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めぐりあひて

二次創作ブログです。原作者様等とは一切関係ありません。

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思春期

神楽ちゃんにただただ沖田が振り回されるだけの話









「胸が痛いアル……」


 神楽がぽつりと放った一言は唐突だった。
 二人は例の公園にいる。いつものように決闘を仕掛けてこないことに拍子抜けしていた沖田は、神楽の呟きを聞いてん?と生返事をした。


「胸がズキズキして痛いアル、なんとかしろヨ」
「知らねーよ」


 沖田はうだってベンチに寝そべったまま、隣で突っ立っている神楽を見た。いつもより物静かだ。というか寝込みの沖田を襲ってこようともしない。


「え、何。もしかして俺に惚れでもしたか」


 半分冗談のような、半分マジのような微妙なテンションで神楽に問うた。
 神楽は眉間にシワを寄せて沖田を見た。


「気持ち悪いからやめろヨ。違うアル。物理的に痛いアル」


 そう言いながら自身の胸を弄くっている。この辺、この辺押さえたり揺れたりすると特に痛い、と胸の頂を服の上からこねこねとしている。
 へぇー………と沖田は特大の生返事を垂らした。神楽の所作には恥じらいもへったくれもなさすぎて呆れてしまう。


「気になるならこんなとこで油売ってねーで病院行けよ病院」
「そんな大袈裟じゃないアル。なんかこう、別に耐えられるくらいの痛さだから、ずっと無視してたアル。でも日増しに痛さが増す気がするネ。歩くと胸だけじんじん引っ張られてるみたいな感じで……」


 沖田はその原因に一応思い当たる節はあった。しかし、それを口にするのは、やはり多少はばかられて躊躇した。


「……つーかそれ、相談する相手が俺でない方がよくね?」
「んー……なんかお前なら後腐れなく相談できる錯覚がするアル」
「錯覚になってんじゃねーかオイ」


 まぁ別にどうでもいいけど。もっと適した相談相手が身近にいるだろと沖田は思ったし口にもした。旦那や新八君らはどうしたのだ、と。


「銀ちゃんにはなんか言いづらいアル。なんか恥ずかしいネ」


 あれ、なんで俺には恥ずかしくないわけ? 沖田の内心の疑問をよそに、神楽は続けた。


「ぱっつぁんには相談したアル」
「なんつってた?」
「成長期じゃないかって言われたアル。けどどうも信用ならんネ。だから複数人に相談したかったアル」


 今の発言を新八君が聞いたら悲しむだろうと沖田は思った。そして、沖田の想像は概ねビンゴだった。ならば話が早いはず。


「じゃぁその流れで姐さんに相談すりゃいいじゃねーか、俺じゃなくて」


 さりげなく同性に相談しろと持ち掛けるも。神楽は意に介さない様子だった。


「姐御は今繁忙期で忙しそうだから、あんましよけーな心配かけたくないアル」
「代わりに柳生家のボンボンとか吉原の頭とかストーカー忍者とか、いろいろいるだろィ」
「みんなお前と違って忙しくしてんだヨ察しろヨ」


 なんだよ腹立つなコイツほんと!
 いや、俺も働いてんだけどな、と言いかけたが。公園のベンチに寝そべりながら言っても説得力はないかと諦めた沖田。


「新八に言われたアル、歳の近い人に聞けばわかってもらえやすいって」
「はぁ。俺とお前そんな歳近かったか?」
「お前普段ムダに大人ぶってっけどむしろ私よりガキアルからナ。まあまあ近いアル」
「お前よりガキの俺に聞いていいんかい」


 このままじゃ埒があかない、と。沖田はベンチから起き上がった。追い払えそうな良い強硬手段を思いついた。そして、口にする。


「じゃぁ服脱いでテメーの乳見せてみろや。そしたらアドバイスしてやらァ」


 ズドーーーンッ!とここで1発弾丸が放たれ沖田の発言は中断される。沖田は刀の柄でなんなく弾を避けたが、代わりにベンチが潰れて沖田の身は地面に放り投げられてしまう。


「「痛ってー………!!」」


 沖田は地面に打ち付けた尻辺りを、神楽は発砲の反動が響いた胸辺りを、それぞれ擦りながら同時に呟いた。


「何マジになってんだよ冗談に決まってんだろィ」
「冗談で抹殺されたくなけりゃ2度と口にするナこのクソ変態ドS野郎!!」


 沖田はさっぱりわからなかった。結局恥じらってんのかよ。じゃぁ最初から相談するなと言いたかった。
 神楽の本心は恥じらうと言うより、ただただイラッとしただけだった。
 沖田は両手のひらを見せながらドウドウと暴れ馬を落ち着かせるごとく神楽をなだめていた。そして観念する。


