Who is Santa? hijikata x mitsuba 2015年04月10日 ※かなり昔に書いたものを、バラガキ的事情含め加筆修正。※プロローグと5以外は、武州の頃の話です。バカとカバは紙一重 *****沖田はベンチから立ち上がる。暗い空から、小さな雪が降り始めた。遠い空を見上げながら、沖田は言った。「姉上は、あんたに惚れてました」土方はライターに火をつけ、次の一本に手を伸ばした。再び煙を吐き出す。「……あり得ねぇよな、ほんと」「そりゃ俺も同感です」表情ひとつ変えずに言う沖田。そろそろ仕事場に戻る時間。そう思い、前へ歩いていこうとした。つと、雪の粒が鼻先に舞い降りた。あの日の夜のことが思い起こされる。まだ沖田が、人を斬ることすら知らなかった頃。サンタはこの世に存在しているのだと信じていた、あの頃。*****朝の武州。土方は道を歩きながらグーンとひとつ伸びをした。舗装のされていない、いつも通る砂利道足が小石を踏みしめては、その音が静かな空気を揺らす。12月中旬の朝。さすが冬真っ直中なだけに、空気は冷たく乾燥しきっている。いつもの格好に羽織一枚とマフラーひとつのみをまとう土方。向かう先は、道場への行き道すがらにある家。シャカ、シャカと一歩ずつ踏みしめる度に土や枯れ葉の擦れ合う音が響き続けていた。ようやくその音が静まった時、土方はその家の前に立っていた。「……やれやれ」これから土方が会うであろう人物の反応を想像し、思わずため息が出る。白い湯気となり、ため息は空気中に散らばる。土方は再び歩きだし、家の敷地へ入る。向かうは縁側がある庭……。「沖田先輩、稽古の時間ッス」土方は縁側から大声でそう言った。連日だいたいこのパターンである。いつもこうやって呼びかければ、家の中から、土方より一回り二回り小さい総悟が飛び出してくる。そして、土方に殴りに飛び掛かってくるときもあれば、蹴り掛かってくる…こともある。土方は毎度実に面倒だった。「オイいい加減出てこい総悟!!」もう構うものか、と。すでに下の名前を呼べるほどには、土方は道場に通い慣れ親しんでいた。当初は沖田先輩と必ず呼んでいた。しかし、いくら昔から道場にいたとは言え、総悟ははるか年下。しかも、稽古をしょっちゅうサボるようなガキである。もう先輩呼びなどいいだろう、と土方が嫌気をさすのに、そこまで時間はかかっていない。さて、二回呼んでみたものの、なお返事がない。そこで土方はもう一回り大声で叫ぼうとした、その瞬間であった。「ハイ、只今参ります!!」突然、どこからか聞こえた子供の声。土方はそれが誰なのか一瞬わからずにいた。そして、声の主は目の前に現れた。「土方さん!毎度迎えに来て下さりありがとうごぜぇやす!」道場へ行く支度を整えた総悟は、土方に突っ掛かりに……ではなく、縁側にきちんと正座し、頭を丁寧に下げていた。あり得ない光景に土方はひるんだ。「……誰?」「やだなぁ土方さん。総悟です。名前ぐらい覚えてて下せぇ」「いや違ぇだろ。つーか『土方さん』って呼び方……」土方がつっこみ切る前に、総悟は土方の手を握る。そして、早く道場に行って修行しようと、ぐぃぐぃその手を引っ張っていた。いつかの時とは全く逆。土方が無言で総悟の首根っこを掴み引っ張っていたあのとき。縁側で笑ってるやつがいたっけそういえば…。そうこう考えていると、土方の思い当たる人物が現れた。ひょっこりと家の奥から顔をのぞかせ、おかしそうに笑っている。「二人とも待って、」それは総悟の姉である、ミツバだ。二三枚上着を重ねて厚く羽織る。髪はひとつに結いあげ、いつもと変わらず二人のやりとりをニコニコと見ていた。「私もちょうど買い物に行きたくて。一緒に出かけてもいいかな」「姉上!寒さは大丈夫ですかィ?」「平気よ総ちゃん。今日はすごく調子がいいの」ミツバはふと、総悟の隣にいる土方の顔を見た。口が半開きで明らかにポカンとしている様子に、フフッと笑いながら挨拶した。「おはようございます、十四郎さん」ミツバに声をかけられ、土方はハッと我に返った。「お、おぅ」道場までの道を三人で歩いていた。相変わらず冬の朝の空気は冷たい。吐く息はすべて白くなり空気に溶け込んでいった。