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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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ケトル

※腐向け注意
夜中に小腹が空いた土方と沖田の話です。











「うっわ!びっくりした!!」
「ビビりすぎですよ」


 遠くから忍び足でやってきた足音がビクッと怯えた気配。沖田は苦笑した。
 夜中、蛍光灯の明かりひとつだけの薄暗い台所。流し台を前にどんよりと立っていた寝間着の沖田の後ろ姿に思わず一歩後退したのは同じく寝間着の土方。沖田は土方の方へ振り向こうとはせずじっとコンロの近くに立っている。微動だにしない姿に土方は幽霊かと見紛ったが、通常運転の気だるそうな声と地に足が着いていることからすれば少なくても幽霊ではないし、土方のよくよく知っている人間だと分かった。安堵しつつ何食わぬ足取りで沖田へ少し近づいた。


「ビ、ビビビッてねーし!ちょっと湯入れに来ただけだ」
「あり?土方さんもですかィ」


 沖田はきょとんとした顔で振り返った。少し寝ぼけ眼だが、声はハキリとして意識はしっかりしている。その手には半分だけ開けられたカップラーメンの蓋と剥がし終わった後のフィルムがくしゃりの握られていた。同じようなペラペラのフィルムは土方も手にしていた。土方はそれをクズかごに捨て、持っていた四角いカップ焼きそばの蓋をペリッと剥がして棚に置いた。


「どうも腹が減ってな」
「奇遇ですねィ。俺が今やかん使ってんで待って下せェ」
「いいよ俺ポットの湯使う」
「あ、それ空ですよ今」
「はぁ?誰だよ最後使ったやつ」
「俺と入れ違いに部屋戻ってった近藤さんかと」
「ちっ……使いきったら入れ直せっつってんのに」


 念のためポットの蓋をカパッと開けて確認してみたが。薄暗い部屋でもわかるほどにすっからかんだった。クッソ……と悪態をつきながらコンセントを抜きつつポットを担いで流し台へ。やかんで湯が沸くのを待っている沖田の横隣に立ち、ポットへ水を注ぎ入れていた。


「夜食とろうなんざ、アンタらもまだ若ェ証拠ですね」
「あ?んなもん全然普通に食ってら。年寄り扱いすんな」


 水が満タンに入ってゆくポットを横目でちら見しつつ、沖田は腕組みした態勢で流し台へもたれかかっている。無駄な動きひとつなくポットを元の位置へ運ぶ土方を目にしつつ鼻で笑った。


「夜食にわざわざ焼きそば要らねェでしょうアンタ。マヨネーズちゅっちゅしときゃいいんでィ」
「まあそりゃ、マヨネーズちゅっちゅも悪かねェんだが……」


 それ以上の言葉を続けずに不意に黙る土方。ポットを元の位置へ戻しコンセントを入れ電源をオンにする。……と、流し台へもたれる沖田の正面へとゆっくり近づいた。その足取りや雰囲気の変化を感じ取りつつも、沖田は姿勢を崩さずじっとしている。動揺ひとつすらしない。二人の顔の距離がわずか十数センチにまで差し迫っても、沖田はいつもと変わらぬ表情をしていた。


「別の味も欲しい……」


 そんな言葉が吐息ごと沖田へ落とされた。

 沖田が先程から待っているやかんは、カタカタとわずかに震える音を立てる。土方が今し方電源を入れたポットはやがて熱を持ち始めゴーゴーとした音で唸る。それらの音以外聞こえない台所の間に、……ちゅっとわずかな触れ合いの音がした。


「はぁ……モノ好きなこって」


 沖田が余裕たっぷりにそんな言葉を溢せば、またひとつ、またふたつと同じ音が響く。付けては離れるだけの動きから、やがて侵食されていく。柔らかい熱をもって混じり合う。互いの匂いも感じ合うし酔しれるように食み続ける。けれど二人とも、声は発っさなかった。ただただ淡々と繰り返し、心がほだされてゆくだけ。

 まだ沸かない。そろそろ沸くだろうか。

 湯が沸くまでのわずか数分の時間。しばらくすると沖田の方は、だめになってきていた。つぶっていた眼をうっすらと開ければとろんとしている。高揚する内側の熱に、脳の命令を通らず舌が踊った。鼻や唇の隙間から漏れる切なそうな声に土方の感情もまた高まり、肩に置いていた手をそっと沖田の胸元へ滑らそうとしていた、そのときだった。


ーーーピィィィイーーーー!!


 じわりじわりと、あっという間に甲高く間抜けな汽笛に成り変わり音が響いていた。土方は下りかけた手を止めその胸板と唇を突き放した。


「んはっ……」


 離した瞬間沖田が唇の端からこぼした音色にも構わず、土方はコンロのスイッチを切った。やかんの音はフニュフニュとますます間抜けな音に変わり徐々に小さくなった。あーあ……と少し落胆しつつ、土方がやかんの取っ手を持ち上げるため掴もうとする。すると、沖田がその手をパチンと弾いて土方からやかんを奪い取った。


「その湯は俺の分です」


 先程までの戯れなどまるで何事もなかったかのように、やかんの湯を淡々と自分のカップラーメンに注ぐ沖田。土方もまた同様、自分のカップ焼きそばの前へ戻り、小袋を取り出しかやくをちまちまとふりかけていた。


「次それ俺へ寄越せ」
「残念、一人分しか沸かしてやせん」


 そう言うと、きっちり注ぎきったやかんを殊更乱暴にガタン!!と流し台へ放り投げた沖田。水溜めも何もない流し台へダイブしたやかんは、窪みの中で暴れ回りガタンッどたんッと派手な音を立てつつやがて静止した。


