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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

My Generation

※3Z。オールキャラ。設定は踏襲しつつもシリアス寄りで本編とは雰囲気が異なります。
※この話は歌手YUIさんの同名の曲をイメージして、私が高校生のときに書いたものです。昔のサイトに掲載していたものですが、文章は大幅に修正しています。
(15/06/05 加筆)




眼鏡忘れてくる奴は間違いなくダテ眼鏡










放課後。窓からの夕日に照らされている誰もいない教室。そこに神楽は一人、ポツンと席に座っていた。ちょうど生徒たちが帰っていく時間帯。窓の外のグラウンドでは下校していく生徒たちがガヤガヤとしている。その楽しい笑い声はまるで神楽をからかうように、教室の中にぼんやり反響していた。
神楽は今日、学校をさぼった。でも、耐えられずにここへ来てしまった。今は放課後、3年Z組の教室は他に誰もいなくて静まり返っていた。
机の引き出しに置きっぱなしだった荷物でも整理しようか。そう思いここに来たのだ。大した用事ではなかった。けれど理由がほしかった。
胸の奥が痛い。その痛さに耐えかねて、神楽はぎゅっと自分の体を抱きしめた。


「……痛ててー」


どっかにぶつけたかな?そんな軽い調子で小さくつぶやいてみる。けれども軽くはなってくれなかった。心の中に風穴がぽっかりと開いたようで、とても痛かった。

神楽の頭から昨日のことが離れない。 もう何度昨日のことを思い返しただろう。その度に神楽は自分でも訳がわからないような辛さに苦しくなる。
気づかないうちに、涙が神楽の目にあふれてきた。拭うことも面倒で、ぽたぽたとスカートの上にこぼれ落ちてくる。あ、やっべ、今ここに誰か来たら顔見せらんないネ。ちょうどそう思っていた時だった。

ガランッ

突然教室のドアが乱暴に開いた。 神楽はふいをつかれてはっと顔をあげた。

入ってきた人物、 制服の中にS字マークのTシャツ。ああそうだ。いつもどおりの格好をした沖田だ。
沖田は少し驚いた顔を一瞬見せたが、すぐに元の平然とした表情に戻った。


「な、……なんでお前ここに来たネ!」
「ただの忘れもん」


いつもと変わらない口調で神楽に話しかける沖田。
ポケットに片手をつっこみ、もう一方の手で頭の後ろを掻いた。めんどくせーもんに出くわした、そうとでも言いたげな仕草である。


「つーか、今の言葉そっくりてめーに返すぜィ。なんでここにいるんでさァ。授業はとっくに終わってるぜ。居残り学習か?」
「……黙れヨ、クソサド!クソガキ!」
「はっ、昨日暴れまくってたチャイナに言われたかねーや」


沖田の半分茶化すような声に、神楽は再び俯いた。そして黙りこんでしまった。居心地の悪い沈黙が流れる。神楽は返事の一つすら返さない。


「オイ、なんか一言ぐらい言えねーのかよ」


沖田はぶっきらぼうな声で言いながら神楽が座っている座席に歩み寄った。神楽の隣が沖田の座席だからそこに忘れ物がある、というのも理由としてある。別に威嚇するつもりはなかった。しかし、神楽は沖田がこちらに向かってきたことに驚き椅子ごとガタンと後ずさりした。


「こ、こっち来んなヨ!今お前と話せる気分じゃないネ。どっか消えろヨ!」


神楽は自分でも少し驚くくらい、口からはいつも通りの強気な言葉が流れ出た。けれど、その目は大きく見開かれていてひどく動揺している様子が伺える。そんな神楽に沖田はお構いなくずんずんと近づいた。


「ひゃっ!!」


沖田は自分の机、ではなく、神楽の細く白いその手に、手を伸ばしていた。そしてやや乱暴に、ぎゅっと引っ張るように握りしめた。
神楽は思わず小さく声をあげていた。その瞬間体もビクッと震わせる。小さく振動するその震えは手を伝って沖田の身にも届く。その反応を見て、調子狂うなーと呑気に思う。そこにいるのはいつもの強気の神楽ではない。どうしたものか。
いつ涙がこぼれてしまってもおかしくないような神楽の目。それが嫌でも沖田の視界に入ってくる。沖田の目と自分の目がまっすぐ合いそうになると、神楽はサッと目線をそらした。斜め下に俯く神楽は、普段の彼女からは考えられないような弱々しさ。
沖田は引っ掛かる。決して表には出さないけれど、本当は内心いてもたってもいられないような複雑な気持ちでいた。だから、柄にもない言葉が口からこぼれたのだろう。ポロリと、沖田自身も気持ち悪ィと思うような優しい声をもらす。


「……安心しなせィ。俺ァお前を責めるつもりはねーよ」


神楽はその言葉に反応し顔をあげる。震えがゆっくりとおさまった。
沖田と目線が合ったとき、いつもより真剣な眼差しを向けてくるその表情を思わずボーッと見つめていた。
沖田はたまにこういう表情をする。そして、そのときは普段覗かせない本心を打ち明けているときだということを、神楽は知っていた。


「……何だよ?」
「い、いや!」


変な間にぎこちなさを覚えてとっさに手を離す沖田。その拍子に安堵がぐっと込み上げてきたのか、神楽の目から温かい粒がひとつ、またふたつと溢れてきた。


「うっ…う、……」


目の前で小さな声をあげて泣きじゃくり始めた神楽。沖田はどうしたものかと再び頭を掻いた。ふと、自分は忘れ物を取りに来ていたのだということを思い出し、神楽から視線をそらすと、隣の自席から小さなタオルを取り出した。


