食欲のない秋2 okita x kagura 2015年10月01日 食欲のない秋のつづきです。 その2、万事屋と神楽「すごいよ神楽ちゃん。爆弾型からちゃんと俵型になってきてるよ!」「じいちゃんたちの手料理の教えの賜物アル!」 万事屋のテーブルの上には、少しいびつながらも俵のかたちをしたおにぎりがびっしりと並ぶ。皿の上のおにぎりは、大きさもそこそこ均一に、そして何より、中身の具は梅や昆布などいろいろ入っており工夫されていた。 それを手にとっては、あ、これはカツオだ、たらこだ、と。ひとつひとつに感嘆の声を発する新八とは裏腹に、銀時はふーん……と淡々食べ続けているだけだった。「何が手料理だよ。握り飯なんて今時コンビニ行きゃどこにでも売ってるしどこでも食えるぜ?」「でもコンビニのやつとは何ていうか違うじゃないですか。神楽ちゃんの真心こもってますし」「そうアル!愛情たっぷりヨ!じいちゃんばあちゃんみたいにふっくら握れるよう練習したアル」 フンッと鼻をならし胡座をかいて座っている神楽に対し、鼻をほじり足を組んで座る銀時はまだ不満げに言葉をこぼしていた。「にしてもこんなもん、具ぅドサッと入れてご飯泥団子みてーにこねくり回して丸めりゃ誰にだってできんぜ?」「銀さん……せっかく神楽ちゃんが作ってくれてるのに酷いですよ」 ね、神楽ちゃん、と。新八が神楽を見ると、少ししょげた顔をしていたが、すぐにまた表情を取り直し、銀時に歯向かった。「けっ!これだからいつまでたっても独り身なんだヨクソ天パが。マヨラーの方がおいしいって言ってくれるだけまだまっしアル」「何言ってんだ。マヨラーはマヨがおいしいっつってるだけでお前の握った飯なんざ味わえてねぇって」「銀さん!」「ふーんだ!もう銀ちゃんなんか一生卵かけご飯食ってりゃいいアル!バーカッ!!」「あ!神楽ちゃん……!」 神楽はごちそーさまでしたッ!と乱暴に言い放つと、あっかんべーの後、のっしのっしと向こうの部屋へと消えてしまった。 新八は溜め息をつきつつ銀時に諭した。「銀さん、神楽ちゃんだって女の子なんだからデリカシーってもんが」「デリカシーもクソもねぇよ。弁当デリバリーするだけの依頼ごときに無駄な時間費やしてんじゃねーぞって言いたいだけだよ俺は。ただ言われた通りに弁当運んで回収してってやってりゃいいのに。所詮仕事なんだから効率化が大事だぜ世の中?」 あいつもまだまだ半人前だな……などとこぼしながら、勢いよくパクパクとおにぎりを食べている銀時。それを見て、あのですね……と新八は言葉を続けた。「……神楽ちゃんがこの間言ってたんですよ。おにぎり作って配ったりしてるのは修行のためなんだって」「しゅぎょう?花嫁修業ってか?何あいつ警察の胃袋掴んでそん中の誰かと結婚でもする気? 差詰め犬猿の仲と見せかけてそこそこ仲の良い沖田とか」「いやそうじゃなくてですね」 新八は銀時の湯呑みに煎茶を注ぎつつ神楽の言葉をそのまま口にした。「万事屋として一人前になるための修行だ、って言ってました」 銀時は無言で湯呑みを手に取り熱っち!と言いつつ口にする。「ほぉー、社長の座でも狙うつもりかあいつ?」「銀さんの薄汚い甲斐性なしの座なんて僕らはちっとも欲しくないです」「……新八、それやめてさりげに傷つくよ銀さん」「ちょっとは神楽ちゃんの気持ちわかりましたか?」 急須を置くと、新八は項垂れる銀時はスルーしつつ棚の上のカレンダーに目をやった。 ここ2週間分の日付には赤ペンでうさぎマークがでかでかと記されていた。それは、神楽が単独で仕事をこなした日に付けられるマークだった。「今回は一人で頑張ってみたいからって、今のお弁当屋さんからの依頼の仕事、きちんと続けてるんですよ神楽ちゃん。僕や銀さんがいなくても、きちんと仕事を徹頭徹尾こなせるようにって。合間の食事も自分で満たせるよう、おにぎりの作り方も教わったらしいんです」 新八は再び銀時に向き直った。その口元に点々と米粒が付いているのを見とめ、なんだか笑えていた。「だから、もうちょっと温かく見守ってあげて下さいね。……ま、神楽ちゃんの成長に、銀さんが寂しいって思う気持ちもわかりますけど」「さ、寂しい!?誰がいつンなこと言ったよ!?」「顔に書いてますよ?あと顔に米粒付いてます」「書いてねーよ!!はぁ米?……あ、米は付いてたけどさ!ああもうお前なんか今日腹立つから向こう行けしっし」「ハイハイ」 新八は盆の上に食器をまとめて片しつつ、応接間をあとにした。 銀時の真意を知るわけではないが。新八にはまるで神楽ちゃんのもう一人のお父さんみたいだなと感じることがある。 それなら差詰め自分は母親だろうかとも思う。新八自身もまた神楽ちゃんが一人頑張ろうとする姿に感慨深くなるからである。 台所に立ち入ると、新八の思った通り、後片付けをする神楽がそこにいた。「神楽ちゃん、これもお願いできる……?」「あいよー!」 流し台に立ち、使用したしゃもじや小皿を丁寧に水洗している神楽の隣に寄ると、新八は食器を流し台に置いてあげた。「手伝うことある?」「ないアル!私一人で十分!」「ありがと。……そろそろ僕は帰るし銀さんもどうせゴロゴロして寝るだけだろうから、ちゃんと最後火元だけ確認するんだよ?」「言われなくてもわかってるアル!」 新八はふと、水の流れる音に混じって沸々とした音が気になった。音の方へ首を向けると、万事屋専用の小さな炊飯器が湯煙と共に音を立てていた。「何か作ってるの?神楽ちゃん」 新八の言葉にピクリと反応した神楽は、あ、えっと……と少し慌てる素振りを見せた。 それを見て新八は、尋ねるのはやめておこうと思った。「まーいいや。じゃぁね、ほんと火の元だけは気をつけるんだよ」 何を作っているのか最後まで聞かず、手を振り立ち去っていった新八。姿が見えなくなったあと、神楽は振り返った。 別に後ろめたいことをしてるわけでもなんでもなかったが、今作っているものとその理由を尋ねられたときになんと答えたらいいのか戸惑ってしまうため。助かった……と胸を撫で下ろした。 食器をスポンジでキュッキュと洗いつつ、神楽は呟いていた。「私の任務は、じいちゃんたちに代わってあのチンピラ共の胃袋を満たしに行ってやることアル……」 炊飯器の音がピーッ、ピーッと鳴った。炊き上がった音だった。「………まだ満たせてないやつが一人いる」 流し台に向かい懸命な神楽の後ろ姿を、廊下からちらりと見やってから、寝室へと向かったのは、優しげな表情の銀髪侍だった。 [4回]PR