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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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My Generation5

My generation4のつづき。
(15/05/21加筆)


鼻水はティッシュでかもう






3Zは別途日を改めて模擬試験を実施する。ただし、他クラスや他校と時間がずれてしまった。そのため情報交換の恐れもある。そこで、卒業単位への換算には別途特別措置を設ける。そのように決まった。
放課後の今頃は、延期された試験に向け、塾に行くなり自宅へ帰るなりで、本にかじりついている者もいることだろう。しかし、沖田にはそんなことはどうでもよかった。とにかく神楽を見つけなければならない。
夕焼けが射し込む中、沖田は校舎中を走り回っていた。柄にもなく走って人探しをして汗をかいている。こんなことは、風紀委員の仕事でもそうそうしないだろう。しかし、いっこうに神楽の姿は見つからなかった。
昨日はあのあと、銀八が保健室へ運ばれた。しかし、数十分後にはベッドの上から消えていたらしい。今の沖田と同じように神楽を探して校舎内を走り回っていたと、近藤から聞いた。しかしその日は結局神楽は見つからなかった。

今日になれば戻って来るだろう。そんな沖田の期待とは裏腹に、神楽は授業に来なかった。隣の空席がひどく気になった。決して表に出したりしない。けれど、放課後の教室で神楽を見つけた瞬間、あ、やっぱり戻ってきたと少し嬉しかったのだ。え、このタイミングで?と驚きはしたが。


「あいつもバカでさァ」


沖田は思わず言葉が漏れた。
あいつは、何をそこまでみんなに必死に歯向かう必要があったのだろう。今までなら、たとえ嫌なことがあっても適度に我慢してきていたはずだ。自分と違って、銀八譲りの優しさや思いやりを持っているやつだ。それなのに、今回はどうして、意地でも自分の気持ちを曲げなかったのか。姐さんに罵られ、クラスに誰一人味方はいない。そんな中どうして……
沖田の頭にはそんなことがぐるぐる渦巻いていた。


「!?」


ふと廊下の真ん中で沖田は立ち止まった。一瞬目の端でとらえた姿を確認しようと、窓の外を覗き込んだ。


「……あいつ、あんなとこにいたのかよ」


道理でなかなか見つからないわけだ。
沖田は廊下を急ぎ階段へ向かった。向かうは校舎の外。


校庭の端に、コンクリートでできた水道台がある。そこは大抵運動部員が手や顔を洗ったり、時には生物部員が水槽の水の入れ替えをしたりと多目的に使われる場所である。
水道台のすぐそばには木がある。夏の暑い陽射しも遮断する木陰。その木は、校舎からではよく見えないものの、枝の太さ・間隔がちょうどよく、少し運動神経のいい者なら軽々とよじ登れるようなうまい造りであった。
葉の生い茂ったこの季節。夕日の光を遮断する緑のカーテンに囲まれて、神楽は座っていた。両足をブラブラさせている。と、ぐるるるるーっと大きな音が鳴った。先ほど教室を飛び出してから、行くあてもなくフラフラ歩き回っていたからか。それとも何も食べていないからか。いずれにしても、神楽はそこから動く気力もなかった。


「やっぱ腹減るアル」


神楽は昨日の夜も、朝も、昼も。何かを喉に通せるような気分ではなかった。いつも大食いな分、余計にキツい。
神楽は両足を体に寄せると、木枝の上で器用に三角座りをした。そして膝に顔を埋め、小さくなる。


「やっぱ給食の時間だけでも学校に出席するべきだったネ。あ……給食じゃねーか。弁当持参だったよ銀魂高校(ここ)は」


そう一人でつぶやいたあと、いやいやと首をブンブン振った。
たとえ給食があったとしても。好きな銀八の授業があったとしても。昨日あんなことをしておいて。もう二度とあのクラスには戻れない。戻れるはずがない。
神楽はぎゅっと目をつぶった。
これからどうしよう。学校にも行けない。帰ったって一人ぼっち。ちっとも楽しいことなんてない。考えていると出したくなくても涙が出てくる。止まらなくなる。


「うっ…ぐぅ…う………」


小さな声で神楽はまた泣いていた。昨日妙に殴られ切れた口の端がまだ少しだけ痛む。でもそんな小さな傷よりも、心の奥にできてしまった埋められない傷。傷つけたのは自分だ。誰のせいでもない。自業自得……。
放課後の誰もいないグランドには風が吹き、木の葉がざわざわと揺れる。葉と葉が擦れ合う優しい音に、神楽の泣き声はかき消されていく。

