勘違い kaneki x touka 2015年02月20日 ※アオギリ編前の頃あんたはいつまで勘違いしてんだよ。 「トーカちゃんってば不思議」「は?何が」依子はお弁当を食べながら唐突に言った。あんパンと依子にもらった唐揚げひとつを既に食べ終えコーヒーを口にしていたトーカは、依子の言わんとするところが掴めずにいる。「だって、こないだは100mまさかの12秒で走ってたのに。 今日の選抜で14秒台なんて。もったいないなぁ…」「あー…あれね」その日の午前中、体育大会のクラス選抜者を決めるための100m走が行われた。各クラス速い者順で選抜され、クラス対抗戦に挑むことになる。「トーカちゃん絶対手ぇ抜いてたでしょ?」「抜いてないって。あれが実力」そーかなぁと依子はまだ怪しんでいる。トーカは空中で止まっていた箸を早く口に入れなよと依子を促した。もちろん、トーカは手を抜いている。トーカが本気で走ればいとも簡単に人間の世界記録を抜いてしまうが、それはさすがにまずい。ただ、100m走でタイムを同じように弾き出し続けるよう調整することは逆に難しい。トーカのタイムを折れ線グラフに記録すれば、見事にガタガタになるだろう。「…で、何が不思議なわけ?ちょっとタイムが遅かっただけじゃん」おかずを飲み込むと依子はだって…と続ける。「なんてゆうか、トーカちゃんいつもクラスで目立たないよーにばっかしててさ。もったいないなと思って!トーカちゃんせっかくかわいいしかっこいいし、スポーツもできるし。もっとクラスで目立ってもいいと思うのよね。……まぁ、勉強はともかく」「おい。次から遅刻してもノート貸したげないよ」ごめんごめん!と謝る依子。依子の言う通り、トーカはできる限りクラスで目立ってしまうことのないように努めている。委員やら部活やらには入らないし。クラスで何かをするときも、授業中も、普通の生徒であろうとする。それはもちろん、喰種であることがバレないようにするための予防線。それに、そもそも目立ちたいと思う性格でもない。もっとも、クールで綺麗に整った容姿だけは隠しきれないものがある。「あの……霧島さん」二人がごはんを食べている席にやってきたのはクラスメイトの男子だった。クラスの中で容姿は一二を争うほど端麗。しかしトーカはほとんど話したことなどなかった。「何?」「当番の仕事のことでちょっと話したいことがあって。ごはん食べたあといいかな」「あぁ、別にいいけど」ありがとうと言い、クラスメイトは去っていった。「当番って、掃除の?」「あぁ。明日たしか私とあいつだったから」「行ってきなよ。私はいいから」「ごめんね、まだごはん食べてるのに」「いいっていいって」トーカは席を立って廊下へ向かった。「……もしかして。これはひょっとして」依子はその日珍しく冴えていた。彼女の感は的中していた。「霧島さん。僕と付き合ってください」「……は?」トーカは耳を疑う。こいつは何を考えているんだ。そもそも二人で面と向かって話すことすら初めてじゃないか。あまり人の通らない階段の踊り場で、突然の告白を受けてしまった。「あ、あんまり話したこともないのに何言ってんだって思われるかもしれないけど。 ずっと霧島さんのことが気になって…それで……」「却下」「え!!」トーカは即答した。そして内心思う。クソめんどくさい。「だ、だって、霧島さん、彼氏いないんでしょ?」「いなかったら何?」一瞬、「彼氏」という言葉にふとよぎった顔があった。いつかの依子のせいだ。瞬時にその顔を頭からかき消した。「じゃ、じゃぁ別に僕と付き合ったって……」「悪いけど私そうゆうのいいから。じゃ」「あ、あの…!」「あ?まだなにか?」さっさと立ち去ろうとするトーカを呼び止めるクラスメイト。ポケットからそそくさと取り出したのは、何やら流行りのものがじゃらじゃらと付いたスマホだった。「せめて、友達になれないかな?」友達くらいならどーぞ、なんて、言うとでも思ったのか。「ごめん、友達も要らないし」「え!?クラスメイトなのに……?友達くらい簡単になれるでしょ?」「……あのさぁ」クラスメイトだから、なんだと言うのだろう。クラスメイトなら、喰種のことでも理解してくれるというのだろうか。もっとも、唯一無二の友達である依子も、トーカが喰種であることを知らない。それでも、身勝手でいる自分を笑顔で受け止めてくれる依子にはいつも感謝してるし、大好きだと言える。