Who is Santa?2 hijikata x mitsuba 2015年04月10日 Who is Santa?のつづき。楽しいことの前にはろくなことがない あれから四日ほどたった、クリスマスの二日前の日のことであった。連日、道場の稽古が終わったあと、蔵の中からカンカンと響くような音が聞こえてきていた。音は夕方から夜にかけて響いていた。稽古が終わり、汗を手拭いで吸いながら、総悟は外を歩いていた。めいっぱい動いた後に吸う外の空気は大層気持ちがいい。すると、道場に隣接する蔵の方からあまり聞かない音がする。また今日も聞こえてきた。いったいなんだろう。総悟は不思議に思い、音の正体を見に行こうと蔵へ近づいた。蔵の重い扉はきっちりと閉められていた。そして、一枚の張り紙がされていた。「立人、禁止?」手書きの文字を口にする。しばらく考えて、総悟は納得した。「……『立入禁止』か」いつもなら「立人禁止なら立入禁止ではないってことでさァ!」と蔵の中に突入する総悟であったが。いよいよ明日の夜にサンタが来る。あと二日の辛抱だ。今の総悟は音への興味よりもサンタからのプレゼントが優先だった。くるっと踵を返し、もと来た道を歩いて戻って行ったのだった。「……サンタさん、どこかで見てますかィ。貼紙に書かれてることだって、ちゃんと守ってまさァ!」総悟は誰もいない空に向かってそうつぶやいた。同じ頃。蔵の中では土方が木材と格闘していた。目の前に真剣を据えて。形を模して削ったり、ヤスリで擦ったり、また削ったりと。地道な作業を繰り返していた。土方は木刀を作っていた。その木刀は、体の小さい者でも扱いやいよう、通常よりも短めのものであった。「あーあ、最近作ってなかったから手が鈍ってやがる…」そう言ったあと手を一度ブラブラさせ、再び作業を続けた。少しずつ完成の形に近づいているが、まだもう少しだけ形を整える必要がある。土方は悪戦苦闘していた。「……そういえばあいつ、近藤さんからもらった木刀がもう折れかけてたんだっけか」だから総悟は木刀を欲しがってたのかと納得した。木刀は隣の町にまで行かなければ売っているようなものではない。また、値段としても日用の品に比べればやや高い。たしかにこの木刀は、総悟に渡すために作っているのだが。それだけではなく、ミツバへの負担軽減という別の目的もあった。土方自身、複雑な気持ちだった。回りくどい…。木刀がほしいなら直接渡せば済む話だ。なぜかサンタという虚偽の存在を介さなければならない。ミツバへの負担軽減というが、わざわざこんなことして感謝させるというのもおかしい話だ。なぜならミツバが総悟に、プレゼントする義務なんてないのだから。それでも、ミツバが総悟を喜ばせたいと願うなら。そうだ、きっと、ミツバの笑顔を見たいと思う自分もまたどこかにいるのだろう……。……いや、やめよう。土方は首を横に振った。これ以上考えんのはよそう。仕方がないので、結局土方はこう言い聞かせた。これは木刀作りの練習なんだと。誰のためでもなく、自分のためなんだと、と。土方は真剣を手に取りつつ、作りかけの木刀と照らし合わせていた。すっかり日が暮れた頃、総悟を含め門下生たちは皆とっくに帰宅していた。道場の後始末が一段落したあと、近藤は蔵へと足を運んだ。蔵の扉に貼られた張り紙を外す。そしてゆっくりと扉を開け、中の様子を見た。中では土方がバッタリ死んでいるように寝転がっていた。「おう、完成したんだな」大の字に寝転がった土方の手に、小さめの木刀が握られているのを見て近藤は感嘆した。「もう働きたかねぇ…」「お疲れさん」近藤は土方に近づき、木刀を拾いあげて見た。綺麗に整えられた形は、近藤の家にあった真剣の形を模して立派に天を指していた。「さすがはトシだな。張り紙の漢字さえ間違っていなければ完璧だったよ」「……途中で気づいたけど直すの面倒だったんだよ」人も入も似たようなもんだろ、そう言い訳する土方にガハハと笑う近藤。「ホイ、差し入れ。外で飲まんか」土方は頬に突然冷たい感覚を感じて、体を起こしその場に座った。