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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

うさぎ日記

うさぎを拾った沖田の話です。









一日目
 うさぎを拾った。

 その日は雨が降っていたため傘をさしながら屯所に戻った。すると屯所の門の隅に、汚ないうさぎがいるのを発見した。傘もささずにじっとしているそのうさぎはこちらを見ようともせず、ただただ座っている。門番の隊士がどうしたものかと対応に困っていた。さっさとその場から退去願えばいい話であるのに何やってんだか。いや、願う必要なんてないか。だってうさぎなんだから。しっしと手で払えば逃げていくはずだ。
 ところがそのうさぎはなかなか強情なやつだった。手で揺すっても足で軽く蹴ってもその場を動かない。と、そこに近藤さんも帰ってきた。俺とうさぎを交互に見たあと「雨も降ってるし夜だからとりあえず中に入れてやれ」と促す。さすがは近藤さんだ。人間にも天人にも動物にも分け隔てなく接する。そんな近藤さんに免じてうさぎを屯所に入れてやることにした。
 中へ入ってもうさぎは黙ったまま口もきかない。まあ動物なのだから口きかなくて当たり前か。動物のくせに頭飾りやら衣服やら着ている方がおかしいのだ。玄関口にうさぎは座り込んでじっとしている。せいぜいニンジンやキャベツでも与えときゃいいものを。ザキはわざわざ湯気のたつスープやらバスタオルやらを持って玄関口にまで来た。うさぎはザキの手からひょいとそれらを奪い取り、バスタオルで頭を拭きつつスープをちびちびとすすり始めた。「何かあったんですか?」とザキが尋ねても、やはり返事をしない。贅沢にスープまで用意してやってんのにしつけの行き届いてないうさぎだ。ちなみにこいつは野生のうさぎではなく飼われているうさぎであることに間違いはない。その証拠に、首紐代わりのペンダントを身につけている。
 なんやかんや、うさぎは駄々をこねて飼い主のもとへ帰ろうとはしない。そこで近藤さんの提案により、空いている畳部屋一室をうさぎに与えてやることとなった。ちなみに俺の自室の隣だ。マジめんどくせ。部屋がうさぎ臭くなるのは御免なんでとりあえずファブリイズでもふっとくかと思う。つーかうさぎに部屋ひとつ与えるなんざ至れり尽くせりすぎるだろう。なのにうさぎは感謝の言葉ひとつすらしゃべろうとせず、バスタオルを被ったまま部屋へとノコノコ走って消えていった。
 「何かあったんだろうか」と心配している近藤さんを尻目に、俺は面倒なのでそのまま部屋へ戻った。今日一日、うさぎには一言も話しかけてやらなかった。めんどくさい。





