ないしょ話 okita x kagura 2015年11月03日 沖田と神楽がゆるっとごはん食べに行ってなんやかんやするお話です。神楽ちゃんハピハピハピバ!! 新しいペ○スケースが欲しい……。 ショッピング街でガラスに貼り付き、商品を夢中でながめている神楽。 隣にひょっこりと現れた沖田にも全く気がつかない。 沖田にとっては、あってないようなパトロール業務よりも、こんなところにポツンと一人でいるチャイナ娘の存在の方が気になった。 ガラスケースに顔を押し当て、目を細めて凝視する神楽は、きっと正面から見ればヒロイン失格の顔面だろう。 想像するとバカらしくて、沖田は少し笑えた。「ガキくせー」「ぬおっ!」 かけられた声でようやく気づいた神楽は両手をビシッと構える。いつでも攻撃防御できる体勢。 他方沖田は、別に攻防繰り広げるつもりもなく、ポケットに手を突っ込んだまま呆れているだけだった。 秋めく街中、どこからともなく枯れ葉が舞い込んできては建物の隅で踊る。 ひゅるりと風が吹く度に、沖田はああさむっ……と、少しだけ体を縮こませる。 長袖、長ズボンにスカーフ。防寒のきちんとした真選組の隊服でもこれなのだ。 足を膝上丈で露出させているなんて正気の沙汰じゃない……と。神楽を見て思う。「そんな肌出して寒くねーの?」 視線の先は神楽の白い太もも。 ひらりと舞うチャイナ風の赤いスカートの裾が、太ももをちらりちらりと見え隠れさせて沖田の視線を誘う。「どこ見てるアル変態がッ!」「見てくれっつってるよーなもんだぜ?」 神楽は恥ずかしがり隠す様子など微塵も見せない。 それどころか、攻撃の構えからほわあちゃーッ!!!と、回し蹴りを放った。しかし沖田もこれを難なくかわした。 あーあ………男として見られてねーなほんと……と。 ボサッと考えていた。 別にいいし。俺だって女としてなんか見てねーし……なんて。 視線をぷいっとそらす沖田の真意もお構いなしに、神楽は考えていたことのありのままを愚痴った。「お肌よりお財布が寒いアル!なんとかしろ!!」「知らんわ、旦那に言え」 神楽はしょぼーんと視線を下に落とし、もう一度ショーケースを眺めていた。 そこには、神楽が今身に付けているそれよりも、もっと繊細な模様が施され一際輝いて見えるペ○スケースがあった。仁王立ちするマネキンに装着されている。 よっぽど欲しいんだな……。 沖田は神楽の横顔を眺めていて。口元が自然にゆるむ。「欲しい……」 呟く声は幼い少女そのもので。 沖田は少し考えていた。 買ってやれば、こいつは喜ぶだろうか……なんて。 ……いやいや、 なんでこいつに貢がなきゃならない。 たまたま沖田が街中をぶらついていれば、ショーケースに貼り付く神楽がいたというだけなのだ。 二人は別に待ち合わせしたわけでもない。二人きりでその場にとどまり続ける理由もない。 沖田は今、少しだけ後悔している。 ショーケースの奥に見える店員の人影、ガラスに反射して映る外部の人影。 皆が、微笑ましいなぁという目でこちらをちらっちらと見てくる。 店奥の者も遠慮してか、商品の宣伝文句すらかけてこなかった。 なーんかアホくさ…… こいつとカップルに見間違えられてるなんて。 たしかに実年齢でいけばそこそこいける年齢差なのかもしれない。 だが、童心などすっかり棄てた自分にこんなクソガキは、きっと不釣り合いだ。そう思っていた。 チャイナ……。 イケ好かない、ただのクソガキ……。 こいつの肌を欲してしまうなんて、考えられないことだ。 なのになぜだろう。 頭の中ではわかっているのに、視線は太ももに向きたがってしかたがない。 ごまかすように少し視線を下へずらし、神楽の足元のこげ茶ブーツを見つめていた。 心のどこかに、ストッパーが掛かっている。 そんな不思議な感覚だった。