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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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My Generation6

My Generation5のつづき。

本当の気持ちと向き合えれば、もう何も怖くない。









「ほんとは…わかってるアル」


沖田は水道台にもたれながら聞く。神楽は木の根元に座り込みながら話し始めた。涙もふき、ちょっとだけ赤くなっていた神楽の顔もようやくおさまった。
二人の視線は同じ方向。誰もいないグラウンドの景色をぼんやりと見ながら、神楽は思いをゆっくりと言葉に変えていく。それを沖田は黙ったまま聞いていた。


「みんな自分の夢を目指して頑張ってるネ。それは、すごいことだし。大切なことだし。邪魔しちゃいけないのも、わかってるネ。でも……」


神楽は言いよどむと。きゅっと俯いた。


「私、みんなともっと遊びたいネ。だって、この学校卒業したら、パピーたちと一緒に国に帰るかもしれないアル。そしたらもう、みんなと遊んだり、騒いだり、笑いあったり、できなくなっちゃう…」


神楽が寂しがっている。それはわからんではない。けれど、それが昨日の神楽の行動を正当化できるわけではない。それはきっと神楽もわかっているのだろう。だから沖田はそれ以上問い詰めることはしなかった。できなかった。普段滅多に見せることのない弱気な姿に、再び戸惑う。めんどくさい…けれど、放っておくこともできない。


「なんだかな…。てめーはほんとガキだな」
「……認めてやるヨ。私は、ガキヨ。お子ちゃまヨ。未だに夜中のトイレは怖いし。お子ちゃまランチだって頼むし」


あ、そういえば。
お腹が空いていたのだっけ。
思い出した瞬間それはやってくるもので。神楽のお腹は再びぐるぎゅると不可解な音を立てる。そしてそばにいる沖田にもはっきりとそれは聞こえた。沖田はプッと吹き出した。
沖田は神楽のそばまで数歩歩き、神楽の目線に合わせるように、しゃがみこんだ。


「食うかィ?」


目の前に差し出したのはうんまい棒。学生御用達の駄菓子である。
神楽ははっと目を見開いた。ただのうんまい棒ではなく、レアな酢昆布味。神楽以外は決して誰も口にしない、しかし神楽の大好物の味であった。
駄菓子屋や学生生協はここから少し遠いところにある。ここへ来るついでではなく。わざわざ遠回りして買いに行かなければ入手できない。
わざわざ、神楽のために。買ってきたというのか。
……これって。もしかして。あれなのか。


「お前……佐倉杏子が好きアルか」
「なんでそうなる」


だって、今のはまどマギ杏子ちゃんの名言ヨ!杏子ちゃんは空海可愛いのヨ!
そう言いながら沖田から受け取ったうんまい棒をパクパクと食べる神楽。小さいけれど胃が満たされていく感覚に、またちょっと涙が出そうになったが、堪えた。


「言っとっけど。野郎共は皆マミさん一択でィ」
「マジか。あんだけ杏子ちゃん良い子なのに…。やっぱ男はろくでもないアル。乳がでかけりゃそれでいいアル……」


神楽はつと自分の胸元に目をやる。その存在感の無さを改めて確認すれば、諦めたようにはぁ…と溜め息をついた。


「そんなマミさんだってたった3話で死ぬんだ。夢もクソもあったもんじゃねぇや。……俺らは別にさ、魔女と戦わなくていいし。宇宙人と戦わなくていいし。攘夷浪士とだって戦わなくていい。…… 毎日平和に暮らして、学校来てってやってんだ、」
「……宇宙人とか攘夷浪士て。何の話アルか?」


神楽の疑問もスルーし沖田は続けた。


「お前は本来、余計な敵作る必要はなかったってこった」
「……それは、お前の言う通りアル」


珍しい。うちひしがれたように同意する神楽に、沖田はさらに続ける。


「まぁけど、敵の作り方、今のうち学んどくのも悪かねぇと思う」
「学、ぶ…って?」
「どーせここ卒業したら、社会なり大学なり広い世界に出なくちゃならねぇんだ。嫌がおうでも敵作らなきゃならねぇときが来んだろ、…」


まばたきして沖田の顔を見た。その横顔はいつもより数段神妙な面持ちで。どうしてそんな顔をしているのだろうと、少しだけ不思議だった。


「…そのときに備えて今のうちから転び方でも練習しとけばいいんだ」


神楽はわからなかった。
敵なんていない方がいいに決まってる。好き好んで敵作るなんざ、どっかのジャンプ漫画の世界の登場人物か、どっかの物好きなやつしかいない、と。
でも、身近にもいたかもしれない。クラスからたびたび鬱陶しがられている存在、……校則をつきつけ片っ端から生徒を粛正する団体がいる。


「……お前は、そう思って、風紀委員やってるアルか」


神楽が尋ねると沖田は首を横に振った。


「そんな大それた理由、俺にあるわけねぇだろ。……まぁ強いて言えば、近藤さんがいるからってとこか」


沖田の近藤さんへの恩を、神楽は知っている。
誰ともつるもうとしなかった中学時代の沖田に、胸開いていつでも受け止めてくれるような存在が近藤だった、と。それから沖田は、ひねくれてるなりにも他のクラスメイトと変わらずに今の毎日を過ごせているのだと。
神楽は納得した。
こいつは昔、塞ぎこんでたやつだったから。高校3年生にもなって今頃急にひねくれて塞ぎこんでしまった私のことを、気にかけてくれているんだ、と。


