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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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二人がなぜか奈良でデートしてる話です。






 神楽は沖田の背中に隠れ、まじまじと視線を向けてくる彼らを睨み続けていた。


「そんな怯えんでも、襲って来ねーよ」


 沖田が呆れながらそう言っても。沖田の袴の裾を掴んだまま首を横に振る神楽。


「でもあいつらさっき襲ってきたアル!」
「てめーがド突いて乱暴したからだろ」
「だって!私一人に集団でかかって来るなんて!卑怯極まりないネ!」
「お前がせんべい持ってウロウロしてっからだよバーカ」


 沖田は神楽を払い除けると、ゆっくりと、足音を最小限にとどめ、鹿の群れに近づいていった。
 支え先を失った神楽はアワアワとその場に立ち尽くす。沖田がヤられる。沖田死す。そう思った神楽だったが。
 沖田はすんなりと、鹿の頭へタッチした。


「鹿せんべい使うやつは初心者なんでさァ。こいつらは手で撫でてやりゃァ十分だ」


 大きな瞳がちの目に、長い十数本の下まつげ。手から肘の長さほどある二本の角を携えて。一匹の鹿は首を傾け、沖田の顔をまっすぐ見上げていた。


「よし良い子だ…」


 沖田は慣れたような手つきで鹿の頭を撫でていた。黒い耳の裏、白い顎の下。沖田のやや大きな手に撫であげられ、鹿はうっとりと目を細めていた。

 そんな沖田と鹿の様子を、後ずさって少し離れたところから眺めていた神楽。
 気持ち良さそうに沖田になつく鹿。いつになく優しそうな視線をそそぐ沖田。
 神楽にとって不思議な光景だった。

 次第に周りの他の鹿たちが沖田の周りに寄ってきた。それら一匹ずつに目を向けると、沖田はその鹿たちに囲まれるなかで、ゆっくりと芝生の上、腰を落とした。まるで、先程沖田と神楽が観てきた巨大な大仏のように。沖田はどっしりとその場に胡座をかいて座る。鹿たちは沖田と適度の距離に近づいては、その手にゆるゆると癒されていた。

 そんな光景に思わず神楽はポシェットからカメラを取り出した。そして、カシャッと控えめの音を鳴らし、目の前の光景を撮影した。


「すげーアルな。お前……」


 鹿せんべいを持って右往左往していた神楽とは雲泥の差。それは神楽も認めざるを得なかった。
 沖田は両手で鹿の耳辺りを撫でながら、神楽に言う。


「俺は動物にだけは昔から好かれるんでねィ。ま、心が綺麗だからな」
「私の心がキチャないとでも言うアルか!……つーか、どの口が言うネ。こいつらお前の本性も知らずにたぶらかされてるだけアル!」


 ヘッと沖田は笑うと、神楽へ手招きした。


「こっち来てみろお前も。こいつらは慣れてっから平気だ」
「で、でも……また襲ってきたら」
「大丈夫でィ。あの寺の周りにいるやつらと違ってこいつら鹿せんべいの味も知らねぇ田舎もんだ」


 東大寺へと続いている広い通路から脇道へ逸れて、木々に囲まれた広い芝生の上で。ノビノビと歩き暮らしている鹿たち。
 神楽は恐る恐る、沖田へ近づいた。


「ゆっくり来いよ?こいつらビビっから」
「……うん」


 神楽が手を伸ばし、差し出していた沖田の手を握る。そっと手を引かれ、神楽は沖田の真横に座り込んでいた鹿の正面にしゃがんだ。


「耳の後ろ辺りが気持ちィらしいな」
「……この角で突き刺されたりしないアルか?」
「こいつは存外大丈夫だ。長さはあるがまだ血が通ってて固まってねーからな」


 その言葉を信じて。神楽はゆっくりと、鹿の頭へ手を伸ばした。
 鹿は神楽の方へ視線を向けたまま微動だにしない。
 そして、あともうすぐで鹿の耳に触れそうになったとき、ピクッと鹿が鼻先を上へあげた。


「…っ!!」


 神楽はびっくりして手を引っ込めた。
 その様子を見てプッと沖田は笑った。


「わ、笑うなヨ!」
「お前デカ犬飼ってるわりにビビりだな」


 その鹿の背中を撫でながら、沖田は話しかけた。


「大丈夫だよ。この女はてめーと仲良しこよししてーだけだ」


 神楽は意を固め、もう一度手を伸ばす。
 鹿は頭を動かさずにじっとしている。
 そして、神楽の指先が、鹿の黒い耳の裏側にちょんっと触れた。


「……あ、あったかいアル!」


 鹿の体温のぬくもりに驚きつつ。神楽はそのまま手のひらで、鹿の耳をそーっと撫でた。そして、二回、三回と手を左右へ動かしたのち。自然と神楽の手は、鹿と触れあっていた。
 鹿は気持ち良さそうに目を細め、毛をふさりと立て始めていた。
 その様子を、沖田は穏やかに目を伏し、眺めていた。


「やればできるじゃねーか」
「へへん!私にできないことはないネ!」


 神楽は先程の沖田同様に、鹿を優しく撫であげ、目を細めていた。


「可ぁ愛いアル!」


 そんな神楽の周りには、鹿たちが複数寄り集まってきた。
 神楽はその場に膝を折って座り、大人しく優しい目をした鹿たちに囲まれ始めた。
 そんな神楽を見て、沖田は懐からカメラを取り出した。


「はいチーズ」


 カシャッと鳴った音とともに、カメラのレンズには互いに触れ合う鹿と神楽が刻み込まれた。
 もう一枚、と沖田は構えたが。後ろからいつの間にか近づいてきていた子鹿が、ひょぃっとそのカメラを取り上げた。
 驚いて沖田が振り返ると、子鹿は芝生の上に落下したそのカメラを鼻先でつんつんともてあそんでいた。


「おい、そいつァ食いもんじゃねーぜ」


 それを取り上げようと沖田が腕を伸ばしたとき、神楽も空いていた方の腕をそのカメラへ伸ばした。そのとき神楽は無理な体制からバランスを崩し、わっ!と沖田の肩にぶつかる形でよろけてしまった。

 ……と、その直後。カシャッと音が鳴った。

 沖田と神楽が驚いていると。子鹿は二人にお尻を向けてトテトテと去っていった。


「おいおいすげーなあいつ」
「すげーアル」


 のちに現像したとき、二人は目にすることとなった。
 中央に寄り添っている二人を、上手に写している写真を。

 顔を見合わせ、二人は楽しそうに笑っていた。

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