ないしょ話2 okita x kagura 2015年11月03日 ないしょ話のつづきです。 「2名様ご案内でーす」 可愛らしく清楚な制服を身にまとった店員が沖田と神楽を窓際の席へと案内した。「お決まりになりましたらお呼びください」 ウエイターさんの制服が可愛い……と。しばらくぽーっと見とれていた神楽。「で、何食うの?」 沖田の声で、はっと我に返る。 すると急に落ち着かないようにそわそわし始めた。 きょろきょろと辺りを見回す。神楽と沖田がそうであるように、男女ペアの客もいれば、主婦同士やサラリーマンや、いろんな客層がいる。「な、何アルかここ……?何出てくるアル??」「何って普通にイタリアンですけど」 神楽のこれまでの人生ではそうそう来たこともない小洒落たお店だった。 あまりにも女子力の高い店。沖田いわく最近できた新しいお店らしい。 てっきりラーメン屋や定食屋的なお店だと思ってついてきていた神楽はもう、たじったじである。 窓際の飾り棚にはワインのボトルやら、見たことのない言語がうねうねと書き連ねられた古書やら、小さなうさぎのぬいぐるみやら。ご丁寧にツタがにゅるりと窓枠を覆う。 テーブルもイスも木の温もりを閉じ込めたような手作り感。窓からの程よい日当たり感がまた心地よかった。 店内は二人の他にもそこそこの客で賑わっており、煩すぎることもないし、静かすぎることもなかった。「おい……」「今度は何」 神楽は頭のペ○スケースをわざとらしく弄りながらケチをつけてみる。「一応私はチャイナっぽいキャラで通してるネ。イタリアンとか喧嘩売ってるアルか!?ボンジュールすんぞコラ!!」「似非チャイナ語キャラが何抜かしてんでィ。あとボンジュールはイタリア語じゃねーから」「ぐぬぬ…………」 ごまかすように、神楽はメニューボードで沖田から顔を半分以上隠した。「え、えーっと……どれにしよーかなぁ……これか、これかそれともぉ………」 なんだかんだと文句を言いながらも、メニュー表をガン見している神楽の姿を、頬杖をつき正面からぼんやりと眺める。 沖田自身は何度か来たことのある店だった。職場に近いこともあるが。聞き込みや外部との打ち合わせなどすべて仕事の用件だ。 なかなかないだろうとは思いつつ、もし女と来るならこうゆう店がいいもんかな……と。前からぼんやり考えていた場所だった。 結局連れて来てしまったのは女というか、クソガキなのだが。 あーあ、ほんとに連れてきちまったな……と今さら思ったところで仕方がない。 沖田自身も小腹が空いていたので、食に専念しようと思っていた。 席について3秒で注文を固めていた沖田は、神楽がメニューを決めるまで待つ。 しばらくすると神楽はコレ!とセットものを指さして沖田に見せた。「それ飲み物は」「オレンジジュース!」「へーい」 沖田は神楽からメニューボードを受け取り、すんませーんと軽く手を挙げ店員を呼び止め注文をしていた。 すべての所作を淡々とこなす沖田を訝しげに見つめていた神楽。 いや、こいつはマジで何を企んでいる?? 神楽の疑いは晴れなかった。が、しかし、とりあえずお腹は空いていたので沖田に従ってここまでやって来る他選択肢がなかった。 こうなったら食べたいだけ食べさせてもらおう。 ついでに……こいつの観察でもしてみようかな。 そうは言っても、沖田とこうして二人きりでご飯を食べるということ自体、神楽は不慣れであまり心の余裕を持てなかった。「……、以上ですね。では失礼致します」 店員が立ち去ると、沖田は再び神楽に向き直った。だが、視線は手元のメニューに落として神楽には向けられていない。 顎に手を添える仕草は、なんとなく考え事をしているようで。 神楽も黙って窓の外を見ていた。 ……なんだこれ 何この空気 超気まずー…… 二人は意思疏通せずとも同じことを考えていた。 しばしの沈黙の後、口火を切ったのは神楽だった。「……お前、もしかして知ってるアルか?」 沖田はチラッと神楽に目をやった。 正面からこれだけ長時間向き合わざる終えない状況に追い込まれたのは初めて。 神楽は居たたまれないので引き続き窓の外に顔をそらしつつ、瞳だけそれとなく沖田の方へ向ける感じで見ていた。「だったら何?」 言わずともやはり、知っているようだ。 今日がなんという日であるか。 でも、なぜ? なぜこいつがそれを知っている?「私お前に教えたっけ?」 