近藤の両手には、自分の分と土方の分、二つの缶ジュースが握られていた。「ここじゃ締め切ってたから空気も悪いしな」「……そうだな」近藤に促され、土方は総悟に渡す小さな木刀を蔵の端へ、隠すように立て掛けた。そして自身の木刀と真剣の二本を腰にさすと、蔵の外へと出た。東の空はすっかり夜の紺色へ染まっていた。まだ西の空はオレンジ色を微かに漂わせる。いつの間にかそんな時間だった。道場の縁側に座りながら土方と近藤はジュースを飲んでいた。「あともう数年したら、酒になるんだろうなあこれが」近藤は空になった缶を見ながら言った。「酒にはならねぇだろジュースなんだし」「違げぇよ。俺たちが何年か先、一緒にこうして飲むのは酒なんだろうなってこと」酒を交わすときが来るのだろうか。それほどまで年を重ねた自分の姿を、まだ土方も近藤も想像できなかった。今サンタに浮かれる沖田ですら、やがて酒を飲むようになるのだろう。そして語らう日が来るのだろう。そのとき、あいつは、俺らの近くにいるだろうか。土方が考えていたときに、近藤から改まったような声で話をふられた。「好いてんだろ……本当は」目的語はなくとも、誰のことを言っているのかは土方にも伝わった。ちょうど土方が思い浮かべていた人物だった。土方は縁側から立ち上がると、面倒くさそうに言う。「またその話かよ。あんた好きだな」「一応真剣に話してるさ」「……好いてるならなんだってんだ」近藤は目を閉じ、小さく笑った。「素直に伝えなくていいのか」土方は少しだけ間をとると答えた。「伝えるもくそもねぇよ。そんな上等な男じゃねぇからな」「上等な男か。ハハ、お前らしい言い訳だな」時折感じる想いに答えてやることはできなかった。自身の中にも灯る気持ち通りに従うことなどできなかった。すでに人を血に染めてきたこの手で、綺麗な彼女の手をとることなどできようか。近藤は、冗談でもからかいでもない。なんとかしてやりたかった。端から見たって想い合っていることは見てとれる。ミツバの気持ちを尊重してやりたかった。しかし、この男は頑固で素直なやつではないこともまた知っていた。……いや、きっと今の状態が、彼なりの素直さなのだろうか。身をひき一定の距離を保つことで、彼なりの精一杯の気持ちを伝えているのだろうか。それこそ回りくどいではないか。今回の話も、近藤自身、野暮だとは思った。けれど。立派に木刀を作り上げた土方を見て、ああ、仕掛けて良かったかなと、思ったのだった。「ところで、あいつには伝えたのか?買い物せんでいいっつって」土方の問いかけに、少しだけ間を置いて近藤は答えた。「………いや、そういえば伝えてなかったな」「何やってんだ。ほっといたら出掛けちまうんじゃねぇか、あいつ」「大丈夫だ、まだクリスマスはあさってだろ。まぁ明日の朝にでも伝えれば間に合うさ」近藤はそう言って立ち上がる。いつの間にかすっかり暗くなった空を見て、そろそろ帰るか…と近藤は言う。「まだ道場片付いてねぇんだろ?手伝うよ」「悪ぃな、トシも疲れてんのに」「ここしばらく稽古も早退させてもらってたんだ。それでチャラにしてくれ」近藤は土方の肩を叩いて、感謝を伝えた。帰り路につく頃には辺りは暗く静んでいた。日付があと数時間で変わるという時間帯だ。しかし、道の途中にあるところどころの家には、ささやかながら明るいイルミネーションが灯り、土方の目にちらついた。数日前の朝に、ミツバとの問答のやりとりを思い出す。「……サンタか」いったいどこからそんな話が生まれたのだろう。小さい子供がいる家へ、無駄に負担をかけるだけの迷信じゃないか。サンタってやつは、むしろ嫌なやつなのかもしれないなと土方は考えていた。すぐそこの角を曲がれば沖田家がある。土方はただ何も気にせずに通り過ぎようとした。しかし、角を曲がると、家の外でキョロキョロしている総悟に出会った。「……おい、何してんだ」面倒だが無視して通り過ぎる訳にもいかず、総悟に声をかけると、総悟は駆け寄ってきた。「土方さん!!」さん付けで呼ばれることにまだ違和感を覚える土方だったが、次の総悟の言葉でそんなことはもはや気にならなくなってしまった。