忍者ブログ

めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

月7

月6のつづきです。
一応ここで完結。ここまで読んでくださりありがとうございました。

死んでもいいわけなんてない。








 チャイナが驚いた顔のまま固まっていたから。耐えきれなくなってまた吹き出しちまった。頬の筋肉が緩んじまっていけねーや。
 心から放った言葉だったから。
 中でのたうち回っていた感情が、一気に昇華され楽になった気がした。

 もうこれ自分で自分のこと笑うしかないよな。ほんとダサいかもしれんが。
 俺は、こいつに惚れてしまっている。どうしようもない現実だった。


「好き……って、えっと………その……」


 うろたえながら言葉を発するチャイナは、俺以上に困惑しているようで。その姿がまた可笑しく愛しかった。
 てっきりさ、嫌アル!とか、却下!とか、おととい来やがれバカ野郎!とか。罵られるかと思ったのに。ちょっと拍子抜けする。
 けど、一度言ってしまえば楽なもんだ。恥もクソもどうでもよくなっていた。
 だからもう一度、念押した。


「………チャイナ、俺じゃだめか?」


 握ったままだったチャイナの手首が、行き場をなくし震えている。俺はまっすぐ見ているというのに、視線を合わせまいと目がキョロキョロしている。

 手を広げ、離してやった。支えを失った片手を、コーンを握ったまま、その場で固まらせている。仕方がないので、上から軽く押さえつけその手を下ろしてやった。


「……なんでアル。なんで、私の……どこが、スきアルか?」


 次第に赤くなっていく顔。すげーわかりやすかった。けど、人のこと言えたツラしてないのは俺も同じだ。はぁ……とため息つきつつ手を自身の甲にあてがうとやはり思った通り、熱かった。


「どこっつーか……なんだろ。わかんない。けどとにかく好きんなった」
「な、なんだヨそれ!意味わかんないアルッ!」


 好きなところなんていっぱいあるさ。大きな目も、桃色の髪も、白い肌も。声も、仕草も、あどけなさも、バカ面も。……優しいところも。あげだしたらきっとキリがない。
 ほんとどうしようもないくらい。


「で、お返事は?」
「へん、……じ?」


 えっと。その?えー…、あーうー……と宇宙と交信してるような単語を並べるので。悪いけど地球語で話してくれる?と確認してみた。
 目を瞬きさせ、泣きそうだとすら思える顔で。俺のことを、じっと見てきた。


「その……お前は、えっと……」
「俺に気ぃ遣わんでいいから。正直に言え」
「……私は、」


 俺は存外落ち着き払っていた。
 だいたい答えは、予想ついてたから。

 チャイナがぎゅっと目をつぶって、パチパチして、もう一回俺の目を見て。そんな一連の動きもずっと目に映し続けてた。
 期待していない、なんて言えば嘘になる。ほんとは喉の奥から込み上げてくるほど、欲しい返事があった。
 でも、目の前で困ってしまっているチャイナがいる。それが答えなのだと。伝える前からちゃんと俺はわかってた。


「……ごめん。私、
 好きとか、…好きじゃないとか…
 ………わかんないアル」


 ゆっくり言葉を紡ぐ。首を横に小さく振って、ほんとにごめん……ともう一度謝り、力なくうつむいていた。
 ほんと調子狂うな。そんなお前のことすら好きだから。お前が悩む必要はないのに。
 景気づけに、白い肌したデコを人差し指で小突いてみた。


「痛でッ!何アル?」
「いいよ、お前はそのままでいい」


 本心のままそう言って。ベンチのそばに広げてたゴミ屑を片し始める。慌ててチャイナは、手に持っていたコーンを口にしまう。そして、サンドイッチも2・3口で食べ終わると早々、俺につっかかった。


「沖田……待つアル!お前は」
「あーすっきりした。ハイおしまい」


 ベンチから立ち上がって。チャイナに背を向けて前へ歩いた。すると、ちょっと待てだかなんだか言いながら。後ろからついてくるこいつに。腕を掴まれ引き止められた。


「待つアル。お前……怒らないアルか」
「は?なんでてめーに俺が怒るんだよ」
「だって!私は、お前を……お前の今日一日を……無駄にしてしまう……
 せっかく、こんな場所まで連れてきてくれたのに、私は……」


