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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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食欲のない秋

神楽が沖田をなんとかしようと少し頑張るお話です。
万事屋真選組メンバーがいろいろ絡んできます。

※個人的に消化不良の話なので、今後修正する可能性ありです。➡ 2017.10.2に修正しました








その1、土方山崎と神楽



 屯所の一室にて。山崎が土方を前に正座しながら書類の束を差し出すと、土方はタバコを灰皿に潰しながらそれを受け取った。


「ご苦労」
「これで全部ですかね。一番隊の改善報告書」
「お前の分はな。あとは一番隊隊士らの細々した書類だけだ」
「まだあるんですね……ご苦労様です」


 監察としての提出すべき仕事をすべて終えた山崎とは異なり、土方はチェックする立場としてまだ気を休めることができずにいる。そんな土方を労いつつ、山崎は手に持っていた包みを差し出した。


「それとハイこれ、いつもの弁当です。今日は秋の幕の内で注文してみました」
「そこ置いといてくれ」


 包みは山崎がこの部屋へ向かう途中、玄関先から取ってきたもの。真選組がまとめて注文している宅配弁当だった。
 弁当を各隊士へ運ぶ、空箱を回収する等の雑用は、専ら山崎の仕事。
 そして山崎は、もうひとつの物を差し出した。


「あとハイこれ、爆弾おにぎりです」
「おうそれもそこに………って、は!?」


 土方は海苔とラップでぐるぐるに巻かれた巨大なおにぎりを前に目が点になった。
 形はいびつでゴロゴロとしている。自分でももう少しまっしなものが握れるのではないかと土方が思うほど。見た目は明らかに、弁当屋の握ったソレではない。


「何じゃこりゃ?真っ黒だし真ん丸だしマジで爆弾じゃねーかよ」
「例のごとくチャイナさんからですよ」
「ああまたか……いい加減にしろっつーの」


 土方は納得した。
 神楽からのおにぎりの差し入れはここ二週間程の間の定番だった。

 そもそも、真選組の屯所の中には食堂がある。しかし、自室や見回り先で仕事をしながら食事を挟む場合に利用されるのが、決まったいつもの弁当屋の弁当だった。まとめて注文され届けられた弁当を各自持ち出すというシステムである。
 そこの弁当屋は長年老夫婦が切り盛りしており、これまではいつもそこの主人が宅配用のスクーターで弁当を届けに来ていた。

 しかし、ここしばらくの間はスクーターのエンジン音が聞こえない。
 実は、弁当屋から依頼を受け、万事屋の神楽が代わりに宅配していた。


「まぁ宅配が継続されんのはありがてぇが……。なんでこういつもオマケみたいな握り飯が付いてくるわけ?つか弁当に既にごはん入ってるし!」
「チャイナさんからのサービスだそうですよ」
「サービス?」
「こないだ新八くんに町中で会ったときに聞いたんです。
 なんでもチャイナさん、弁当屋のご主人たちの助力を得て、料理の練習をしてるんだと」


 料理と言っても。毎度毎度おにぎりばかりなのだが。
 たしかに、炭水化物は腹持ちして重宝する。……しかし、もう少しレパートリーがどうにかならないものか。土方は前々から思っていた。
 机の上の書類を片しつつ、土方は無造作に爆弾おにぎりを手にとり頬張りながら言った。


「まぁそりゃ、……うん、これ旨ぇけどさ?……しかしガキの料理レッスンになんで俺ら警察が付き合わされにゃならねェんだ」
「仕方ないですよ。バイクで足骨折しちゃったんですから、弁当屋の主人。あのお爺さんに代わってチャイナさんがいつも届けてくれるだけでもありがたいと思わないと」
「けどまぁ、この握り飯は別になくてもよくね?」
「チャイナさんがすっかりご主人たちと仲良くなって。修行として、自分のごはんを自分で作れるようになりたいっつーことで。教わりつつ作ってるらしいですよ」


 自分のごはんをねぇ……と言いながら。土方はどこからともなくマヨネーズの容器を取り出し、おにぎりの中心へとぐちゅりぐちゅりと絞り出していた。山崎はうえっと目をそらした。
 たしかにチャイナ娘なら炭水化物さえたくさんあればそれでいいのかもしれない。だが料理と呼ぶには如何なものか……。マヨネーズ片手に土方は考えていた。

