うさぎにメロン3 okita x kagura 2015年08月09日 うさぎにメロン2のつづきです。完結。 「え?ほんとアルか!?」 意外そうにこっち見てくる目に、数えるほどだけだけど、と一応付け足しといた。「でも聞いた話じゃ、お前の姉ちゃんはお前と違ってめちゃくちゃ出来た人らしいじゃんかヨ。……そんな姉ちゃんとお前、ケンカしたアルか?」 「ケンカするほど仲良ィって言うだろよく。俺と姉上だって仲は良かったんだ。ケンカの一つや二つくれェあるよそりゃ。 ……ま、ケンカっつっても。だいたい姉上の言ってることのが正論だったけどな。そこは近藤さんと一緒だ。けどま、姉上には甘えもあってナマ言い返してたときあったからな……」 姉上のことを口にすりゃァするほど、普段頭の隅に保管され、思い返すことすら忘れてた記憶が、ふつふつよみがえってくる。姉上の仕草も。表情も。武州の土混じりの匂いも。 感覚の懐かしさに、ちぃとばかし体が震えてきそうだ。「いったい、何のケンカをしたアルか?」「あー……一番覚えてんのは、俺が楽しみにしてたスイカを勝手に食われちまったこととか、だな」「なんだヨ。私のこと兎や角言えないアル!私と似たようなもんネ!」「あのなァ、言っとっけど俺まだ十にもなってねーガキの頃の話だからな?十代半ばで駄々こねてるてめーと一緒にすんな」 むむっ……と言い返せずに言葉を詰まらすチャイナ。それに、と俺はメインの情報を付け足しといた。「俺が怒ったのは、姉上がスイカ食ったことじゃねーんだ。ノコノコうちにやってきたクソ野郎にマヨネーズかけて差し出したことだ」 そういや。あれもこんな暑ィ日の出来事だったか。 その年の初スイカ。道場から裾分けにもらったもんだ。桶の中の氷水に浸して保存してあったことを俺は知っていた。姉上と二人で切って食べんのをすげー楽しみにしてた。……俺が昼寝してる隙に、呼んでもねーのに俺を迎えにやって来た、俺の一番気にくわねーやつにニコニコしながらスイカ切って差し出した姉上のことなど。想像するだけで腹立たしかった。二人分だけが並んだ皿と黒い種の痕跡に。俺はキレて残りのスイカ全部地面にぶちまけてアリンコの餌にしてやったんだ。そんな俺に姉上は謝るどころか、食べ物を粗末にするなんてダメだと叱ってきたもんだから。俺は許せねーし。姉上も許してくれねーし。半日くらい家を飛び出しちまった。 そこまで話すと、興味深そに聞いてたチャイナが質問してきた。「その後姉ちゃんと仲直り、ちゃんとできたアルか?」「勿論したよ。俺が謝った」「どうやって?……どうやって謝るアルか?」 じーっと真剣な眼差し。と、それは俺の目ではなく。俺の手元の缶にまっすぐ向けられてた。まだ半分近く残ってるメロンソーダの缶。眺め続けてくるチャイナ。欲しいのかよ。 これも飲むか?と仕方なく尋ね。頷いたから。その飲み指しの缶を手渡してやった。「はぁ……しかし、考えてみりゃ、あの仲直りは姉上のお陰でできたようなもんだ。夕方近くになって、姉上が俺を河原まで迎えに来たんだ。スイカバー持ってな」「ス、スイカバー……!?てあっ!しまった!!」 チャイナはハッとした顔。何事?なんか知らんが一人で慌ててる。 ……あーわかった。今俺の手渡した缶をそのまんま何口か付けて飲んだもんだから。失態に気づいたらしい。慌てて唇をゴシゴシ手の甲で拭いてる。ついでに缶の飲み口も丁寧に拭きまくってる。 ……いや、何もそこまでせんでよくね?「何一人パニクってんだバカ」「う、うるさい!会話に気をとられてやらかしたアル!!」 