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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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※171104 前書いてたものを修正しました。

月明かりふんわり落ちてくる夜は・・・










「あーあ……久しぶりに働きすぎて疲れたアル……」


 誰もいない小道でつぶやいても、聞いてくれる人はいない。
 私は肩をぐるんぐるんと回して、はぁーっと大きなため息をひとつ。
 今日は全身がひどくだるいし足取りも重い。
 それでも、こんな夜更かしして夜道をうろうろしてしまう。その理由は、働きすぎのストレス発散だ。万事屋の仕事がここのところ立て込んでいる。

 疲れてるのに、目が冴えて眠れない。
 きっとお昼にコーヒーを飲みすぎたせい。
 最近私はコーヒーを飲めるようになった。ちょっぴり大人になれた気分。それが嬉しくて、ついぐびぐびと飲み干したのがいけないのかもしれない。



 普段賑やかな町も、こんな時間だとしーんとしている。人の話し声も、スクーターのエンジン音も、何ひとつ聞こえない。
 ときどき鈴虫や野良猫の鳴き声が聞こえてくるばかり。涼しい空気はほんのり心地よかった。


「たまには夜更かしも悪くないアルな」


 小道をよっと抜け出すと、少し広い通り道に出た。
 誰もいない路上の真ん中を、ブンブン両手を振って歩く。手に持っていたコンビニの袋はカサカサと音を立てて空気を震わせた。

 コンビニから万事屋へ帰る途中なのだ。
 駄菓子を一生懸命選んで、銀ちゃんの分と合わせて朝のためのパンも買って。
 目がチカチカする明るい店から逃げるように外へ出てきたところだ。

 なんか余計に目が冴えちまった気がする……。
 外の暗さで目を落ち着かせようとして、ふと上空を見上げた。


「おお……満月アル!」


 満点の星空なんて、こんな人工的な町じゃなかなか見れないけど。
 この空の中でたったひとつだけ真ん丸く明るく輝いてる。
 それは綺麗で、どこか懐かしい。
 私たち種族が住んでいた星も、あのそばのどこかに……なんて。

 首をめいっぱい上へ傾けて、ぼんやり考え事を巡らせていた。
 その場に立ち止まって、ぼーっと上を向いていた、その時だ。


 突然、何者かに膝カックンされた





「ぬおっ!」
「何してんだてめー」


 慌てて体勢を立て直し振り向いた私は、両手をビシッと構えた。
 声で想像して、思った通り。
 すぐ真後ろには見知った怪しい野郎が仁王立ちしていた。
 私は両手を口元に当ててわざとらしく大声をあげた!

「きゃー!!助けておまわりサーン!!」
「おまわりさんここ」


 コンビニ袋をぶんぶん振り回して攻撃もしてみるけど、おまわりさんはすべてを器用にかわした。
 ついでに、大声出すな!と頭をポカンと殴られた。


「痛ってー!」
「夜中に騒いでっとしょっぴくぞコラ」
「レディーの頭殴るなんてデリカシーのないおまわりネ!」
「誰がレディーでィ、この不良女が」


 こんな時間に何してんだ、と。唐突に職務質問まがいが始まった。
 くっそう……普段仕事してないくせにこんな時に限って仕事してる感出しやがって!
 ……それにしても、こいつじゃなければ本気で命を奪われてたかもしれない。
 すぐ背後に近寄られても気づけなかった。
 やっぱり今日の私は相当疲れてるみたいだ。


「何してるかって? 見てわからないアルか?」
「お前が馬鹿ってことくらいしかわかんねー」
「これ見ろヨこれ!買い物帰りッ!」
「はぁ?こんな夜中にうろちょろしてんじゃねーよ」
「朝ごはん買いたかったから仕方ないだろ!?」


 あーあ。嫌んなる。
 こいつが重苦しい隊服を身に纏って昼夜問わずうろついてるなんて。この町もオワコンアル。オチオチ夜の買い物もできやしない。


「私はお前に付き合ってる暇はないネ。今日は疲れてるアル」


 そう言って私はこいつに背を向けてスタスタと歩き始めた。が、しかし。こいつはあろうことか後ろから付いてくる。
 ああもううっぜぇー!
 けど、今日は蹴り飛ばして追い払うほどの気力が残ってない。
 ほんとに疲れてたから、ムッとにらみ返して振り向くだけだ。


