Who is Santa?3 hijikata x mitsuba 2015年04月10日 Who is Santa?2のつづき。最近の機械とかは大人より子供の方が強い 時刻は午前零時を回った。クリスマスイブである。武州にはちょうど、この冬初の雪がちらつき始めた。土方は道をひたすらに走った。薄く雪が積もり始めており、通ったあとには茶色の足跡が残されていく。「姉弟そろってバカか、あいつらは」土方が小さく漏らした声は白い息になって後ろへ流れて行った。こんな時間になっても帰って来ない。遅くても総悟が道場から帰った夕方以降の外出。だとすれば四半日かそれ以上は経過している。隣町へは少し歩かなければならないが、町からのバスを使えば移動にそれほど時間はかからない。……いや、そもそも。こんな時間じゃもうバスすら走っていないはずではないか。ミツバの体調を考えれば、長時間の外出は危険だった。そんなこと、ミツバが自らの意思でするはずがない。何かあったに違いない。武州には、クリスマスだなんだ、そんな行事もお構いなくうろつくチンピラはいくらでもいる。それに田舎なので、道を外せば電灯一つない真っ暗な道も続いている。「……チッ」顔にかかる雪の粒を払いのけ、土方はただただ走った。時間がない。ミツバが通るはずの道のどこかで出会えると信じ、土方はまっすぐ走り続けた。「よし、俺たちはこれをしばし借りることにしよう」「借りるって近藤さん、それじゃ泥棒になるんじゃ……」近藤と総悟は小さなトラックの前で話していた。とある民家の前にとめられていた白い小型トラック、おそらく農業で作物などを運ぶためのものだろう。運転席のドアに鍵はかけられていない。「ンなこと言ってる場合じゃねぇぞ総悟!ミツバ殿が帰らないなんて一大事じゃねぇか」「でも……近藤さん、それ他人のトラックでさァ」「いいんだよ、武州のみんなは友達なのっ!」そう言いながら近藤はトラックの運転席にズカズカと乗り込んだ。仕方がないので総悟も隣へ渋々乗った。「道場の皆にもミツバ殿を探すようにとりあえず頼んできたからな、安心しろ総悟」「……うん」うつむく総悟の頭を、近藤はわしゃわしゃと撫でる。総悟は心配だった。姉のことはもちろんだ。そして、これからのことについても、心配だった。「……近藤さん」「どうした総悟」「これの運転の仕方わかるんですかィ」「………、まあ、なんとかなるさ」テキトウに返事を返した後、あ、これかなと近藤は手元にあったレバーを勢いよく引いた。すると、トラックは突然前輪を高く上げ、続けざまにものすごい勢いで前進し始めた。「わわわちょっとぉぉぉぉ!!」「だから言ったのに」慌てふためく近藤と意外に冷静な総悟を乗せ、トラックは半ば暴走しながら武州を走り回った。「……寒くなってきちゃった」ミツバは一人、道をゆっくりと歩いていた。田舎の道は真っ暗で、月や星の光以外当てにできるものがなにもない。ただ、足元の雪はほんのりとミツバの道を照らしてくれる。それだけを頼りに、ミツバは隣の町と武州の村とを繋ぐ道を、まっすぐに歩いていた。一歩ずつ慎重に歩く。ミツバのその手には木刀の入った細長い袋があった。それを大事そうに両手で抱いている。「ちゃんと、届けなくちゃね」ミツバはそうつぶやいた。そのときだ。ふと、鼻の先に冷たい感覚を感じ、思わず立ち止まった。「……雪?」一つ、二つと降り始めた雪の粒。上着も羽織らず、着物一枚の姿で立ち尽くすミツバが、不安を感じ始めたのはこのときだった。総悟へのプレゼントとして、隣町の店で子供用の木刀を購入したミツバ。だが、木刀は想定より少し値段が高かった。ミツバが持って行った金銭に加え、帰りのバス代分をはたいても、まだほんの少し足りない。すると、店員はミツバが羽織っている上着を指し、「それを代わりに質入れすれば足しにできる」と言った。ミツバはためらいなくその上着を質に入れた。こうしてようやく木刀を買うことができたのだった。行きはバスで来たはずの道を、記憶に頼りながらミツバは歩いていた。今のこんな時間に道を歩くことは初めてであった。歩けないことはない、明るいうちに帰れば総悟の帰宅時間に十分間に合うはずだった。しかし、慣れない道を外し続け、ようやく来たことのある道へたどり着いたところであった。あとはただただまっすぐ行けばいい。こんな時間まで家にいないこと、きっと弟が不安で泣き出している。早く、早く帰らないと……。心ははやるのに、体はうまく前に進まなかった。走り出したいのに、肺を気づかえば走ることすらできない。