ポケットの花 shu x haruka 2017年11月04日 勢いに任せて作った話しです。 シュウのポケットの中はいったい全体どうなってるんだろうと考えて早数年。 シュウのポケットの中に何が入ってるのかなんて私は当初興味もなかったの。 それがいつしかシュウのポケットの中が気になり出した、それは、私がサトシたちと別々に旅を始めて日常発する言葉数が減ってその結果他に考え込むこともなくなってしまったからだ。 今でも大きな街に行けばそこのコンテスト会場でシュウに出会う。シュウは相変わらずキザでナマで時折優しい。 そんなシュウのポケットの中に入ってる物が何なのか。そんなこと、私はとうに知っている。 真っ赤なとげとげのバラの花。 彼はいつもどこからともなくそれを取り出す。それはどこから? ズボンの前ポケ?お尻ポケ?髪の毛?いや、違う。 だいたい頭に浮かぶのは、上に羽織ってる服の裏から花を取り出すシュウの姿。 彼の服の裏のポケットは四次元空間なのではないかと思うほど、いつもいつもバラが取り出されるのだけれど、繊細なあの植物を入れる空間がどこにあるのだろう。 胸の内に溜め込まれた、バラの花。 そんなものいつもぎゅうぎゅうに入れて持ち歩いたら、花はへしゃげるし、何より茎が刺さって痛いと思うんだけど……。 シュウって存外バカなのかしら。 そんな私の素朴な疑問を、この際だからえいや!とぶつけてみたところ、ハハハと呆れたように笑われたのでちょっと癪にさわる。 呆れてるのはあくまで私の方なのにっ!「君のその髪型に比べれば、大して不思議なことじゃないよ」 何よ。放っといてほしいかも! シュウだってモコモコとした変な髪型じゃない。 だいたい髪と服の配色がハーリーさんと被ってるわ。どっちでもいいからいい加減イメチェンでもしてみたら?「それは大きなお世話だね」 どっちがよ!!「君の思考回路は単純すぎるんだよ。豆電球と電池が1つずつしか繋がってない、スクール初期で習う電気回路並に単純だ」 この人は私をどこまで馬鹿にすれば気が済むのかしら。 そんな私の思考回路をもてあそんでるのはどこのどなた? 出会いたての頃はお互いに牽制し合っていたけれど一時は落ち着いて変に言い合いすることもなくなった。いわゆる大人っぽくなったってやつ? でも、私たちはまた最近、こんな感じで言い合いをするようになった。専ら私が怒ってばかりなのだけど。 それはまるで、日常発する言葉の少なさを、すべてぶつけてるみたいで。 ……そうよ、シュウ。サトシたちがいない今となっては、あなたくらいしかいないの。 あなたくらいしか、じゃじゃ馬な私をさらけ出せないのよ。 「ホウエンの舞姫」なんて。私はそんな柄じゃない……。そのことをあなたは、よく知ってくれているから……。「やけに落ち込んでるね。こないだのコンテストでの失敗をまだ引きずってるのかい」 ああもう!思い返させないでよ! あなたがパノラマの中継で見ていたなんて知らなかったのよ。 あなたが見ているなら。 私は、もう少し……最後に追い詰められたとき、踏ん張れたかもしれない……なんて。 ……いや、それは言い訳。 シュウがいなくたって、一緒に旅する仲間がいなくたって、 一人で旅を続けると決めた私の、情けない言い訳にしかならない。「君は相変わらずだ、わかりやすい」 そんな憎まれ口も、相変わらずね。 シュウはおもむろに、ポケットから一輪のバラを取り出し私へ差し出す。 いつもそう。 あなたは私に、トゲトゲと痛いバラをくれる。 服の裏側にそっと忍び込ませた花を、私が欲しいときに、そっと差し出してくれるあなたは、一体何者? そしてそのポケットは、どうなってるの? あなたはこんな小さなバラを、いつも美しいと言うのね。「持ち運ぶにはちょうどいいサイズだろ?」「あ、あと言っとくけど、僕のポケットは四次元空間ではないからね」 あなたの胸裏ポケットから、ぎゅうぎゅうに詰め込まれてすっかり萎びたバラの花なんて、一度も出てきたことがない。 彼が差し出してくれるのはいつも、まっすぐで、新鮮で、優しい匂いがするものばかり。「ちょっと考えればわかると思うけど……君にあげようと思うときにしか持ってこないんだ、当然」 こんな鮮物、ポケットに入れたままいつも持ち歩いてるとでも思ってたのかい?と、嫌みたっぷりに笑ってみせるあなたの口角が憎い。 鼻をつんと揺らすバラの匂いも、うっとりしてしまうから、憎い。「……シュウ、今更だけど、あなたはどうしていつもバラをくれるの?」 バラなんて誰もが知ってるベタな花言葉をお持ちの花を、律儀にいつもくれるわね。 あなたのポケットはやっぱりどうかしてるわ。「君によく似ているからだよ」 あなたのポケットにすっぽりとおさまる、トゲトゲしたバラの花は、……そうね。 私は美しいとは感じないもの。 トゲトゲと痛いだけの、小さな花。 シュウの胸にすっぽりとおさまっている今の私と、少し似ているのかもしれない。 [0回]PR