 腕掴んだまま、またうつむいている。今日はよくボディータッチされる。いい加減慣れてきたかもしれん。
 バカなやつだなーと呑気に考えていた。同情で付き合ってほしいだなんて思うわけがないのに。だいたい、惚れた方が負けなんだ。今のこいつは明らかに俺より優位のはずなのに。いつものこいつなら、その地位を生かして散々俺をバカにしてくるだろうに。チャンスをみすみす逃してやがる。
 バカなやつだと思い呆れた。


「安心しろよ。俺は今日十分いい思いしてっから」
「……でも」
「別に何も求めちゃいねーよ。だいたい、好きならお付き合いしなきゃならねーって誰が決めたんでィ?
 俺ァてめーが俺のこと、どうとも思ってねーことくらい知ってる。だからそれでいい。お前を連れて来れたってだけで、自分よう頑張ったわって自画自讃してらァ」


 お前は残りのアトラクションを全部乗りたいんだろ?だったら、こんなとこでグズってちゃいけねーや。
 相変わらず困惑した顔のままでいるチャイナの頭を、勢いよくわしゃわしゃと撫でてやった。
 桃色の髪がサラサラと指に絡まる。飾りも然ることながら。綺麗な髪してんなーと想った。

 俺はこいつのことがずっと好きで。けど、それは長い間、口にできなかった。俺がヘタレてたって理由も勿論あるが。何より、伝えたところでどうしようもないと知っていたから。
 惚れた女には、幸せになってほしいと。それができるのは、自分ではないと。わかってる。あのクソ野郎にできねーんなら。俺にもきっとできねーってことくらい。そんなに器用な人間じゃないし、そんなに綺麗な手もしてない。そんなにいろいろ、背負えない。

 ま、要するに自己中ってわけだ。俺が言って楽になりたかっただけ。諦めつけて、オナるのやめたかっただけ。
 だから、正直ホッとしてる。私も好きだ、好きだった、と。言われたかった。けど、言われなくて、安心した。それでいいんだ。それでこそチャイナ娘だろう。
 俺が惚れた女は、俺なんかを好きになったりしない。


「……なんでアル」


 チャイナの小さな声が。体を伝う。と、突然。腕をグイッとクソ馬鹿力で掴み返され、引っ張られた。


「痛でで!何?」
「こっち来て私とゆっくり話しろ!ボケ!」


 あれ?いきなり人格変わったこいつ?
 突然いつも通りの態度に戻ったチャイナに、俺は言い返すこともできず。あっという間に不利な地位に突き落とされた気分だった。するとたちまちイラッとするのもまた俺の性分だ。


「おいてめー離せ!」
「お前が先に掴んできたんだろ!?」
「引っ張んな離せ!」
「嫌アル!こっち来いボケ!!」


 チャイナは俺をしばらく引っ張り続けたのち、急に立ち止まった。はぁ?と、ここはどこなんだと前を見て。………俺は一目散にそこから退散しようと決意した。
 だが、チャイナの馬鹿力の握力がそれを許してくれない。後退りしようとする足は地面を滑るだけだった。

 目の前に立ちはだかるは、観覧車。今はとてもじゃないが。こいつに乗れるような気分がしなかったし。乗りたくもなかった。乗ったらマズイ。絶対気まずい。


「私これ乗りたい!」


 こいつは観覧車というものがどういう場所だか知っているのか?知っててわざと誘ってやがんのか?もしそうならこいつァ俺以上のドSかコラ!
 つーか、何?何がしたいんだこいつ?


「……やだ!離せ!」
「ガキアルかお前は!?ジェットコースターと違ってちゃんと篭で守られてるアル。大丈夫アル」
「やだ!観覧車嫌いやだ!」
「嘘こけ!!お前はジェットコースター以外は余裕のよっちゃんって抜かしてたネ」
「無理、ほんと無理だから。勘弁!」
「嫌アル!!」


 周囲の目がやや痛い。だが構うものか。駄々をこねる俺と。駄々をこねるこいつ。末っ子気質同士はこれだからやんなっちまう。
 ……結局、年上の俺が折れる羽目になる。年上の沙汰だ。
 仕方がなかった。抵抗をやめた俺に。まっすぐ向ける目。無邪気さなどどこかへ消えたみたいに、大人しかった。