「でも、私…みんなが敵のまま卒業するのなんて、やだヨ」


うんまい棒の空のパッケージをパリパリと指でいじりながら、神楽は言葉を絞り出す。


「………私にはまだ、みんなみたいに大きな夢なんてないけど。でもネ……やりたいことはある」


神楽の言葉に沖田は耳を傾けた。


「私の国ではまだまだこの国のこと、知られてないアル。こんなに楽しくって、こんなにいい国なんだよって。大勢に伝えられるような人になりたいネ。……そのためにもこの国で、この学校で、たくさん思い出つくりたい。つくりたかったアル………。けど、私、もうZ組には……戻れない」


神楽はきゅんと再び俯いた。

Z組は神楽にとって、安心できる場所だった。楽しくてバカで、でも尊敬できるとこもある生徒たちが集まっていた。先生のことも大好きだった。……大切な場所だった。
そんな場所を壊したのは、紛れもなく自分だ。
改めて後悔の渦に飲み込まれそうだった。


「……まどマギのほむらちゃんが羨ましい。……みんなが私のこと嫌いになったって、二度と元には戻せないネ」


顔を腕にうずくめた。
神楽のまぶたの裏には、昨日の光景が広がっていた。

気絶し動かない九兵衛
血を流し意識を手放した銀八
涙ながらに自分を殴ったお妙
自分に向けられたみんなからの視線
目が、チカチカして耐えられない……。




「じゃぁ作戦変更だな」


浮かぶ光景を遮ったのは、隣からの沖田の声だった。
神楽が授業中寝ているとき、茶化すように横から話してこられて目が覚める。その時と同じ感覚で、神楽は目を開けた。そして、沖田の顔を見た。
沖田は真剣な表情のままだった。


「作戦、変更……?」
「転び方を学ぶだけで終わるんじゃない。…てめーは、批判されてもやるべきことをやるか否か、決めるべきだ」
「批判…されても、って」
「残りの期間の思い出が作れなくなることと、クラス全員の前でどたま下げて詫び入れること、どっちを選ぶ?」


呈示された選択肢。それが必ず二者択一なのであれば、迷わず神楽は後者を選びたい。だけど……


「……詫び入れても、許されるかわからない。思い出なんてどっちにしても作れないかもしれないネ」
「何もしねぇよりまっしだろうさ」


……そうだ、たしかに。そうしなければいけない、するべきなのはわかってる。逆ギレして、教室から逃げてくるなんて大間違いだって、わかってる。
でも…。決心がつかない。
愛想つかされた視線を一斉に浴びることが怖い。妙の目も、先生の目も……今までと違う激しい感情をぶつけられることが、怖かった。


「お前、服部の授業、一応ざっぱには聞いてんだろ」
「…日本史のことアルか?」
「……人と人だけじゃない。この世界じゃ国と国とが、いつまでも友好関係にあるとは限らねぇ。過去の失敗ほじくり返して、ほじくり返されて。その外国の名前を口にしたとたん煙たがるようなやつだって、どっちの国にも一定数はいるんだ。……それでも胸はって自慢の国だって伝え続けんのが、てめーのやりたいことなんだろ?」
「…………うん、そうアル」
「だったら度胸持ちな。こんなとこで踏みとどまってるようじゃ、てめーは卒業したって何ひとつできやしねぇよ」


沖田の言葉ひとつひとつ、身に染みるようで、神楽は何も言い返せなかった。


「お前、すげぇアルな」
「何がだよ」
「なんか、今先生みたいだった。同級生とは思えない達観っぷりだったヨ」
「…感心してる場合かよ」


沖田はたしかに、いつもより饒舌(じょうぜつ)だった。自覚もある。
けれどそれは、相手が神楽だったからだということは、神楽が知らないのはもちろん。沖田自身、無自覚だった。
そこにはひねくれている者に対する同情と、それ以上に放っておけなくなる何かの気持ちが混ざっていたからだが。……きっと、木の下からピンク色のパンティーを見たせいだと、沖田はよくわからない理由で自分を納得させようとした。


「私、行ってくるネ」


神楽は決意した。
教室に戻って、会いに行く。まずは妙と新八に。
職員室に行けば、先生もまだいるかもしれない。
他のクラスメイトには、明日朝イチで、一人一人へ伝えに行く。神楽の後悔と謝罪の気持ちを。
許されるとは思わないけれど。また妙に殴られるかもしれないけれど。でもそれは、私が今受け止めなくちゃいけないことだ。こうしてる場合じゃない。
神楽は立ち上がり、校舎へ向かって駆け出そうとした。


「待てチャイナ!」
「え?」


神楽が振り向くと、夕空からくるくるとななめ45度で飛んできたのは、眼鏡だった。地面に落下する前に神楽はギリギリでキャッチした。
いつも神楽がかけている、瓶底の、度が全く入っていない眼鏡。ここに来る前に、教室に置き忘れていた物であった。


「ちょ!投げたらガラス割れんだろーが!」
「どーせダテだろ?いいからとっとと行ってこい」


沖田がしっしと促すと、神楽は文句のありそうな顔。けれど、


「……ありがと!」


照れくさそうにそう言い残すときびすを返して走り去った。


「……なんだ、いい夢持ってんじゃねぇか」


神楽が立ち去ったあと、沖田は誰もいない校庭に言葉をこぼした。

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