Eyes okita x kagura 2015年07月19日 それは始まりの合図。 二人が付き合っているのかなんて、誰にもわからない。二人にすらわからない。 ただ、沖田から神楽へ、好きだと告白し。神楽は、嫌だとすぐさま断った。じゃぁいつかその気にさせてやるから覚悟しとけ、と。二人の間にそんなやりとりがあっただけ。 二人だけで会う時間は増えた。沖田が増やそうと努力した。 手ぇ繋ぎたい。やだ。チューしたい。やだ。放課後がくるたびに繰り返されたこのやりとり。何度も何度も繰り返すうち。ある日ポツリと神楽が呟いた。「今日だけならいい、めんどくさいから」と。 二人はそれだけの関係。たぶん恋人同士になったとは言えないのだろう。 その日は手と手を繋いで帰った。 ドキドキしていたのは沖田だけ。神楽は、誰かにこんなところ見られやしないかと、眼鏡の奥の瞳をキョロキョロさせて周囲を気にしていた。沖田とは別の意味でドキドキしていたかもしれない。 道の角を曲がるたびに、こっちだとグイッと引っ張られ。たどり着いた場所は公園だった。小学生の子供たちはとっくに家に帰っている晩ごはんの時間。夕方の誰もいない公園のベンチで、二人は並んで座っていた。「ほんとに、チューしていいのか」「どーせ嫌だっつってもお前聞かないアル。さっさ済ますヨロシ」 一回だけ許してやる。その代わり金輪際だめだ。そういう約束を突きつけられ、それでもいいと沖田は返事していた。二人の口頭契約。 沖田は神楽の肩に手を置いて引き寄せた。夕焼けの空の下、二人は向かい合う。「目ェ閉じて」「なんでアル」「俺が恥じィから」 神楽は面倒ながら目をつぶった。どーせ一瞬で終わることなのだから。さっさと従って終わらせよう。 神楽は知らなかった。チューというものは、浅いものから深いものまで様々であることを。チュッと可愛く終了するだけかと思いきや。神楽は驚いて言葉を失う。「おまぇ……ちょ、ふァっ………ぁ………」 一回っきりのチューを終了させまいと。神楽の唇に触れたままその唇は離れない。ねちっこく、唇の裏側へ侵入し、奥へ奥へと求め続ける。反論したくても言葉を発することすらままならない。神楽は呆然とされるがままであった。こんなチューの仕方があるなんて知らない。 呼吸が苦しい。口の中がべろべろとされてなんだかおかしくなりそう。顔が近くて、目を開けても視界が拓けない。 ………どれ程長くそうしていただろう。神楽がいい加減酸欠になりそうで、沖田の胸板を力なく押し返すと。抵抗を察知した沖田の方から、名残惜しそうに身をひいた。 随分奥まで探っていたから、唾液が糸のように引いて。慌ててお互い手の甲で拭った。 経験したことのない変な感覚に戸惑っているだけの神楽と。明らかに恥ずかしげに顔を朱色に染めていた沖田。二人は対照的だった。 目を潤ませていた沖田に、なんで泣きそうになっているのかと神楽は問いかけた。「……なァ……どうだった?」 質問してんのはこっちだ!と神楽は言うのに。だから、どう?としか聞かない沖田。頭のネジでも外れたのか。言葉が上手に通じない小さい子でも相手にするかのように。神楽は仕方なく応対する。「どうって何がアル?」「俺のこと、好きにならんかったか」 神楽に目を向けてまっすぐ尋ねてくる。その目を見ていて。はぁ……と神楽は仕方無さそうに答えた。「お前の目」「目が、何?」「お前の目だけ、好きになった」「は?」 そりゃどういう意味だと問う沖田。そのまんまだヨと答える神楽。「目だけ?」「うん、目だけ」「それ以外は?」「無理」「なんでだよ!!」「なんでもネ」 全部好かせてやる…と。もう一度キスをしようと神楽の肩に手をかけるが、あっさりと神楽に振り払われてしまった。「言ったはずヨ。一回だけって」「目だけとか納得いかねーし……だからもっかい」「無理ムリ。何回やったって同じネ」「できる、やればできる子だから俺」「できる子は自分で言わないアル」「有言実行って言葉知ってるか」「元は不言実行だヨ」「おう、よう知ってるなお前」「はぐらかそーったってダメアル。