「オイ、なんでついてくるネ!その制服でストーカーとはトンだおまわりアルな」
「ガキの女見つけちまった以上、一人で夜道歩かせるわけにはいかねーからな」
「むむっ、優しくするなヨ、キモいアル」
「勘違いすんじゃねーよ。おまわりさんだから仕方なくやってるんでィ」


 そう言って、後ろから私の隣へ並ぼうとする。
 並んで歩くのは癪なので、追い抜かそうと歩調を早めた。

 と、その瞬間、ぐいっと肩を掴まれて、よろめいた私は斜め後ろ方向へ突き飛ばされた。


「お前何するア」
「もっとそっち寄れ」


 ガッと道の端側へ蹴られた上に命令口調でイラッ!!とした。
 にらみ返すと、視界が途端に狭くなる。



 こいつの後ろを巨大なトラックが走り去っていく瞬間だった。



 トラックが近づいていたことに、私は全然気づいていなかったのだ。
 ドドドドッと地響きを立てながら、そのトラックは私たちの前方へと走り去っていった。





 ……神楽ちゃんもよく聞いてね。道を歩くときは、何も言わずにさりげなく車道側を歩いてくれるような男性、そんな優しい人ほど、大切にしてあげなきゃだめよ?……





 頭の片隅にあって普段忘れていた、いつかの姉御の言葉が、ふっと過った。


 ……と、不意に、クスッと小さな笑い声が聞こえた。


「てめー、ほんと疲れてんだな、笑える」


 その顔はいつになく、優しい気がして。
 思わず息をのんでしまった。



 少し混乱していた私は、完全に油断した。
 持っていたコンビニの袋が、ひょいっと手を離れる。
 あっと思う間もない。
 今日の私は、本当に反応が鈍い。
 カサカサッと立てられた音で、ようやく、こいつに袋をぶん取られたことに気づいた。


「なんで今日そんな疲れてんの?」


 そう言いながら、私から奪ったレジ袋をガサゴソと漁っている。
 こ、こいつ……!ストーカーの次はひったくりアルか!?
 優しいどころか犯罪者だった。


「……おっ、栄養ドリンクはっけーん」
「返せヨー!それ私と銀ちゃんのやつアル!」
「その年で栄養ドリンクなんざバカかい。大人ぶってんじゃねーよ」
「うっさいなー!人の買い物にケチつけてんじゃねーヨゥ!」


 返せ返せ!とわめいてぴょんぴょんしていた私は、ハハッとまた乾いた声で笑われた。
 何がそんなに可笑しいのか。こちとらちっとも愉快じゃない。


「最近そんな忙しーんだ、万事屋サンは」


 嫌みたっぷりの口調で言われてムッとした。
 と、乱暴に袋を突き返された。


「忙しいアル!悪いアルか!?」


 イライラしながら袋の中身が奪われていないか確認していると、急に声のトーンを落として言う。


「………体気ぃつけろよ」





 ……自分の耳を疑った。
 は? もうほんと、さっきから何アル。
 優男ぶってんじゃねーヨ。
 いつから体調の心配されるような仲になったネ。馴れ馴れしいアル!
 そう文句を言おうとしたけど、……やめた。

 目の前にある横顔が、なんというか。心ここにあらずで。
 考え事でもしているみたいな顔だったから。

 こいつは時たまこうだ。
 何かを思い詰めるような表情をする。





「……お前は毎日こんな時間に見廻りしてるアルか」


 体の心配すべきはお前だろうと言ってやる代わりに、当たり障りのないことを聞いてやった。
 すると、へっ?と少し驚いたように目を見開かれた。
 なんだヨ。お前から話しかけてきたくせに。


「……毎日なわけねーだろ。死ぬわ」


 お天道さんはやっぱり見ておかねーとな、と。私の横を歩きながら両手を組んでぐーんと伸びをした。
 腰に据えられている刀がカチャリと小さな音を立てる。静かな夜道にその音はいやに耳についた。


「今日が夜勤。んで、明日からが休みでィ」
「はっ、いいアルな公務員は。うちに休みなんて概念存在しないアル」
「旦那に頼みゃいいじゃねーか、休みくれっつって」
「どーせ休んでもすることないアル。遊びに行く目的もお金もないし……」
「んじゃ文句言うなよ」
「文句くらい言わせろヨ」