二日目
 うさぎの観察を開始した。

 うさぎはどうやら少し熱があるようだった。昨日の雨天の中、ずぶ濡れで座り込んでいたのだからまぁ当たり前だ。だいたい昨日手に持っていた傘を使えば雨ぐらい避けられるだろうに。あ、うさぎの手で傘は開けないのか。それとも雨に打たれたい気分だったのか。いずれにしてもやはり動物相応の知能だ。頭が悪い。
 俺はいちいちノックすることもなく襖を開けて部屋に入った。と、そこそこの広さがある畳部屋に一枚の布団が敷かれている。そしてその布団に寝転がっている。口に体温計を咥え、額に濡れタオルを乗せ、フカフカの布団にくるまっているうさぎ。これはまた贅沢な。うさぎ一匹にどれほど厚待遇なのだろう、末端の隊士の方がよほど粗末な部屋をあてがわれている。
 手に氷水とタオルの入った木桶を持っていたためこれを畳の上へ置く。布団に近づきすぐ横で胡座をかいて座った。俺は何故か、うさぎの世話係を命じられていた。土方あいつはマジでいっぺん死ねと思う。なんでも、うさぎの扱いは俺が一番慣れてんだろうというだけの理由だった。冗談じゃない。いつもの俺はただ、きゃんきゃんやかましいうさぎに一泡吹かせてやるためあの手この手で勝負して遊んでやってるだけだ。俺のよく遊んでやるうさぎはこんなにもおとなしくない。おとなしいうさぎの扱い方など俺は知らないし、扱いたくもない。クソどうでもいい。
 事情はよくわからないが、とにかく落ち着くまではうちで看病してやれとのことだ。うさぎを死なせちゃ拾ってやった近藤さんが泣くので仕方なく看病してやってるまでだ。うさぎは呑気に目を閉じて眠っている。
 その額のタオルを取り替えてやる。取り替える際、額に手を触れて熱の有無を確かめようとした。熱い気はするが正直よくわからない。口に咥えた体温計をとって目盛りを読むと摂氏40度ほど。おいおいこれ人間だとかなりやばいがうさぎの熱ってのはこんなもんなんか。やっぱりよくわからなかった。
 スー……と呼吸をして眠っている。こいつはさっきまで目を開けて起きてはいたが、昨日と変わらず一言も話そうとしなかった。まぁうさぎだし、きゃんきゃんしゃべられてもややこしいから別にいいんだが。一体どうなってやがる。飼い主と喧嘩でもしたのだろうか。そうでなければ帰ろうとしない理由がないだろう。
 首の紐にはこれまた贅沢に宝石のモチーフがひとつぶら下がっている。人間の女が喜んで身につけてそうなペンダントだ。その宝石はなぜだか半分に欠けていた。本来は綺麗な楕円形でもしていたのだろうが、明らかにぶつけるか落とすか何かで欠けてしまった跡だろう。残りの欠片はどっかへ消えてしまったのか。うさぎの首元へ手を伸ばし、その哀れな宝石を手に取ろうとした。が、しかし、白く細い手が途端に俺の手首を掴み爪を立ててきた。
 おやっ?とその目を覗き込む。すると、うさぎは目を覚ましていた。しかし、本来大きいはずの目をキッと細め、寝転がった態勢のまま俺の目を睨んでいた。「触るな!」とでも言いたげな眼差しに一応折れて手を引っ込めてやった。
「別に奪いやしねーよ。こんな壊れたペンダントなんざ」
 そう言ってやると、途端にしゅんとして顔の下半分を布団で隠した。熱のせいか、白色の表面がほんのり赤く染まっている。いたずら半分に、決して長くはないその耳に触れてやると、ひゃっ!と小さな声をあげて振り払われた。ちょっと面白かった。
「お前さ、何しにここへ来たわけ?」
 本題を話し掛けても、熱で赤らめた顔のまま、布団の中にバッと隠れてしまった。もぞもぞと布団に籠ったうさぎの横で俺は立ち上がる。そして布団ごと上から踏みつけてやった。うぎゃっと、籠った鳴き声が聞こえてきたが知るものか。
 俺は持ってきた氷水やタオルやらをそのままに部屋をあとにした。襖を閉めて、廊下に立ち尽くしたまま、ぼーっと少し考えていた。なんだろうな。どーでもいいと思っていたはずが。いつの間にか、俺もうさぎの容態やら事情やらが気になっちまって仕方がないようだった。





