秋色に染まる okita x kagura 2018年10月28日 ワンライで投稿したものを少し加筆修正しました。神楽ちゃんは何にせよ可愛い。 そよ姫はあまりにもびっくりしてしまい、持っていた酢昆布の箱を地面にボトリと落としてしまった。しばらく沈黙して何度もまばたきする。そしてようやく、声を発することができた。「か、神楽ちゃん……だよね? えっ、どうしたの一体???」「へへ!どうアルかそよちゃん?」 聞こえてくるあどけない声と喋り方はそよ姫のよく知る神楽そのもの。でもそこにいるのは…………真っ黒で艶のある髪を、雪洞2つに収めた少女の姿だった。「イメチェンしたアル」「イメチェンって、そんな、神楽ちゃんイメチェンしなくても可愛いのにッ!」「こ、これ似合ってないアルか……?」「ううん、似合ってる。すごく似合ってるよ!!でも、ごめんなさい。あまりにもびっくりしすぎてしまってちょっとどう表現したら……でもとにかく、黒髪の神楽ちゃんも素敵よ!」 そよ姫が両手に拳をつくって褒めまくると、えへへ、と神楽はわかりやすく照れていた。「ありがとそよちゃん!なんかこう、実はちょっと前から憧れてたアル……」 照れくさそうに少し俯く神楽をまじまじと見るそよ姫。パッと見わからないが、ところどころ元のピンク色の髪が混ざっている。きっと美容院ではなくて自染めなのだろう。でもどうして染めたのかしら? そよ姫が内心首を傾げていると、神楽が指で横髪をくるくるとさせながら恥ずかしそうに話した。「私生まれてからずっと薄ーい髪の色だったでしょ? だからさ、なんかそよちゃんみたいに艶々の黒髪の女の子になるの、憧れてたアル」「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも、どうして急に? つい1週間前遊んでたときはそんな素振りなかったのに」「なんか最近ちょっと涼しくなってきたし……髪色暗くするなら今のタイミングだ!って。女の人たちがキャッキャ話してたアル」「そっか……もう秋だもんね」 でもね、神楽ちゃん、と。そよ姫は笑いかける。「たぶんお互い無いものねだりなのよね。私としては、前の神楽ちゃんの髪色も羨ましかったなぁ」 そよ姫は手を伸ばすと神楽の髪に触れる。色は隠せてもその髪質は隠せない。さらさらと1本1本が細く流れるように綺麗で、しばらくの間、指を滑らせて神楽の髪を堪能していた。「そ、そよちゃん!なんかくすぐったいアル」 へへと頬を緩ませていたそんな時、おーい姫様ー!と、番傘をさしながら神楽とそよ姫に近づく者が一人。「姫様、勝手に行方くらましてキャッキャしないで下せぇ」「あら、ごめんなさい沖田さん」「何アルかお前そよちゃんに文句言うなヨ」「おや………テメーはひょっとして」 わざとらしく手をピシッと額に当ててきょろきょろと黒髪の神楽を見つめる沖田。目をくりりとさせて珍しいものを眺めるような顔をする沖田に、神楽は少し戸惑いつつ睨み付けることで威嚇した。「なっ、何アル!?」「いや、おたく誰ですかィ」「気づいてんダロ!お前絶対気づいててわざと言ってんダロ!」 腹立つアルナー!と、ぎりぎりと睨んでベーッと舌を出して沖田をこけにする。そんな神楽に、沖田はフフッと笑う。それはバカにするような、呆れるような。ともかく神楽の神経をもうひとまわり逆撫でするような微笑み方だった。 あらら、神楽ちゃんがキレてしまいそう……。そう思いながらも、ニコニコと微笑ましそうに2人を眺めるそよ姫。案の定、神楽は沖田にくってかかった。「何アル!言いたいことがあるならサッサと言えヨコノヤローッ!」 そんな神楽に、沖田は一言。「アンタみたいなべっぴんなお嬢さん、俺ァ知りやせんよ。どちら様で?」 その時の沖田の瞳は、からかう様子とは少し違う。声色はいたって落ち着いていて、どこか神楽と温度差のある優しい口調だった。 ヒートアップしていた神楽は意気消沈。言葉を失いその場に立ち尽くしてしまう………。すると、「さ、姫様行きますよ」と沖田はそよ姫を日除けの番傘の下へ誘った。 また遊ぼうね、神楽ちゃん。固まる神楽にそよ姫はバイバイと手を振ってその場を去った。……去り際にそよ姫が見たのは、俯いて頬を少し赤く染めていた神楽の表情だった。黒髪に白い肌も相まって……「ウフフ、やっぱり可愛いなぁ神楽ちゃん!」 ニコニコと沖田に話しかけたそよ姫。沖田は「そうですねィ」と短く返す。そよ姫は沖田の表情を覗きこもうと少し前のめりになる。「沖田さん、惚れ直しましたか?」 そよ姫の問いかけに、沖田からの返事はなかった。その時の沖田の表情をそよ姫はよくよく見てみたかったのだけれど、あいにく番傘が邪魔をしていて見えなかった。そよ姫は少し残念だった。「え、何? もう戻すの?」 帰ってきて開口一番、戻せ!今すぐ戻せヨ!と要求する神楽に戸惑う銀時。やれやれと頭の後ろを掻きつつ、「おーい新八ー戻すってよぉー」と応接間で掃除をしていた新八を玄関先まで呼びつけた。 新八はドテドテとスプレー缶1本を持って玄関先までやって来た。スプレー缶はいわゆるリムーバーで、天人が開発した1日用の染髪剤を落とすためのものだった。「ほらね、僕の言ったとおりでしょう?お試し用にしといて正解だったよ。普通の髪染めだと戻せないからね」「やっぱテメーみたいなガキんちょに大和撫子風の清楚な黒髪は似合わないってこったな」「銀さんってば。ホラ神楽ちゃん、向こうむいて」 新八に促され、神楽は背を向ける。背中は少ししょぼんとして丸めていて猫背。結った髪を丁寧にほどきつつ新八は神楽を慰めた。「神楽ちゃん、誰に何言われたか知らないけど黒髪は黒髪で似合ってたよ? 落ち込むことないって」「……そうじゃないアル」 神楽は首を横に振る。否定の意とともに、固く縛っていた髪がハラハラとほどけて、真っ直ぐな髪を下ろした。新八も銀時も、何があったのか不思議そうに神楽を見ていると、神楽は振り返った。染色剤を使っていないのに、その頬はほんのりと赤く染まっていた。「あいつに褒められるのだけは……ごめん被るアル」 困ったように鼻の下をすする神楽は、まだ心臓のどぎまぎが治まっていない。「べっぴんなお嬢さん」と言われたことに、何とも形容しがたい感情を抱いてしまったのだった。 そんな神楽を前に、銀時も新八もますますはてなを浮かべるしかない。そんな秋口。 これから寒い季節を迎えるというのに、発芽してしまった感情はどこへやら。行く宛もないのでとりあえずスプレーでもとの淡い髪色に戻しておくことで解決させたのだった。 [2回]PR