金魚花火(線香花火) okita x kagura 2018年10月13日 ▽ 恋し、想いを募らせて。 ぽたぽたと落ちてゆく、散り散りの小さな火の花びら。 触れたら火傷する。触れられずに、ただ見ているだけで時がゆっくりと過ぎていく。 今この時だけの瞬間を噛みしめるように懸命に散らして。弾けて。そして消えていく………。「私にもそれやらせてヨ!」 無邪気に俺の手から取り上げた線香花火1本を、しおらしく小さくつまんで持ってしゃがむ姿は、普段の振る舞いのそれとは違う。浴衣姿であることや、花火以外に灯りのない夜の空間であることが、チャイナの非日常をより際立たせている。 花火が下から照らすその白い頬も、柔らかそうな唇も、橙色の灯り混じりの青い瞳も。すべてが、小さなその火の花へと一心不乱に注がれていた。 俺はしゃがんだまま、そんな横顔を見ている。 チャイナの視線は花火に向いたまま、こちらには向かないが。不意に声を掛けられた。「お前もこれ、やらないアルカ?」「俺ァもっとハデなやつの方がいい」 花火に関して、バチバチと激しく音を立てる方が好きなのは、てっきりチャイナも同じかと思っていたのだが。存外、気に入ってくれてるらしかった。「私はこのちっちゃいやつ、けっこー好きアルヨ」 パチパチパチ……… 消え入りそうな心もとない音を立て続けている。心もとない、されど、簡単には消えないその灯り………。 そしてそのまま、ぽたっ………と。一瞬にして落ちてしまった。後に残る火薬の匂いも、ほんのかすかで。あっという間に、最初からそこになかったかのように消えてしまった。「次のやつはもうちょい長くいきたいアルナ」 チャイナは淡々と2本目の線香花火に火をつけていた。そしてまた、先程と同じように、しばらくその芯を火花に焦がした後、小さく散っていく。そしてまた3本目……………と。そんなことの繰り返し。 俺は自分で花火を手にとることもせず。飽きもせず。その横顔を見つめていた。胸の奥がひりひりとする。 ああ……今こんなに無防備に、近くにいる……。「なぁ、チャイナ、」 胸のつっかえがどうしようもなく、想いを声にのせようとしていた。 ん、何アルカ?と相槌を打たれると同時に。ポタッと。花火は地面に落ちて燃え尽きてしまった。「………いや、何もない」 この気持ちもまた、人知れず地面に落として消してしまうよりほかない。「可笑しなやつアル」 ま、前からそーだけどナ、と。チャイナはこちらの胸内に振り気づきもせずに、また次の線香花火へと火をつけていた。 ……ああ、そうか。そういうこと。 消えちゃァいないのか。 こんなふうに、火を灯されては、落として消えて、そしてまた点火されて……そんなことの繰り返しをさせられている。 もし、この気持ちを落とさずに燃やし続けさせることができたとしたら、どうだろう。 誰しも一度くらい、線香花火が燃え続ければいいのにと願うだろう。だが落ちるからこそ線香花火であり。いつまでも長く火花を散らすことなど本来的には望まれちゃいないのだ。火傷するのがオチなのだから。 仮に、明るく恋しさを散りばめ続けたとしたら。そんな線香花火はきっと、チャイナの指先から切り離されてしまうだろう。熱をあげた火花で指を火傷させてまで、線香花火の明かりを所望することはない。 だからきっと、これでいい。 現状維持。触れられず。火傷もせず。この塩梅が、一番……………。 ただあわよくば、少しだけでも長く、その瞳を奪えていられたらと、その瞬間瞬間を、散り散り。身を焦がしている。見つめている。「綺麗アルナ、ほんとに………」 ため息のような感嘆をもらすチャイナの言葉は、こちらに向けられている気がした。皮肉のように捉えてしまうところは、やはり、自身のねじれた性格なのだろう。 燃やされる度にこれ程に苦しくなる気持ちは、どうすることもできず。ただ、チャイナの指先ひとつにぶら下がったまま、ぽたぽたと想いを落としていくだけだった。 [2回]PR