「ありがとうアル。……向き合って、ちゃんと話したいアル」


 最終的にそんなことを言われ。もう駄々をこねる気も失せた。
 お金を払って2枚分のチケットを渡す。奥へ進むと、向こうからゆっくりとゴンドラがやってきた。滑らかな動きを止めないまま、やや若そうな係員が手際よく扉を開けた。俺が先に乗り込み、チャイナが続いて乗り込む。
 ……と、チャイナは片足が引っかかり。扉から乗りかけたところで一瞬もたついた。よろけた手をとって、引っ張り乗せてやった。
 すると係員は扉をガチャンと閉め。俺らに手を振りながら、遠ざかっていった。


 ……手と手を繋いだまま、チャイナと二人、固まっていた。離せばいいのに。なんとなく、離したくない自分がいて。なぜかチャイナも離そうとしなくて。しばらく数秒間だけ、そのまま固まっていた。





*****


 私より少し大きなその手のひらは熱く感じた。別に今日は特別暑い季節ではないし、汗ばむ理由なんてないはず。
 しばらく固まっていたけど。私は、ゆっくりと手を離した。
 そのときは決まって、こいつの表情を見てしまう。今日のたった半日で身についてしまった、私の悪い癖アル。
 だって、いちいちこいつはちょっと辛そうな顔をするから。本人は無意識なのかもしれないけれど。仮にそうなら余計たちが悪いと思った。

 そんな顔されて、私は話をおしまいにできるほど、鈍感じゃないヨ。お前はそのままでいいなんて、カッコつけやがって。こちとらこのままにしとけるかってんだ、クソサド野郎!
 ……いや、でも。目の前にいるこいつは、もはやクソサドでもなんでもないと思う。例えばホラ、お前も俺のこと好きなんだろ?とか。いいから俺のモノになれよ?とか。サドのセリフってそーゆう感じじゃん?なのに何アルかこいつのさっきの告白の台詞は。

 不覚にも……キュンとしてしまったヨ。

 思い出すと狼狽がまた顔なり声なりに出るから、やめた。確実に洗脳されてる。毒されてる。
 私は、このままだと沖田のこと、好きになってしまいそうだった。



 こいつと二人きりで観覧車に乗りこんだ。それは自殺行為だって、わかってるアル。銀ちゃんから聞いた。観覧車は特別な場所だって。だから、一番最後に乗れって言われた。
わかった上で、でも、ちゃんと確かめたかったから。
 もう少し本音を。聞きたかった。だから。

 扉が閉じられた狭い空間の中で、椅子と椅子との間隔分、たっぷり距離をとって、私たちは向かい合わせに座っていた。
 目を合わせることもなく。お互い右と右、真逆の方向の景色を眺めていた。どんどんと地面が遠ざかっていく。代わりに、外の景色が拓けていく。係員さんの姿もとおに見えなくなって。遊園地にいる人たちが米粒のように小さくなっていった。


「あ……海っ!」


 ゴンドラに乗り込んで放った私の第一声はそれだった。この観覧車を中心に遊園地の敷地が広がり。向こうには、車道や家々が並んでいるのがわかる。そのさらに向こうは、青色の海がどこまでも広がっていた。水平線も徐々に見えてきて。いつか新八から教えてもらったように。ちゃんとまあるく弧を描いて見えていた。
 この地球(ほし)が丸い証拠。その先は見えないけれど、きっとどこまでも続いているのだろう。
 ……ふと、気づいた。こちら側に海が見えるということは。反対側には私たちの住む街が見えるはず!今度は左に首を向け、反対側の窓を覗きこんだ。
 そっち側はやはり。海ではなく、地平線が広がっていた。綺麗な弧ではなくて、遠くの方ででこぼことしている。あれはきっとターミナルなりなんなり、江戸の建物たちだろう。ということは、もう少しあっちのあの辺りがかぶき町かな。そう思い、少しだけ左前に首を向けると。

 ……あ。
 沖田と目が合った。合ってしまった。
 ……しまった。景色に気をとられて、こいつの存在をしばらく忘れていた。


「……ごめん」
「なんで謝る」


 怒ってるかと思い先制防御を張ったけれど。別に怒っていなかったらしい。
 さて……観覧車に乗ったはいいけど。何から話そうか。私は、えーっと……とまたボキャブラリーが貧相に逆戻りしてしまった。
 すると、沖田の方から話を振ってくれた。


「景色、綺麗だな」
「……!う、うん……」


 その言葉に、余計なこと思い出してしまう。月が、綺麗だと。沖田に言われたこと。そうだ……それももうかれこれ2・3ヶ月は前の話になる。
 そんなに前から、こいつは私のことを好いていたアルか。