缶の飲み口を、わざわざ俺のスカーフの端まで使って念入りに拭く。まぁ別にいいけどさ。むしろ気にしすぎで余計アレだ。バカが。 あ、えっと、何の話だったっけ……あ!そうアルスイカバーアルな!と。一人芝居打って。チャイナは再びメロンソーダを口に含みつつ、俺に問いかけてきた。「スイカバーって……姉ちゃんが買ってきてくれたアルか?」「そ。わざわざ俺なんかのためにな」 そんなことをされちまったら、謝るしかねーだろう。 畑でとれるスイカなんかより、隣の町先にある駄菓子屋まで行かなけりゃ買えねースイカバーを。わざわざ氷入った篭に詰め込んで。俺を迎えに来てくれた姉上に。俺は謝るしかなかった。暑い中遠かっただろう。氷なんて重たかっただろう。ただでさえ体の弱い姉上が、そんな状態で俺を見つけては第一声、無事で良かった、なんて。心底ホッとしたような顔で言うもんだから。もう泣きながら謝ったな。「……ケンカなんて別に誰しもやりたくてやるわけじゃねーし。たとえ突発的にやっちまったとして。相手の気持ちを思えば普通に仲直りしてくもんなんじゃねーの?そんな難しく考えんでも」「……難しく、考えすぎだったアルか、私」「そうだねィ……もしくはあれだ。どーしても仲直りする気が起きねーってんなら。所詮その程度の人間関係だったってことでィ。それならそれで放っときゃいーし。難しく考えなくていいんじゃねーの?」 そう言うと、首をブンブン横に振って。違うアル!万事屋はそんな薄い関係じゃない!嫌アル!と。 うつむいてるチャイナは、どっか昔の俺と似てる気もした。 結局構ってもらいてーだけなんだ。スイカもメロンも。突き詰めりゃどーでもいい話だ。ただ自分の存在をその場所に認めてほしいだけ。認められたくて、迎えが来くんのを待ってるだけだ。 きっと俺の姉上同様、そんなこいつの性分をわかってるだろう。あの二人は。 と、そんときだ。 あっ……と気づいちまった。 うつむいてるチャイナの頭から、自分のスカーフを無理やりひったくって取り返した。え?何事か?と驚くチャイナは無視し。立ち上がって、デカ犬からも離れ、前へ歩き出した。 今度は自販機と反対方向。公園の出口に向かって歩いたもんだから。背後からチャイナの戸惑う声も聞こえてきた。「待つアル!……帰んのかヨお前!」 私をボッチにする気かコノヤローッ!と。そんなあとに続く言葉を耳にする頃には。俺は公園の入口付近まで辿り着いてた。そんで、小さな移動式屋台の前で立ち止まって、後ろにも聞こえるよう大きめの声で言ってやった。「すんませーん、俺にスイカバーひとつ下さーい」「あいよぉ!スイカバーひとぉつ!」 店主のその声に遠くからでもすぐさま気づいたか。さすが四六時中一緒にいるだけのことはある。 チャイナは俺の背後までゆっくり歩いてきた。だが、俺はそんな気配には目もくれない。その屋台の中央に、クーラーボックスがある。大量の氷とドライアイスと、アイスキャンディー各種が詰め込まれてる様子をまじまじと目にしていた。どこで調達したんだこれ?「お客さん、メロンバーなんてのもありますよ?どうです?」「メロンバー?あいにく俺はスイカバーが好きなんでねィ。色も鮮やかだし。チョコの黒い種もちゃんと入ってるし」「おや奇遇ですねぇお兄さん。実は俺もスイカバー派なんですよ。はっきり言ってメロンバーって邪道ですよねぇー?ま、俺はどっちかっつーと練乳たっぷりのイチゴかき氷バーが一番好みなんですがね?」「あれ?店長そうだったんですか?……じゃぁこのガリガリくんは僕が頂きます」「えぇ?