「寒くねぇか」前の方の道をスタスタと元気よく歩いて行く総悟を見ながら、土方は隣にいるミツバに声をかけた。「冬は寒いものよ。慣れているから大丈夫」ミツバは土方へ笑顔を向けてそう返事をした。そして土方は、またひとつため息をついた。「なんで今日はあいつ、あんななんだよ」総悟に視線を向けながら気味悪そうに話す土方。その横顔を見て、ミツバはクスッと笑った。「実は昨日ね、近所のおばさんから絵本をいただいたの。それで、それを総ちゃんが読んだのだけど…。そしたら、今まで総ちゃんに黙っていたことがバレてしまって……」「……黙ってたこと?」なにがなんだかわからないという顔の土方に、ミツバは前方にある家を指差した。「もうすぐ¨あれ¨があるでしょう?」ミツバの指の先、この田舎にしては少し大きいぐらいの家だった。道なりに建てられたその家の門のすぐ横には、深緑色の小さな木がある。その木には、赤やら黄色やら、色とりどりの飾りが装飾されていた。絵本で知ったという事情も合わせ、土方はひとつ思い当たった。「あぁ、クリスマスのことか」しかし土方はまだ、ミツバの意図が理解できずにいた。「……で?」次の言葉もといヒントを待つ土方。ミツバは少し笑い混じりに、楽しそうに続ける。「クリスマスといえば¨あの人¨、でしょう?」「……だからなんだよ、わかんねぇ」「あ、ホラ見て、このおじいさんよ!」次にミツバが指差した先、その家の木に飾られた装飾品の中でも目立つ位置に、お爺さんの飾りがあった。赤い帽子に白い髭をフサフサと生やしている。「¨サンタクロース¨っていうのよ」「ふーん……そういや名前ぐらいは聞いたことあるけど」それにしても、クリスマスはまだ約一週間先である。少し浮かれすぎじゃねぇか?と土方はその家に対して思ったが。そんな冷めたことを言っても仕方ないので黙っていた。「じゃぁね、サンタさんはどんなことする人か知ってます?」ミツバの3題目の質問。土方はまたわからなかった。行事にはあまり興味がない土方は、ぶっちゃけそんなのはどうでもいい話ではあったが。先程からミツバが楽しそうに話しているのを見ると、そんなことを言うわけにもいかなかった。「……知らねぇ。降参」「フフッ。すごいんですよ、サンタさんって」土方から前方にいる総悟の方へ、ミツバは顔を向けながら言った。「サンタさんは、クリスマスの前日…クリスマスイヴの夜に、あちこちの家をまわるんです。そして、おりこうにしている子に、その子がほしいプレゼントを持ってきてくれるんです」「……なんじゃそりゃ。タダでくれんのか?」「フフッ、そうよ」自分が小さい時はそんな気前のいい奴来なかったな……土方は思っていた。そして、そんな善良なお爺さんがこの世の中にいるのか、それはすごいことだと素直に感心していた。「ちなみにさ………そ、それって俺の年齢でも、もらえんのか?ギリギリ子供っていえねぇか?」土方からの思いも寄らなかった問い。ミツバは思わず目を見開いて驚いた。そして、また楽しそうにフフフと笑った。「な、なんだよ…」ミツバは声の音量をできる限り落として、土方に答えた。「十四郎さん、迷信なんですよ。サンタさんってほんとはいないんです」な、なんだ迷信かよ…。本気で一瞬信じてしまったことが無性に恥ずかしくなった土方は、ひょいと顔をそっぽ向けた。ミツバは、あまりにも予想外な返事が土方らしくなかったものだから。……言っても怒られるだけだと思い黙っていたが。土方にこんな可愛い一面があるのだと知れて少し嬉しかった。二人と数メートル離れて前を歩いていた総悟は、突然、さらに前方へダッと駆け出した。ミツバと土方が同時に前を向くと、その先にはすぐ道場の入口があり。そこには門下生たちを待つ近藤がいた。「……ん、ちょっと待てよ?」土方が再びミツバへ話しかけた時、向こうで総悟は近藤と挨拶をし、話をしていた。「サンタが迷信ならあいつ、あんな態度でいても意味ねぇんじゃ」「十四郎さん!声が大きいわ!」ミツバは慌てて自分の口元に人差し指をもってきた。そしてそこからは再び、小声で話した。