 ……ずっと、我慢してたアルか。
 なのに、またお前は、我慢しようとする。


「……沖田、あのさ、」


 私が呼び掛けると、ちょっとムッとした顔で私を軽く睨んできた。目をくりっとさせて、ガキみたいないつものこいつの顔だった。


「その¨沖田¨って呼び方、やめてくれねーか」
「なんでアル?いいじゃん別に。お前の正式名称だろ?」
「……いやなんか。慣れねーんだわ。むず痒くなる」


 そう言って、肌を掻く仕草を見せる沖田に。ふと思いつきで、言い返した。


「じゃぁお前も別に、私のこと名前で呼べばいいアル」


 え?と驚いた顔で私を見てくる。そして、いやいや、と手を振られた。


「付き合ってるわけでもねーし。チャイナはチャイナだろチャイナでいいよ別に」
「アホかお前。別に私、銀ちゃんとも新八とも付き合ってないアル。でも二人とも名前で呼んでくれるヨ。関係ないアル」
「あいつらは特別だろ。てめーの家族みたいなもんだし」
「二人だけじゃないアル。さっきマダオも呼んでくれた。それから普段のよっちゃんも、けんちゃんも、尚くんも、最近は大五郎くんだって。みんな、私を名前で呼んでくれるヨ……。なのに……」


 そう言うと途端に、あからさまに私から目をそらされた。顔ごと背けられてしまった。窓の外の景色すら向いちゃいない。私とは反対方向に首を向け、うつむき、黙りこんでしまった。
 景色は見とかないともったいないヨ。そう思い、ふとまた外の景色にちらりと目をやる。観覧車はまだてっぺんにたどり着いていないとわかった。3分の1くらい回ったところだろうか。まだまだ昇っていく。


「てめーは、なんで、観覧車乗ろうなんて言った?」


 表情の見えないそいつから声がした。低く凄んで聞こえたその声に、少しだけ背筋が震えた。別に怖かないけど。また笑わなくなってしまったこいつが、寂しかった。


「……私は。お前のこと、知りたい」
「何がだよ。もう全部ゲロったよ、俺は」
「ゲロってないアル。……1ヶ月前の、あんときのお前の方が、もっとゲロってたアル」
「あれはマジで物理的にゲロっただけだろ?違ぇよそうじゃなくて」
「違わないアル!!だってお前、……私のこと、ゲロも含めて好きっつったヨ?」


 えっ?と。驚いて振り向かれた。
 目を見開き、信じられないという顔をしていた。
 ……そっか、こいつ。覚えてないアルな。あの日自分が言ったことを。
 それならと。ここぞとばかり暴露してやった。


「私に、振り向いてほしいって……言ったヨ?」


 思い出すと、ギューッと絞まる感覚がして。思わず胸に手を当てた。
 ごめんネ……そういうフレーズでは言われてなくて。ちょっと脚色したけど。でも似たようなもんでしょ?お前全然振り向かない、俺はこんなに好きなのにって。そう言ったんだから!


 沖田は何も言わなかった。
 私は、しばらく黙ってた。
 もっといろいろ暴露してやろうかとも思ったけど。黙ってた。胸がキュンと息苦しいし。
 何より、こいつからの言葉が欲しい。


 すると、ようやく口を開いて、私に言った。


「……振り向いてほしいよ、そりゃ」


 私以上に、絞り出されるような声が聞こえた。と、目の前のそいつが、椅子の背もたれの方へ突然ガタンッと体を倒したから、びっくりした!
 振動でゴンドラ自体が揺れて、私もちょっとまごついて立ち上がった。

 そのまま、こちらに顔を見せないまま。動かなくなったから。心配になって、壁の取っ手を持ちつつ、すぐそばへ二・三歩歩み寄った。
 その腕に触れようと手を伸ばすと、乱暴に振り払われた。何アル?いったい。お前は何がしたいアル?そう思っていたら、言われた。