バイトくーん?メロンバーはどうだい?このままじゃメロンバーだけ売れ残っちまうよバイトくん?」「あれれどうしましょう店長。あの、お客さん、本当にメロンバーいらないですか?」「いやァ俺もごめんです。メロンバーなんてスイカバーの二番煎じで興味ねーんでさァ……」 俺ら3人が延々話を続けていたら。後ろから片肩をガッと掴まれた。痛て。そんでもって熱中症はどこへやら。馬鹿力でおもっくそ横に強く押され退かされちまった。 俺がさっきまで立ってた位置にチャイナが立つ。目の前にいる銀髪店長と眼鏡バイトくんに、高らか主張した。「……お前ら!メロンバーなめんなヨ!!メロンバーってあれだぞ?昔はただのメロン色したアイスキャンディーだったけどな!!今じゃスイカバーに負けじと白いチョコの種入ってんだぞ??メロンバーは日々進化してんだぞ?? だから……そのメロンバーは私に寄越すネ!バカ野郎共ッ!!」 涙まじりの情けねー声してっからなんか笑えた。同じように目の前の二人が屋台のカウンター越し、にやけてんのを見た。「お嬢さーん、お金は払ってもらわなきゃ困るよ?ねぇ新八くん?」「そーですよ。お金が無理ならうちでこれからも働いて返してもらいましょーかね、銀さん?」 新八くんの片手には紫色の番傘。チャイナに見せつけるようちらつかせた。 チャイナがたまらず、涙をポロッとこぼして。手の甲で拭ってんのを見留めた。「……銀ちゃん、新八、………ごめんなさいっ!!」 チャイナが二人に飛びかかる頃には。向こうで寝てたデカ犬がゆっくりとこちらへ歩いて来てた。三人の仲睦まじい光景を見て安心したか、嬉しそーにワンワン吠えてら。「神楽ちゃん、傘持たずに出てったらダメだよ。心配したんだよ?銀さんなんか慌てて氷とアイスキャンディー詰めてたからね」「おい新八余計なこと言うんじゃねーよバカ!」「はいはい。さ、帰ってメロンバー食べよ? ……それに。こっちこそごめんね。神楽ちゃん居ない間にどうしても大事な依頼主が来てたもんだから。メロン差し出しちゃったんだ」「いや、ちゃんとお前の分とか残しときゃ良かったんだが。何しろ団体だったからな……。俺らもそんときに24分の1カットしか食えんかったし」「あのサイズは悲惨でしたよね」 メロンエピソードを楽しそうに話す二人とは裏腹。チャイナはまた涙目になり。先程とはまた別の原因で顔を……もとい目元を、赤くしてた。「うぅ……二人とももう、怒ってないアルか?」「怒ってないよ。スマブラもびっくりな神楽ちゃんの大乱闘なんていつものことじゃん」「俺は怒ってるよ?怒ってるけどぉ?ただこのクソ暑い中いちいち怒るのも暑苦しいから怒ってないだけだよぉ?」「あんた結局怒ってないでしょーが」「……うぅ、ごめんアル。銀ちゃんたちの話も聞かずに。早とちりして、ごめんなさいアル」「ダァーもういいよいちいち謝らんで!さっさ帰って部屋片付けてこれ食おうぜ?スーパーで安売りしてたからつい買いすぎちまったわ!」「銀さんアイスコーナーほとんど荒らしてましたからね。財布の紐はもう少し固くしてほしいもんです」 ……というわけで。あまりにも多すぎますから、と。新八くんはスイカバーを一袋、俺に手渡してきた。「これはお礼です。神楽ちゃんのこと見ててくれたんでしょう、沖田さん?定春見てたらわかります」 ふと隣に目をやった。そこにいるデカ犬は、背中に空き缶やら中身の入った缶やらタオルやらを器用にまとめて乗せてる。タオルをわざわざ俺に返そうと口に咥えてやがったが。チャイナの股に挟んだやつなんか別にいらねーから、と。