「姉上を見掛けなかったですかィ!?」「……家に居ねぇのか!?」総悟の慌てる様子に、とりあえず落ち着けと土方は促した。総悟は今にも泣きそうな声で続けた。「夕方道場から帰った時から居ないんでさァ……。買い物にでも出かけてんのかと思ってずっと待ってるのに…帰って来ねぇんです…」そこで沖田はついに泣き出してしまった。両手で顔を隠し、ヒックヒックと不規則に息を吸っていた。「泣いてる場合じゃねぇだろ!」土方は強い口調でそう言った。その時、ふとさっき近藤と話していたことを思い出した。「まさかあいつ…」弟へのプレゼントを買いに行ったんじゃないか。明日の夜がクリスマスイブ。早めに買いに行こうと出かけたとも十分に考えられる。そして、こんな時間にまで帰って来ないということは、何かあったのかもしれない。そう土方は考え、ちっと舌打ちした。「……姉貴の行き先、お前は何も聞いてないんだな!?」しゃがんで総悟と正面から向き合い、土方は言った。「……なにも、どこかに出かけるとも聞いてねぇです」内緒で買いに行くというのに、弟に行き先を言うわけがない。土方の予想はやや確信に変わった。「……いいか総悟、お前は近藤さんのところへ行ってこのことを伝えろ。それから、できるだけ道場のメンツにも協力するように頼んで来い」沖田は涙をグッと拭って、黙ったままうなずいた。「よし、」土方はスッと立ち上がって、踵を返し向こうへ走ろうとした。その時、「……待ってください」突然総悟がそうつぶやいたので、土方は止まって振り返った。「……あんたは、どこに行く気なんでィ?」泣き腫らした目をしつつも、さっきまで泣いていたとは思えないような、冷淡な口調に、土方はピンとはりつめる思いがした。「……決まってんだろ、お前の姉貴探しに走ってくる」土方は偽りなく答えた。総悟はそれを聞き、ギュッと拳を握った。「……俺も、探しに行きます」うつむいて、小さな声で総悟は言った。「てめぇには無理だ。まだガキなんだから」「いつまでもガキ扱いすんじゃねぇよ!」突然大声をあげた総悟。土方は少し驚いたが、表には出さなかった。「……俺の姉上なんだ。俺が探しに行って、助ける。あんたには行かせない」「は?何抜かして」「あんたと姉上を……二人だけにさせないっつってんだっ!」総悟は土方の言葉を待たずにきっぱりそう言った。その目は普段の幼い表情とは異なり酷く冷たい目であった。土方は総悟に近づき、その顔を見下ろしながら言った。「今はンなこと言ってる場合じゃねぇだろ。だからてめぇはガキだってんだ」「土方さん、あんたが近藤さんを呼びに行けばいい話です。俺が姉上を見つけに行く」総悟の腰には道場でいつも使っている傷だらけの木刀がささっている。それに総悟は片手をかけ、意志を示した。土方はそんな総悟を見て言った。「お前が見つけたところで、お前は姉貴を連れ帰れるのか?背負って帰れるのか?」その土方の言葉を聞き、総悟は目を見開いた。「……あいつはあの体だ。どっかの道でぶっ倒れてることも十分考えられる。それをお前は引っ張って帰れるのかっつってんだ!」土方の強い口調に総悟は再び俯いて黙った。「クソつまんねぇこと抜かしてねぇで。てめぇが今できることをやれ」土方はうつむく総悟にそう言った。返事はなかったが、土方はすぐに振り返り走って、暗い夜の中へと消えて行った。「……くそっ」土方が去ったあと、総悟は舌打ちした。総悟自身、今はそんなことを言ってる場合でないことはわかっている。それでも、耐えられないような気持ちだった。土方を見る時のミツバの姿。逆にミツバのことを突き放しつつも気にかけている土方の姿。その二人の様子が総悟の目にははっきりと映し出されていた。お互いがお互いを思っているのにお互いその気持ちを表に出さない。総悟にはそれがまた腹立たしくもある。「気に食わねぇ。クソ土方……」そう言って総悟は走り出した。気持ちを押し殺し、ムリヤリ切り替えた。その足の向かう先は近藤の家だった。 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