アヤメ色(白) okita x kagura 2018年10月27日 夢か現(うつつ)か。自慰の話なので苦手な方はすっ飛ばしてください。3を飛ばして2から4へと読んでも一応話は繋がってます。 何かが弾けるような感覚に見舞われ、沖田はふわりと眠りから覚めた。 どくんどくんと一定のリズムで高く波打つ。血が体中を巡る感覚が、わかる。 布団に宿された自身の体温。何かの絶頂を越えて、次第に気圧が収まってゆく、引いていくのがわかった。そして、代わりに押し寄せてくるのは、全身を巡っている快感………。 沖田はしばらくの間何も考えることができずにいた。掠れた荒い呼吸を聞く者は、その場に誰もいなかった。 沖田は再び眠りの世界へ潜ろうと、じっとして目をつぶった。 先程まで思い浮かべていた夢の光景。うろ覚えであったが、まだ覚めて間もないため、しばらく耽っていると次第に甦ってくる。………そうだ、目の前に彼女が居る夢だった。 最後に会った朝からしばらくの間、互いの仕事で会わない日々が続いていた。 例え仕事がないにしても、人目を忍んで会っていることを考えれば早々頻繁な行き来はできない。沖田はそんなこと当たり前のようにわかっていた……… ………思い返すとじわじわとまぶたの裏に浮かぶ姿。どこか動揺している。鼓動が鳴り止まない。眠っているはずなのに、沖田の中の何かが高揚している。 沖田の目の前に浮かんでいるチャイナ服姿の彼女は、無表情だった。 夢か現か判らなくなる。閉じられた視界の中で、沖田は彼女に何度も話しかけた。声を掛けども掛けども、こちらを振り向いてくれない様はいやにリアルだと感じていた。 沖田は彼女の身体を無理やりに押し倒し、組み敷く。抵抗感はなかった。まだまだあどけない、されど女性らしい肉付きをしたその身体。一糸纏わぬその胸に、腹部に、その下肢に、沖田は何度も何度もこすり付けては小さく呻いていた。彼女は感情を見せなかったし、抵抗もしなかった。 気づけばいつの間にか果て終えている。 伝えられない想いの代わりに、 白色の鬱憤が、彼女の身体の上に飛び散りばら蒔かれていた。 ………沖田は、荒く浅い呼吸を繰り返す。興奮冷めやらぬその姿は、彼女の冷徹な瞳に映し出されていた。 蒼いのに、どこか黒々とした視線。その視線に晒されている、沖田の上半身の裸体はぬるりと汗ばんでいた。「……お前、今自分が何したのか、わかってるアルか」 蔑むように目を細めて沖田の顔を見上げる瞳は、どこまでも冷たい。その白い肌のうえに散りばめられた欲望の痕跡は、紛れもなく沖田のモノ。 それなのに、彼女は反応を示さない。抵抗もなければ、沖田と同調するような……………感情を剥き出しにして気持ち良さそうな……………仕草や声の反応も何一つなかった。 そこには静かな嫌悪感が込められている。 まっすぐな視線が沖田へと射られている。それだけだった。 沖田は心が潰されてしまいそうな思いがしていた。自身の行為を冷ややかに咎められる。沖田にとっては耐えがたい苦痛だった。 彼女に跨がったまま、沖田は首を垂れて、視線をそらしていた。「……悪かった」 沖田がポツリと呟くと、沖田の下で彼女はハハッとあしらうように笑った。「謝って済むなら警察いらないネ」 その言葉を聞き、沖田は懺悔の気持ちから、彼女の頬へと手を伸ばそうとした。しかし、冷たくパチンッと弾かれてしまった。「触るな。」「バッチぃ。」………そう言われた。 沖田は弾かれた自身の手を目にした。するとその手のひらと指の合間が、見覚えのある白濁で濡れそぼっていた。 沖田はもう、これ以上、彼女に掛けられる言葉や言い訳が、見つからなかった。 まるで唾を吐くように、一言。彼女は手を出さない代わりに、言葉を、沖田の胸中へ突き刺した。「気持ち悪いヨ、お前」「……チャイナ」 必死の想いで絞り出したその声……自分の声で、沖田は再び夢から現実へと呼び戻されていた。 生暖かい布団の中だった。頭から足の先まで、沖田の身体すべてを覆っている。布団の隙間からは、わずかに白い光が穏やかに射し込んでいた。 沖田はそっと布団の端の方だけを上げて外側の世界を見た。江戸郊外の一室。畳一間。辺りはいつの間にか朝を迎えようと、明るくなってきている最中のようだった。周囲には当然誰もいず、沖田一人だった。 まだ夢の続きの中なのか、もう覚めて現実にいるのか、行き来していて境目があやふやだった。 