兄妹4 okita x kagura 2015年06月03日 兄妹3のつづき。完結 夕月夜が顔を出す。辺りで遊んでいた子供たちの声は消えてゆく。そんな時間どきだった。 花江の家をあとにした二人は、飲食店外へと続く道のりを並んで歩いていた。 静かな空間に二人の足音だけが鳴る。 直射日光の無くなった今の時間帯は、傘をさす必要がなかった。そのため二人の間の距離は、来るときよりも、物理的にほんの少しだけ縮まっていた。神楽は閉じた傘をフンフン振りつつ、待ちわびたご飯どきに心を踊らせていた。「悪かったな、今日は」 沖田の声にん?と首を向ける。沖田は神楽の方は見ていなかった。前方へぼんやりと視線を泳がせているだけだった。「ほんとアル!その御守りと一緒に一生分の感謝を持ち歩くヨロシ!」 花江を前にしたときの沖田の表情を思い返すと。神楽は少し笑えた。小さな子供に涙混じりに謝られ、責めるどころかいいよともクソとも返事をしない。末っ子はこれだからダメアルなーと。自らも末っ子であることは置いといて神楽は呆れていた。「あとネ、約束通り!今からたらふくごはん奢らせてやるアル!」 意気揚々とした神楽の声に、はいはい……と返事をしつつ。沖田は、ズボンから財布を取り出して所持金残高を確認していた。 普段見ることのない神楽の一面を垣間見た。意外と優しくていいとこあるんだな、とでも言おうかと思ったが。癪にさわるのでやめておいた。それに、神楽が優しいことは………それなりに知っている。 ただ、年上の自分にも、図体のでかい犬にも、あれだけ小さなガキにも。皆に優しい。まるで……姉上のようだ、なんて。まだ少し納得したくなかったから。優しいな、なんて言いたくなかった。 すると、神楽の口から不意に言葉が飛び出した。「お前、案外優しいとこあるんだな」「……俺?どこが」 驚いて返事する沖田に、だって、と立ち止まって神楽は言う。「花江が盗んだって、私に言われるまで考えようとしなかったし。さっきも花江のこと責めたりしなかったし」「……ガキが嫌いなだけだよ。極力関わりたくねェだけでィ」「よく言うアル。花江に謝られたとき、まんざらでも無さそうだったネ!」 ハッと沖田が神楽の顔を見ると、へっへん!とバカにするような目付きで見られていることに気づいた。「てめっ……調子乗りやがって」「ま、お前が優しいんだってことにしといてやるネ」 ちゃかしつつ、再び歩き出した神楽に、沖田はついていく。半歩前を神楽が歩くような位置関係。今日だけは、沖田は神楽の前をなんとなく歩けなかった。 ちらりと神楽の小さな背中を見た。フンフーンとご機嫌に傘を振り回す姿と。新しいタバスコを購入してご機嫌に前を歩く姿とは。似ているのだろうか……。 いつも楽しそうに、優しくニコニコする姉。そんな姉だっだが。一度だけ、寂しそうな顔で「本当は総ちゃんが羨ましいの」と言われたことがある。どうしてかと尋ねると。ううん、と。それ以上のことは言われなかったが。なんとなく印象に残っている。「……ほんとはね、花江のこと、ちょっぴり羨ましいアル……」 考え事をしていたさなか、不意にこぼれた神楽の言葉に、沖田は少し驚いた。神楽は振り返ると、沖田のズボンを指差した。「お前にも、大事に思える姉ちゃんがいて。………羨ましいアル」 御守りがしまわれた沖田のポケット。沖田は再び御守りを取り出し、手のひらの上のそれに視線を落としていた。 日はもう完全に沈みつつあった。辺りはさらに一段と暗くなってはいたが。まだ少しだけ明るい群青色の空や、点滅しつつも辺りを照らす電灯がある。神楽の顔は暗いながらもそれらの光に照らし出されていた。 パチパチと数回瞬きをして、斜め下を向く。何かを回想しているかのように。唇を噛みしめた表情。 沖田は、神楽の表情を見ていた。そして、心を揺さぶられる想いがしていた。 ぐるりと思考を廻らせた。 どうしてだ?と尋ねたところで、何でもないアルと返される。そんなことは目に見えていた。 あのときの姉上に、自分はなんと声をかけるべきだったのだろう。 あるいは、こんなとき、もし自分がこんなツラを見せたときに。姉上ならなんと言うのだろう。………こいつなら、なんと言うだろう。 こいつが、姉上が、笑っていてくれるとき。 それは、誰かと一緒にいるとき。 ……沖田は考えながらも言葉を紡いだ。「………てめーにも、いるだろィ。旦那たちとかが」 自分では、ないけれど。 そこは、姉と神楽の違うところだと沖田は理解している。「旦那たちが、いる。お前のこといつも見守ってるやつらがいんだろ」 いつになく真面目な返答に、神楽は目を見開いて、沖田を見つめた。「……あのさ」「何だよ」「……お前は、違うアルか?」「……は?」 神楽は沖田が御守りを持っていた方の手のひらの上に、自らの手を重ねた。 驚いて言葉を紡げないでいる沖田を見上げ、「私は守られてるアルヨ」 そう言って笑いかけた。 神楽の声に、その言葉の意味に。とっさに反応できず。沖田はえっと……と。再び口ごもった。 と、……そのときであった。 二つの呼び声が遠く向こうから聞こえてきた。「おーい神楽ー!」