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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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雨色フラグ

雨音を聞く。素直になれる瞬間。








 ……っくしゅんっ……


 しとしとと降り続く雨はおさまりそうになかった。ジメジメするし鬱陶しい。今すぐ傘がほしい。
 出掛けるとき、置いてきてしまったのは本日最大の失敗だ。
 これでも一応、今日は仕事のために外出していた。なのに何この仕打ち………。まあそりゃたしかに。今朝出掛けるとき、結野アナは雨だと言っていた。確かにそれは、ちゃんと聞いちゃいたんだけど……


「あー………どうしよ」


 雨に打たれながら、道をふらふらと歩いていた。







*****


「傘、忘れたのか?しょうがないやつアル」


 文句を垂れつつも、私は一方的にその人影へ歩み寄る。
 傘を持たずに歩いていたようで、そいつは全身ずぶ濡れで目をぼんやりとさせていた。
 仕方がないアルな。ひょぃと傘の中に、その体の半分を入れてやった。そこそこ大きな私の番傘は、二人分入るにはちょうど良いと思う。
 すると、傘の下、至近距離から驚いたように見下ろされた。


「何してんでィ」
「可哀想な仔犬を助けてやってるね」
「誰が仔犬だ。……要らねぇよ、あっち行け」
「人の親切踏みにじってるとロクなことないアルヨ」


 髪も体もずぶ濡れのくせに。さっきくしゃみだってしてた。そのままじゃ風邪ひくぞ。
 ちっ…と観念したように傘の下にとどまったあいつは、いつもより相当弱って見えた。私は満足げに笑ってみせた。


「感謝するヨロシ」

「……ありがとな」


 素直に感謝された。
 自分で要求しときながら、それはそれでむず痒い気持ちになってしまう。
 たまらなくなって、無言で足蹴りした。
 あいつは目を閉じて、困ったように笑みを浮かべていただけだった。









*****


 それは、夢だった。
 今朝私が見た夢の内容。お昼になった今でも、まだ鮮明に思い返されるそれは、もはや軽くトラウマですらある。


「なんだテメー、傘はどうしたんだ」


 夢の中で弱っていたはずのこいつは、
 今しがたたまたま出会ったこいつは、
 傘を忘れた私の体を、傘で雨から守ってくれていた。

 黒色のなんの変哲もない傘。大きさはそこそこあり、私の体はすっぽりとカバーされた。
 私はもう髪も服もびしゃびしゃで。べっくしょい!!と、もう一度くしゃみをしたあと、鼻水をすすりながら言った。


「忘れたアル…万事屋に」
「忘れた?いつも持ち歩いてんだろィ」
「うん、まぁ……」


 言葉を濁して視線をそらす。

 フラグを、回避したつもりだった。
 もしあれが正夢になったら、そんなの困ると思って。
 私が親しげに声をかけて、こいつが私に感謝するなんて。どう考えてもおかしいから。そんなことが起きないようにと、傘をわざと置いてきたというのに。
 これじゃぁ立場が逆転しただけで結局夢と同じだ。


「……要らないアル。どっか消えろヨ」
「おいおい、人の親切はありがたく受け取っとかねぇとバチ当たんぞ。感謝しろィ」


 あぁ、やっぱり。デジャブだ。


「その……えっと…………あ、………あり………むむむ………」
「オイ何宇宙と交信してやがる」
「し、してねぇヨ!!ボケがッ!!」


 私は夢の中のあいつほど、素直に言葉が出てこなくてどもってしまった。何て言えばいいのか。いや、普通に言えばいいんだけど。なんだろう。なんか違う。これじゃ圧倒的に今私が不利だ。まじでやばい。逃げたい。


「……お前さ、」


 私が感謝の言葉をつむぐ前に口を挟まれた。ああもういいや!
 ムッと睨むように顔を見た。
 すると、こいつはまっすぐに私を見ていた。傘の下。優しい目をして。


「……何アル、か」
「晴れててもささねぇとダメなんだろ?」
「えっ………えっと、傘のことアルか」
「日光弱ぇんじゃなかったの」
「うん……そりゃ、まぁ」
「ンじゃもうちっと気ぃつけるこった」


 熱中症にも風邪にもなりたかねぇだろ?

 そう言われたか言われなかったの一瞬、手に感触が。バッと手渡された傘の持ち手は、私の番傘と違ってくねりと曲がっていて持ちやすい……。てか、なんで?
 気づいたときには、あいつが背を向けて駆け出していた。


「え?何?何アルか??」


 あいつは傘だけを残して、自分は濡れて道の向こうまで走り去っていた。


「おい待てヨ何のつもりアル!?クソサド!」


 戸惑いつつも、慌てて追い掛けた。
 水溜まりを弾き走る。足元は跳ね返った水で濡れまくったけどもはやそんなことはいい。

 こんな、もらいっぱなしのわけのわからない親切なんて嫌だ。お前が相手なら尚更!

 私の足音にも気づいてるくせに、止まってくれない。
 ムキになってその黒い背中を追いかけ続けた。





 ………そしてようやく肩を捕まえた。


「……待てヨ、お前、」


 走ったのでほんの少しだけ呼吸を整えつつ。


「あんま私に優しくすんなヨ。らしくないアル」


 こいつからこんなふうに優しくされることに、慣れていなくて。不安な気持ちになる。
 これじゃ、それこそ、フラグになるヨ。
 今まで通り、私に足蹴りするなり張り倒すなりして、水溜まりに突き落とすくらいのこと、今すぐここでやってみろヨ。

 なぜそんなことを思うのか。別に私はドMじゃないのに。わからないけれど、とにかく嫌だった。

 振り返ったこいつは、髪と服がずぶ濡れだった。夢の中の姿とよく似ていた。


「……いいだろ別に。雨の日くらい、」


 困ったような目、低く透き通る声……

 何がいいアルか!雨の日関係ねぇヨ!
 反論しようとしたのに、
 言葉が出せなくなってしまった。
 私が差し出した傘の下、あまりにも近い距離で、まっすぐに見つめられたから。


「惚れた奴に優しくして何が悪い」


 試すように、私の胸に落とされた小さな声は、言葉は。みるみる私の頭のなかをいっぱいにした。


「そ、それってどういう……」
「まだわかんない?」


 いや、もうわかった。わかったって!
 その先の言葉を聞かないまま、私は逃げるようにその場をあとにした。

 踏んでしまったフラグは、水溜まりのように、心を濡らしていく。
 晴れたら乾いてくれるかな。蒸発して消えてくれるかな。

 今のは全部、聞か無かったことにしたい。

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