「んじゃ真面目に答えてやるけど。そいつァ乳がでかくなる前の準備だよ。胸の細胞が発達してんの」


 今度は弾丸は飛んでこなかった。しかし代わりに悲観混じりの質問が飛んできた。


「全然乳でかくならんアル。なんでヨ?」
「そのうちでかくなんじゃねーの?」


 努めて神楽の方を見ないようにしながら。首にずらして引っ掛けていたアイマスクを手に、後頭部をぽりぽりと掻く。
 神楽の胸がどれだけ成長してるか、なんて。そんな話題、神楽の胸に視線を向けずに話せと言う方が難しい。たとえクソ生意気なガキとは言え、一応男の本能なのだから。ここはおとなしくアイマスクでもしてまた一眠りしようかと考えていたその時だった。



「………っ?!」


 沖田は胸辺りをいやらしく触られる感覚を覚えて、慌てて仰け反った。
 そこには、沖田の胸をタッチして鷲掴む、小さい手があった。


「………何してんでィ」
「お前はココ痛くならんアルカ、ずるいネ。なんかムカつくアル! でかくなれヨ!」
「無茶言うな。いつから俺はテメーの女友達になったんでィ」
「友達になった覚えはないアル」
「そっちじゃねーよ!」


 天然なのかわざとなのか。沖田はわからなかったが。神楽の手は沖田の胸をふにふにと弄ってきていっこうに離れようとしない。服の上からとは言え、不本意にすぎる。沖田が渾身の思いで振り払おうとすると、神楽はポツリと言い放った。


「お前もちょっと胸あるアルカ?」
「ねーわ!バカやめろッ!」


 あるアルうるせーよ俺のは筋肉だかんな。テメーらの脂肪と一緒にすんな! 沖田は、鷲掴みを繰り返す神楽の手を拭い払った。
 ……たく、どんなスケベ親父だよテメーは。口ではそう悪態をつきつつ、ほんの少しだけ名残惜しいかなという感覚がしていたのは内緒の感情。
 沖田はどぎまぎとする胸の奥をごまかすように言葉を放った。


「話戻すけど。俺ァ女じゃねぇんだからテメーの相談事は専門外だ。別に正常なんじゃねーの? どうしても気になるってんならそいつァ姐さんか産婦人科医にでも聞け」


 沖田の言葉に、今度は神楽が目を見開いて驚いていた。


「さ、産婦人科!? なんでアル!? 私妊娠してるアルカ!?」
「………いや、産『婦人科』な。オメーみたいなガキがそう容易く生まれてたまるか」
「ああーびっくりしたアル………」


 ホッと胸を撫で下ろす神楽に、沖田は思い浮かんだ疑問をぶつけてみた。


「つーか、オメー妊娠の仕方知ってんの」


 妊娠なんてしてるわけないだろうに何を心底ホッとしてんだよと沖田は思っていた。
 神楽はきょとんとした。そして息巻くように言い返す。


「何を今さらアル。バカにすんなヨ。ダテにかぶき町の女王やってねーヨ」
「ああそういやそんな女王名乗ってたな」


 杞憂だったか、と沖田が安心しかけたとき。神楽は堂々と言い放った。


「コウノトリが籠に乗せて運んできて赤ン坊ができんだろ? それくらい知ってるネ!」

「………………え、マジで」


 沖田が薄々感じていた予感は的中していた。
 もしかして性的なことに関して実は大して知らないのではないか。知ったかぶりなだけじゃないか、という予感。そもそも成長期の胸の痛みくらい誰かしらから教わっていてしかるべきものを認識していなかったのだから。
 いやでもまさか。旦那たちも一緒に過ごしていてそれくらいの教養も身に付いてないのはさすがにナイだろうと。そう、沖田は過信していたのだった。


「ちなみにそれ誰から教わったんでィ」
「姐御がそー言ってたアル」


 いや思ってたより姐さんダメじゃねーか。姐さんに聞けばとか言ったけど前言撤回するわ。とんでもねぇ嘘教えてんじゃねーか!


「何アル、違うアルカ?」


 神楽の瞳はふざけている様子もなく真っ直ぐに沖田を見ていた。

 沖田は迷った。

 どうしようか。ここは真実を告げるべきなんだろうか。それとももうしばらくはコウノトリに委ねておくべきだろうか。脳内で葛藤していた。
 しかし、沖田の経験則上、これはサンタクロースの正体明かし事案と一緒だと分析した。そう、誰もが通る大人への階段。こういう事実は早めに知っておいた方が傷は浅いんじゃないだろうか。大人になりすぎてから知ると周囲から奇異の目で見られバカにされ、なぜ自分だけ知れなかったのかと周りへの不信感と自己嫌悪が募るのがオチ………。

 考えた末、沖田は決行する。なぜ俺がこいつのためにここまで悩んでやる必要があるのか、教える義理なんざ果たしてあるのだろうか……。
 四の五の言ってられない。沖田は自問自答の末、神楽に答えた。


