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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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China aster

るぅ様主催の花束企画に参加させていただいたときに作ったものです。
アスターというお花の話です。









「おっ、よう」
「うげぇ!!」


 ここは、万事屋の裏隣にある花屋だった。
 花を買おうと立ち入った沖田は、そこで店番をする神楽に出くわした。
 神楽は、うげぇぇ……という言葉通りの顔をしながら、パン屋の店番をする魔女宅キキのごとく、机の上面に顎をつけて沖田を睨んでいた。
 沖田は何食わぬ顔で、色とりどりの花を眺め始めた。


「オイ、ここの店はいらっしゃいませの一言も言えねーの?」


 沖田の飄々とした声に、神楽はわかりやすくムッとした。


「お前に掛けるいらっしゃいませなんか無いアル」
「つーかオメー、花屋に就職したの?え、何、ついに解雇?」
「解雇どころか今なおバリバリ働いてるアル。私みたいな優秀な人材は引く手あたまアル」
「引く手あまたな。テメーはせいぜい魔女宅ごっこやってるだけだろィ」


 ますますムスッと不機嫌になる神楽を小馬鹿にしつつ、沖田は理解する。そうか、万事屋の依頼か。
 花を選び終えた沖田がレジに近づくと、神楽は身構えた。売上げに直結するレジ係は避けて通れない関門。沖田が手にしていたその1輪の花を受取りながら。神楽はむすっとした表情で応対した。
 ピッと機械音が鳴る。淡々と、この花屋の店主に教わったラッピングをこなす。
 神楽は花を丁寧に扱いつつ、沖田には乱暴に言い放った。


「お前に問い質したいことが3つくらいあるネ」


 沖田は目を丸くした。


「3つ? また随分と欲張りな」
「いいからちゃんと答えるヨロシ」
「答えたら何してくれんの」
「お前ほっんと嫌な性格アルナ」


 ガシャーン!、と勢いよくレジの引き出しが開いた。力任せだった。
 「オ会計、三百三十円デース」と棒読みで神楽が言うと、沖田は懐から財布を取り出していた。


「別に何もして要らねーよ。何でィ」
「要らないなら最初っから言うなヨクソサド野郎」
「ハイハイ、まず1問目は?」
「なぁ゛ーもうッ!! お前なんでわざわざこんな物好きな花屋に来たアルカッ!?」


 物好きな……というその意味は、言わずもがな。この花屋の店主のことである。
 法事のために数日間故郷に帰る、しかし店の花たちを放っておくわけにはいかない。どうしたものか。そうだ万事屋さんに依頼しよう。万事屋さん、すみませんが私が留守にする3日間店番をお願いできませんか、お金はもちろん払いますので…………と。こうして、3人でのジャンケンに負けた神楽が店番をしている。

 ここの店主のことは、ご近所さんでない沖田もさすがに知っている。
 なのに、何故、わざわざこんなデンジャラスな花屋に来たのか。もっと今どきのガラス張りでキラキラしたおしゃれな花屋ならいっぱいある。
 店番がたまたま私だったことに感謝しろと神楽は言いたい心境だった。


「そんな大層な理由もねぇけど。ま、こんなオンボロで小っせぇ店なら、花も大量に売れ残ってて選び放題だろうと思っただけでィ」
「お、お前ッ…………この花屋に盗聴機付いてたらどうするネ。抹殺されるぞ?? まぁ私はいいケドナ」
「あのな、否定しない時点でオメーも同罪だからな?」
「はっ………ハメられたアルッ!!」


 動揺する神楽と、クツクツ笑う沖田。
 神楽は動揺しながらも、電卓を叩いていた。お釣りを計算する。そして、三百三十円をよこせと、沖田に手のひらを差し出した。


「2つ目の質問、」
「と、その前にさっきから思ってたけど、消費税ちがくね? 八パーセントだから三百三十じゃなくて三百二十四だろィ」
「それ先に言えヨこんちくしょー!!」
「いやいやいつ気づくかなぁと」


 神楽がイライラしながらもう一度電卓を叩き終えるのを待つ沖田。「やっぱこいつ馬鹿だわ」、お互いがお互いのことをそう思っていた。
 金額をメモし、ようやく神楽は2つ目の質問を口にする。既にラッピングを施したその1輪の花を指差しつつ。