 神楽の手助けを借りつつも、弁当の中身自体は老夫婦がこさえている。そのため隊士らの栄養摂取に支障が生じているわけではない。
 ただただ、弁当のひとつひとつに、おまけで神楽のおにぎりが付いてくるだけだ。
 それはたしかに、見た目こそ整いきっていないものの、弁当を食べる隊士らにとっては、拙いながらも懸命に握られたご飯のかたまりに、和むものが少なくなかった。
 口にはしないが、土方も一応その一人である。文句を流しつつも、ありがたく食されていることを、雑用担当の山崎は知っていた。


「………しかし皆さん、万事屋には厳しくても、チャイナさんには甘いですよね」
「なんだかんだチャイナ娘と眼鏡はまだ子供だからな。眼鏡は近藤さん的な事情もあるが、単純にチャイナ娘にもまだ可愛げがあんだし。
 ………まぁ、あいつはどう思ってるか知らんが」


 あいつ、といえば………と。
 土方と山崎はほぼ同時に弁当へと視線を落とした。

 注文された人数分の弁当やおにぎりは、腹を空かせた隊士らによりいつも完食される。
 しかし……いつも一人前分だけ、玄関先に残されたままとなる。
 その一個のせいで、毎度組全体として完食にならないのだ。


「そういや、今日もまた残されてましたよ。一個だけ」


 それが誰の分であるかは、山崎土方だけでなく、屯所の誰もが知っていた。
 そうか……と、おにぎりを頬張り終えた土方は、飲み込んでから問い掛けた。


「………んで、総悟の様子はどうだった?」
「相変わらずですよ。今も自室に籠って、部下の尻拭いの書類に追われてます」


 一番隊の隊士の責任を沖田が連帯して負う。
 別に初めての事ではない。しかし、今回ばかりはタイミングも悪かったか。失態に失態が重なり、浪士らに足元をすくわれる形で、命を落とした者もいた。


「そりゃな……。最近あいつとすれ違っても、命狙われる気配すらねぇわけだ」
「それはそれは。副長も今なら枕を高くして眠れそうですね」
「いや、これはこれでなんか気味悪くて安眠できねぇもんだな……」


 土方は思い返していた。
 今朝も沖田と厠の前ですれ違った。よう……と土方が厠へ踏み入れつつ声をかけても、沖田は挨拶を返さず、それどころか目も合わせないまま、土方から離れていったのだった。


「吐いてたみてぇだしな」
「またですか?本当に風邪とかではないんですよね?」
「いや、完全にストレスらしいな……」


 すれ違い様に見掛けた沖田の目が虚ろだったことを、土方は覚えている。心なしか頬も痩け、足取りも少し不安定だったように思う。


「食欲の秋だっていうのに、沖田隊長の食欲はメンタルにやられっぱなし。困りましたね……」
「まぁ、メンタルくらいでどうこう庇うつもりはねぇが。今回ばかりはあいつが気の毒と言やァ気の毒だ。
 前回の一番隊の失態はあいつのせいでは無かったわけだし。多少同情してやらんでもない」
「はぁ……なんか意外ですよ」
「何が」
「だって副長でしょう? 監督不行き届きで沖田隊長へ謹慎処分下した張本人は」
「まぁそりゃ、浪士まるごと取り逃がした大失態には違いねぇからな。
 情けなんか掛けてりゃ他の隊士に示しがつかねぇし、ついでにあいつの今の状態で外回りの仕事なんかさせてりゃロクなことにならねぇからな」
「て言ってももうそろそろ謹慎期間終わるでしょう。沖田隊長の戦力無しにいつまでも仕事回せるわけでもないですし……。
 ……もう1回、医者に診てもらってはだめなんですか?」


 土方は煙草も口にしていないのに、フーーッと大きな溜め息をついた。


「……どうにも精神的な原因らしいからお手上げだとよ」
「わからんもんですね……」


 山崎はここ数日沖田の部屋へ報告書の回収のため行き来している。山崎を前にしたときの沖田は、弱味を見せまいと常にけろっとしている。
 しかし、けろっとしているように見せかけているのだと、外からわかるほど。隠しきれていない。
 痩けた顎と、山崎が毎度部屋まで運ぶ弁当の中身にほとんど手が付けられていないということだけは、誰の目から見ても明らかであった。