「違ぇよ………ガキは男と女がセックスして出てくんの」


 言葉を口にすると我ながらに顔が赤くなる思いがしていた。
 沖田の思いきりをよそに、神楽は呑気に聞き返した。


「え、なんて言ったアルカ?」


 神楽が聞き返したのはいじわるではなく、沖田が話した瞬間、たまたま公園近くを通り抜けたダンプカーの激しい走行音で聞こえなかったからであった。


「…………だから、男と女がせ」


 沖田が喋ろうとすると今度は向こうの方で公園内を元気に駆け抜けるちびっこ集団がギャーギャー!!と楽しそうに大声ではしゃいで走り去っていく。
 またもや神楽は聞ききれず。


「何?聞こえなかったアル何アル??」
「何べん言わせんだよだから男t………」


 プーッ!!と車の短いクラクション音に掻き消された後、


「セックスっっ!!」


 沖田が大声で叫ぶと、今度は嘘のようにしーーんと公園が静まり返っていた。
 はっ………! 沖田はとっさに辺りを見回すと。神楽の背後、少しだけ離れたところに、ポツポツと人影が。
 こちらを見て隠れぎみに笑う老人。見ちゃいけませんと子供をつれて去っていく親。


「ねぇせっくすってなーに?」
「こら!」


 無邪気に大声で母親に問い掛ける子供は足早に連れていかれてしまったが。沖田の目の前にもう一人、なんとも理解不足な大きな子供がいる。


「………セックスしてなんで妊娠するアル?」

「え?」


 沖田は今し方の恥ずかしさなど吹き飛ぶほど、面食らった。
 これまで問われたことのない、前代未聞の質問に、いったい全体どう答えたらいいのか。わからなさすぎて頭が痛くなる気がしていた。
 ………ていうかセックスは知ってんのかよ。それを知っててなぜ子作りを知らないのか。沖田はいよいよ神楽との会話に困り始めていた。


「………いや待て。セックスってそーゆうもんだろィ」
「何を言ってるネ。男と女が愛し合う行為でなんで子供ができるアル」
「むしろ何故できないと考えてんだよ」
「お前、赤ちゃん見たことないアルカ。意外とでけーんだぞ。あんなんがなんでアンアンにゃんにゃんするだけで爆誕するアルカ??」


 沖田はますます頭を痛めた。神楽のその問いに答えるなら、なんでコウノトリが運んでくると思うのかも甚だ疑問なのだが。コウノトリそんな馬力ないだろう。つーかコウノトリはただ運んでくるだけであって、爆誕の場面がまるまる抜けてんじゃねーか。もはやどこからどう突っ込めばいいのかわからなかった。


「つーか、妊婦は知ってんだよな?」
「もちろんアル」
「じゃぁコウノトリ説は成り立たねぇじゃねーか」


 こう、赤ン坊が腹の中入ってんだろ!、と。腹部が大きくなってることを身振りで懸命に伝えようとする沖田だが。神楽は即答する。


「妊婦さんはコウノトリが運んできたのをお腹に入れるんだろ?」
「待て待て、どっからぶっこむんだ?!」
「それは秘密の大人の入口があるって聞いたネ。子供にはわからん入口アル!」
「入口の意味違ぇよ」


 ああダメだもう、降参………。沖田は手を広げて軽く肘をあげた。もう何も聞かないでくれ。そういう合図だった。


「可笑しな事言うアルナお前」


 悪びれる様子もなくそう言う神楽を、沖田は呆れを通り越して憐れみたくなった。この世の性教育はままなってない。早急に江戸に対策本部立てないといけない…………沖田は、たまには真面目にそんな仕事スケジュールを思い浮かべてみる。誤った教育のままでは少子化ならぬ多子化してしまうのでは………と。


「………なーんか、考えてたら疲れた。」


 珍しく沖田が素直な気持ちを漏らしてヘナリとしていた。すると、「私の方が胸痛いし疲れてるアルふざけんなヨ」と返事がきた。
 ああもうふざけてんのはどっちだよ………。

 沖田は立ち上がった。もう帰ろう。仕事サボってたバチが珍しく当たってしまったのだと思った。
 去り際、これだけは言っておかないとと、神楽の方を振り向いた。


「とりあえずテメー、ちゃんと教養身につけるまでセックス禁止な」
「は? なんでアル、なんでお前にそんなこと指定されなきゃならんネ!」
「素直に言うこと聞いとく方がテメーの身のためだぜ?」


 沖田はその場から歩き出しながら頭の隅でまたもや考えていた。旦那には小一時間くらい行政指導しに行かねばなるまい。そう思いつつその足取りは屯所ではなく、神楽が帰宅するより先にと万事屋方面へ向かっていた。


「禁止って言われるとしたくなるのが人間の性(さが)アルナ!」


 背中から聞こえてきたその声に、沖田は、あられもない形相をして振り返った。
 
 そんな沖田を見て、神楽はニシシと楽しそうに笑っていた。
 胸の痛みは、何処へやら。
 

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