「……みんな大っ嫌いアル」


そんな言葉が漏れた神楽を横目に、まあ落ち着けや、とそのタオルを差し出した。散りばめられたS字柄、そして何故かピンク色のそのスポーツタオルは、神楽を少し驚かせた。


「とりあえず眼鏡でも拭きなせィ」


涙でびしょびしょになった神楽と神楽の眼鏡を見下ろして言う沖田。 なんで眼鏡限定アルか?と内心つっこみたくなったが。まぁこいつのタオルで顔拭くのも癪だなあと、涙で顔をグシャグシャにしながら神楽は思っていた。神楽はその丸眼鏡を外すと、顔を手の甲と腕でぐいっと拭う。そして沖田の言う通りに、S字柄ハンカチで眼鏡をゴシゴシと拭き始めた。ついた涙と鼻水が綺麗に拭き取られていく。
眼鏡の下から表れた、泣き腫らした赤い目。それを見てお前はウサギかよと内心思った沖田。その赤い目には悲しみと共にまだ怒りが混じっているようにも思えた。


「……お前さ、いい加減意地はるのやめ」

ガラガラッ


沖田が言いかけたちょうどそのとき、突然教室の後ろの扉が開いた。二人は同時に振り返った。
教室に入ってきたのは、神楽と沖田のクラスメイトである二人。


「……神楽、ちゃん…?」


驚いて小さく声を発したのは同じZ組の志村妙。 教室に一歩入ったところで、神楽に目をとめるとその場から動けなくなってしまった。そんな妙のことを見つめる神楽は眼鏡を机に置いた。 戸惑う目と泣き腫らした目が混じり合う。


「神楽ちゃん!!それに沖田さんも。二人でどうしてここに…?」


妙と一緒に教室へ入ってきたのは、彼女の弟である志村新八。沖田は二人が来てしまい、うわめんどくせーぜこりゃと思った。


「俺は忘れ物取りに来ただけでさァ。あんたらもそんな感じか」
「え、ええまあ。で、でも神楽ちゃんは、どうしてここに来て」
「何アル?文句でもあんのかクソ眼鏡」


戸惑う新八の声は、怒りのこもった神楽の声に呆気なくかき消された。神楽は基本的に新八とは普段仲がいい。沖田への態度とは違い、余程のことがない限り「クソ」と呼んだりはしない。


「神楽ちゃん、……まだ昨日のこと怒ってるのよね」
「うるさい!黙れ!!」


妙の静かな問いかけを、神楽は振り払うように大声で叫んだ。誰もいない放課後の教室の中で反響する声。空間を切り裂くような感覚。立ち上がった小さな神楽を見下ろす沖田。彼の表情は先ほどから変わらない。


「私は…別に、姉御だけじゃない。みんな嫌い。大嫌い。姉御も、そこにいるクソ眼鏡も、……サドも。みんなみんなクソ食らえネ……大っっ嫌い!!」


捲し立てるようにそう言い切ると、神楽は教室の前の扉へ向かって駆け出す。乱暴に引き戸を開け放つとそのまま出て行ってしまった。
追いかけることもできず、残された三人。再び教室を沈黙が包む。
はじめに口を開いたのは、先程から黙ってやりとりを見ていた沖田だった。


「あ。あいつ眼鏡忘れてやがんの。バカでさァ」


先程まで神楽が座っていた席の上には眼鏡が一つ置き忘れられていた。窓からの夕日を反射しオレンジ色にちらりと光るそれを、沖田は手に取った。


「視界不良の中どこ行く気なんでしょーかねィ、あのアホは」


沖田はゆっくりと机の間を歩く。スタッスタと何も言わずに。教室の前の扉から出ていきかけた時、沖田君、と妙の言葉に沖田は足を止めた。


「神楽ちゃんを、お願いね」


妙は笑顔でそう言った。心の中では全然笑ってないことぐらい、そこにいた 沖田にも新八にも容易にわかっている。沖田はいつも通りの無表情。しかし片手をあげて妙にバイバイするように手を振った。


「……姐さんに頼まれちゃ怖くて逆らえねーや」


そう言いながらも別に怖がる様子を見せることなく。沖田は開け放たれたままの扉をくぐってその場を後にした。


「姉上…」


新八は妙の背中を擦った。その場にうつむいている妙は、決して涙は流さない。それでも心の中で泣いている。新八には手に取るようにわかった。妙は今、まともに神楽としゃべれるような状態ではない。


「姉上、大丈夫ですよ。神楽ちゃんならきっとまた戻ってきてくれます」


新八の言葉に、妙は小さくうなずいた。
新八は心の中で神楽を信じていた。きっと神楽も妙の気持ちをわかってくれる、と。


「新ちゃん、ごめんなさいね」


妙は顔をあげる。神楽と沖田が出ていったあとの扉を見つめる。その眼差しはうつろ。妙は心から後悔していた。


「私、神楽ちゃんになんであんなこと言っちゃったかな」


妙も、新八も、そして廊下を駆けていた沖田も、同じ日のことを思い返していた。それは昨日、いや、昨日より少し前から神楽の異変があったことも。三人は気づいていた。

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