言っとっけどこないだの現国のテスト90点だったからな?」「そいつァすげーじゃねーか」「銀八先生泣くからネ、頑張ったアル」「……俺が泣くのは構わねーのか?」「はぁ?お前は泣いたりしねーだろ、別に」「心の中では号泣だからな、今の俺」「マジでか!つーかなんで号泣!?」「お前ツレないからに決まってんだろィ」「よーしよし。可哀そーにナ!」 神楽が冗談混じりに頭を撫でてやると、沖田はそれを嫌そうに振り払った。 てめーからかってんだろ?と言う沖田に。バレたアルか?とおどける神楽。「俺は真面目に言ってんだ」 沖田はうつむいた。神楽が顔を覗きこもうとしても、表情を見せまいと顔をそらす。「ほんとはお前ともっとチューしたい……エッチしたい」 身も蓋もない発言に驚いたのは神楽。けれど、別に同情も流されもしない。なんなくいつも通りのキャッチボールを繰り返す。「えらく直球だなオイ」「ぼかすのめんどーなだけでィ」「言っとくけど私はノーセンキューヨ」「やだ。する、したい」「発情期アルかコノヤロー」「させろ」「嫌アル」「なんで?」「なんでも」「お前俺のこと好きなんだろ?」「目だけな」「照れ隠しはいいって」「お前はもう少し欲を隠せ!」「隠したってお前に伝わらねーじゃん」「お前は……そうゆう欲隠さないと、私に嫌われるとか思わないアルか?」 沖田は顔をあげ、だって……と呟いた。「もう俺のこと嫌ってんだろィ、お前」「まあなー」「じゃぁもうこちとら怖いもん無しだ、あとは上がってくだけだしな」「そんなら地面割って突き落としてやんヨ!へっへーん!」「やってみろよ、……覚えてろ。俺はお前を惚れさせてやっから」「上等だコラ!」 キスをこなした後だというのに。二人は相変わらずの口喧嘩を続けていた。 さーてお家に帰ろう、と。何事もなかったかのように前を歩き出した神楽を。沖田は悔しさをにじませ見つめていた。 いつもそうだった。まるで目の前に餌を置かれた状態で、マテの指示を出し続けられる犬のような気分だった。いつになったらむしゃぶりついていいのだろうか。餌にじゃれてもいい。見つめ続けていてもいい。でも食べてはダメだ。そんな命令。よだれをだらだらと垂れ流しているというのに。気づいてもくれないのだ。 けど、無理に攻めようとすればするほど、色気も優しさもないしっぺ返しをくらう。そうするとだんだん萎えてくる。しまいに餌に興味がなくなっておしまい。けれど時間が経てばまた欲しくなってしまう。 そんなサイクルの繰り返しだった。 ……ひょっとしたら。じゃれつき方が足りないのかもしれない。もっとエロくイヤらしくキスしてればそのうちほだされてくれるのかもしれない。根気強く挑めばいつか……。 心の中の葛藤を神楽に知られることのないまま。沖田はただ兎に角、今日一日だけ許されたじゃれ合いにほだされていた。 繋がった手から伝わる体温が、幸せだと感じていた。「それで?結局神楽ちゃんって沖田くんのこと本当は好きなの?」「……わかんないアル。でも、……」 それからしばらくして。お妙にふと尋ねられたときも。神楽にはただひとつの答えしか浮かばない。あんなことがあってからも。また今まで通り、タコ様ウインナーの争奪戦や、早弁の早食い競争や、掃除の時間の戦闘や。沖田と神楽の変わらぬ日常は続いている。 授業中名指しされ、答えられなかったときに向けてくるバカにしたような目だったり。アイマスク越しの目だったり。やる気のないボーッとした目だったり。その瞳もいつもと変わらない。 ただ、あの夕焼けの帰り道の公園で。まっすぐ神楽へ想いをぶつけてくる、迷いも躊躇もない、恥もブライドも振り切って、神楽だけを映し続けてくれていたあの目。 あのひどく野性的な瞳だけは、神楽の脳内へ今でも変わらずに焼きついていた。「あいつの目だけは、好きヨ」 その目に見つめられ続ければ、いつか変わるかもしれない。 そんな気がしていた。 [5回]PR