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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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陽だまり

二人の始まりのお話。
後先考えてませんが、続きを書いていければなぁと思っています。













 その目を見ると、心が傷んだ。





 昼下がりのかぶき町は、私の苦手な太陽がサンサンと射し込んでくる。でも、私は日向を歩く方が好きだから。お気に入りの傘は重宝してる。晴れやかな気持ちになれるこんな気候。
 日陰よりも日向の方が好きし、日向を歩きたい派である。


 でも、あいつは違った。


 あいつが纏う空気は、路地裏のじめじめとした日陰を思い起こさせるような、いつもどこか根暗くて、でも、意地っぱりといった感じ。
 腰に据えている刀は、いったい何人の血を吸ってるんだろう。きっとそんなこと、考えるだけ無駄な程の人数だろう。
 最初は、あいつのこと、ただの無表情で無愛想な奴なんだと思ってた。けど、どうやら違う気がする。あいつは、きっと、ああいう表情しかできないんだ。とんでもなく不器用なだけな気がする。
 顔面が世間でいうところイケメンじゃなければ、女性に振り向きもされないだろう。

 そんなあいつのことを、私は嫌いになれなかった。
 たぶん私も元来根暗いのかもしれない。銀ちゃんたちと一緒にいるから、気づかないだけなのかも。
 夜兎の性質上、日向は苦手なはずだから。





「お前、私のことをなんだと思ってるアル!?」


 それは、単純に興味でしかなかった。
 喧嘩の最中、あまりにもあいつがムカつくことを言ったから、そうやって聞いた。ムカつくことの具体的な内容は忘れちゃったけど、別にいつものことだ。
 これでも一応私の方が年下なわけだし、もうちょっと女の子っぽい扱いをしてくれてもいい気がする。なのにあいつときたら………



















 そんな数日前の出来事を不意に思い出したのは、数日ぶりにあいつの姿を見掛けたからだった。

 あいつは、相も変わらず日陰のように真っ黒な隊服を身に纏っていた。2、3人の隊士を引き連れて。
 「仕事」に行くところなのか、帰りがけなのか。どっちか知らないけど。あぁあ可哀想に。一人の隊士が駆けてきて、手に持ったガリガリ君をあいつに差し出している。私はそんな様子を、遠目に見ていた。
 あいつは一体何様のつもりなのか。もともと真選組は嫌いだけど、パシりにされてる様子はさすがに同情する。
 私は頬張った酢昆布をもしゃもしゃと噛み締めながらぼんやり眺めている。日陰の通り道。淡々とアイスを貪るあいつを。


「………あ、チャイナさん!」


 ぼんやりしていたら、隊士の一人に気づかれてしまった。呑気に手を振ってくるのは、さっきガリガリ君を持ってきてた奴だ。誰だかよく知らないけど、真選組の騒動にこれまで万事屋(うち)は何度も巻き込まれてきたわけだし。私は奴らにとって多少有名人なのかもしれないな、なんて。
 ……てか、おいおい。近づいてくんじゃねーヨ。私は酢昆布を食うのに忙しいネ。お前らチンピラの与太話に付き合うくらいならもう一箱酢昆布買いに行く方がよっぽど有意義アル……………ん?てか、あいつなんか見覚えある気がする。
 そいつは息を軽くきらしながら私の前で立ち止まった。


「チャイナさん!なんで無視して行こうとするんですかぁ!」
「無視じゃないアル。誰かわかんなかったネ」
「そりゃないよぉ。今までそこそこ共演してきたのにっ!」
「共演とか言うなヨ」


 私とジミーが会話してるのもお構いなしに、アイスキャンディーを貪ってるあいつの気配が、ゆっくりとこちらに近づいてきてるのはわかってた。
 でも私は、シカトを貫く。
 あいつが私にこちらにも目を向けろと眼差しで訴えてきてることもわかってる。でも私は応じない。だってそんな義理なんてないから。


「あ、あの子が例の……」
「おいやめとけ」


 ジミーの後ろ。本当に私と面識のないであろう隊士二人組が、ひそひそと私の顔をチラ見して話している。女々しいアル。こちとらあんまり愉快な態度ではない。だからガン飛ばしてやる。


「なんか私の顔付いてるアルか?」
「えっ!?い、いや、何も!」
「じゃぁひそひそ話すなヨしばくぞコラ」
「ヒィ!すいません!!」


 私のじりりとした視線をジミーが遮る。まあまあチャイナさん、と。割って入ったジミーは、私がすかさず繰り出したアッパーをによって、一撃で倒れた。
 ジミーの後ろ、ひぃぃ!!っと怯えた顔で向かい合う隊士二人。そしてそのまた後ろに、あいつがいた。こちらにガン飛ばして突っ立っていた。