「何がしたいんだよ、チャイナ」


 頑として名前では呼んでくれない。
 顔も合わせてくれない。

 私は……お前の望む返事を返す気などなくて。でも、こんなところにこいつを閉じ込めてしまった。なかなかに酷いことをしているという自覚はあったから。私も何も言えない。


「……俺は、こんな狭いとこ詰めこまれちまって。ほんと……取り返しつかねーほど、お前のこと好きになっちまいそうだ。だから……もう、」
「ねぇ沖田ッ!!」


 私が叫ぶようにして名前を呼ぶと。
 顔を、こちらに向けてくれた。
 ゆっくりと、首を捻って、
 私の目を、辛そうな目で、見上げていた。

 Sは打たれ弱いとかそういうレベルじゃないと思った。
 繊細すぎてマジでチワワじゃねーかこいつ。

 もう、なんか、その表情を見ていたら、頭が振り切れてしまった。体を縮こまらせて。上目遣いで。頬を赤く染めてるこいつを、
 めっちゃ抱き締めたくなってしまったッ!





「……ッ!?チャイナお前!!」


 椅子に片膝をついて、勢いそのままに上半身を抱き締めてあげた。さすがに心底驚いたような上擦った声で反応された。
 体が、めっちゃ温かかった。ギューッと、背中に両手を回して、ハグしてあげた。私より図体はいいけれど、ほんとに、可愛い…………これはあれアル。定春に無性にもふもふしたくなったときと同じような衝動だった。
 わりとすごい勢いでギュッとしたもんだから。もしかしたらちょっと痛かったかもしれない。……と、考えると。我に返り。慌てて体を引き離し立ち上がった。

 ……ごめん、つい。定春とダブった。
 そう言い訳しようと思ったのに、できなかった。させてくれなかった。
 私の体が、動かなくなっていた。
 椅子から勢いよく立ち上がったこいつに、強く抱き締め返されていたからだった。

 当然の流れアルよな、これ。私、なんてことしちゃったんだろう。ごめん。心の中で謝っといた。
 相変わらず体温が高くて、ギュッとされてるとすごくすごくあったかかった。しかもそれだけじゃない。なぜだかわからないけれど、こいつの体からすごくいい匂いがしてきたから面食らった。


「………なぁ、神楽、」


 表情見えない相手から、耳元で名前を呼ばれて胸がじんと疼いた。すぐそばから聞こえてくる苦しそうな声に。胸より下の腹部からもじわんじわんと込み上げてくる感覚。声も出せないほど縛られて。もう、完全にほだされてた。


「ほんとに俺、お前のこと好きでさ、」


 好き、と。さっきも聞いたはずのその台詞に。今度は色っぽい熱がこもっていて。声どころか息さえも、止まってしまいそうだった。
 心臓は、飛び出てしまいそうなほど波打っている。密着した体で絶対こいつにも伝わってる。いやもう、どっちの心音だかもわからない。


「……ごめん。俺さっきからそれしか言えてねーけど。ただ……」


 体温が、そっと離れ。抱き締める力が緩められて、少し顔を離して向かい合った。
 とろんと潤んだ瞳で見つめられ。熱のこもった両手で、大事そうに頬を包まれて。
 ……この場所はまぎれもなく観覧車だ。

 それらの情報でもう、これから何が起こるのかわかった。


 ……私は。受け入れることにした。


「……して、いいヨ」


 そんな言葉を、啄むように。遠慮がちにゆっくり、優しく、唇を包まれた。

 ……好き








*****

「あああああああ!!」
「akgpwdあaxdgwかjsoj5ひp!!」
「ダァァア!!うっせーよお前らなんだよいいとこなのに静かにしてろボケが!!」
「だ、旦那だってうるさいじゃないですか!!」


 あの……突然すみません。はい。ここからのラスト手前までのパートは、この山崎が狂言回し的なことさせていただきます。ほんとすみません。あんぱん投げないでくださいすみません。
 俺が今どこにいるのかを説明しますとですね。大江戸遊園地の観覧車の真下にある小さな係員室です。ここにいるのは俺一人ではありません。すぐ隣には観覧車と繋いだコンセントで上手に映像音声を送受信する女性がいます。そうです。たまさんです。
 今し方叫んだのは俺たち二人です。