三日目
 うさぎへ夜這いを仕掛けた。

 うさぎという生き物は性欲が強いと聞く。屯所の布団に住み着いて数日のあのうさぎもそうなのだろうかとなんだか試したくなってきた。俺は仕事を終えて帰ってきた深夜、そっと隣の部屋の襖の前まで来た。なんてことはない。うさぎの看病の延長だ。ザキいわくとっくに熱は引いて完治したらしいがそんなこと知らない。夜の兎の治癒は早いらしいがそんなこと知るもんか。
 脳内で繰り返しつつ襖に手をかけ横にゆっくりと引いた。徐々に部屋の様子が見えてくる。薄暗く行灯の淡い光だけが射し込む室内。その中央に敷かれた布団の中で、うさぎはじっとしていた。こちらに背を向ける形で横向けに寝転がっている。眠っているのだろうか。それとも、俺の気配に気づきつつ近づくのを待ち反撃する構えをしているのだろうか。いずれにせよ近づいてみなければわからない。俺は背中を向けないまま襖を閉め、そっと忍び足でうさぎに近づいた。
 薄暗く、気づくのが遅れてしまった。うさぎはプルプルと体を震わせている。発情してんのか、などというのは冗談であって、何をしているのかは大方予想がついた。
 その肩にポンッと一応優しく触れてやった。すると、ビクッと起き上がってこちらへ振り返った。驚いたように目を見開き、布団の上に座り込んだままじっと俺の目を見ていた。その目はうさぎ特有と言うべきか、赤い。やっぱりな、泣いているんだろうと思ってた。赤く泣き腫らしてぽろぽろと涙がこぼれていく。乱れた浴衣の隙間から胸元へとそれがこぼれていく。
 …………参った。ちょっとエロくてそそられた。
 なんかこれじゃ、ほんとに女の元へ夜這いに来た野郎みてェだ。
 だが、相手はあくまで動物だ。俺はなんてことない風を装いつつ、持ってきた手拭いをうさぎに渡してやった。そいつはそれを額ではなく目元にあてがって涙を拭っていた。
「姐さんのなんだろ、それ」
 俺がそう言うと、うさぎは首にかけていたペンダントを両の手できゅっと握りしめた。そして黙ったまま首を一度だけコクリと縦に振った。あーあ。近藤さんが聞いてきた通りだな。ゴシゴシと目の辺りを拭ううさぎにとりあえず乱れた浴衣を直せと促すと、いそいそと整えていた。うさぎのくせに生意気だがな。
「逃げてたって仕方ねェだろ。とっとと謝りに戻りな」
 深夜だし努めて静かな口調で諭してやったが。うさぎは首をブンブンと横に振るだけだ。そしてまたその目からぽたぽた涙をこぼしやがる。いちいちめんどくさい。
 だいたいの事情は近藤さんが把握し、俺はそれを伝え聞いていた。まさか、近藤さんのストーカー趣味がこんなところで役に立つとは思わなかった。どうも、姐さんがタンスの奥に仕舞っていたペンダントを、ませたうさぎが勝手に咥えて持ち出したらしい。そんで何があったかは知らんが壊しちまったときた。飼い主のもとへ戻ればうさぎは確実に姐さんの前へ突き出されるからってな。姐さんが絶対近寄らないこの場所へと逃げ込んできたわけだ。
 頭がいいんだか悪いんだかわかりゃしない。ま、所詮動物の考えることだ。すぐに謝るということを知らない馬鹿なうさぎであることに違いはない。
「……姐さんはたぶん怒ってねーよ」
 俺がそう言うと、うさぎはへっ?と驚いた目をする。欠けた宝石を再び握りしめる。その宝石、実はそこまで高級なものではないようだし、近藤さんいわくずっとタンスの中へ仕舞われていてほとんど使われたことがないものらしい。
「怒ってるとしたら、そいつァてめーの逃げ腰の態度だろうさ」
 頭の弱いうさぎのために一応忠告も付け加えておいてやった。あまりにもしょげたツラで俯いているもんだから、たまらず頭をわしゃわしゃ撫でてやった。薄い色素の毛が指に絡まる。目をきゅっとつぶってウンウンと首を振って手を払われた。
 ……いかんな。動物ってやつは、最初は世話やらなんやら面倒でもそのうち愛着が湧いてきちまうもんだ。うさぎ臭さも気になるどころか、言い知れぬ愛しさすら沸き上がってくる。深夜のテンションが混ざってるせいもあるかもしれんが。ちょっとやばいと思った。このままここでうさぎ飼い続けるのはいろいろ危険だなと悟った。
「……明日には飼い主んとこに帰りな」
 そう言い残し、部屋をあとにした。目の端で、小さく控えめにうんと頷いているうさぎを見留めた。その目が赤色ではなく、元の蒼色の瞳に戻っていたのもわかったから、もう大丈夫だろうと思う。
「あ、いっけね……」
 襖を閉めたあと思い出した。性欲が強いかどうか試すの忘れてた。……だが、どうやらうさぎよりも人間の男の方が強いらしい。それがわかったからもういいや。