「これって何の花アル?」
「テメー……なんで店員が客に花のこと聞くんだよ、逆だろ普通」
「いいから教えろヨ!私も今日が初出勤でイマイチわからんネ!」


 んー……と沖田は顎に手を当てて押し黙る。
 何だヨ早く答えろヨ!、神楽が十円玉と一円玉を数えつつ待っていると、沖田は口を開いた。


「いや、俺もわかんねーわ」
「はぁ?わかんないのに買うアルカ!?」
「わかんねぇのに売ってるくせぬかすな」


 なァもう面倒くさい!、神楽は三百五十円と引き換えに三十六円(!)をレジから取り出す。
 そしてもうひとつ、よっと力を入れて、引出しから分厚い図鑑を取り出した。


「これで調べたら出てくるはずネ」
「どれどれ」


 二人はレジのとなりの机に大盤の図鑑を広げた。広げた瞬間、ぶわっと埃が舞った。
 ゲホッゲホッと噎せる神楽をよそに、沖田はパラパラとページをめくっていた。神楽も、その横から色とりどりの図鑑を覗きこむ。
 なかなかすぐには目的の花に辿り着けず、ページを行ったり戻ったりする。そんな沖田の横顔を、ふと神楽は見上げた。
 一生懸命調べる様子を、口を半開きにして見つめていた。
 3つ目の質問………神楽は聞こうか聞くまいか迷った。

 ねぇ、お前、そんな綺麗な花、誰にあげるアルカ?

 問いが出てこないのは、まだ2つ目の質問が終わってないからだと。内心そう自分に言い訳する。
 程なくして、「みーっけ」と口にする沖田の声で神楽は我に返った。


「………アスターっていう花アルカ」
「聞き馴染みねーな」
「花言葉なんて言うアル?」
「ンなこと別にどうでもいいわ」
「なんでヨ。花言葉は大事アル。1個1個意味があるってすげくね?お手紙みたいアル」
「たく、女ってのァそーゆう無意味なの好きだな。ンなことより花の維持させ方調べやがれ」
「むー……これだから芋侍はッ!」


 文句を垂らしつつ、神楽は小さな手帳を取り出した。それは店主が神楽に託した「花の育て方メモ」だった。
 色鉛筆で描かれたイラストは、全くもって店主(の外見)に似つかわしくないほど可愛らしい。
 神楽は索引からパッパとアスターのページを見つけ、お客の沖田に解説した。


「えーっと、なんか、日向に置いといて、そんで、水あげとけって感じネ」
「……お前って万事テキトーだよな」
「なんでヨ! 立派な専門的アドバイスアル!」


 アドバイス料ちょーだい、と差し出した神楽の手のひらを、パチンと軽く弾いた沖田。
 いいからお釣りくれ、と逆に沖田が手を差し出す。神楽はしぶしぶ三十六円を渡した。
 沖田はニヤリとわらった。


「ラッキー、十円儲け!」
「ぬあっ!ミスった!?」


 顔を綻ばせ、計算音痴~と罵る沖田は、そのまま手を振って店から去っていこうとした。
 オイちょっと待つネ!! 神楽は沖田の背中を追った。
 沖田は店を少し出た入り口付近に立ち止まって、振り返った。


「何、十円返してほしいの?」
「そうじゃなくて、いや、それもあるけど、それだけじゃなくて!」


 神楽は言いよどむ。
 アスターと呼ばれたその花は、沖田の左手に収まり、凛と咲いていた。
 早く買い主に連れられて行きたいとばかりに、花弁を沖田へまっすぐ向けていた。
 神楽は、自分でも不思議な感情がわく。
 どうしようもないので………勢いよく沖田の足を踏みつけてみた。