 一瞬、目と目がまっすぐに合った。
 ……かと思いきや、ぷいと逸らされてしまった。
 変なやつアル。


「……俺が遊びに行ってやろーか?」
「戯けバーカ」


 即答で拒絶すると、それ以上何も話しかけてこなかった。
 ちょっと言い過ぎたかな、とも思ったけれど……特に私も、それ以上は言わなかった。



 少しだけ胸がどきりとする。

 さっき会ったときはなんとも思わなかったのに。
 すぐ横にいる存在に、顔を向けることが、できずにいる。





 いや、そもそも。どうして、こいつは相変わらず私についてくるのか。


「お前、どこまで行くアル」
「てめーの帰路に付き合ってやってんでィ」


 そう言いながら、私よりも数歩先を、万事屋に向かって歩いていこうとする。
 少しだけカリカリするような声をあげる。
 さっきまで笑ってたくせに。変なやつ。


「……別に付き合わなくていいヨ、不審者が出たって、私なら力ずくでやっつけれるネ」
「そーゆう問題じゃねーっての」


 おらさっさ歩け!と、私が追い付いた瞬間、再びお尻を蹴られた。
 痛った!ともたつきつつ、ムッと睨み返した。
 すると、少し険しい顔をして私を見てくる。


「さっきから一体何アル!?」
「今のだって普段のてめーなら避けてんだろ?」


 そう言われて、ハッとし、何も言い返せなかった。
 今日は膝カックンされるわ、トラックに轢かれそうなるわ、コンビニ袋取り上げられるわで、散々な目に合ってきたのだ。
 それもこれも、疲れているせい。
 今不審者が出たら、対処できない可能性もなくはない……。


「自分の力を過信してんじゃねーや、女のくせに」
「女って、……そこ関係なくネ?」


 私は疲れてるだけなのに。
 「女」って強調されることには、少し違和感を覚える。
 さっきまでレディーがどうこうって否定してたくせに。
 なんで都合のいいときだけ女扱いされなきゃいけないネ。

 ……なんか、変な空気に痒くなってきた。
 でも、まあ、とりあえず。そこの十字路さえ曲がれば万事屋に辿り着く。もうこいつとはおさらばネ。

 あーあ……なんかこんな微妙な感じになるなら、やっぱりもう夜道出歩くのはやめる。夜更かしもやめる。
 おまわりさんに職質されるわ、つきまとわれるわ。たまったもんじゃない。




 そんなことを考えながら、角を曲がろうとしたとき。


 ふと、隣が止まった。


 数歩先に行きかけていた私は、え?と振り返った。





 歩みをやめて止まったまま、下を向いて、立っていた。
 黒いズボンのポケットに手を入れて。じっとして。垂れた前髪と電灯の影とで表情はあまり見えない。
 ……何やってんだこいつ。


「……どーしたアル」


 そう問いかけても、数秒の沈黙で。
 ようやく聞こえたのは、何かを決意したかのようなフーッと勢いよく息を吐き出す音だった。


「思ってたんだけどさ……」


 こいつの言葉に、私の耳の神経すべてが集中した。
 すると、顔をあげた。
 その顔は私ではなくて、もう少し上へ、上空へと視線を飛ばす。
 上に何かあるのかと思い、つられて私も夜空を見上げた。けれど、特に変わったものはない。
 やつはまたしばらく黙っていた。


「……何アル。上に何かあるアルか」
「いや………」


 スッと下を向いて、手の5本指で自分の前髪を掻き回しながら、再び歩みを進めていた。
 私の真横にまで歩みを寄ったところで、私ぐらいにしか聞こえないような小さな声を、ぽつりと落とした。


「月、綺麗だなって、思ってただけ……」


 穏やかな風が流れた。静かな空間に、そばから聞こえたその声は低く、耳に響くような感覚がした。
 私を横切り、再び私より先に万事屋へと歩を進める。

 突然そんなことを言ったこいつに、
 私は呆れてしまった。


「何?今頃気づいたアルか。今夜は晴れだし、満月だし。月がよく見える日ヨ」


 私はそう言いながら、再び上空を見上げた。
 視線の先には、ぽっかりと浮かぶ満月。
 上弦の月も三日月も好きだけど、やっぱり私は満月が一番好き。こんなに整った円を描いて、暗い夜をふんわり明るく照らしてくれる。とっても綺麗だから。

 ……というか、こいつにもこういう景色を嗜む心があるなんて、意外だ。


「満月が、どうかしたアル?」


 尋ねる私に振り返る背中。
 4・5歩離れた距離から、口を閉じたまま。視線だけを投げ掛けてくる。
 何か意味ありげだが、よくわからなかった。


「何アル」
「……別に」


 少しだけまた考え込むような顔をしたくせに、何も考えてないようなふりをしてまた前を向く。
 こいつは最近下手くそだ。
 嘘をつくのが、下手になってきてる。
 それとも私が、敏感になってきたのか、なんなのか。