 俺たちがなぜここにいるのかって?それは決まってるじゃないですか。長かったシリーズ最終話ですよ?
 俺は改めて旦那たちにテレビ電話で報告しました。


「では改めてご報告を。皆さん、見ましたか聞きましたか?沖田隊長ついにやりましたよ!!どーぞ!」


 俺の報告にウオォォォ!!と歓喜の涙を流すは、我らが局長。画面の向こうで叫んでいます。


「あああ!マジか!とうとうミッションコンプリートしたな総悟!!おおおお父さんは嬉しいぞッ!!」
「近藤さん、あんたいつから沖田さんの父親になったんですか」


 新八くんがつっこみを入れると。タバコに火をつけながら副長が言葉を挟みました。


「たまにはいいじゃねーか。……はぁ、しかし、近藤さんよぅ、こいつァもうなんだ……俺、総悟が小せェガキの頃から見てて。なんかいろいろ思い出しちまうっつーか……。……ケーキか赤飯で祝うべきだろうかこれ」
「土方さん、あんたは何オカンみたいなこと言ってんですか!?」
「トシ、泣きながら喜ぶやつがあるか!しかしよぅ……俺もほんと嬉しいよ。俺も総悟に続いてお妙さんに全力でアタックしてこーかななんて」
「うっぜぇーんですけどなんなのこいつら!!?つーかこれ沖田くんと神楽の話だからね??君たちの登場なんて誰も望んでないからねこの小説に!!」
「銀さん……それ僕たちも一緒ですよ」


 画面の向こうには万事屋の一間に集結した旦那、局長、副長、新八くんがいます。ついでに、その奥には部屋を駆け回る定春くんもいます。
 そうです。皆さんは今朝、沖田隊長に爆撃されてもめげずに。隊長とチャイナさんを監視し続けていたのです。包帯や松葉杖が痛々しいですが。四人とも先程から俺たちが送信するデータをガン見してたわけです。

 てか、実動部隊は俺とたまさんだけなんですけどね。 たくこいつらラクしやがって!これ俺もし沖田隊長に見つかれば確実に抹殺されるからね?命懸けだからね??


「旦那たち、お怪我の方は?」
「全然大したことねーよ。みーんな勝手に万事屋(うち)に集結して若い二人のモニタリングだよ。とんだ親バカどもが揃ったもんだよね、たく」
「銀さん……それ僕たちも一緒です」
「ところでてめーらはどうなんだ?ダブルデートは順調か」


 旦那が茶化すように言ってきたので答えました。


「旦那……これってダブルデートなんですか?これただの一組のカップルを尾行するもう一組のカップルですよ?」
「さりげなくカップルとか抜かしてんじゃねーよ腹立つな!」


 旦那からふってきたくせになにさ。

 と、たまさんがツンツンと俺の肩をつついてきました。そうかもう時間だな。
 たまさんは体に内蔵されたからくりを使って、二人の一部始終を上手に旦那たちの元へと届けていたのです。たまさんは抜かりなく器用だし。俺は地味で目立たないし。まさにカップルの密偵に相応しいカップルなんでしょうね。


「……旦那、二人を乗せたゴンドラがそろそろ戻ってきます!」


 たまさんは手際よく陰に身を潜めて隠れ。係員に変装していた俺は二人が出てくるのを待ちました。

 さてさて、いったいどんな雰囲気で出てくることやら。乗り込むときみたく、手を繋いだまま降りてくるかもしれないし。ひょっとしたらまだまだチューしてるかもしれない。
 期待に胸を膨らませつつ、俺は目当てのゴンドラを待っていました。
が、


 ズゴーーーーン!!!


 何が起こったかわからない。
 丁寧口調もういいや。めんどい。
 ふと気づけば顔面血だらけで、乗り場付近の柵にもたれ掛かって座り込んでいた。柵に背中を強打し動けない。何事だ?
 たまさんが慌てて駆け寄ってきてくれた。


「山崎さん、大丈夫ですか?」
「た、たまさん……今いったい何が?ふ、二人は?」
「ケンカしながらゴンドラを降りて行かれました。山崎さんはゴンドラの神楽様が扉を開ける勢いごと叩き飛ばされたのです」
「どんだけ馬鹿力!?なんなのあいつら!!?」


 通信機能は壊れて途絶えたし。俺はもう密偵する気が失せていた。やってらんねー!つーかせっかく遊園地まで来てなんで俺らだけこんなコソコソしなきゃならねーわけ!?

 ……ということで、ここからは普通にデートしましょうか、ね、たまさん?


