みを作る。「お前も時たまわかりやすいナ」「………は? どこが?」 こんな強がりのどこがわかりやすいのか。「お前の顔見てると、なんとなく考えてる事、わかる気がするネ」 そいつはテメーの察しが良すぎるだけなのでは? なんとなしに、顔を見られないように、そっぽを向いた。 いつも何かを見透かしてくるような会話に、戸惑ってしまうのは俺の方ばかりだ。顔に何でも書いているのはチャイナの方だと思ってたのに。 どうやら、本当に素直なのは俺の方らしい。「お前の体は正直アル!」 さも傑作だと言わんばかりに笑ってくるので、チッと舌打ちをした。嬉しそうにチャイナは笑う。どこぞのエロ漫画みたいな台詞をサラッと口にするものだから、こっちもつられて笑うしかない。 俺が素直だと言うのなら、考えを見透かしてると言うのなら、きちんと答えを聞いてみたいのに。 そこのところを問いただす程の気概は生憎持ち合わせてはいなかった。 他力本願は、今に始まったことでもない。そう自分に言い聞かせて。今宵も何も言えぬまま、暖かくて溶ろかされそうな心を、冷たく保つしかないのだろうか。 降り続けてる雨はまだしばらく止みそうにない。 それでいいのだろう、きっと。 [3回]PR