神楽が問いかけると、沖田は首を横に振った。「じゃぁなんで知って」「覚えてた」 ぬ? どういうことだ。「てめーがいつか旦那らとくっ喋ってるときに、11月3日がうんぬんって口走ってたの……覚えてただけ」 神楽は、その言葉に少々戸惑ってしまう。 そんな会話の一部、自分ですら覚えてもいなかったのに。一体いつの話を言っているのか。「私全然覚えてないネ」「だろーな。別に大した話してなかったし」 雑談の一部を切り取って、その日以降しばらく頭の隅から離れなくなっていた沖田は、どうしようもないのでカレンダーに赤丸印を付けていたのだ。 それから数ヵ月は忘れていた。だが、10月のカレンダーを捲った際、目に飛び込んできた赤丸の意味は瞬時に思い出すことができた。 そして今日はちょうど見廻り当番の日。 もしかしたらどっかで会うかも……。 ダメ元でぶらぶらとしていたら、都合よくそこに神楽がいた。 しかも犬すら連れず、一人っきりで。 こんな偶然ってあるんだな……なんて。沖田は自分に呆れながらも神楽に歩み寄り話しかけたのだった。「何それキモいアル」 神楽が冷たく言い放った言葉に、沖田は目を細めて同調する。「俺もそう思う」 なんで覚えてたんだろーな……と自嘲する。 意外な返事に、神楽はとっさに言葉を返せなかった。 口で言うほどキモいと思ってるわけではなかった。 お陰様でこれから美味しいごはんにありつけるわけだし。 何より、たとえ誰であっても、今日という日を覚えていてもらえることを、嬉しく思えないわけがない。「…………冗談ネ」 神楽は言うまいかどうか、少しの合間だけ迷って、そして、「ありがと」 照れくさそうにぼそりと呟いた神楽の言葉を、沖田は聞き逃さなかった。 クソッこいつはこれだから………と。沖田は緩んだ表情を悟られないよう、片方の手のひらで顔を覆って隠しうつむいた。「らしくねーじゃん」「お前に言われたかないヨ」 なんとなくモヤモヤっとした空気が漂う。 その最中に、ちょうどいいタイミングで、美味しそうな匂いを漂わせて店員が近づいてきた。「お待たせしましたー、こちら日替わりパスタの特大盛と、セットのオレンジジュースです、それとこちらが………」 店員がコトリコトリと丁寧に並べて立ち去ると、神楽の脳内は一転、目の前のパスタに100%埋め尽くされていた。「うっひょー!!いっただっきまーすッ!!」 づるづるッ!と蕎麦を食べる勢いでパスタを食べ始めた。 神楽の全意識がそちらに向いたことに少しホッとしながら、沖田もいただきますと小さく口にして食べ始めた。 フォークを手にパスタを小さな一口大にまとめ、運び口に含む。 そんな沖田を見て、神楽は指摘した。「お前小食アルな。ダイエット?」「てめーが大食いなだけだろ」 沖田がちらりと前を見やると、神楽の口の周りに赤いケチャップベースのソースが飛び散っているのがわかった。 うっわこいつマジでガキだな……と思いながら、テーブルの隅にあった紙ナプキンをさりげなく手渡した。「おう!どーも!」「ちったァ行儀よく食え」 そう言いながら相変わらず上手に一口サイズを巻く沖田の所作に、神楽は気づく。 皿の隅で丁寧に巻くと、ぱくりと頬張る。これを数回繰り返す。 神楽は拭き終わったナプキンを机の隅に置き、ふとそこの食器が気にかかった。「スプーン使わないアルか」「本場では使わんらしいぜ」 ふーん……と生返事をしつつ。 神楽は沖田の手元を見ながら真似をしてみる。 ハムスターのように頬袋いっぱいに詰め込むのを止め、適度なサイズ(沖田の5倍)に巻きまとめて口に運ぶように食べ方を変えてみた。 するとこれはこれで、パスタが美味しく感じられた。かつ、口にもソースが飛び散らず便利だ。「なんでちゃんとした食べ方知ってるアルか」「知ってるも何も、常識」 神楽は沖田を真似て、頑張ってスプーンを使わずに食べようとくるくるフォークを回す。一連の作法にもだんだん慣れてきた。「……ったく。さすが税金泥棒アル。もぐっ……こーゆうの慣れてるって感じが、もぐもぐ……なんかイラつく」「上の偉いさんと食わなきゃならねーときがあるんでねィ……一応気ィつけてら」 まァそんときは、うまい味全っ然しねーけどな……と、ぼやきながら。 沖田はパスタを淡々と口に運んで咀嚼していた。「今日はうまいアルか?」 神楽が何の気なしに言った言葉に、少しだけドキリとした。 ちゅるっとパスタの端を口に収めながら、言った。