その上、慣れない道を歩き続けたせいか、足にジリジリするような感覚が響く。さらに、羽織りがないため全身の熱が空気中へ奪われていく感覚さえする。冷たさがやがて痛みに変わり、ゆっくり一歩ずつ歩くことしかできない。いや、むしろ。肺を患うミツバがここまで何事もなく来れたのが不思議なくらいであった。……突然、ミツバは歩みをやめた。自分の体の中で、突如なにかが暴れ出すような感覚。ミツバの頭の中を、嫌な予感が徐々に包んでいく。「……こんなところで、私…」ミツバは自分自身の体へ向けてそうつぶやいた。しかし、次第に大きくなっていく痛みについに耐えられなくなってしまった。ゲホッ…ゲホッと、空咳が沸き起こる。「うっ……」立っていることに辛さを感じ、ミツバはゆっくりその場に座り込んだ。膝をつき、そこから地面の雪が染み込み濡れる。そして気化熱を奪われていく。ミツバは自分の体を、ギュッと木刀ごと抱きしめた。呼吸が段々荒くなっていくのがわかる。白い息が途切れ途切れに宙を切る。体は寒いのに、胸の辺りだけは異常に熱く、呼吸もままならなってきた。ミツバは薄くなっていく意識の中、……ゆっくり近づく足音が聞こえてきた。「おや?こんな夜道にどーしたんだいお嬢さん?」「道にでも迷ったか?」朦朧とする意識の中、声のする方に顔をあげる。視界ははっきりしないが、二人組のガタイのいい男らが、ミツバの前に仁王立ちしていた。「仕方ねぇ、送ってやるよ、俺らが」「ひとまず俺らのうちにでも来いよ」そう言って男の一人が、ミツバの手を握る。そして、苦しさにうずくまるミツバを無理やり立たせると、そのまま全身を抱きすくめた。「いい体してるねぇ、あんた」よだれが出そうだと言わんばかりに、浮かれた声を発する男。ミツバは抵抗できなかった。腕をあげて押し返すことすらできない。強ばった体と肺の痛みとで、どうにかなってしまいそうだった。こんなところで何されるのか、そんな恐怖よりも、情けなさを感じていた。誰も助けを呼べない夜の小道で、身の危機に瀕している。自分の弟へのプレゼントひとつままならない。生まれたときからの総悟を知ってる。道場にいる誰よりも知っている。なのに……何もできない。誰よりも、何もできない。手を握る力が入らなくなったきた。手に持っていた木刀が、するりと落ち、地面の固い石にぶつかった。カランカランと乾いた音がした。「なんだ、この女」「女のくせに木刀持ってんのか?」嘲笑が雪景色の中響く。男の一人が、それを取り上げた。目の端でその動きをとらえたミツバは、ハッとしてかすれた声をあげた。「……返、して」それは、総ちゃんのなの…。乞うような目で、ほとんど力が入らなかった手を、男へ向け弱く伸ばした。木刀を取り返そうとするミツバ。その手を、ゴツゴツした野蛮な手が叩き落とした。白い肌が弾かれ、赤く滲む。「木刀がほしいのか。なら、俺らのをくれてやろーか。なぁ?」楽しむように、自身の着物の下部に手を伸ばす男。ミツバがギリギリ保っていた意識を、手放す寸前であった。ミツバの目の前が真っ赤に染まった。ミツバの意識は再び引き寄せられる。自分の体を手荒く抱いていた男が、力を抜き、そのまま倒れ込んできた。飛び散った赤い飛沫は、ミツバの白い肌にもポタポタと降り注ぐ。男の一人は命を落とした。生気の無くなった腕は、ミツバを解放し、ミツバは地面へ落下。叩きつけられる直前、誰かの腕に抱きとめられた。そして、雪の上の柔らかい地面に寝かされた。「お、お前は…?!」隣から聞こえたもう一人の男の声は、次の瞬間悲鳴に変わり消え果てた。目の前の地面に飛散した赤い大量の血。雪に染まり、より鮮やかな色で目に写る。ミツバはこんな光景など、かつて見たことがなかった。鉄のような血の臭い。流れ続ける赤。倒れている人間の体の一部は胴体に繋がっていない。ショックで意識を手放してもおかしくはない光景。それでもミツバの意識は、辛うじて繋がれ続けていた。怖くなどなかった。真剣を手に立ち尽くす、長髪の男を、ミツバは知っていたからだ。「………と、…」その人の名前が言いたいのにそれを口にする力さえ残っていない。次第に失っていく意識。ミツバの体は雪の冷たさと同化していきそうだった。もしかしたら、ここで、死んでしまうのでは。そんな思いすらよぎった。呼吸することすら、苦しい…。その刹那、体が地面から宙に浮いた。ミツバは、再び抱き締められたのだ。長い髪の先が頬をかすめたのを感じる。「……冷てぇ」温かな腕、頬の持ち主から、そんな言葉が漏れたのを最後に、ミツバは意識を手放した。土方はミツバの体を抱きかかえたまま、しばらく動かなかった。