スタッ

スタッ、スタッ

そこへゆっくりとした足音が近づいてきた。風と木の葉の音に掻き消され、神楽はその音が木の真下に来るまで気づけなかった。


「お、ピンク色か」


それは突然真下から聞こえてきた。神楽は驚いて下を見ると、無表情で神楽のことを見上げる沖田がいた。状況を理解してハッと顔を赤らめ、とっさにスカートを押さえようとした。しかし木の下から見られたそれを隠すような術もなく、勢いのままバランスを崩してそのまま枝の上から落下した。
どさっっ!という音と共に校庭の乾いた土埃が舞った。目の前のそれを身動きひとつせず見下ろしている沖田。次の瞬間、ビュンと細い腕が伸びてきて沖田の胸ぐらを掴んだ。そしてグラグラと無表情の沖田を激しく揺さぶる。


「お前!普通女の子が上から落ちてきたら地面にぶつからないよーに受け止めるとこだろーがコラッ!!何ボーッと突っ立ってんだヨ殺すぞ!!お前ちっとはパズーを見習えや殺すぞ!!」
「ならお前はシータを見習ってもっとゆっくり落ちてこいや。そしたら受け止めてやらァ」
「ンなことできるわけねーだろ殺すぞ!!つーか人のパンティー見て何平然として……」


そこまで捲し立てて、はっと我に返った神楽。いつも通りに沖田に歯向かったが、今の自分にはそんな身分がなかったのだと思い返す。そして、沖田から手を離すと黙りこんでしまった。
沖田が見逃さなかったのはパンティーだけじゃない。木の上で神楽はきっと泣いていたのだろう。頬と目の端には涙の跡が残っていた。そして相変わらずウサギのように赤く腫らした瞳。口では暴言を吐かれながらも。なぜだかその顔に見とれた。ああ、そうだ。きっと、パンティー見たせいだ。そういうことにしておこう。
思わず手が伸びる。今度は沖田が神楽の胸ぐらを掴んだ。
驚いた神楽。同じようにグラグラされるのかと思い身構えたが。そうではない。沖田はもう片方の手で優しく神楽の頬に触れてきた。そして親指でそっと目尻をなぞられた。すると目頭に溜まりとどまっていた涙が一粒ぽろんとこぼれる。それは沖田の手をかすめた後落下した。


「かわいそーなやつ」


どういう意味だヨそれ?と聞く間もなかった。すでに至近距離にあった顔と顔はぐんと近づく。呼吸がすぐそばで聞こえてきそうなほど、近い。神楽は動けなかった。
やがて唇と唇があと少しで触れるというところまで迫る。神楽は堪えきらず目をつぶった。それを確認すると沖田は衝動のままその唇に触れようとした、の、だが。


「ぶぇぇっくしょい!!」


突然放たれたそれは沖田の顔を直撃した。沖田の顔からはみ出た唾と鼻水は華麗に宙を舞った。沖田のリアクションは薄かった。ただただ軽蔑の眼差しを向け、ただただ顔と顔の距離を離した。二人の間につーっと糸が引いた。もちろん鼻水である。


「……てめー、普通今のタイミングでくしゃみするか?何?殺されてーの?」


そう言いつつも、神楽を殺しにかかるわけでもなくその場を離れる。そしてスタスタとすぐそばにあった水道台へ向かう。蛇口を全開にひねり水を勢いよく流し始めた。


「…ひ、一人で泣いて溜まってたのヨ。鼻かみたかったのヨ。許せヨ」


沖田の突然の行動に、神楽がどぎまぎしたのは間違いなかった。むず痒くなってくしゃみが出たのは紛れもなくそのせいだ。そう、沖田のせい。私は悪くないヨ。あたふたと神楽は言い訳をする。心の中で。
神楽は自身の鼻から垂れた残りのそれを拭おうとポケットからティッシュを取り出してチーンと噛む。ひどく間抜けな音だった。


「人の、バシャバシャ、顔面で……バシャバシャバシャ、鼻かむ普通?………ティッシュかハンカチに、ガラガラガラ…ペッ、かむだろ普通」
「あほか…ハンカチは汚いからティッシュにしとけヨ」
「あほはてめーだあほ。ガラガラ……ペッ。クソッ、人の顔面にバルスぶちこみやがって!てめー今日という今日は許さ…」


洗顔とうがいを終え、顔の水気を手の甲で払いのけ、ふと横を向くと、沖田は言葉を止めた。
そこには神楽がいた。腹を抱えて、けれどいつもよりは遠慮がちに。笑っている神楽がいた。


「……やっと笑った」


沖田が安堵したようにそう漏らすと神楽は言い返す。


「誰のせいヨ」


久しぶりに笑えた。嬉しかった。懐かしかった。
神楽はまた涙がこぼれそうだった。

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