「……なんか、それこそチャイナさんにでも会えば気も紛れるんじゃないですか。沖田隊長」


 山崎は、大きな白犬に跨がり颯爽と元気よく屯所の門前へ登場するチャイナ服姿の少女を思い浮かべていた。
 弁当をまじめに届けてくる神楽。
 なんだかんだ言い争ってはいるが、たぶん二人は仲が良いのだろうから。
 沖田の良い気晴らし相手になるのではないかと考えていた。


「どっちも会いたかねぇだろう、特に総悟の方は今の様子じゃな。……あの爆弾型握り飯も残してるようだし」
「握り飯どころか弁当の中身もほぼ手付かずですからね」
「ちゃんと飯は食えと言ってんだがな」
「副長の言うこと聞かないのは今に始まったことでもないですけどね」


 土方はどうしてやることもなく、ただ様子を伺うことしかできないと思っていたしそれが最善だろうと思っていた。
 しかし、やはり外部から何かしら働きかけてやる必要があるだろうか。

 近藤がいれば良かったのかもしれないが。生憎しばらくは近藤も遠征のため不在である。


「やっぱ、相当病んでんだろーな、あいつ」
「相当病んでるんでしょうね、あれは」
「相当病んでるアルな、それは」





「………ん??」


 土方はえらく甲高い声が聞こえた方へ、山崎と共に首を向けた。
 そこには、さも自分の家の縁側のように、傘をさしたまま座り込んで上半身だけこちらへ振り返っている神楽がいた。
 どこからともなく現れた神楽にえっ!?と二人揃ってたじろいだ。
 殺気であればすぐさま気づいたかもしれないが、まるで近所の子供が駄菓子屋に遊びに来たかのごとくそこに佇んでいるだけであったため、気づくのが遅れてしまったのかもしれない。実際、酢昆布をもさもさと口に含みながらそこに座っていた。
 土方は抜き身こそ向けないものの、腰の刀に手をかけつつ片膝を立て神楽に怒鳴った。


「てめっチャイナ娘!!ここは女子供立ち入り禁止だって何べん言や」
「何だヨー、ちゃんと弁当箱回収来たのに入口置いといてくれないからアル」
「あ、いっけね忘れてた!」
「山崎てめ雑用ぐらい抜かりなくやりやがれ!」
「す、すいません!チャイナさんちょっと待っててくださいね」


 山崎がその場を駆け足で発った後も、神楽は縁側の外へ投げた足をブラブラさせながら土方の弁当を見ていた。


「トシまだ昼飯食ってないアルか?もう夕方近いアルヨ?早よ食えヨ早よ」
「あ?いろいろやることがあんだよこちとら。あとトシ言うな!」
「まぁ別に明日も回収来るからそんときでもいいけどさー」
「んじゃいちいち急かすな。あとそれ以上入ってきたら怒るからなマジで?」


 土方はタバコを吸おうと机の上のケースに手を伸ばしかけた。が、すぐ近くに神楽がいることを意識し………仕方がないので後にしようと手を引っ込めた。
 煙の代わりに、再び溜め息を思いっきり吐き出した。


「そんな溜め息ばっかついてちゃ歳食うアルヨ。「トシ」だけに」
「あほか。つーかいつから聞いてたわけ?」
「ジミーが弁当持ってきた時から」
「最初からかよ!!」
「回収作業が残ってるから仕方ないだろ」

「……だからいつも言ってんだろ。使い捨ての弁当容器にしろっつって。そしたらテメーもわさわざ一日二回ここに来なくて済むわけだし」
「それはだめアルヨ。物が溢れるこの世の中、何事もエコが大切なんだって、弁当屋のじいちゃん言ってたアル」
「あの爺さん弁当は旨いが考え方古ィんだよなほんと……」
「お前もじいちゃんを見習えヨ。そんなこと言ってるからいつまでたってもニコチンとマヨのエコができないアル」
「ニコチンとマヨ関係ねーよッ!むしろテメーらからのこういうストレスでエコできねぇんだっつーの!!特にテメーんとこの社長がッ」

