勘違い3 kaneki x touka 2015年02月20日 ※勘違い2のつづきあたしは、あんたのこと…。 「お兄ちゃんお姉ちゃんおかえり!」あんていくの店内に入ると、ふわふわのタオルの束を持ってヒナミがパタパタと走ってきた。ヒナミは笑顔で迎えたが、トーカの表情が暗いことにふと気づき困ったような顔になった。「お姉ちゃん…大丈夫?どうしたの?」「ん?いいや、何にもないよ」ありがとうと言い、ヒナミからタオルを受け取るとトーカは体やカバンの水分をパンパンと払った。「お姉ちゃんたち、靴下とか濡れちゃったよね。ヒナミ新しいやつ探してくるね!」そう言ってヒナミは、パタパタと店の奥に消えていった。「ヒナミちゃんえらいわね」「あぁ。完全に新婚のお嫁さんって感じだな」「あら、新婚限定?」「世の中そんなもんだよ」カウンターで食器を片付けながらイリミとコマは呑気に話した。開店時間ではあるが、今は雨宿りの客すら一人もいない。こんな雨の中だから仕方がないか…と今日の売上げはもう半ば諦めていた二人だった。「すみません、すぐ着替えてきます」「慌てなくていいわよ。今日すごく暇だから」「そうそう!」トーカは一礼すると、ヒナミの後を追って店の奥へと消えていった。「カネキくんご苦労様、雨すごくて大変だったでしょう?」「あ、いえいえ」「ところでさカネキくん、トーカちゃんと喧嘩でもした?」「え?」「ハハ、見てたらわかるさー。なにしろトーカちゃんは分かりやすいからなぁ」「あ、あのう…えっと……」「コマくん、奥のキッチンの掃除よろしく」「え、今から?」「文句ある?」「いえいえ。りょーかいっ」コマは手を振って素直に奥の部屋へと消えた。「ごめんねカネキくん。コマくんデリカシーなくて」「あ、いえ……特に何も」その頃、トーカの部屋ではヒナミがタンスの引き出しを開けて探し物をしていた。「あ、あった!お姉ちゃん!」既に店の制服に着替えていたトーカはヒナミの声に振り返る。これかな?とヒナミは両手で、綺麗に洗濯され畳まれていたシャツを持ってトーカの前に掲げた。「うん、それ」「これお兄ちゃんに貸してあげて大丈夫?お姉ちゃんは?」「私はこっちがあるから大丈夫。ありがとね」「え……いいの?」「うん!お姉ちゃんがこれ使ってって!」あんていくの店の奥にある応接間。そこで暖房にしばらく当たって多少なりとも衣服を乾かそうとさせていたカネキに、ヒナミはトーカから預かってきた、バイト用の制服のシャツを渡した。「ありがとう。なかなか乾かないからすごく助かるよ」「うん。お礼はお姉ちゃんに言ってね」「あ…う、うん……」煮えきれないような返事をしたカネキに、ヒナミは疑問符を浮かべる。「あ、そういえば……トーカちゃんは?」カネキは着替えながらヒナミに尋ねた。カネキの未だ筋肉のついていない細い上半身が露になる。ヒナミ自身なぜなのかわからないが、なんとなく、ほんとになんとなく恥ずかしさを覚えて、やや下に目線をそらしながらヒナミは答える。「も、もうお店で働いてるよ」え、やばい!とカネキは慌てて制服を着替えると、ヒナミにもう一度礼を言って店の方へ早足で向かっていった。部屋に残されたヒナミは、お互い直接話そうとしない二人を見てなんとなく勘づいていた。「……ケンカでもしたのかな」店の入り口が開き、カランカランと鐘の音色が響いた。「こんちわー」「こんちわーじゃねぇよクソニシキ!」トーカの勤務開始の約30分後、予定よりも30分遅れて出勤してきたニシキをトーカは一喝した。ニシキは悪びれる様子もなくいつも通りの涼しい顔をしている。「いやー悪ぃ。けどこんな天気だし、どーせ今日は店も暇かなぁと思ってさ」「わかってんのかクソニシキ。今日の遅刻でお前3回目だから」「やべ、四方さんの代役……」「西尾先輩…」あまりにも遅刻が多いニシキにはペナルティが用意されていた。四方の代役、つまり、夜中から明け方にかけての「食糧」集めである。これは店長が決めたことなので、従うしかない。「頼むクソトーカ!今日のは無かったことに!!」「てめぇクソ呼ばわりしながら聞いてもらえるとでも思ってんのかこのクソニシキが」「んだとこらクソクソトーカが!!」「立場わきまえろクソクソクソニシキ!!」「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて……」二人の間にカネキが止めに入ろうとしたところ、トーカはカネキを一瞥したあと、何も言わずにぷいと踵を返してカウンターへ戻ってしまった。「うわー嫌われてんな…。俺もお前も」「え!僕も、ですか」先程の会話のことでだろうか。いつもに増して素っ気ないトーカの態度が、カネキは気になっていた。「あいつって意外と乙女だよな」ニシキが来てから数時間後。トーカは休憩にあがっており、店内にはニシキとカネキしかいない。店長は店にはおらず、カネキが戻ってきたときにいたイリミとコマも既にあがっていた。ニシキは客席のテーブルに腰をかけながらカネキに言ったその言葉は唐突で、カネキは驚いた。しかし、カネキは振り返るとまずは言いたいことがあった。