「………まァ、一応」 沖田の相槌。 少しだけ神楽は嬉しかった。 反面、口では、あっそ!とテキトーに流す。 神楽は沖田を真似て、ちゅるっとパスタの端を吸っていた。* * * * *「おい、パフェも寄越せ!」「何その斬新なものの頼み方」 別にいーけど……と沖田が返事をするや否や、すんませーんッ!!と手をピシッと挙げ、神楽は店員を呼び止めていた。「俺コーヒーのホット」 沖田の注文を、神楽は一応すんなりと店員に伝達する。 デザートメニューに目を輝かせながら注文する神楽の表情が垣間見える。 きっと旦那らの前ではこんな顔いつもしてんだろうな……と。沖田は思い耽っていた。 沖田にとって、神楽の無邪気な表情というのはとても新鮮だった。 それに、こんなときくらいしか、こんな顔拝めることはないだろうとも思っていた。 あどけない、というのは。裏を返せば可愛らしいのだ。 その表情を目に焼き付けていたいのに。 どうしても照れくさくて、まともに視線を向け続けることができない。神楽がこちらに視線を向けようものなら、そらしてしまう。 沖田はまた無意識のうちに、顎に手を当てて擦っていた。 今日髭剃ってきたっけ……どうでもいいことが少し気になった。「お前、なんか悩み事?」 いつの間にか注文を終えていた神楽にそう尋ねられ、えっ、と少々驚いてしまう。「さっきからそんな顔してるヨ」「……別に何も」 ふーん……と。神楽は目を細めて凝視してくる。 ここまでごはんを奢っていても、まだ警戒は解かれていないのか。 ……それとも、本気で気にかけてくれて?「なら別にどーでもいいけど!」 ……いや、むしの良い話などないな。 神楽は再び窓の外の景色へと視線をそらしていた。 それにしても、神楽はやはり時たま鋭い。 鋭いし、その鋭さは予告なしに突然発揮される。 人に内心を見透かされることを嫌う沖田としては、困ってしまうのだ。 今の沖田に悩み事がないと言えば嘘だ。 けれど、神楽に相談するほどのものでもないし。むしろ相談すれば自爆するとわかっている。 だから言うつもりなんてない。 お前のことが、 以前よりちょっと気にかかる ……なんて。 言えるわけあるか。クソが。「……まぁでも、なんかあったら溜めずに抜くヨロシ」 神楽は窓の外を見たまま、ボサッと言い放った。 一瞬沖田はどきりとした。「抜くって……お前表現……」 ほんとバカなのかこいつは。 天然なのかわからないが、沖田をしばし動揺させる。 決して表には出さない。けれど。ただ、神楽の横顔が心なしか真剣な表情をしていたため、からかうこともはぐらかすこともできなかった。 一方神楽は、単純に知りたいというだけの想いだった。 沖田はいつも予告なしに突然チワワ化するから。 おせっかいっ気のある神楽としては、困ってしまう。「私で良ければ話聞いたげる」「あってもてめーにだけは絶対話さんわ」 沖田は相変わらずひねくれてるなと思った。 だから神楽は、あーあ!とわざとらしくため息をついてやる。 せっかく気にかけてやってるってのに。 そっちがひねくれるならばこっちもひねくれるしかないのだ。「ちぇー、万事屋の稼ぎが増えると思ったのになぁ……」「おい相談料とんのかよ。ああもう絶対相談しない一生しない」 沖田は手をプラプラと振りながら、拗ねたように言った。 神楽は一応、これ以上深堀するのはやめてさしあげようと思った。 チワワが泣きそうだから。そっとしておいてやろう。 そう思っていたのに。「じゃぁ聞くけど……お前は悩み事何もねーの?」 今度は沖田の方から神楽へ問いかけてきた。 神楽はうーんと思考を巡らせる。 今のところ思い当たる節はなかった。そもそも悩み事を深々と抱えるタイプではない。 けれど、無いと答えると軽いやつだと思われそうで嫌だった。「そりゃ、まぁ!乙女の悩みは尽きないってもんアル!」 もっともらしく胸を張って言う神楽へ、沖田は再び頬杖をつきながらへー……と相槌を打つ。「どんな悩み?」「なんでお前に話さなくちゃいけないネ」「てめッ人に聞いといて……!ド勝手なやつ」「お前だって結局話してないだろ!」 このときにちょうど、店員がパフェとコーヒーを持ってテーブルへやってきた。 再び丁寧に並べたのち、お辞儀をして去っていく。「……ま、旦那らがいるしな、」 しゅんと改まった声で話す沖田。 パフェの第一口目をスプーンで頬ばりつつ、神楽は不思議そうに見つめた。 