沖田は気だるそうに瞼を閉じたまま、のっそりと少しだけ布団から頭を出す。そして、目の上に被せていたアイマスクをそろりと取り外そうとした、が、見当たらない。昔と違いアイマスクをせずに眠れるようになっていたことを、寝ぼけた頭はようやく思い出した。 と、沖田は違和感を覚え、再び布団に潜った。薄暗い布団の中で、自身の利き手の指先を眺めた。 そこにあるのは生々しい液体だった。夢の中と唯一共通する出来事の痕跡。 沖田はしばらくの間ぼーっとその手を眺めていた。ようやく、自分が何を起こしていたのかを悟った。「……………」 沖田はまだ少し眠いと感じていた。布団の中でもぞもぞと少しだけ寝返りをうった。潜り込んだまま。出ようとはしなかった。 そして再び、じっと動かなくなった。濡れている方の手は、自身の太腿で軽く拭った。寝間着の襦袢の分け目から、片足だけが露出している。その足の付け根の辺りに触れながら、沖田はまた浅い眠りにつこうとしていた。 愚かだとは思いながらも。あわよくばもう一度だけ、夢の続きを見ていたかった。夢の中で、たとえ冷たい態度でもいい、会いたかったからだ。 ………存外自分はドMらしいな。沖田は自分に自分で呆れて苦笑したくなる。「………チャイナ、」 そう口にしていると、心が穏やかになるような気がしていた。 焦がれている相手に、受け止められたい想いが込み上げてくる。会えば、身体を寄せれば、その想いが抑えきれずに溢れて出してしまうこともしばしばだった。 受け止めてほしいと。欲望を執拗に押し付けている、求めすぎている自分にも、沖田はとっくに気づいている。「チャイナ……………好きぃ…………」 布団の中で声が溶けるようにくぐもっていた。目を閉じると、なんだかまた会えそうな気がする。情けない、でも、どうすることもできない。 このままじゃ、彼女なしに生きられなくなってしまうのではと、危惧する心も共存している。本当は、昔のように冷たくあしらわれているくらいが、適度に距離を保っているくらいが、ちょうど良かったのかもしれない。 彼女に負担をかけすぎた。だから、今更あんな夢をみたのかもしれない。拒絶される感覚を知らしめたのかもしれない。沖田は妙に納得した。 あーあ。また、さわりたい……。 目を閉じると、いつの間にか見慣れてしまった彼女の裸体姿が浮かんでくる。 白色の肌は服の下まで続いていたし、体毛は薄いピンク色の髪と同じ色をしている。そのことに初めは随分感動したものだ。 ふんわりとした胸元。触れると柔らかいしあたたかい。たまにくすぐったそうに笑われる。その声がまた心地いい。「あぁ……………あ………」 ………愛して、る。愛してる。 なんて。 簡単に口にしてはいけない言葉。わかっている。 それでも、沖田は気持ちを止められなかった。 その言葉を伝えたい、押し付けてしまいたいと、声にならない声を発し、口をパクパクとさせる。彼女に触れられない夢の中の手は、代わりに自身に触れていた。足の付け根にあったはずの手は、そこからゆっくりとなぶるように辱しめてゆく………。「……………んぅ、……かぐ、ら………………かぐら…………」 こんな気持ちを知らなければ、いっそ楽だったのに。 触れたいと願ってしまうことも、気が高ぶると″神楽″と名前で呼んでしまうことも。もう、今さら消すことができない。後戻りができなくなった。 せめて、気がしっかりして理性のあるうちは、いつも通りの″チャイナ″というあだ名で呼ぶことにしていた。沖田にとってそれは、この期に及んでの唯一の歯止めのようなものだった。 ぐるぐると濁る感情に、沖田の思考は、酔って、回って……何も考えられなくなるとき………再び、弾けるような感覚が焦り迫っていた。「……………………うぅっ…………ん……」 込み上げてきた大波の感情と濁りに、低く呻いた。手の中で吐き出された。 すると、その後からすべてが急速に収まっていく。海の満ち引きのように、サーッと波が引いていくように。身体中が覚醒していくような感覚だった。「ああ……気持ちぃ………」 布団を深く被り、沖田は悦に入るように呟いた。 一時の感情に身を任せる奴はなんとやら………どこかで聞いたことのあるそんな台詞を噛み締めながら沖田は布団で苦笑した。 こんなことをする度に、眠りだけでなく、深く暗い穴に堕ちていく、そのまま抜け出せなくなりそうだと。危惧していた。 [1回]PR