「ふ、副長、チャイナさん、何喧嘩してるんです!?」


 戻ってきた山崎は慌てて二人の間に入った。
 肩には何重にも重ねられた弁当容器を包んだ風呂敷の塊。重そうにそれらを、よっこらせ、と縁側へ置いた。


「おう、サンキュージミー!」
「門先にちゃんと置いとくよう今度から気をつけますね」


 ふと、山崎はある考えが浮かんだ。
 ここに戻る途中に横切った、固く閉めきられた部屋。その主を思い返しつつ、神楽に尋ねてみた。


「あのチャイナさん……このあと少しお時間ありますか?」


 山崎が遠慮がちにそう言うと、風呂敷を肩に担ごうとしていた神楽はえ……!?と固まる。そして両手で二の腕を擦る仕草をした。


「な、何アルか!?言っとっけど私ジミーとのデートなんてお断りするネ。こっちまで地味キャラがうつるアル!」
「違げーよ!つーかうつるって何!?ウイルス!?」
「いや今の山崎の言い方だとそうなるわな、デートかってなるわな」
「副長までなんですか肩持って!」


 神楽の援護に回ってしまった土方に困りつつも、山崎は神楽に向き直り、こほん、と、空咳をひとつしてから言った。


「まぁ、デートとまでは言いませんが………チャイナさん、今から沖田隊長に少しだけ会ってもらえませんか?」
「え?却下アル」
「早っ!返事早っ!!もう少し悩めよ!!」


 耳から入って脳を通らず口から出てきたようにお断りした神楽は、よっと、風呂敷を担いで縁側から下り、既に帰る体勢ができていた。
 やはりここでも土方は神楽の援護に回る。


「山崎テメー何抜かしてんだ。屯所荒らされねぇうちにさっさとご帰宅願え」
「副長しかし、どうせもうここまで立ち入っちゃってますしついでじゃないですか。俺もちゃんとチャイナさんに付き添いますし」
「テメーにこいつの暴走が押さえ込めるとでも?」
「おい、私は却下と言ってるネ。人の話は聞くヨロシ」


 神楽が面倒そうに言い返すと、けれど……と山崎は続けた。


「チャイナさん、じゃぁ俺の話も少し聞いてください……。
 沖田隊長、実は事情があって、ここ最近ずっと外出できずにいるんです。その外出禁止の原因も含めて少し気持ちが参ってるみたいで。
 ……ストレスからか食欲もないみたいなんです」
「………さっき聞いてたアル。あいつだったアルナ、いっつもお残しばっかしてんのは。食物のありがたみをわかってない奴ネ」


 神楽は知っていた。容器の回収を済ませ、弁当屋の夫婦と共に後片付けをしている間、いつもひとつの弁当だけが中身たっぷりに残っていることを。もったいないねぇ……と三人で口々に言っていた。
 ちょうど神楽もその犯人が知りたいと思っていたところだったのだ。だからこそ、土方と山崎の話に耳を傾けていた。


「せめて……隊長をちょっと励ましてあげるだけでも」
「嫌アル」


 犯人が知れたならそれで別にいい。だいたい励ます義理などどこにもない。神楽はそう思って、さっさと退散しようと考えた。


「なんで私が励まさなきゃいけないアルか。病みたいだけ病ませときゃいいアル」
「チャイナさん……」
「私はここに弁当届けるのと弁当箱回収するためだけに来てるネ。他に仕事注文するってんなら別料金いただくアル」


 きっぱりとそう言って縁側から離れ歩き出した神楽に、山崎はそれ以上何も言えなかった。
 やれやっと吸える……とタバコの箱へ手を伸ばした土方は、沖田に代弁するくらいのつもりで神楽の背中へ言った。


「毎度完食できずすまんな。その爆弾握り飯もまるまる持って帰らせちまってな」
「本当アル。………私としてはもう、既に励ましてやってるつもりヨ」


 えっ?と驚く山崎。タバコを吸い始めた土方。
 神楽は肩の風呂敷とは別に、野球ボールのようにぽんッ、ぽんッと、たったひとつだけ残されたおにぎりを宙に投げてはキャッチしてを繰り返していた。
 秋の風が揺らめく空中を、真っ黒なおにぎりが落下してゆく。
 パシッとそれを握りしめ、神楽は言った。


「私の手作りも受け取れねェようなやつ、顔つき合わしたっておんなじアル」


 少し冷たく言い放つ神楽は、どことなく秋風に溶け込むように、そのまま去っていった。




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