「そんなに欲しいか……?」 声色の些細な変化を感じとった神楽は、ガラスから顔を離し、はぁ?と面倒そうに沖田を見た。 そして、目を見開いた。 そこにいる沖田が、あまり普段見せないような、穏やかな表情をしていて驚いたからだ。「買ってやってもいいけど」 そんな、幻聴かと思える言葉が聞こえてきたものだから。神楽はますますびっくりしてしまった。 だから思わず頬をつねった。沖田の頬を。「痛い離せ死ね!!」「いや夢かなぁと思って」「自分のでやれよバカ!」 痛いということは夢ではないのか、と。 神楽はぱっと手を離し、しばし考え込んだ。 ヒリヒリする頬を押さえながら、沖田は神楽にもう一度尋ねた。「欲しいんだろ、そこのボンボリ?」「はぁ……そりゃ……まぁ……」 煮えきらない返事をするしかない。 これはいったい全体どういうことだろう。 顔を合わせれば皮肉と嫌みしか言ってこないこの沖田が、あろうことか神楽の欲しがるそれを買ってやるというのだ。 何かの罠か。ひっかけか。 たしかに新しいペ○スケースは欲しい。欲しいけど……。 神楽は警戒を怠らなかった。 沖田に物をねだるという行動なんて、全く想定できない。 たとえ罠ではないにせよ、 自分とこいつはそんな関係ではない。 銀ちゃんや新八なら、手放しで欲しい欲しいって言うけど。こいつにだけは、甘える姿なんて見せたくないというかなんというか……。 神楽も無意識のうちに、心にストッパーが掛かっていた。「……別に、いらない」 どうしようもないので、そう答えるしかない。 沖田からもショーウィンドウからも視線をそらして、そっぽを向いた。「……そっか」 その言葉を聞き、ああもうこれはこいつ立ち去るフラグかな……と神楽は思う。 別に引き止めるつもりもない。 だって、もう二人の間には用事も話題も、無くなってしまったのだから。 用がないのに一緒にいる理由なんて無い。 カップルじゃあるまいし。 別に仲良くなんてないのだから……。 沖田の姿を、神楽は見ることができない。 去っていく後ろ姿を見るというのは、いつであっても、誰であっても、寂しくなるものだ。たとえそれが、いつでもちょっかいばかりかけてくるイケ好かないクソチンピラだとしてもだ。 特にこんな肌寒い日は……。 そばに誰もいないのは寂しい。 神楽があれこれと想いを廻らせている、そのときであった。「じゃぁ飯でも食うか?」 立ち去るとごろか、声の主はまだすぐ隣にいた。 しばらくぼーっと間が空く。 頭が言葉の意味を少しずつ理解するのに時間がかかった。 ……そして、びっくり!! 心臓が跳び跳ねるかと思うほど。ええええ!?!?と大袈裟に驚いて沖田の顔を凝視した。 沖田は、神楽の方を見ていない。片手をガラスケースに当てたまま、ペ○スケースに目を向けていた。「な、なんでアル??突然!?」 驚きすぎてちょっと声が震える。 わかりやすく戸惑う神楽の反応が面白くて、沖田は少しだけ笑えた。 黒い隊服の肩がくすりと揺れる。「別に?大した理由じゃねーけど、今日お前の」「さっきからなんかおかしいアルお前。妙に優しいネ!何企んでんだヨ??」「……おっと、信用ねーなァ俺は」 おどける沖田。警戒する神楽。 沖田はガラスケースから離れて歩き出した。「おい待て!」「そのボンボリの代わりだ。奢ってやらァ」 財布を取り出して見せびらかしながらさっさと歩いていく沖田に神楽はわたわた慌ててついていった。 その手から財布をひったくろうと軽くジャンプして飛びかかるが、ひょいとかわされた。「むしろその財布ごと寄越せ!」「やーなこった!」 こいつは金さえちらつかせればあっという間に誘拐できそうだなと思いながら。 沖田は神楽を引き連れ、飲食店街の方へと向かう。 神楽は沖田のあとを追う。 少しだけ、心が弾んでいた。* * * * * [8回]PR