「………ってオイ!私よりも先歩くなヨ!なんか腹立つ!」


 突っ掛かる私に何も言わず。視線も合わさないまま。
 また私たちは並んで歩き始めた。
 一度前後にずれて再び追い付くと、なんとなく私が車道側にいた。するとまた、そっと私の後ろを廻って反対側の隣に並び直された。
 なんだろ、こいつ。
 その点については何もつっこめず、ちょっとだけ戸惑う私がいた。





 万事屋に到着すると、スナックお登勢はまだ営業中だった。
 淡い光が入り口から溢れている。真っ暗な2階の万事屋とは対照的だ。
 帰る前に1階に顔出そうかな、と考えていると、隣にいたおまわりは踵を返してすーっと離れていく。


「じゃーな」


 それだけを言い残して、去ろうとする。
 気にかかって、振り返った。
 去っていく黒い背中の足取りは、少しだけ重いように感じた。
 ……お前だって疲れてるんじゃないアルか?

「おい、」


 私の呼び掛けの声に反応して振り返ろうとする寸前、こいつのお尻に渾身の一蹴りをかましてあげた。
 それは見事に命中し、うわっと2・3歩前によろけていた。


「痛ってバカ背骨折れるッ」
「帰り道背後には気をつけるヨロシ」
「てめーに言われたかねーよ……」


 そう言うお前だって、普段なら避けてるような今の攻撃を避けれなかったじゃん。これでおあいこネ。


「これ、あげるヨ」


 餌付けするつもりで袋から取り出した物を、目の前に差し出した。
 こいつは、えっ……と戸惑うように一瞬固まっていた。


「これでチャラアル」
「……要らねーよ、俺ァそんなん飲まねーし」
「帰り道送ってやっただの、後からうだうだ言われるのは嫌ネ。受けとれバカ。お前だって疲れてんだろ?」
「……てめーの分が無くなるじゃねーか」
「銀ちゃんとはんぶんこするから平気ネ」


 差し出した手を引っ込めない私に、観念して、栄養ドリンクを受け取ってくれた。


「……じゃーなッ!あばヨ!」


 またむず痒くなったので、私はそそくさとスナックお登勢に入っていった。

 最後の別れ際に、あいつがどんな表情をしていたかは見ていない。
 ただ、栄養ドリンクを手渡したとき、少しだけ手が震えていたような気がした。

 そして、私の足取りは軽くなっていた。
 ひょっとしたら、疲れがとれたのかもしれない。









*****


 スナックの扉がガラガラっと開き、複数人の迎え入れる声が聞こえたかと思えば、パタリ、と。扉は閉まった。
 静かな夜道の空間に取り残された俺は、片手に握らされた小さなそれをまじまじと見つめていた。


 チャイナから、プレゼントもらっちまった……。


 どういう風の吹き回しか動機か知らないが。物をもらったという動かし難い事実だけはその手のひらに残されていた。
 まだ少しだけ震えている手に、自分で笑えた。


「……恥っじぃ」


 なんであんなこと言っちまったんだろ。
 あいつはバカだから。意味には気づいてないようだったが。それにしても。羞恥の感情で胸奥が痺れるように痛かった。
 鼓動が速くて。胸の内側から、どうにかなってしまいそうなほどだ。


 一体いつから、こうなったんだろう。
 あいつと二人きりで会えて、少し話ができて。
 たったそれくらいのことで。
 ひどく掻き乱されてる。

 ああ……夜勤で見廻りすんのも、悪かねぇかな、なんて。ついにはそんな考えにまで至って。
 ほんと、救いようがねーの。



 栄養ドリンク一本に大した意味なんてきっと無い。
 そんなことわかりきってんのに。
 そういうことをされると、中途半端に期待をして、辛いのに。
 あいつは、月の意味も含めて、何もかも、まるでわかっていない。


 息をわざとらしくたっぷり吸う。そしてゆっくりと吐く。
 屯所に戻るまでの間に、この心臓を整えねばならない。気持ちを元通り抑えよう。胸に手をあてて呼吸する。
 顔の目の辺りにまで上がってきていた微熱も、冷まさなければ……。
 そう思い、目を細めてつーっと夜の空を見上げた。

 満月は西へと傾きかけていた。遮る雲も影もない。
 気持ちをひた隠そうとする自身の気持ちとはまるで正反対だ。


「………綺っ麗」


 今度は本来の意味で、そう思った。


拍手[15回]

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