一瞬、まっすぐ目と目が合ってしまう。 沖田は少し慌てて目を伏せた。「いるから、何?」「……いや、なんもない」 神楽の疑問に沖田は答えない。 自分の心内にはっきりと嫉妬のような感情を感じたから。やめようと思った。 こいつには、旦那と新八君がいるから。 別に俺なんかいてもいなくても一緒だ。 こいつにとって、悩み事を相談するほどの相手は自分ではない。何かあったら相談しろというほどの間柄でもない。 それこそ、カップルにでもなれるなら話は別だろうけど………。 温かいコーヒーを口に含むのに。苦い味がするだけで心は徐々に冷えていく感覚。 ……ああ、そっか、だからか。 別に肌に触れたいとか、ラブラブしたいとか、そんなんじゃない。 もう少し、こいつとの距離が近くなれたらいいのに……。 そんな想いはコーヒーと一緒に飲み込むしかなかった。* * * * * 会話らしき会話はそんなにしたわけではない。 ただひたすら食べまくる神楽を、白目むいて沖田が眺めているというだけ。 おやつ時も過ぎきって、窓から射し込む光は夕方色に染まりつつあった。「そろそろ行くか」「………うむ」 あまり気の乗らない返事をする神楽に構わず、沖田は懐から長財布を取り出しながら立ち上がった。 空っぽになった大量の食器をテーブルに置いたまま、神楽も立ち上がる。 入り口近くのレジの前で沖田が立ち止まったので、神楽もその背後で立ち止まった。レジに表示される金額を覗きこもうとすると沖田の背中で阻止された。「払うからあっち行っとけ」「私もちょっと持ってるネ」「いいから外出て待ってろ」「借りは嫌アル!ちょっと払う!」「わかったあとでもらうから先出とけ」 しっしと追い払う仕草をする沖田に、ぶーっと頬を膨らませながら神楽は店の外へ出た。 カランカランッと小さな鐘の穏やかな音が鳴り響いた。 神楽は外へ出て振り返り、窓から見える範囲で沖田の手元をじっと見ていた。 神楽は少し後悔している。 お腹が空いていたのでお腹の赴くままにたくさん食べてしまった。 そんなに高級な店でもないのに、沖田の財布からは、予想外の札枚数が取り出されていたのが見えてぎくりとした。 神楽はポケットからお小遣い入れのがま口を取り出して中を覗きこむ。 折り畳んだ何枚かのお札は入っている。沖田が食した分くらいは余裕で払える手持ちがあるのだ。 再びカランカランと音が鳴り、店の外に出てきた沖田は、神楽からウン!とくしゃくしゃのお札を突きつけられた。「はいこれ!」「あ、結構でーす」「おいおま!!あとでもらうっつったくせにッ!!」 嘘吐き!と沖田を罵る神楽の手首を掴み、札ごとぐんと押し戻す。 沖田はよっと店の段差を降りて歩き去ろうとしていた。「今日はいい、ほんと」 そしてそのまま神楽に背を向け立ち去ろうとするので、今度は神楽が沖田の手首を掴み、引きとどめさせていた。「無視すんじゃねーヨ!借りっぱなしは嫌アル!」「記念の日に借りもクソもねーだろィ」 いいからもう帰りたい。 これでようやく、沖田の今日の任務は終了なのだ。 考えてみれば、サボらずに見廻りを淡々とやる方がよっぽど楽だったのかもしれない。 神楽に何かをプレゼントしたかった。 ……けど、こんなにやきもきする任務だったとは。知らなかった。 沖田としては任務を遂行できた以上、この場から早めに退散したかった。 たつ鳥跡を濁さず。しかし、神楽は頑なに引き止めてくる。跡を濁させようという魂胆か。 沖田はウンッと振り払おうとするも、神楽の手は離れなかった。「だからもう金はいいっつって」「そうじゃない!」 遮られた言葉。沖田は背の低い神楽をしばし見つめる。 神楽は瞬きをぱちぱちとして、沖田に自然な上目遣いをして言った。「もうちょっと一緒にいてほしいアル……」 その言葉に、この距離に、 内心ぐるぐると掻き乱されている。 沖田は思考を少しだけ停止し、状況を分析しようと思うもうまくいかない。 寂しい、のか……? こいつが?「ちょっと訳を聞いてヨ、そこの公園で」 このクソ寒い中、公園って……なんて。沖田は言うこともできない。 寒いどころか、上がってくる感覚に頬が少し熱い。 握られたままの手首が、じわりと熱を帯びる。 沖田には、断れる理由が何もなかった。「……少しだけなら」 それを聞くと、神楽は一瞬表情を緩める。そしてぐんと沖田の手を引っ張って歩き出す。 二人はスタスタと公園へ向かった。* * * * * [5回]PR