「さあ、帰りましょうか山崎さん」
「なんでだよォ!?」







*****


「なんでだヨォ!?あり得ねーアル!!何アルかお前!?普通チューっつったら可愛く小さくチュッてやるもんだろーがこのクソエロサド野郎が!!」
「ふっざけんな!!あんな顔して『いいヨ』なんて言われちゃベロチュー以外ねーだろ絶対!!なんで拳で殴られなきゃなんねーんだよこのクソウブガキが!!」
「お前にウブとか言われたかねーヨこのクソウブエロサド野郎!!」


 私とクソサドは互いに大声で怒鳴りながら遊園地をあとにしていた。まだ真っ昼間の3時か4時だというのに。世のカップルたちはこれからムード満天に楽しむだろうという時間帯がやってくるだろーに!カップルのカの字にもならない私たちは、互いに睨み合いながら駐車場に辿り着いた。
 そして、同時にバンッ!と車の前方扉を開け、同時にバンッ!と閉めた。


「……てめー、何当たり前のように助手席乗ってんだよ殺すぞ」
「なんで私がお前の後ろに乗らなきゃならんネ?お前が後ろに乗れヨ私より前に座るなヨ」
「俺が後ろで誰が運転すんだよバーカ。てめーは一生トランクにでも乗っとけ」
「あぁ??トランクに縄で縛って引きずり倒したろかこのアホが??」
「だからその場合誰が運転すんだよ、たく!」


 いつの間にかすべてのスタンバイを終えていたこいつは、手際よく車を発進させた。私は一応行儀よくシートベルトを装着していた。車の景色が動き出した。観覧車が遠ざかっていく。お土産は買えてないけどもうそんなことはどーでもよかった。
 すっかり調子を取り戻した私たちは、非日常から日常へ。場所も気分も戻っていく道中だ。


「………良かったのかてめー。まだ乗ってねーアトラクションあっただろ」
「もういいアル。私はもう十分、アトラクトされたアル」
「………へぇー」


 まるで他人事のように生返事するこいつに。私は渾身のデコピンを食らわせた。
 痛っで今運転中!!と、デコから一筋の血を流しながらこいつは運転していた。


「お前のチューはキモすぎアル。もうちょい女の子の気持ち考えた方がいいアルヨ」


 仕方がないので、持ってたハンカチでごしごしとデコから鼻筋にかけてを拭いてやった。前見えねー!とか文句言いながらも相変わらず安全運転してくれていた。


「……けど、これでわかったろ?てめーと俺とは恋人だのカップルだのにはなれねーってこった」
「よく言うアル。自分から火種撒き散らしたくせに。……私のドキドキを返せ!」
「ドキドキした?ハハ。なら俺の策戦通りだ」
「死ねヨこいつ!!」


 自分の唇に。指でなんとなく触れてみた。
あまり意識したことがなかったけど。人の唇って、あんなに柔らかいものだったなんて知らなかった。
 それに加え、口の中に舌がめぐりこんできて。口内をべろべろ舐められて、そのせいで脳みそが甘く痺らされるなんて。そんなのズルかった。
 気持ち悪いのは、こいつだけじゃない。私の、こいつへの反応も。気持ち悪かった。舌が絡んでされるがまま探られっぱなしなんて。こんなのなんか違うって思っちゃったから。
 とりあえず私がこいつをグーで殴ったことで。お互い目が覚めたように開き直ったのだった。


「……けど、チャイナ。今日は楽しかったよ」
「やめろヨ。またそーゆうテンションぶり返させるアルか?」


 せっかくフラグを拳で殴り折ってきたのに。

 私もこいつも。わかってる。
 私たちの間に、お付き合いとか、恋人関係とか。そんな大義名分必要ないなんてこと。
 だから、こいつも私にそれを求めないし。
 もちろん私も求めない。
 そんなもんなくたって。私はお前のこと、好きなときは好きだし。嫌いなときは嫌いアル。……まぁ、後者が大半だけど。

 別に何もしなくたって私たちは、これからも付き合っていかなくちゃいけない腐れ縁アル。嬉しいことがあれば一緒に喜んでやるし。辛いことも一緒に歯をくい縛ってやる。
 万事屋と真選組(うちとそっち)は、既にそういう関係アル。


「言っとっけど。今日一日嘘は吐いてねーからな、俺は」
「……勝手に言っとけヨ」


 憎まれ口叩くこいつのこと、ちゃんとわかってる。
 こいつは、私のことを想ってくれてるから。ほんとは観覧車の中でなくても、私に抱きついたり、チューしたり。そういうの全部意地張って我慢してる。
 それがわかったから。私はもう満足だと思う。随分勝手だと思われるかもしれないけれど。たぶんこいつも、そんなド勝手な私を望んでいるだろうから。
 私は、そんな期待に応えてあげるだけアル。