「ケーサツの前で暴力沙汰とはいい度胸だな」
「大丈夫ネ。手加減してやったヨ」

「チャ、チャイナさん………そういう問題じゃないですって………」


 ジミーが少し起き上がった。
 あいつの手元、ジミーに買ってこさせたアイスは、もう食べきってなくなってしまったようだった。あいつは木の棒を2ー3秒、じっと見つめた後、「チッ、ハズレか」と、その棒を日陰の道ばた投げ捨てた。
 サイテーアルな。警察の風上にも置けないネ。


「おいザキ」
「ああ、はい」


 こいつらは一心同体なのかホモなのか。ただそれだけの目配せで通じ合い、ジミーはそこにいた他の隊士を引き連れて反対方向へそそくさと歩いて行ってしまった。
 歩きながら、ジミーは何やら二人に耳打ちをした。すると隊士の一人が「ええ!?アタリが出るまでとか無茶っすよー!」なんて声をあげていたのが聞こえた。
 3人はあっという間に遠ざかってしまった。

 取り残された私たち。
 日陰の中、私は傘を閉じた。こいつは…………沖田は、黙ったまま地面に投げ捨てた木の棒をもう一度拾いあげて、見つめてじっとしていた。


「見てたってハズレはアタリには変わらないアル」


 こいつとの間の沈黙が苦手な私は、そんな当たり前のことを口にする。案の定、ンなことわかってる、と。素っ気なく返された。沖田は再び、木の棒を投げ捨てた。それは、今度はポリバケツの中に吸い込まれていった。

 ああ、なんか気まずいな……。

 どうやらジミーはアタリ棒を読めなくても空気は読めるようで。私たちをあえて二人きりに残して、おそらくしばらくはコンビニやら駄菓子屋やらから帰ってこないんだろう。
 諦めるしかなかった。


「……で?」
「何アル」


 私と沖田は、ジミーと沖田のように、阿吽の呼吸で通ずることなんてない………はずだった。
 なのに、この時ばかりは、「で?」という言葉だけで何もかも通じてしまう。自分で自分に辟易した。
 とりあえず癪にさわるので「何アル?」とすっとぼけて返事をしてみた。


「焦らすのな」


 沖田は下を向いたまま、口角を少し上げて小さく笑った。バカにしたような嫌な笑い方。度々見かける表情。けれど、このときばかりは、沖田が自分で自分自身をバカにしているような、そんな印象を受けた。
 いっそうのこと、私がたった一言、「お前なんか嫌いだし興味もない」とさえ言ってしまえば、沖田のことをめっためたのぎったぎたに傷つけたうえで帰所を促すことができる。
 でも、それは私のポリシーに反した。あと、興味がないことは、ない。
 今までなら何の気もなしに暴言を言えたのに。あの日以来、タブーのようになってしまっていた。
 言ったらきっと、こいつの中の何かが壊れてしまう。大袈裟かもしれないけれど、先日の出来事は、それほどまでにインパクトが強かったし、珍しいほどに、あいつの心のこもった言動だったから。


「いつになったら返事を?」
「…………わかんないアル」


 沖田はやっと顔を上げて、私のことを見てきた。
 やっと引き下がってくれるか。内心安堵したのも、束の間だった。


「なら、仕方ねぇな」


 沖田はそう口にしながら私に数歩詰め寄ってきた。
 へ?と一瞬気を抜かしていると、あろうことか、乱暴に私の手首を掴んで引っ張った。


「ちょっと!何アルか!?」


 よっととよろけてそのまま、沖田が引っ張る方向へ体がつられた。しばらく引っ張られ続ける中で、ふと、気づいた。
 この先は人目のない路地裏。ますます薄暗い場所だ。
 私は足腰に力を入れた。言い知れぬ嫌な予感がした。連れていかれるまいと、その場に踏みとどまろうとするけど、そんな私の手首を、沖田は乱暴に引っ張り続けた。痛いッて! 大した物理的痛みはないけれど。そんな体の痛みとは違う………まるで、沖田の内心の痛みを訴えかけられてるみたいだと思えば、耐え難かった。
 私は精一杯力を減らして、その場に踏みとどまり続けた。端から見れば、いやだいやだと駄々をこねて母親についていかない子供のように。じりりとやや引っ張られつつ地面が摩擦音を立てながらも連れていかれまいとする。軽く砂埃が舞う中、沖田はまだ手を離してくれなかった。