食事でお腹が痛くなっても、嘘ばかりつき続けても、それでも友達でいたいと思える子。…何が、「簡単」なのだろうか。間接的に依子のことを馬鹿にされた気がして、堪らなくなった。「……やっぱいい。じゃ、私戻るわ」トーカは軽くキレそうになったが辛うじて抑え、黙ったままその場を立ち去った。いつかあいつが言ってくれた言葉。僕でよければ、何か話してね。あんまり力にはなれないかもしれないけど、依子ちゃんに話せない愚痴とかなら、いくらでも聞くから……放課後、トイレに行った依子を待っている間、なんとなくその言葉を思い出していた。なぜだか心がきゅっと締まるような感覚がする。トーカはこれまであんていくには随分世話になってきた。時には笑って。冗談も言う。学校であったことも話を聞いてもらう。けれど、心のどこかに抱え続けている悩みや不安は口にできない。変な心配をかけてはいけない。一人になってしまったヒナミのこともある。だからせめて自分はしっかりしていなければ、と。そんなときかけられたあの言葉は、どれだけ安心できただろう。本人には言わなかったが。彼は、「友達」とは、少し違う。「トトトーカちゃん!」「何よ依子」駆け寄ってきた依子。空はどんよりと曇っていた。今にも降りだしそうな空模様の下、下駄箱で靴を履きかえながら、依子はトーカの肩をしっかり掴んで離さない。依子は片手を口の横に添えて、こっそりと話すような仕草のまま言った。「が、学年中で噂になってるよ!」「何が」「トーカちゃんがあいつをフったこと!」「げ…まじか」思わずチッと舌打ちをした。昼休みから放課後までのたった数時間でなぜ話が出回るのか。あれ以上相手にしなくて良かったとトーカはつくづく思った。学校では極力目立ちたくないのに…。これじゃしばらくは後ろ指でも指されてしまうだろう。「言いふらすなんて嫌なやつだよね。てゆうか、トーカちゃんには彼氏いるんだし、潔く諦めたらいいのにね!」「え、彼氏はいないけど」「まーたまたトーカちゃんったら!」急に声が大きくなって依子はトーカの肩をパンと叩いた。楽しそうな依子を見て嫌な予感がする。「えっとたしか、カネキさんだっけ?」「だーかーら、あいつは彼氏じゃねぇって!」やっぱりだ。依子はあの日からたびたびカネキのことをネタにイジってくる。他のやつだったらぶっ飛ばしたくなるところであるが、依子にはそれができない。歯痒い。「でもトーカちゃんのお部屋にいたし…」「あれはたまたまだって!ただのバイト仲間だよ」「でもでも、それなりに彼氏っぽい人がいるんだから、もう相手いるから…ってあいつに言えば良かったんじゃない?」「ぽい人って…。あんたねぇ…」その時突然、薄暗い空がピカッと光った。「キャッ」依子は思わずトーカに飛びつくと、すぐに遠くからゴロゴロゴロと音が響いていた。「嘘、カミナリ?」「最悪…」二人は急いで靴を履き替えて表へ出た。降るか降らないかという先程までの空とはうってかわって、大雨の天気となっていた。「うわー…やっぱり。今日はとりあえず傘は持ってきといてよかったよ。トーカちゃん傘は?」「持ってきてないけど。バイトもあるし……テキトーに走ってくわ」「待って待ってトーカちゃん!私折り畳みもあるから良かったら使っ」「トーカちゃーん!!」突然声のした方を二人が向くと、黒い傘をさした青年が二人に向かって走ってきた。あんていくの制服にエプロンだけ着ていない状態。眼帯。黒く極々ありふれた髪型。噂をすればなんとやら…。「良かったちょうど。イリミさんに頼まれて、買い物の帰りにトーカちゃんつかまえてって言われたんだ。こんなに降ってるのに傘忘れてたからって…」カネキの手にはもう一本のビニール傘。ふと、真横で頬を赤く染めている女子高生を見た。「えっと、あ、どうも…」カネキはそこでやらかした、と気づく。どうやら、以前トーカの部屋にいたときと同じ失敗をしてしまったらしい。しかし時既に遅し。依子は慌てて手に持っていた折り畳み傘を後ろへ隠した。「あ、ごっめーんトーカちゃん!傘ひとつしか私持ってなくて!へへ!じゃ。じゃぁ私はこれで!またねトーカちゃん!」「お。おい、ちょっと!!」足早に去っていく友人の後ろ姿を見送ったトーカ。「えっと、ごめん……なんかまずかったかな……ってあれ? なんかデジャブだね。ハハ、ハ…」指で頬をぽりぽりと掻きながらおそるおそるトーカの方を見ると。「……最っ悪」うつむいて呟くトーカにカネキは思わず後退りした。 [0回]PR