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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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拠り所

描写はないですが、そういう場面を想起させるのでR15です。












「かぐらっ………………かぐ、ら……ぁ…………」


 何度も何度も名前を呼ばれる。
 その声はあまりにも切なそうに、私の耳をジワリとえぐってくる。
 好き………好きだ…………と。吐息混じりのアツいその唸りは、どこか弱々しくて、まるで潰れてしまうのではないかというくらい、苦しそうに吐き出される。

 私はちゃんとここにいるアル。
 どこにも行かないヨ。

 腕を、汗だくの首もとに絡めながら、そう念じていた。少し痛いのにも耐えながら。今にも泣いてしまいそうなその男をなだめるように、抱き締め続けていた…………。














「なんで泣いてたアルか」


 同じ布団の中、背中合わせでくるまる私とそいつは、会話をする。
 ひとしきり事を終えたとき、私たちはいつもこんな感じで、まったりと話をする。いわゆるぴろーとーくというやつ。
 後ろに感じる背中は、動こうとしない。こちらに向き直ることもない。その表情を見られたくないのだろうと察していた私も、こうして顔が見えないようにそっぽを向いたままでいる。
 汗ばんだ背中から伝わる体温は、まだ余韻を引きずっていた。私自身も、人間に比べれば回復が早いとは言え、行為の分だけ消耗もする。だるい体を癒すため、今晩も寝落ちするまでこいつとの戯言にとことん付き合ってやるつもりだった。
 それなのに、こやつはいつも以上に素っ気ない。賢者になったまま、凡人に戻らないつもりだろうか。
 ツンツンと、軽く肘で突いてみせると、もぞりと少しだけ布団が動いた。


「………泣いてねーよ」


 相変わらず背を向けたまま、少し拗ねたように声を発して。またしばらく黙っていた。
 すりすり……と、少しおちょくるように背中を擦り合わせてみた。


「泣いてたアル」
「泣いてない」
「だいたいお前いつも泣きそうな顔してるアル」
「テメーの幻覚だろィ」


 意地でも行為中の自分の表情を認めようとしない。
 日中の私なら、ムキになってああだこうだと言い返すところなのだけれど。今は……こんな事後の深夜ど真ん中は………私も随分とダルい。もうそれ以上は、泣いてるどうこうを追及しないことにした。






「……テメーこそ、泣いてたんじゃねーの?」


 幾ばくか間を置いて、背中から声が聞こえてきた。
 少し驚いて、首だけを少し背中側に向けてみた。そして、ちゃんと反論した。


「泣いてないアル」
「そっか……ならいいけど」
「なんで私が泣くことがあるネ」



「………痛かったんじゃねーのかと」



 顔は見えないが、後ろから聞こえる声は、どこか気弱で遠い。そういうイラナイ気遣いも、自信のなさも、私からしたら呆れてしまうほどしょうもないことだった。


「夜兎ナメんなヨ。まだ何発でもヤれるネ」
「プッ、何それ。可愛くねぇの」


 クスリと笑う気配を背中に感じた。
 擦れる背の肌は、どちらのものかわからないけれど、滲んだ汗でまだじっとりとしていた。

 くるりと180度寝返りをうってみる。布団がサワサワと音を立てた。


「何?ほんとにやんの?」


 その声は、おどけながらも戸惑いが垣間見えた。その背中に向かって、私はおでこをコツンと当ててみた。次いで、両方の手のひらを、まるまったその背中に触れてみせる。
 まだ立派な成人と呼ぶには青臭い背中。そこにはいくつかの消えない傷が残ってる。
 こいつがもし夜兎なら、この生々しい傷もキレイに無くなるのにな…………漠然とそんなことを考えながら、目をつむっていた。


「……どうしょうもないアル」


 もう一度目を開けて、その背中を見つめた。こちらに首を向けようとするこいつの瞳が、揺れる。背中に軽くキスをした。


「どうしょうもなく……愛しいアルナ」


 私の声を聞いて、かすかに震えた気がする。その背中にある傷の縫い目痕、その線を、爪を立てずに指の腹で、すーっとなぞってみた。
 なぞりながら、ガタンゴトン、ガタンゴトンと口走る。すると体が小さく揺れた。くすぐったいと、呟く声はちょっとあどけない音色だった。


「人の背中で電車ごっこすんな」
「この線路全然繋がってないネ、事故りまくりヨ」
「事故以前に電車走れねぇよ」


 こいつの脇腹にまで延びている傷口に触れていたとき、その指を、ぎゅっと片手で捕らえられて握られた。そのまま前方に引っ張られ、私の手は、こいつのお腹のあたりの位置にあてがわれた。
 私が後ろからこいつのことを抱き締めるような体勢になる。ドクン、ドクン、と、心臓と音がする。


「はぁー………なんだかなぁ…………」


 渾身のため息が意味するものは、何だろう。
 私の手をお腹にあてがったまま、じーっと動かずにいるその背中は、また、泣いているんじゃないかと感じた。
 もっとも、実際に涙を流したりなんてしないんだろうけど。

 密着すると鼻をくすぐるこの匂いは、私の心を落ち着かせるよう、すっかり染み付いた身体の匂いだった。
 肌と肌とが触れ合う感覚に酔っている。
 私は、こいつの肌以外知らない。こいつが私の肌しか知らないのかどうかは知らない。そんなことどうだっていいと思ってる。
 私がただ、この背中に願うのは。この男が無茶をしないことだけだった。
 こいつは、私がいる限り、無茶はしないと言った。ならば、私がこいつと肌を重ねる理由は、そこにしかない。それが男女の愛なのかはよくわからない。ただ、こいつが私を求めてくれる限り、こいつが死ぬことはないんだろう。

 そんな、ただの自惚れで繋がっているだけなのかもしれない。
 どこかで崩れて壊れちゃうものなのかもしれないけど……それでも………


「なぁ、チャイナ、」


 こいつはまた普段通り、私の本来の名前ではない名前を呼ぶ。神楽って呼んでくれてもいいのに。でも、慣れ親しんだ呼ばれ方も悪くはなかった。


「何アルか?」


 問い掛けるのとほぼ同じ頃、私の手を握る力が、消えていくようにだんだん弱まっていく……


「ありがとな……」


 そうこぼして、寝落ちする様子が手に取るようにわかったこの瞬間、私はようやく安眠できる。
 おやすみ。いい夢みろヨ。
 その背中を抱き枕に。私も意識を手放した。




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