「お前、いい加減に、しろ!!」


 埒があかないので、掴まれた手首に絡まる指を1本1本無理やり剥がして振り払った。
 ようやく手が解放される。すぐに戻るとは言え、パッと見は痛々しいほど鬱血した手首が、沖田の握っていた力の強さを物語っていた。

 手を離した後、私の一人分前を歩いてた沖田は、こちらに振り返ろうとしなかった。
 その背中は、クツクツと肩を震わせていた。こいつはまた気持ち悪く笑ってる。私は少しイライラした。


「何?裏道で襲われるとでも思った?」


 笑い混じりの沖田の声を聞いた瞬間、私は、後ろからその黒い背中に蹴りを入れてやった。これでもだいぶ手加減してやったつもりだったけど、沖田が前の地面にガクッと倒れ込む程度の蹴りにはなった。
 沖田はその場に倒れこんだまま起き上がらない。


「………お前、今日なんか、変アル」


 いつも変だけど。輪をかけて今日は変だ。
 私がそう言うと、「そうかもな」とだけ、あっけらかんと返事をした。沖田は寝転がった体勢から起き上がってその場に座り込んでしまった。

 日陰にずっといると、それはそれで肌寒い。早くここから立ち去りたい。でも、ジミーたちがこいつを迎えに来る気配すらない。
 たぶんこいつとここで「決着」をつけるまで、帰れないんだろう。
 そう悟ると、もういいやってなった。


「私、無理やりとか、そんなんは嫌アル……」


 私は沖田にゆっくりと歩み寄って、その場にしゃがんだ。顔を覗きこむ。
 沖田は長い睫毛を瞬きしながら、私の言葉を待っている。


「でも、そうじゃないなら、私………」


 ………耳が、つーんとするような感覚がした。
 頭の中が沸騰するように、熱が上がってきていて、喉元まで出かけた言葉は、なかなか吐き出すことができずに躊躇していた………












( お前、私のことをなんだと思ってるアル!? )


 あの時、私が発した言葉に、バカだのブスだの、いつものような言葉の返答がなくて、あれ?と思う程の変な間があった。
 おかしいな………と思っていたところ。たっぷりとした間をとって。あいつは私に言った。


(惚れてる………)


 私はその言葉に、自分の耳を疑って、開いた口も塞がらなくて。完全に固まってしまっていたところ。
 沖田は、…………その時だけは…………陽だまりのように穏やかな笑みを浮かべながら、照れくさそうに、言ったんだ。


(お前と付き合いたい)




















「付き合ってもいいアル」


 私はあの時してあげられなかった返答を、ようやく今、伝えることができた。
 今度は沖田の方が、私の言葉に驚いた様子だった。えっ?!と目を大きく見開く。そして、何度も瞬きしていた。本当に予想外だったのか。私の言葉に意表を突かれ、おそるおそるといった様子で顔を上げてきた。
 私の目を見るその目は、先程までのどんよりと沈んだ根暗いものではなかった。何かの希望と不安を入り乱せるように、私の目をまっすぐに見たまま、固まっていた。
 まるで、ただの「子供」だった。


「本当、に……?」


 戸惑いながら少しだけ上擦るその声を聞いて、私は、そこで初めて、自分の発した言葉の重みを知ったような気がする。
 知りながらも、頷いた。
 私は、事の重大さを、今になって理解したかもしれない。いや、まだ理解できてないかもしれない。

 私と、沖田が、付き合うんだ……。

 興味本位でも、同情でも、たとえどんな理由があろうとも関係ない。付き合うということは、つまり男女の仲を紡いでいくことになるんだ。
 私は、急に不安を感じてきてしまった。
 「や、やっぱり撤回で!」なんて、とてもじゃないけど言えなかったし、別に言うつもりもないけれど。
 おそるおそる伸ばされた両腕に私は捕まえられて、ぎゅうっと、その場で抱き締められてしまう。胸元に顔をうずめると、存外いい匂いがした。今度こそ本当に逃げられない。

 暗くてじめじめしていると思っていた男の懐は、寂しさを埋めようと、人肌を欲していて。抱き締められると衣服越しに伝わる体温があまりにも生身の人間だった。優しく、腫れ物にでも触れるように、先程から一転した態度。
 私は、諦めたように目を閉じた。
 この先、沖田の存在が、これまで以上に私の中で大きくなっていくだろうということに、不安と責任を感じていた。



 穏やかな日向は、まだ遠い。
 そんな気がする。



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