「総ちゃんにはいつも我慢させてばかりだから……私がサンタさんの代わりにこっそりプレゼントを用意するつもりなの」「プレゼントって…お前」「お金がないこともあったし、ずっと私サンタさんのこと黙ってた。だから……総ちゃんにあまり悲しい思いをさせたくなくて」「……サンタを知ってしまった以上、なにかプレゼントをやらないわけにもいかない。……そういうことか」「……ええ」前にいる総悟が二人の方を振り返った。総悟のすぐそばにいた近藤も二人の方へ向かって大きく手を振った。ミツバは弟と近藤に向かって小さく手を振り返していた。「……けどお前、ンなもん買う金あるのか……てか、まず何をプレゼントすんだよ」ミツバは振っていた手を下ろした。そしてそのままその手を、土方の耳元に添えた。総悟や近藤には聞こえないように、小さくてかすれるような声で土方の質問への答えを告げた。優しく温かい息に土方は少し戸惑ったが、プレゼントの品名を聞くと、そんな気持ちも吹き飛ぶほど驚いた。「……は?」「お金は少しだけど貯金があるの。大丈夫」「けどお前そんな…」そんな物ポンポン買えるわけねぇだろ……と、土方が言おうとした時には、総悟が再び走って戻ってきていた。そのため仕方なく話は中断された。ミツバは総悟と同じ目線になるようにしゃがんで総悟に優しく笑いかけた。ミツバの顔が自分から離れた瞬間に感じた耳元の寒さに、土方はただただ呆然と包まれていた。*****「今年のクリスマスもまた独り身だなぁ俺たちは」稽古の合間の休憩時間、ふと隣に座っていた近藤がそうもらして小さくため息をついた。それを見て、土方は近藤に言う。「そんなもん、こんな男だらけの道場に居る時点でお察しだろ」すると近藤はいきなりスッと横を向いた。そして土方の顔をまじまじと見た。「な、……何?」「いや、お前なら無いわけでもない話だろう」「は?何が」そんな反応の土方を見て、近藤はまったまたとぼけちゃって~、とおどけて言った。土方は刀を半分構えた。「いやいや待てトシ冗談だよ!」近藤が両手を広げて訴えると、土方は刀にかけた手を元に戻した。「しかし……聞いたぞ。総悟がサンタからプレゼントを貰おうと、おとなしくしてること」「話そらしてんじゃねーよ」「そらしてないさ。総悟が欲しがってるものが何か、聞いたか?」「……まぁ、あいつの姉貴から聞いたが、」今朝の耳元に感じたものをふと思い出し、土方は無意識に片耳を手で掴んだ。近藤は土方にまっすぐ告げた。「これはチャンスだぞトシ」「は?」「お前がサンタになってやれ」「……は?」「お前がサンタになって総悟にそれをプレゼントしてやればいいんだよ。俺は直接総悟から聞いたが、その品なら材料さえありゃ、お前自分で作れただろ」「……だからってなんで。俺があんなガキのために一仕事しなきゃならねぇんだよ」「お前ほんっっっとにカバ、じゃねぇバカだなお前!」近藤は立ち上がって言った。自身の毛細血管のブチッ切れる音が聞こえた気がしたが、とりあえず土方は耳を傾けた。「お前が総悟にプレゼントをする、俺がミツバ殿にそのことを説明する、そしてミツバ殿はお前のこと」「なんだよその回りくっどいやり方!」土方もバッと立ち上がり、近藤と同じ目線になった。「おめぇが直球で行かねぇからだろ?だから俺がいろいろ間持ってやろうっつってんだよ!」「ンだよ直球って!?」「直球は直球だよまっすぐなボールのことですっ!」「意味わかんねぇよ!ますます意味わかんねぇよ!」「だぁぁぁもう焦れったい!なんでそっちのことに関してお前そんなにカバなのかなぁもう!」「カバってなんだよ!!バカとカバ間違えるような奴お前ぐらいなもんだよカーバ!」「おめぇも間違えてんじゃねーかこの野郎っ!!」「近藤さん土方さん、ケンカはやめてくだせィ」突然下から聞こえた声は、総悟のものだった。二人は取っ組み合ったままピタリと固まった。そして、純粋な目で見上げてくる総悟のことを見下ろした。「道場のみんながびっくりしてまさァ」近藤と土方が周りを見渡すと、道場にいた者全員が驚いた目をしていた。喧嘩に発展しかけていた二人に一挙に集中している。「ハ、ハハ」二人はおとなしくその場に座り込んだ。 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