「先輩…そこさっききれいに拭いたとこなのに……」「細けぇこと気にすんな」全く反省していないニシキに半ば呆れるカネキ。トーカの出勤後、相変わらず客は一人も来ず、外の天気も荒れっぱなしであった。「あいつって、トーカちゃんですか?」「そ。まぁ口はクソ悪いけどな」「先輩、僕トーカちゃんにまずいことを言ってしまったんでしょうか」つい数分前、ニシキに今日のトーカとのやりとりのことを話したところであった。もちろんトーカにバレれば殺されるので、内密に。「そりゃな…まぁ」頭を掻きながら答えるニシキ。たぶん、カネキが勘違いしているのだろう。そしてそれにトーカはイライラしているのだろう。なんとなくトーカの気持ちを悟ったニシキだったが、それをカネキに伝えることはまたクソめんどくさいことになりそうだと思った。「お前が自分で気づくまで教えてあげない」「そんな…ていうか自分で気づいたら教える意味ないじゃないですか」「要するにまぁ。いいんじゃね」「いいとは?」「ほっときゃそのうち戻るだろ」そんな無責任な…とカネキが言いかけたが、あ、休憩入りまーすと、ニシキは手を振って店の奥へと入って行ってしまった。「……はぁ」時計を見るとちょうど6時5分前。今日のカネキのシフトはあと二時間ほど残っていた。テーブルの上には、ニシキが拭きかけてやめたあとの布巾だけが残されていた。夜。あんていくも閉店し、トーカはヒナミと自室のリビングにいた。「お姉ちゃん、今日はお兄ちゃんとケンカしたの?」「え?突然どうしたんだよ」トーカは夜、自分の宿題をこなしつつヒナミの読書にも付き合っていたとき、ヒナミからそう切り出された。「この漢字、”けんか”って読むんだよね?」「うん。まぁそうだけど」ヒナミは本の中に出てくる「喧嘩」の単語を指しながらそう言った。「仲直り、しないの…?」「いや、別に。けんかっていうほどけんかしてないよ。……私が一方的にイライラしてるだけだから」俯くトーカにヒナミはますます気になった。トーカは普段カネキに対して何かときつい口調で話すけれど、突然半喰種になってしまったカネキのことを何かと気にかけていることもまた知っている。あんまり喧嘩が長続きしてほしくないな、と思う。一方、トーカもヒナミの鋭い観察力に薄々気づいている。きっとカネキが毎日字を教えていることもあるのだろう。そのうちトーカよりも文系科目には強くなるだろう。そう考えると、あまりヒナミと長居することに躊躇した。そこで、先に寝るね、とトーカは奥の寝室へ行こうと立ち上がった。「おやすみ」そのまま行こうとしたが、部屋の扉に手をかけて一度止まった。トーカ自身、複雑な気持ちでよくわからないが、一瞬だけ。鋭いヒナミに聞いてみようかという考えがよぎっていたからだ。「ヒナミ…」「なーに?」「あいつのことなんだけど…」しかし、思い止まった。「……ううん、やっぱいいや」そう言い残して部屋に入っていこうとするトーカの腕に、ヒナミは抱きついた。「言って!お姉ちゃん!ヒナミ、ちゃんと聞くよ?」そうやって見上げられる目を見て、トーカはフッと笑ってしまう。そして観念した。「…あいつ、カネキのこと、ヒナミはどう思う?」「どう……って?」「あいつって、私の…”友達”って、言ってもいいもんかな?」トーカは複雑な思いだった。友達だよ!とヒナミが言ってくれるなら、それでいい。それだけで嬉しい。たぶん、友達じゃないなんて言わないだろうことはトーカもわかってきいている。友達じゃないとしたら…なんて、それ以上のことを考えてしまいそうになる自分を、ヒナミの言葉で戒めてほしい。そんな思いだった。「友達じゃないよ!」きっぱりと、すぐに返ってきたその返事に、え?とトーカは目を見開いて驚いた。ドクッと高鳴った胸の音。どうして、ヒナミ?「友達じゃなくて家族だよ!」「…家族?」その言葉に戸惑う。考えていなかった。でも、否定するような言葉でも無かった。「ヒナミはね、お母さんもお父さんもいなくなったけど……今こうやって、楽しく過ごせるのは、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちがいてくれるおかげだよ。二人とも、ヒナミの大事な家族だよ!」「そっか……ありがとね、ヒナミ」そう言ってヒナミのことを頭ごとぎゅっと抱きしめた。ヒナミの言葉に今日一日のわだかまりがゆるゆるとほどけたような気がした。なんだ、家族か。勘違いしてた。それなら、友達とは違うって、思ってもいいんだよね。だって家族なんだから。特別な想いを持っていてもいいよね。父と弟の姿が思い浮かぶ。大切な家族。トーカにとって家族は、二人だけじゃない。簡単にはできない繋がりなんだ。そして、先に寝室に入ったトーカのあとに続いて、ヒナミも歯を磨いたりして寝る支度をしていた。リビングにいたヒナミは、またカネキに字を教えてもらう日はいつだったっけ…と壁にかけられたカレンダーを指で追った。「あさってかぁ…」それまでに仲直りしてくれたらいいなと考えながら、うがいをするために洗面台へ向かった。 [1回]PR