犬の額上に乗せといた。「タオルの代わりにこっちは受け取っとけ、早くしねーと溶けんぞ?」「旦那、俺ァ今日暑さで溶けかけてたガキを子守りしてたんですぜィ?報酬がこれだけってのはちぃと安すぎやしませんか?」「なーに言ってんだよ公務員のくせにケチくせ。こちとら自営業なんでな。贈賄罪でしょっぴかれちゃ敵わねーからそいつで頼むわ」「おっと。俺もうかうかしてっと収賄で捕まっちまいまさァ」 俺がそう言いつつ、スイカバーの袋を手にしっかりとってやると。旦那はホッとした顔を一瞬見せてから俺に背を向けた。新八くんはペコリと丁寧にお辞儀し同じく背を向けた。 即席で出来合いのボロッちい屋台をデカ犬が押しながら。夕日が沈みそうな方向へ。万事屋一行は背を向け帰路についてった。 これにて一件落着な。やれやれ。疲れた。 と、そんとき。 こちらへ。きびすを返し。タカタカ走り戻ってきた小さな体。 そいつは俺と目ェ合わそうともしねーでうつむいたまんま、俺の前で立ち止まった。そういや、こいつの服のボタン外しっぱだったな。首の襟元からおっと?ちょっと見えそうで見えなかった。つーかまだ小っせェな。 と、気をとられてっと。バンッと、冷たい物を無理やり俺の手のひらに押し付けてきた。 とっさだったから俺がそれを手から滑り落としそうになると。両手で上下から押さえ込まれ、がっちりと掴まされた。「…………ありがとネ」 包む手を離し。またそいつは旦那たちの方へ駆けてった。小さくなる背中を見送る。しばらく先の角を曲がって見えなくなった。 無愛想だが弾むような声で。一言だけ呟いて立ち去ってった。最後までド勝手なやつだったな。 手に持たされたメロンバーのパッケージに目を落とす。あいつの言う通り、ちゃんと白い種が入ってるようで安心した。 それを確認した俺は、パッケージを開封。中からメロン色した三角形のアイスがお出まし。冷気を放っててうまそうだった。 それを口に咥えようとしたときだ。 今度は背後に、殺気を感じた。「見つけたぞ総悟?度重なる勤務放棄、今日という今日は許さねェ覚悟しろ」 刀を向け、瞳孔開き気味に俺を睨んでくる視線を、振り返らなくたって感じとれる。 仕方ねーから。餌のつもりで。手に持ってたスイカバーを袋ごと投げ渡した。後ろできちんとキャッチされた気配。俺は自分のアイスに口付けた。「どうです?土方さんも食いませんかそれ?」「はァ?なんだよこれ」「何って見ての通り、スイカバーでさァ」 いやそりゃ見ればわかるけど?と言う土方に、俺はメロンバーの先っちょ舐めながら振り返った。「あんたはどーせそっちがいいでしょう?俺はせっかく張本人から頂いたんでね。こっちを食いやす」 一連の出来事を知らず、ただアイス買ってサボってるだけだとどーせ思い込んでんだろうが。知らねー。説明すんのもめんどくせーわ。 言っとくが。俺はこいつと仲直りする気など微塵もない。スイカの恨みは一生許さねーし。姉上とは違う。そうゆう人間関係だからな。 あと、こっちのメロンバーは俺のモンだ。だからこいつには渡さない。「あいつから物もらうなんざ初めてなんでねィ……」 こいつはありがたく受け取っとこう。 何のことだかサッパリわからんという、トボけた顔の土方を尻目に。メロンバーを悠々頬張った。 新しい昼寝場所も見つけたし。メロンバーも甘くてうめぇし。 俺ァ今日すげー働いたおかげで得した気分でしたとさ。 おや、土方さんがスイカバー咥えながらバズーカ構えて待ってまさァ。兎にメロン、鬼にスイカってとこですかィ? お後がよろしいようで。 [5回]PR