「あーあ。じゃぁまた俺は振り出し戻りだ。地道にアピールでもしていくかねィ。今度はDOM策戦とか」
「なんだヨそれ?」
「秘密」


 そんなよくわからん策戦しなくても……と。私は、こいつの横顔を見ながら。言った。


「……もし、また私と二人で出掛けたくなったときは誘ってきてもいいアルヨ。気が向いたら行ってやるネ」
「バーカ、俺がお前と遊んでやってんのに何言ってんだ」
「私だって遊んでやってるアルヨ!」


 けどま、たまにはお前と遊んでやるのも悪かないネ。
 そう言うと、じゃぁさ、と。突然、こいつはハンドルをきった。明らかにかぶき町方面とは別の方向へ転換しやがった。


「な!お前どこ行くアル!?」
「今日もうちょっとだけ付き合ってくれるか?」
「はぁ?けどお前、夕方か夜から仕事があるって」
「ああ………そいつァ嘘だ」
「なっ!お前嘘吐いてんじゃねーかヨ!!」
「あ、たしかに」


 突然わけのわからないネタバラシを食らって面食らった。
 あれ?まだ日常へ戻らないアルか?銀魂のお約束ヨ?
 別に私は暇だし構わないけれど。いったいどこへ向かっているのかと尋ねれば。意外な答えに驚いた。


「海行きたい」
「海アルか!?」
「さっき観覧車乗ってて思ったんだ」
「お前は街の方向いて乗ってただろ?」
「……ちっ、うぜぇー」


 なんだヨ舌打ちしてんじゃねーヨ!遊園地から帰るフリしてがっつり第2計画へ移行してるし!端から行くつもりだったのか?


「別にいいけど。海で何するアルか」
「ぼーっとする」
「お前はいつもぼーっとしてるだろ?」
「お前はちぃとはぼーっとする時間過ごせ」
「嫌アル。レディーは広い海を泳いだり駆け回ったりしたいアル!海開きもしてないのに行ってもつまんないアル!」
「レディーっつーかサルだろサル」


 またそういう余計なこと言ってくるもんだから。足で一発横へ蹴り入れてやった。


「ちょ!足はやめて。ペダルあるからやめて」
「サルが隣にいると緊張すんのかお前?今度ビチグソ丸連れてきてここ乗せてやろーか?」


 赤信号。車は停まる。
 静かな車内で、そこだけ強調されるように響いた。


「……悪ぃけど。今ちょっとマジで緊張はしてる」


 すぐに信号が変わり、また動き出した。
 今の……ずるい!死ネ!くそサド!!


「い、いきなり素直になってんじゃねーぞコノヤロー!もう騙されないアルほだされないアル」
「じゃー俺も聞くけど?……その髪飾り何?今日ずっと思ってたんだけどそれ何?反則だろ?」
「は、反則って何がアル!!これは姉御が貸してくれたから使いたかっただけアル。別にお前の気を引こうとかじゃないし。お前に褒められたいからとかそんなじゃないし。似合ってるとか言われたいとかそんなんじゃ」
「わーったよもう全部筒抜けだよお前」


 そう言って、
 笑ってくれた。


「だっせぇー」
「お互い様アル」


 嬉しかった。
 月の力なんて、要らない。
 私もこいつも。ちょっと特別なのヨきっと。


 月が綺麗だと告白されれば、それを受け入れるとき
 死んでもいいやって返すのがお決まりらしい。

 ……死んでもいいやなんて、そんなこと私たちが言えるわけない。

 私はまだ死にたくないし。こいつもきっと、死ぬわけにはいかない。
 お互い様。
 これから、もっと仲良くなれるかもしれないし。本当に恋人同士になる可能性もあるかもしれないけど。少なくともまだ今は、お互い死にたくない。





 海は東の方角にある。海の果てへと続く月の路(みち)もきっと見られるだろう。
 海辺に着いてボーっと過ごす私たちは、海風に揺られながら、きっとこんな会話をする。


「月、綺麗だな」
「そりゃそうアル。だって晴れてるし、満月だし。今日は月がよく見える日ネ」
「へっ、違いねーや」


 私は、こいつとそんな何気ない会話ができれば、それで十分アル。
 そんな会話が、大好きアル。






拍手[11回]

PR