頬と頬を触れ合わせる。人間の体で温度の比較的高いはずのそこが、地面の雪をそのまま吸いとったかのように冷えきっていて戸惑った。暴漢二人はすでに死んでいた。先刻の土方の剣に、迷いはなかった。木刀や素手で叩きのめすだけにとどめるほど、土方の感情に余裕はなかった。それほどに、困惑していた。「……ミツバ、しっかりしろ」名前を呼びかけても返事はない。暗い夜道だが、雪が月光を反射しやや明るい。うっすらとしかわからないミツバの表情は、そこから生きているのか死んでいるのか判断できないほど、目を閉じ微動だにしなかった。土方は頬と頬を近づけるように、もう一度強く抱き締めた。背中に両腕をまわし、体を引き寄せる。ミツバの上半身、着物はそれ自体薄く、しかも雪で濡れていた。体温を少しでも分け与えてやりたい、と。ただただ何も言わずに抱き締めた。ここまで走ってきた自身の鼓動が早いせいで、ミツバの脈動が確認できない。気持ちを鎮めるため、土方は目を閉じた。探して走っている時は、正直ミツバに腹が立っていた。ガキ一人置いて、夜中までほっつき歩くやつがあるか!と、一喝することしか考えていなかった。だが、暴漢に抱かれたミツバを目の前にしたとき、そんな些細な苛立ちは吹き飛んでしまったのだ。そうだ……あのときと同じだった。気づけば辺りが血の海になった。汚れていないミツバの目の前で、残酷な光景を見せてしまった。ミツバはまだ動かない。土方は胸が潰されるような思いがした。結局また、何一つ守ることができないのか、と。また繰り返してしまうのか。また……「……あったかい」土方の耳に、ミツバの小さな声が聞こえた。聞きなれた、優しい声だ。驚いて体を離し、ミツバの表情を確認した。ほとんど伏せられた目から、かすかに瞳が覗いていた。土方はミツバの白い頬や額に、赤色の血が飛び散っていることに気づく。一瞬驚いたが、それが返り血だと気づくと土方は安堵した。そして、その血を着物の裾で拭ってやった。力のあまり入らない腕をゆっくりと持ち上げて、ミツバは何かすがるように、土方の胸元の着物を掴んだ。そしてミツバは、はらはらと涙を流した。「……こわかったか」土方の問いかけに、ミツバはほんの少しだけ、首を縦にふる動作をした。「悪かったな」ミツバは首を小さく横に振った。「あれは…トシとミツバ殿じゃねぇか?おーいトシぃぃ!!」遠くから叫び声と、エンジンの音が聞こえてきた。だんだんとそれは近づく。土方はミツバを抱いて座り込んだままそちらの方角へ顔を向けた。「姉上ーっ!!」総悟の大きな叫び声と共に土方の目の前に現れたのは一台の小型トラック。ライトの光を手で塞ぎ、土方が運転席を見れば、そこにはハンドルを握る総悟と、その横に座る近藤の姿があった。土方は立ち上がってトラックに乗っている二人を見上げた。トラックは土方の目の前で器用に停車した。そして近藤は降りてきた。「……いや、総悟は運転の才能あるな」「ンなことよりこいつを早く。こっから一番近くの病院に」「あぁそうだ」近藤はミツバの様子を確認する。力なく笑いかけた表情を見て、安堵できた。「武州周辺の地形はお前詳しかったよな。このトラックじゃ三人までしか乗れねぇんだ。お前とミツバ殿は中に乗れ。俺は道場のやつらに見つかったことを伝えに戻る」「平気か」「なーに、ちゃんと懐中電灯だって持ってるさ」近藤はささっと、土方に乗るように促した。土方はまた眠ってしまったミツバの体を丁寧に抱き上げた。そして扉からトラックの中へ乗せた。続けて土方もその隣に乗り込む。ドアをバタンと閉めた。「総悟、トシとミツバ殿を頼んだぞ」「任せてくだせぇ」総悟はそう言って、ちらりと土方の顔を横目で見た。土方は視線に気づき、総悟を見下ろした。「……土方さん」総悟は手際よくボタンやレバーを操作し、発車の準備をする。そして「姉上の容態、ちゃんと見といてくださいよ」そう言って片足で思いっきりアクセルを踏んだ。トラックは勢いよくかつ正確に前進した。「はぁ……俺はどうも車の運転とかそういうのには向いてないらしいな」近藤はそうつぶやいた。つと、辺りを改めて見渡した。男二人が血を流して倒れていた。土方とミツバがいた周囲は、血が散乱していた。そして、気づく。一本の真新しい木刀が、地面に転がっていることに。「……忘れもんだ、ミツバ殿」近藤はそれを拾う。そして、ミツバが見つかったことを仲間に知らせようと、トラックの走って行った方とは逆方向へと走り出した。 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