「ちょてめー五月蝿ェぞ!他の野郎が目ェ覚ますだろーが!」
「はぁ何か?覚ましちゃまずいことでも?」


 カップラーメンの蓋を閉め、箸を乗せ、そこにあった置き時計の文字盤を横目で見ながら、沖田は嫌みっぽく言ってやる。
 土方はケッと再び流し台へ近づきやかんを拾おうとする。触れる位置を間違え熱っつ!と一度手を引っ込めたが、再び取っ手をつかんでやかんを取り上げた。そして軽く洗い流した後、中へ水を注いだ。


「たく、わざとだろ」
「どっちが」


 沖田が身を少し屈めてくんくんとラーメンの匂いを嗅いでいる横で、土方は適量の水を入れたやかんに火をかけた。プシューと水が短く蒸発した後、先程の沖田が火にかけていたとき同様カタカタと小さく震え始めていた。
 そんな土方を尻目に、沖田はひょぃっとカップラーメンの縁を両手でつまみ持ち上げていた。


「んじゃ、俺は部屋へ戻ります」
「……そーか」


 小さく少し残念そうに呟く土方の返事を内心嘲笑いつつ、おやすみなさーいと短く言い残し、台所を後にしようとした。
 しかし、


「……総悟」


 土方の声色に気づき、沖田は足を止めた。相変わらずグツグツと音を立てている電気ポットのすぐ横に持っていたカップ麺を置いて体ごと仕方無さそうに後ろへ振り返る。
 沖田が思った通りだ。土方はすぐそばまで歩み寄ってきていて再び沖田の肩に手をかけた。そのまま勢いに任せる形で噛みつくように再び沖田の唇を塞いでいた。
 んっ……と沖田は多少目を白黒させつつも、その体を追い払ったり、その命を狙ったりはしない。隙ならいくらでもある。けれど、隙だらけのその体に今は少し身を委ねてあげる。慣れた仕草に、段取りに、徐々に火照らされてゆく。されるがまま唇を奪われ舌を弄ばれていた。


「はぁ……ちょっ、ね、……土方さんッ!」


 さすがにその手が胸元から腰へ、さらに下へと伸びていきそうになったところで、その手首を捕らえ静止させた。首を少し傾けまっすぐ睨み上げる沖田の熱っぽい目は土方の気を煽ろうとする。だが土方も無理やり続けようとはせず、沖田の意に従い静止していた。


「アンタやかんみてェだな」
「は?やかん?」
「いきなりピーピー沸くんじゃねーや。こちとら気分ってもんがあるんでィ」


 沖田は土方の手首を突き離し、その手でそのまま自身の唇をごしごしと拭った。何か汚いものとでも触れ合ったのかというほど念入りに擦り上げると、うえっ!おえっ!……とわざとらしく声をあげた。


「なーにを偉そうに」
「ちなみに俺は、ポットの方なんで……」


 沖田は手の届く範囲ですぐそばにあったポットの電源を特に意味もなく投げやりに切った。ピーッと短く鳴った停止音と共にポットのぐつぐつする音はおとなしくなっていった。


「ちゃんと溜めて、必要なときだけオンオフできるってな。アンタより高性能なんでさァ…」


 それを耳にすると土方は口角を上げてニヤッと笑みを浮かべた。面白いことを言うなこいつはと心が踊るような感覚がしていた。


「溜めてんなら今ここで使え」
「電源オフなんで無理です」


 まるで試すかのように沖田の目をまっすぐ見ている。沖田もまた土方へと挑戦的な視線を送りつつ不敵な笑みを浮かべていた。
 互いにニヤリとした笑みで睨み合い退かない。敵対関係は今に始まったものではないが、隙さえあれば互いに気持ちを確かめ合おうとするような関係をいつから持ってしまったのかはもう二人ともわからない。


「んじゃ、俺がスイッチ入れてやりゃいいのか?」
「バカじゃねーの、操作できんのは俺だけでィ」


 土方の声がまるで合図かのように、再び背後のやかんが小さく音を鳴らし始めていた。それと共に、ちらりと沖田が時計に目をやるとちょうど湯を注いでから3分が経とうとしていた。だが、その隙を突かれてしまった。先程唇をごしごし拭った手を力強く握り込まれてしまう。このッ!と空いていた方の手で前髪へ掴みかかろうとするも、あっけなく阻止された。そして両の手ごと、沖田の頬に左右からあてがう。顔の向きをまっすぐ土方だけへ向けさせようと操作する。


「離せ!ちょ、伸びるッ!不味くなるッ!」
「ノビてりゃいいじゃねーか、うまくしてやるよ、な?」


 そんなゾッとするような甘い声に、沖田はハタリと力が抜けてしまった。土方の背後で響いているやかんのやかましい音も、今は遠退いて聞こえる気がしていた。


「………せめてあれ止めやしょうよ」
「いいよもう、ピーピー鳴らせとけ」
「誰か目ェ覚ますっつったのアンタですぜィ」
「ごちゃごちゃうるせェ黙ってろ」
「うるせェのはアン……た……、あっ…」


 再び聞こえてきた音はすっかりやかんの音に掻き消されてしまう。くちゅりくちゅりと愉しむ音も、沖田の唇から漏れる声も、けたたましい音に紛れて聞こえない。深夜に熱く沸き続ける気持ちをぶつけ、ごちそーさまとお互い言うが早いか。誰かが目を覚まして台所へ入ってくるが早いか。そんな背徳感を堪能していた。



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