兄妹 okita x kagura 2015年06月03日 姉のような。兄のような。神楽と沖田のお話。 かぶき町の空は青く澄み渡っていた。 空腹をまぎらわせるため、気持ちいい空気をいっぱい吸い込もうと、神楽はお気に入りの傘の影の下、ふぅぅっと体を膨らませる。 そして勢いよくはき出した。「っぷはーっ!」 3時のおやつの時間だというのに、酢昆布ひとつすら買うことができない。新八からもらった小銭はとおに使い果たしていた。 さすがに空気で空腹を埋めることはできず……神楽は肩を落とした。 天気のよさに反して憂鬱そうな顔でトボトボと橋を渡る神楽。川の水は空の色を反射し、キラキラと綺麗に流れている。神楽はその流れをなんとなしに眺めていた ……すると、見つけた。見つけてしまった。 川原で何やらゴソゴソと動く人影。見慣れた黒い暑苦しそうな制服に反し明るい色のあの髪型。 それが誰であるのか神楽にはすぐわかった。しかし無視をして、何も見なかったかのように通り過ぎることにする。単純に今は空腹すぎて、関わる余裕がなかったのだ。 草が長く生い茂る中に、真選組の制服を身にまとい、沖田は探し物をしていた。 なかなか見つからず、ふっと天を仰いだ。 雲ひとつない青空。今の沖田の気分は曇りきっているというのに正反対だ。 いつの間にか太陽はやや西へ傾き始めていた。しかしそんなことよりも、橋の上をスタスタと渡り終えようとしているチャイナ服姿の少女が目にとまった。 沖田はのっそりと立ち上がった。草むらから上半身が飛び出る。そして両手を口の横にあてて大声で呼び掛けた。「おーい!そこのチャイナ娘ー!」 無言で通り過ぎる神楽。 もちろんその声は聞こえていた。 だが、返事をする義理なんてないネ、つーか関わんのめんどくせー、と。無視を貫こうとした。「おい聞こえてんだろ。頭だけでなく耳もイカれたか!?」 いつもの挑発にも無視を続ける神楽。 おぅ、俺を無視するなんざいい度胸だ…と手を伸ばしたが。今の沖田は生憎、愛用のバズーカを手元に持っていなかった。そういえば今日は某上司に一発ぶち込んだあと、自室に置いてきてしまったのだと思い出す。 仕方なく奥の手を使おうと、もう一度大声で呼び掛けた。「あれれいいんですかィ?そこの駄菓子屋で酢昆布大量に買ってやろうかと思ったのにさァ。いらねェんなら別に」「うぉぉぉぃそれを先に言えやコラァ!!」 コンマ一秒のダッシュで沖田の元まで駆け降りる神楽。必死の形相。川原の走りにくい草地も夜兎にとっては平坦な道と変わりがない。ドドドーッという効果音のもと、あっという間に沖田の目の前に到着した。 そして勢いそのまま銃口でもある傘の先端を、まっすぐ沖田の顔すれすれに突きつけた。「てめーはあれだな。お菓子あげるからついておいでで行方不明になるやつだな」「うっさいネ。私は今ものすごくお腹すいてるアル。とっととブツよこすネ!」「へっ、誰がタダでやるっつったよ」「お前はさっき¨買ってやる¨っつったアル!」「そいつァ俺のお手伝いが済んでからだ」 ニヤリと笑ってみせたのは沖田。神楽が銃口を突きつけても微動打にせず平然としている。それどころか、傘の中間点を器用に捕まえ銃口をずらす。そして傘を握ったまま、神楽が傘から手を離さない限り動けないようにした。「ちょっと今探し物してんでさ、それ見つけたら酢昆布でもなんでも奢ってやらァ」「ふざけんじゃねーぞコラ!誰が酢昆布ごときでお前の言いなりにならなきゃいけないネ!そんな恥さらしはごめんアル!……ただし今は別ネ」 神楽はぴょこんとしゃがんで草間にすっぽりと隠れると、宝探しを開始した。 がさごそがさごそと動き回る姿は、例えは悪いが巨大なGのようである。「よっぽど腹へってんだなお前」「そりゃぁもう……お腹と背中がくっつきそうアル…」「旦那らはどうした?ついに育児放棄か?」「違ぇヨ。今日は銀ちゃんと新八が仕事で遅くまで帰ってこないアル。……腹減りすぎてもう、あとちょっとで窃盗に着手するとこだったアル!!」「そんなら声かけずに泳がせて御用にすりゃよかったな。惜しィことしたわ」「んなこと言ってっと見つけてやんないアルヨ!さっさと見つけて酢昆布たんまり献上させてやるネ!」 相変わらずゴソゴソと動く神楽に背を向けるよう、沖田もしゃがみこむ。そして再び草を掻き分け探し物をした。 だが一点だけ、沖田は神楽に聞きたかった。「お前さ」「何アル」「俺が何探してるかわかってんのか?」「………」 返事がくるまで少し間が空いた。 ん?と沖田がしゃがんだまま神楽へ振り返る。するとちょうどその瞬間、ドサッ…と崩れるように、神楽はその場で倒れ込んだ。 沖田は立ち上がり神楽に数歩近づく。草間に仰向けに倒れた屍のような神楽をじーっと見下ろした。「食いもん……どこアルか」「……てめェの食料じゃねーからな。俺が探してんのは」 沖田の声は届いたのか否か。神楽は返事もできずに空腹で意識が遠のいてしまった。 [2回]PR