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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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知らない顔

バレンタインのお話です。







 ぶらりん、と。片手に握った可愛いラッピング袋をちらつかせた。
 沖田はその瞳を、右へ左へ。
 眉をピクリともさせず、私の前に立っている。
 少し背の低い私は、精一杯の背伸びをして、沖田に向き合ってる。


「ほ、欲しいだろ?お前……」


 仕方がないからあげてやってもいいヨ
 そんな調子で、強がって。

 私は今、いつになく背伸びをしてる。

 私がぴょんぴょんとジャンプする度、靴の底と地面の草木がわさわさとぶつかり揺れる音。
 誰もいない、河原の橋の下。
 ひた隠しにしてた自分を、精一杯伝えようと思った。


 ほ、ほら、早く受けとれヨ
 でないと、不安な気持ちになるヨ……







 沖田はポケットに手を突っ込んだまま、何も言わない。言ってくれない。
 不思議そうに、私と、チョコの入った袋とを交互に見比べる。


 早くしないと、溶けちゃうヨ。


 私の心の声が脳内にこだまする。
 2月のまだ寒い季節だというのに、
 この今の熱で、チョコも心も溶けてしまいそう。

 みんなに教えてもらいながら、一生懸命作った小さなチョコ。
 精一杯強がって、腕をピンと延ばして差し出していた。

 私の心はバクバクと波打っている。


「……何か、言えヨ」


 あまりいい反応がないことでいたたまれなくなって、延ばしていた腕をそっと曲げ、自分の方へ引き戻した。

 もしかして、チョコは嫌いだっただろうか。
 あるいは、他の人らからたくさんもらったからと、飽きてしまっただろうか。
 それならそうと言ってくれればいいのに……。
 どうして黙ってる?
 ぐるぐると頭が混乱する。
 こいつは今、どんな顔をして私を見てるんだろう。
 どんな気持ちで……。

 河原のせせらぎに耳を傾け、行き場のない意識をごまかしていると、
 





「………あのさ、」


 俯いていた私に、ぶっきらぼうな言葉が降ってきた。
 ぴくりと肩が震えた。
 視線を向けることができなくて、手に握ったラッピング袋のリボンをモゾモゾといじった。


「それ、お前作ったの?」


 いつも通りの声色が、やけに冷たく感じる。
 作ってたら、何だと言うのか。


「……つ、作ったヨ」
「……一人でか」
「う、うむ……」


 会話の先に続く言葉がいちいち怖くて、変な汗が出てくる。
 何?まさか毒入りとでも思ってる??
 ふーん……と気のない返事に、胸の奥がきゅっとなった。

 不安をごまかすように指先でもてあそんでいると、リボンの輪っかがするりと緩んでしまった。
 あ、しまった。せっかく綺麗な蝶々結びにしてたのに。
 慌ててリボンの先を引っ張り直した。
 なんだかもう、早く帰りたくなってきた。


「い、言っとくけど、毒は入ってないヨ……」


 視線を右へ左へそらしながら、これ以上ないほど小さな声でそう言った。
 本当に入ってない。入れてない。
 でも日頃の私を見て、こいつは毒入りだと推測するだろうか。
 そしたら、受け取ってくれないだろうな……。
 胸が苦しい……。







 すると、突然だった。
 プッ、と。小さく吹き出すような笑い声がした。


「な、何アル?」


 慌てて目を白黒させていると、私の手元に、にゅんと大きな手が伸びてきた。
 そしてあっと思う間もなく、私の手からラッピング袋がかっさらわれた。


「どれどれ?」


 おどけた声に、心臓が高鳴る。
 半ばむりやり奪い取られる拍子に、リボンが指に絡んでついにほどけてしまった。
 私の指にはリボンだけが残っていて、小さな袋は沖田の手へと渡った。


 おそるおそる、顔を上げた。


 そこには、私に顔を見られないよう、そっぽを向いている沖田がいた。
 それほど長くない横髪の隙間から、赤く染まった頬が見える。

 こいつのこんな頬っぺた……初めて見る。
 特別なものを見れた気分で、ちょっぴり嬉しくなった。

 大きな手は袋をまさぐり、中から小さなチョコをひとつ取り出した。
 指に挟んで、じっとそのトッピングを見た後、ぱくりと一口で頬張った。


「……うまい」


 もぐもぐしながら、そんな言葉がポロリとこぼされて。
 私は思わず目をきゅっとつぶって、小さくガッツポーズした。
 頬っぺたが焼けそうなほど、熱くなって、手のひらで隠した。
 今きっと、私も赤くなってる……。


「あ、あのネ、沖田……」


 どうしても、心臓の高鳴りを抑えることができずにいる。
 指のリボンをくるりくるり。
 ずっとほどけなかった気持ちが、ようやくするすると滑り始める。







「………好き、だヨ」


 精一杯の決意で、伝えた。
 言いきった。

 次の瞬間、さも傑作だとばかりに笑われることを覚悟した。
 バカにされても仕方ないと、腹をくくって今日はここに来た。
 撃沈しても、逃げないと決めていた。

 ……でも、笑い声は聞こえない。
 しばらくの沈黙が続くだけ。


 私は怖くて、正面を見れない。
 でも、戸惑う空気がビンビンに伝わってくる。
 私の中で、言いきったという安心感と恐怖感とが交差し駆け巡っていた。







 ……すると、スーと息を吸う音が聞こえた。
 そして、フーーッと吐き出される。
 何だろう。
 期待と不安の中、沖田の反応を待つ。





「……ありがと」


 短くそう言うと、また黙りこんでしまった。
 あまりにも似つかわしくないその言葉は、肯定とも否定ともとることができて。
 一体、どっち?


「……沖田?」


 そっぽを向いたままの顔を覗きこもうと一歩踏み出す。






 すると、見えた。
 沖田は……照れくさそうに笑っていた。


「俺でいいの、ほんとに」


 私が覗きこむので、沖田はチョコの袋を持った手のひらで顔を覆うように隠す。
 その隙間から、口角が上がっているのが見えて、
 ようやく私は、安心することができた。


「……いいヨ、お前がいい」


 私がそう言うと、マジか……と。
 困惑するように呟いて、


「あーやべ、嬉し……」


 たまんない、という声をあげて、唇を噛み締めて、
 なんとも恥ずかしそうな表情をしていた。
 私は、そんな沖田のことを見ていられなくて、ぱちぱちと瞬きしてごまかした。


「俺ァお前に何もしてねぇけど」
「……知ってるアル」
「この先も何もしてやれねーぜ?」
「別に、いらないネ」


 それでもいいから、伝えたかった。
 付き合えとか、デートしろとか、言わない。言えないとわかってる。
 でも、お前のこと、放っておけないから……。
 それに、私にとって、初めてこんな気持ちをくれた人だから。
 伝えたかったのヨ。


「お前のこと、好きアル」


 念を押してそう言うと、沖田は本当に困ったような顔で笑っていた。
 その反応は、私がここに来るまでに何パターンも考えていた沖田の返事パターンの中にはなかった。
 また私の知らない、新しいこいつの一面が見れた。
 そのことがたまらなく嬉しい。
 これから先、何度だって言ってやりたくなった。


「……好きだったよ、俺も。ずっと」


 泣きそうなほど心もとない声が、耳に届く。
 その言葉が、どれ程私を舞い上がらせるか。
 涙が出るほど嬉しくさせるのか。
 私の甘ったるい思考回路じゃ、想像の範ちゅうを越えていて、太刀打ちできない。


 私は今、どんな顔をしてる?
 それはきっと、目の前にいる沖田しか知らない。


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