四日目
 うさぎを逃がしてやった。

 俺は早朝から仕事だったもんで、うさぎが屯所を出て帰っていく瞬間を見ちゃいない。昼頃屯所へ戻ると、敷かれた布団やら木桶やらの残骸だけが残されていた。たく、片付けぐらい誰かがやっとけっての。男所帯の気の利かなさはもう諦めるしかないんだろうな。俺はうさぎの飼育係として最後の仕事にとりかかる。布団類を押入れへ、木桶は洗って外に干す。そして剥ぎ取ったシーツを洗濯部屋へ運んだ。運ぶ途中、シーツから惑わされそうなちょっといい匂いがしていた。ああ勘弁!振り切るように洗濯機へ放り投げてその場をあとにした。
 午後からは見廻りという名の甘味処タイムだった。いつものようにまっすぐ団子屋へ向かうと先に旦那が外の席へ腰掛けていた。こちらに手を振るので近づいていき、よっとその隣に腰かけた。ついでに旦那へ言いたいことはいろいろあったので都合がいい。
「以後は勘弁して下せェ、うさぎの世話押し付けんのは」
 おばちゃんに団子一皿注文しつつそう言ってやると、旦那は口をもぐもぐしながら呑気に言ってのけた。
「俺ァお妙から聞いてだいたい見当ついてたけどね。どーせお宅にお邪魔してんならまぁ自力で戻ってくるまで待っとこうかってな」
「待たねェでさっさと引き取りに来て下さいよ。余計な世話係押し付けられちまってこちとら迷惑被ってんでさァ」
「あれ?迷惑だった?」
「何しろ風邪持ちのうさぎだったんで。看病させられちまいやした」
「そいつァ悪かったな。うちのおてんばが世話になった」
「つーことで団子は旦那の奢りで頼みやし「あーあー聞こえなーい!」
 旦那が両耳を手のひらで塞ぎつつあーあーしてる間に、俺の注文した団子が手元に届いた。串を一本手に取り団子を頬張りつつ続けた。
「で、姐さんとはどうなりやした?」
「な?ああ、あいつな。ちゃんとけじめつけてたさ。万事屋の給料貯めて返すっつってた」
「わざわざ返すんですかィ?近藤さんがあげたやつでしょうあのペンダント。姐さんも迷惑だったろうに」
「さてどーだか。タンスの肥やしにしてたのか大切にしまってたのかはお妙に聞かにゃわからんわ」
 ま、近藤さんどうこうはともかく。うさぎがけじめ付けたこと聞けたならとりあえず俺の知りたいことは聞き出せた。俺は残りの団子串を持って立ち上がり、ごちそーさまでしたー!と店内へ向かって叫んだ。きっちり自分の食った分だけのお代のみを置いてその場をあとにしようとしたところ、旦那が俺の隊服の裾をくいくい引っ張ってきた。
「今回は奢りやせんよ。いろいろ手間かけられたんですから」
「いいや、そーじゃなくてな」
 旦那は何故か楽しそうにニヤけてるもんだから嫌な予感しかしない。
「どーだい沖田くん。うさぎさんと一緒に住んでみたくなった?」
 ほーらきた。意味深なことを言うので、言い返してやった。
「もう少しきちんとしつけしといて下せェ。そしたら三食飯付格子付の部屋でもらってやりまさァ」
「バーカ。うちの大事な子をチンピラ共にそうホイホイやれねェよ」
「あー俺も願い下げなんで結構でーす」
 プラプラと手を振ってその場を後にした。ちょっと待って俺金持ってないとかなんとか聞こえた気がするが知らね。

 あんなうさぎを、あんな屯所に置いておくなんざこっちから願い下げだ。これでも仕事やるときゃ専念したいからな。世話なんてやってらんねェし。何より愛着が湧いちまっていけねェや。


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