「神楽ちゃーん!」 噂をすればなんとやら……か。沖田は思考をやめ、神楽と共に前方へ顔をあげ目を向けた。「あ!!銀ちゃーん!!新八ぃー!!」 先程の花江の家の前にいたときとはうって変わって、神楽は子供っぽく声を張り上げると、二人に向かいタカタカと駆けていった。 神楽は二人の目の前で立ち止まると、沖田に構わず二人にお疲れ様!と労った。「仕事もう終わったアルか!?」「うん、思ったより早く終わったんだ」「ありゃもうこりごりだぜ。入試の監督官なんてちょろィ仕事かと思ったんだがな。あれはあれで辛ぇわ、俺もうやりたかねーわ」「よく言いますよ。後ろに座ってずっとジャンプ読んでただけのくせに」「だってさ?時間長すぎじゃね?もう俺三周くらい読んだんだぜあの分厚いジャンプ?それでもまだ試験終わんねーんだぜ?あーもう疲れた!ガキのお受験なんて俺ァどーでもいいしもう今度はジャンプ三冊くらい持込みだな!」「ちゃんと仕事しろヨー。私が行った方がよかったんじゃネ?」「今朝も言ったろ?長時間黙りっぱなし座りっぱなしの仕事だぜ?お前があんな仕事引き受けたら報酬どころか賠償もんだっつーの!」「……ところで神楽ちゃん、どこ行ってたの?ずいぶん探したよ」 新八がそう言ったとき、ちょうど少しだけ離れた道先に沖田が立っていたのを銀時は発見した。「神楽、あいつと出掛けてたの?」 意外そうに言う銀時に、きっぱり神楽は否定した。「違ぇヨ。……迷子のお巡りさんを道案内してあげてただけネ」「え、迷子だったんですかあの人」 驚く新八。ふーんと意味ありげに言う銀時。どうもこんばんは、といつもの顔と棒読みで挨拶する沖田。 銀時は、本当の事情まではわからないものの。神楽が沖田のためにごまかしてあげているんだろうことは、なんとなく察しがついた。 そんなことより、ふと、銀時は思い出し、神楽に言った。「神楽、今日は久しぶりにファミレス行くぞ」「え!!ファミレス!?」「へへ、今日の僕たちの報酬、けっこう高かったんだ。神楽ちゃんも連れて久々に行こうよって今話してたとこ」「うわっほい!!行きたいネ!!おいしいごはんたらふく食べたいアル!!」「言っとっけど、デザートはひとつまでだからな?」「え!デザートもいいんですか銀さん!?」「今日は許す!ジャンプに免じてパフェも許す!」「銀ちゃん太っ腹アルー!」 先程からのやりとりを黙って見ていた沖田。別に立ち去っても良かったのだけど…。 片方の手に持ったままだった財布を、さりげなくポケットにしまった。そしてもう片方の手の御守りもポケットへしまおうとした瞬間。銀時がふと沖田の存在を思い出し、声をかけた。「あ、沖田くんも来る?良かったら」「いえ、水入らずで行ってきてくだせィ」 じゃ、俺はこの辺で、と。沖田は三人に背を向けて歩き出そうとした。「おい、クソサド!」 その背中に叫んだのは神楽。 反応して沖田は振り返った。すると今度は沖田の元までタカタカと駆け戻ってきた神楽に沖田はひるみつつ。再び御守りを持っていた方の手をとられた。「な、なんでィ急に」「これ!」 神楽は小指だけをくいっと立てて沖田に見せつけた。「日は改めてやるネ!この御守りに誓って忘れんなヨ!」「……わーったよ」 沖田のその返事を聞くと、神楽は満足そうに笑った。そして踵を返し、また銀時たちの方へと元気よく駆けていった。 沖田も神楽に背を向け歩き出した。今し方、自分にだけ向けられた笑顔に、……信じられないでいる。 約束……と。小指を立て、笑顔で指切りをしてきた人はもう一人いた。そのことを、想い出していたから。 「まっすぐ、自分たちの道を貫いてね」と。 ……姉上。俺は約束は破りませんよ。 心の中でそう呟いていたときだ。 差し掛かっいた十字路で、沖田の目の前を子供が全速力で駆けて行った。沖田は思わず立ち止まった。 それは、十歳に満たないほどの男の子。袴をふり乱し急いで帰る様子。その方角の先は花江の家。動体視力の良い沖田には見えた。その子供は嬉しそうに笑みを浮かべていた。「……よかったねィ」 柄にもなくそんな言葉がもれたのだった。 沖田が立ち去ったあと、ファミレスへ向かいながら銀時は面白がるように神楽に聞いた。「何々?沖田くんとなんの内緒話してたの?」「あいつに約束の念押しといただけアル」「なんの約束?」「教えないネ。秘密!」「なんだそりゃ、言えないカンケーってやつか?」「しばくぞ天パ!!銀ちゃん便乗しそうだから、便乗されたくないだけアル!」 からかってくる銀時を傘の先端で小突きつつ。まぁまぁと二人の間に入ろうとする新八を勢いよく蹴飛ばす。神楽はるんるんと駆け足になった。「ちょっとぉぉ!!何すんのさァ!?」「黙れダメガネ!お前の分のパフェは私の物ネ!!」 神楽は銀時と新八に追い掛けられながら少しだけ考えていた。例えば、あの二人がパピーとマミーのようだとして。不器用でいい遊び相手でときたま気遣ってくれるあいつは。 もう一人のバカ兄貴かな。 今度あいつとご飯行くときに、そんなことを話してみるのも面白いかもしれない。その時のことを考えると、神楽は自然と笑顔がこぼれるのだった。 [9回]PR