「痛ッてーな!!何しやがんでィまた骨が折れ」
「誰アルカ」
「はぁ?何」
「誰にあげるアルカ、それ………」


 神楽は、ふてぶてしく沖田に尋ねた。
 沖田はそれが3つ目の質問なのかと腑に落ちた。
 けれど、沖田は何も言わず、しばらく立ち尽くしていた。変な沈黙の間ができる。


「……それ言わなきゃダメ?」


 神楽は、どきりとして瞬きした。


「言えないアルカ?」


 沖田は、んー……と視線をやや上に飛ばしながらしばらく考えた後、飄々として答えた。


「別に言ってもいいけど、」


 けど、何なんだろう。
 聞かない方がいいのだろうか。
 神楽が質問を撤回しようかと思い詰めていたところ、あ、そうだ。と沖田は何か思い付いたような声をあげた。


「オメー、店番暇してんだろィ」
「か、勝手に決めつけんなヨ」
「ちょっとばかし付き合ってくれる?」
「……へ?」


 何に?何を?と神楽が疑問符ばかり浮かべていたところへ、沖田は、花屋の外にに置かれていたスクーターを勝手に弄くっていた。


「おっ、旦那んとこの型と一緒じゃねーか」
「お前何勝手に乗ろうとしてるネ!」
「テメー後ろな。配達頼みてーんだわ」


 と、沖田が口走る頃には既にブルンブルンとエンジン音が唸っていた。
 オイそれほんと壊すなヨ頼むヨ十円あげるから………神楽はブツブツ言いながら、沖田後ろに跨がろうとして、ふと、思う。


「配達って、お前が運転できるなら私要らなくないアルカ?」
「3つ目の質問」
「えっ」
「ついてくればわかる」


 車止めが外れる、エンジンが入っている、ぽいっと渡されたヘルメットを神楽は受け取った。
 一連の所作がどことなく、銀髪侍に似ていてハッとしたのも束の間、神楽はあれよあれよと言う間に、スクーターに乗せられて勢いよく走り始めていた。


「……私もちょっと運転してあげてもいいのヨ?」
「命が惜しいからやめとく」


 沖田と神楽とアスターは運ばれる。ゆらゆらする神楽の想いも乗せる。









 神楽は乗っている最中、スクーターの後ろで沖田の背中を見ていた。乗り際には言い争いもあったが、いざ発進すると、なんとなく二人とも無口だった。
 神楽は道中、気を紛らわそうと、遠くに見える街並みを眺めたりもする。いつも乗ってる定春の背中に比べると、固いし、ガタガタ揺れるし、乗り心地はさして良くないなぁ。そんなことを思いつつも。
 どこへ向かうのか、興味津々だったし、なんとなく緊張もしていた。


「……なーんか、恋人みたいアルナ」


 1輪のアスターを運ぶ。
 風でなぎ倒されてしまわないように手で覆いつつ、ラッピングの施されたその花は、しっかりと芯を持って咲いていた。


「誰と誰が」
「私とアスターが」
「なんでィそりゃ」


 外人みたいだな、と。おどけて少し笑う声は、風に乗って後ろへ流れていく。
 どこまで行くんだろう。
 こいつが花をあげたい人って、どんな人だろう……。
 神楽は、スクーターから振り落とされてしまわないように、そっと目の前の背中におでこをつけて寄りかかってみた。目をつむる。思うより大きな背中に感じた。

 ……何も言われない。
 無口のまま。まるで花みたいだ。

 神楽はまた目をあけて背中から離れた。遠くの景色へ視線を飛ばしながら、火照りを誤魔化していた。












 着いた場所は、とても殺風景だった。
 昼時でなければ、きっと誰も近寄らないんだろう。
 見晴らしのいい、穴場的なその高台の上に、ポツンと建つ墓地は、何者にも染まりがたい神秘的な空気をまとっていた。

 丘の上の風が穏やかに流れるとき。
 そっと添えられた1輪のアスターの花に、二人は手を合わせていた。
 目をつむり、何を思う?
 神楽はもう、3つの質問をしてしまったから、その問い掛けは喉の奥にしまっていた。


「………喜んでると、いいアルナ」


 神楽が口にした言葉に、沖田は目を開けた。
 大切な姉の眠るその墓石は、笑うようにあたたかく迎えてくれる。そんな気がしている。


「追憶、変化、信じる恋。」
「何アル………花言葉アルカ?」
「そ」


 さっき花屋で、そんなもの関係ないと自分で言ってたくせに。お店の値札のとこに書かれてた言葉、ちゃんと見てたアルナ。
 神楽は、斜め後ろから見上げる沖田の横顔が、儚げに笑うように見えた。


「……お前らしいアル」


 凛と咲いてるところと、どこか儚げに揺れるところが、似てる。
 そう言ったら、笑われるかもしれないと思ったから、神楽は何もそれ以上に言わなかった。

 沖田はポケットをまさぐり、神楽にコインを手渡す。


「ぬ?」
「配達代」
「十円ぽっちかヨ!」
「テメー後ろに乗ってただけだろィ」
「ていうかお釣り返されただけアルッ」


 わーわーと騒ぎ始めた二人を見て笑うように、アスターの花は風に揺れていた。

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